8、ギルドに登録!
船を降りるとハルは港の観光案内所で簡単な地図を手に入れた。そして最寄りの食事処を探すとここから近くにカフェがあった。地図を頼りに行ってみるとカフェというよりは定食屋さんに毛が生えた程度の外見であり、中に入ると実際にカウンターには見た感じ「海の男」の風貌のおっちゃん達がお店のマスターと会話を楽しんでいた。ハルはおっちゃん達の近くに腰を落ち着けメニューを手に取り「本日のおすすめ」をオーダーした。追われるようにマンチェスターを出て来たのでここらで少し一服したかったのだ。
出て来た食事はさすがお勧めだけあってかなり美味しかった。海の近くなので白身魚のフライタルタルソース、魚のアラで出汁をとったスープ。たくさんの野菜が使われているサラダやこの地方の特産なんだろう、小ぶりな柑橘系の果物も付いていた。タルタルソースも手作り感があってゆで卵のゴロゴロした食感も好ましく思った。
しっかりと食事をとり食後のお茶を飲みながら、地図を広げこの町の地図を眺めていた。確かこの国は「アレ」があったはず。だったら当然「アレ」もあるはずだ。ずっと地図を見ていたから近くに人がいたことに全然気が付かなかった。「ねえキミ?この街に初めて来たの?何かお探し?」
思わず驚いて声のする方へ顔を向けると銀色のトレーを抱えた20代後半ぐらいの女性がハルをじっと見ていた。
「ええ、そうなんです。実はギルドに登録しようと思ってギルドと武器屋を探しています」と話した。
「そうだったんだ。じゃあこの武器屋へ先に行くといいよ」と地図の一箇所を指差した。ハルはこのお姉さんに礼を言い勘定を済ませると教えられた武器屋へ行った。
実は久乃はずっと長い間、波留おばあさんに剣道を習わされていたのだ。剣道が1番長く習っていたと思う。上手くいけばそれで少しぐらい何か仕事にありつけるかも知れない。と考えたからだ。
修得年齢限界まで段を取っていたので2段までは持っている。取り合えず生きていく道が決まるまではこれから自分の身は自分で守らないと行けない。
ーーーーしばらくバイオリンは封印ね。と思ったのだ。リヒトに捜索されていたら足が付く可能性がある。皆が知らない方法で生きて行かなければ。そしてここで「ハル」の名前を元の「久乃」に戻した。
武器屋へたどり着くと色々見て回った。色々な武器があって見るのは意外と楽しかった。
特に剣は何本か試し切りもさせて貰った。いざ何かあった時に自分に人が切れるのかは謎だがこのままでは余りにも心もとない。
武器屋を見ているとギルドの案内があった。
へえ、この国は武器屋がギルドを紹介するんだ。関心して見ていたら、その武器屋の主人が「良かったら紹介してやろうか?」と声を掛けて来た。実際、漫画やアニメに出て来そうな武器屋らしい大きな体の筋肉マッチョな男だ。
「ありがとう大将、ギルドも教えて欲しいんだけど実は今日この町へ付いたばかりなんだ。先に宿を紹介して貰えるとありがたいんだけど」とにっこり笑いながら話すとそこの主人はニコリと笑い「この先の山羊亭っていう宿が飯もそこそこ旨いし値段もお値打ちだ。騙されたと思ってここの名前を出してみろ。上手いエールの一杯でも出るかもしれん。」と人好きのする笑顔で言った。
「そっか、大将ありがとう山羊亭だね。行ってみるよ。そしてこの剣を貰うよ」と目をつけていた剣を手に取りそのまま購入した。
勧められて行った山羊亭は建物は古いけど小綺麗にしてあり、アットホームな宿で一目で気に入った久乃はポンっと一週間の代金を前払いしたので上客として扱われた。
そしてサービスは武器屋の大将が言った通り夕食時に旨いエールが付いてきた。
久しぶりのアルコールは久乃をリラックスさせて疲れた体を癒してくれた。下町の田舎料理だけど心がこもってて本当に美味しい。
丁度久乃がアルコールを楽しみ上機嫌で食事をしていた頃、こちらはブリザードが吹雪いていた。
そうルグラン王国のリヒトの執務室だ。
あの後1週間を待たずに影から久乃がアパートから姿を消したと報告があり、マンチェスター国に助けを求め久乃を探させたが、一向に見つからなかった。
即刻ルグラン王国へ帰り、自分の執務室の机の上に久乃からの手紙を手に取った時は思わず苦笑いが出た。急いで手紙の封を開け内容を読み進めるとリヒトの表情が真剣な物になった。
久乃の手紙に書いてあったもの。
それはリヒトに対する挑戦状だった。もちろん聞き入れて貰えなくても全然かまわない。元からルグランの人間ではないし。と久乃は開き直って書いたものだ。
無実の罪で独房に入れられていた時にルグランに関する新聞や書物、建国史を読み漁った。
自分なりにその時に感じた事を12の挑戦状としてリヒトに突き付けた物だ。もちろん一番最後にだが王妃様の減刑も書き記してあった。
これを読んだリヒトは気が狂った様に笑い出した。「ああ~最高だ。エメラルドいやハルだったか。中々やってくれる。やはり私の隣にいる女性は君ぐらいじゃないと務まらないよ。本当に愉快だ」としばらく笑い続けていた。
次の日ぐっすり休んだので久乃の体調は絶好調だ。宿で朝食を済ませた後、買ったばかりの剣を携え早速ギルドを覗いてみた。
入口に入るとカウンターが目についた。久乃はそこにいた女性に近寄り「ちょっと良い?」と声をかけた。
「はい、どう言ったご用件でしょう?」と聞かれたので「ギルドについて詳しく教えてほしい。どう言った物なの?」と聞いてみた。その女性は近くにある大きな掲示板を指差し、
「はい、単純に言えばこちらに来た依頼を受けてその依頼をこなすとそこの依頼状に書いてある謝礼が貰えます。そしてギルドの仕事を受けるにはまずこちらへ登録して頂かないと受けられません」と説明した。
「では登録するにはどうすれば良いの?」と聞くと「ここのギルド長に査定して貰います。査定が済むとランク付けされ、そのランクまでの依頼なら受けられます。」とAやBと言ったランク付けの話をしてくれた。
「そのギルド長はいつでもギルドにいらっしゃるの?」と聞くと「だいたいは居られますよ。今日受けられますか?」と聞いて来た。これはありがたい。
「はい、もし受けられるなら受けたいです」と告げるとその女性は座っていた椅子から立ち上がり、
「わかりました。今すぐ聞いてみますね。武器は剣で宜しいですか?」と腰に剣を携えている久乃の姿を見て言った。「はい、もちろん剣でお願いします」と笑いながら答えた。
しばらくすると女性、受付嬢が帰って来た。
「ギルド長がこれから査定をするそうです。まずこちらへご記入お願いします」と言われたので紙に名前や使用武器や年齢などを書いた。
「久乃さんは剣をお使いですね。年齢は20歳ですね」と確認した。
「はい、それでお願いします」と話すと受付嬢はカウンターから出て来て「ではこちらへどうぞ。」と通路を通り大きな練習場の様な場所へ案内した。
待っていても暇なので、剣を取り出し素振りながらしばらく待つと何と剣を買った武器屋の大将が出て来た。
「えーっ!」とびっくりすると「はははっ。驚いたか?お前って紹介してやるって言ったのに無視するんだよな」と大笑いしていた。
「お前が弱くないのは店で見た瞬間ある程度は分かっている。ただどれほどなのか実力を少し見させて貰うぞ」と言うが早いか攻撃を仕掛けて来た。大将の剣を捌きながら隙を見ていた。久乃も頑張って応戦したが結局は10本勝負で3本しか取れなかった。あっという間の出来事だった。
「いやいやいや、ワシから3本も取れたら上等よ。A級やるよ。頑張って稼ぎな。」と笑っていた。
「そういや、今ちょうどS級の奴が来てるよ。良かったら紹介してやろうか?」と聞いてくれたが「いや、せっかくだけどまた今度でいいよ」と遠慮して置いた。