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5、バイオリンと共に



久乃がやって来たこの世界は基本的に元いた世界観と酷似している。食べ物や生活環境(上下水道など)はいきなりでも使えたのでこれには本当に助かっている。


教育は2〜30年ぐらい遅れている。あと助かった事は他にもあり前の世界の楽器がそのまま存在する事。特にピアノやバイオリンがあったのは感動した。


マンチェスター国でハウスメイドに登録した時に、ちょうど新婚で公爵家を継がれたばかりのご主人様達と出会い運よく雇用して貰えた。


奥様と年齢も近かったので心安く接してもらえ、奥様が苦手な用事(〇〇夫人主催のお茶会や〇〇のパーティなど)は同行を許される事になった。


元々エメラルドがお妃教育をまじめに受けていたのが幸いし、少しずつ思い出しているその知識が活かせた事も大きい。



しばらく歩くと大きな塀囲いが現れて来る。ここがハルの勤務先のランピエール公爵邸だ。いつ見ても大きいなぁ。とハルは常々思っている。


使用人が使う門に辿り着くと同僚のスピカが腕を組み待っていた。


「おはようスピカ!」とハルが声を掛けると「おはよう、んーハル、もう遅いよ~。」と愚痴を溢れされた。


「ごめん、ごめんスピカ。この通り、ねっ!」と手を合わせて拝む様に謝ると「ーーーーボックヘンのクッキーで良いわ。」と名店のクッキーを所望された。


「もー、仕方ない。今度買ってくるわ。」と言うと「ふふっ!!」とスピカが笑っている。


このスピカとも最初は激突した。無理も無い、あまりにハルが出来なさすぎた。やはり久乃の時とは勝手が違いこちらの世界のやり方はトンと分からなかったのだ。


「ちょっとアンタ、何処のお嬢様よ!」掃除中に手を叩かれた事も何回か有った。でもハルは途中でスピカが悪い人では無いと気が付いたのでめげずに根気良く教えられた事を習得して行った。


ちょうど1年経つ頃から「ここはハルに任せるわ」と作業を任せて貰える事がぼちぼち増えて来た。


決定的だったのは、ちょうどスピカの誕生日だったその日、使用人達が持ち寄りで厨房に集まりささやかだがお祝いをしていた。もちろん厨房を使用する事は奥様の許可を得ている。


この屋敷には一般のお屋敷と同じで貴族の嗜みとしてピアノやバイオリンなど楽器もひと通り揃えてあった。


スピカの誕生日を当日知ったハル。いつもお世話になっている事もあってかちょっとだけ何かしてあげたくなった。


お祝いの途中で「スピカさんちょっと待ってて貰えませんか?」と厨房を抜け出し奥様の元へ行った。


「奥様、すいませんが少し宜しいですか?」と声をかけてお祝いに使いたいのでバイオリンをお借りしたい事を話した。


「えー!!ハル、バイオリンが弾けるの?」と最初は奥様がびっくりされてたが「はい、少しですが。今日スピカさんの誕生日なのでお祝いしたいと思いまして」と説明した。


「わかったわ。そんな事情なら家令に私から話します。」と家令を通じてバイオリンを借り、厨房に戻った。


厨房の扉を開け、「スピカさんお誕生日おめでとう。」と言いながら「ハッピーバースデー」と情感たっぷりに弾くと感動したスピカが涙を流しながら「本当に嬉しい。ありがとうハル」と抱きついて来た。それから親友と言っても差し支え無い良い関係が築けている。



「さあ、ハル!今日はこれを着てって奥様が」とスピカが示したのは美しい桜色のドレスだった。「えっ、綺麗だけど私の身分には不相応よ。とてもじゃないけど着れないわ」と断った。


「・・・・でも奥様からのたっての要望だったのよ?」とハルの拒否を許さないスピカ。


「ーーーーでも」


「さっさと脱ぐ!」とスピカがキレ出したので急いで服を脱ぎ下着だけになった。


「そうそう、それで良いのよ~」と得意げに言いながらハルにドレスを着付けて行った。


スピカの腕はこの公爵家の中ではピカイチだ。見る見るうちにハルは着飾る事となりあっという間にどこから見ても上流階級の娘になった。


「やっぱり私の腕は最高ね!」とドレスの形を整えながら得意げにスピカが微笑んだ。


ハルは鏡に映る自分の姿からエメラルドだった時の事を思い出していた。自分の実家でもこんな感じだったのかしら?


自分の実家へはこの国来た時にひと通り書き、最後に自分の事は忘れて下さいと締めくくった手紙を送ってある。住所はハリーに聞いた。


そして消印からエメラルドがこの国にいる事が分かるにも関わらず周辺で自分を探す様子も無いので、つまりそう言う事だったんだなぁ。と思っている。


顔も思い出せない両親達。家族構成も思い出せない。自分は久乃とエメラルドのお妃教育ぐらいの記憶しか無い。


そんな事を考えていたら「やっぱり私の見立て通りね。素晴らしいわハル」と部屋の入り口付近から大きな声がした。ハルは声の主を確認すると


「おはようございます若奥様。あのこの様なドレスは一体?」と思わず聞くと

「ハル、実はねハルに大切な話があるのよ。今日のお茶会にハルのバイオリンを披露して貰いたいなぁ。と思っているのよ」と真面目に話された。


「バイオリンをですか?それではすみませんが使用するバイオリンの用意と少し練習をさせて貰えませんか?」と話した。


「ええ、もちろんよ。私と一緒にバイオリンを見に行きましょう。」と奥様が言ってくださったので一緒に音楽室へ足を運んだ。


「ハルこれならどう?」と奥様が1つのバイオリンを示され手に取ると驚くほど手にフィットした。


「あぁ素晴らしいですね。いいバイオリンだと思います。でも本当にお借りしても良いのですか?」


「当たり前でしょう?こちらから頼んでいるのに。もちろんこの件に関しては手当を付けるからね。」とにっこりと笑っていました。


「では奥様少し練習させて下さい。ちなみに今日の選曲に関して何かテーマは有りますか?」と確認すると「そうねぇ、今日みなさんにご紹介するバイオリン奏者の名前がハルだから春の曲で良いわ」と笑って言われました。


ハルはバイオリンの状態を確認してしっかりと手入れがされているのを確認すると、ヴィバルディの四季より「春」を弾き始めた。


ーーーー良かった。まだ指が覚えてた。でも念のため他の曲もやっておこう。と頭を切り替え集中して練習を続けた。


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