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2、ルグラン王国某所にて

久乃は明るい温かな空気の中にいた。


ポカポカと春の陽気の様でとても気持ちが良い。冬のこたつの中で手足をぐ〜っと伸ばしのびのびと眠る猫の気持ちがわかる。


「貴女1人なんでしょ?来てみない?来てみない?」と誰かに呼ばれている。「どこに行くの?」と答えると始まりの国。と聞こえた。


ーーーー良いわ。どうせ私これから一人ぼっちだし。どこへ行こうが構わないわ。私の身に何があっても心配してくれるような人なんて居ないしね。


「行ってもいいわ」そう答えたのかどう答えたのか分らないが、了解の意思を伝えたと思う。


「じゃあ行くね」と聞いたのが最後だ。



久乃が気が付いた時には牢屋の中にいた。立派な鉄格子だ。こんなのアニメや刑事ドラマの中で見たことある。


へっ?と思わず声が出てしまった。辺りを見渡してみても誰もいない。そして牢屋の割には調度品が豪華な気がする。その辺りは入った事ないから詳しいことは良くわからないけど。


久乃がいたのはそう「独房」だった。貴族用らしく作りが豪勢だ。机の上に乗った食事を見ると、一応食事はしっかりと出ているようだ。


まさか、まさかの今巷で流行ってる「異世界転生」か?いやいやそんな馬鹿な。自分に限ってあり得ない。そしてよりに寄ってこんな場所に?


思わず辺りを確認すると洗面所に駆け込んだ。もちろん鏡を見るためだ。


鏡に映っていたのは。大きな猫目の流れるような金髪の美人だった。目が覚めるような美人だ。ハリウッドの女優みたい。元々の久乃の顔とあまりにも違う。でもこの顔どこかで見たことある気がする。


以前、長屋に住んでいた時に亮が「おい!久乃これ見てみろよ。あのババアこんなゲームしてるんだぜ。」と見せてくれたキャラクターにとてもよく似ている。しかし今更だけど亮の言葉使いが悪すぎる。


もうタイトルは忘れてしまったが、このキャラクターは確か断罪されて島流しに会うキャラクターだったと思う。こんな事ならもっとしっかりと借りてやっとくんだった。せめて名前ぐらい思い出せないか?ーーーー確か?

「おい、エメラルド」そうエメラルドだったわ。って名前呼んだのだれ?


「聞いてるのか。エメラルド?」


洗面所から声のする方へ歩いて行くと、1人の体格の良い男性がいた。こんな人ゲームに出てたかしら?と記憶を辿るが全然出てこない。


赤い髪で整った顔立ち。背も高い。こちらの世界でもさぞかしオモテになっているだろう。でも名前が全然わからない。


「ごめんなさい、ちょっと考え事してて」と謝るとその男はびっくりした顔になり、「おいエメラルド。とうとう罪の重さを求めて考えを悔い改めるようにしたのか?」と言ってきた。


「まあそんな所ね」と答えておいた。と言うかそうとしか答えようがない。まず此処の事を知らないと。


「お願いがあるんだけど」とその男に声をかけた。すぐさま「おいおい、今更逃亡の手助けとか無しだぜ?」と


「違うわ」「じゃあなんだよ?」「本を何冊か持って来て貰える?出来れば建国史みたいな物があれば良いんだけど。頼めるかしら?」この男の雰囲気を見る限り悪い人には思えなかったのだ。


「ちょ、お前。一体どうしたんだよ?」


「まあちょっとね。心境の変化ってやつよ。あとここ2~3日の新聞も頼めるかしら」


「わかった。そんな事ならすぐに用意できると思う。」


「ありがとう、よろしく頼むわね」彼にそう頼むと私は彼に背を向けて自分の荷物が無事かどうか確認し始めた。カバンを開くと中身を見た。うん大丈夫。持っていた荷物は全て揃っていた。



その男はしばらく私の様子を見ていたが何もないと分かるといつの間にか姿を消した。




次の日、さっそく本と資料を持って来たその男に聞いてみた。


「ねぇ、私いつまでここにいられるのかしら?」

「さぁ、後1週間って所じゃねぇ?」

「そうか1週間か。分かった」とだけ言った。その返事が気に入らなかったのかその男が


「お前、この前から何だよ。何か言いたい事が有れば言えば良いじゃ無いか!」と何か言いたい事があるのか男がキレ始めた。思わずその男の顔を見つめると


「そう言ってくれてありがとう」と言った。・・・・でもまさか貴方の名前が分かりません。とは言えなかった。


「でも私と話すのはあんまり良くないんでしょ?」とだけ言った。


「そうだけど。でも。。。」


「じゃあちょっと良いかしら?今時間ある?」


「今なら大丈夫だ。何だ?」


「たぶん信じて貰えないと思うけど、私今までの記憶が無いの。今話している貴方の事も本当は全然分からないの。」と真っ直ぐ正直に伝えた。


「うっ、嘘だろ?」


「嘘ならまだ良かった。本当に記憶が無いの。だから色々と教えて貰えると助かる。ここ牢屋でしょ?私何かしたのよね?」


「お前・・・・本当に覚えてないのかよ。」と驚いた顔でその男が言うので


「ええ、自分の名前しか分からないわ。」と答えた。


その男はしばらく考えると口を開いた。どうも信用してくれたらしい。


「俺の名はハリーだ。俺とお前は幼馴染で本当に小さな時からよくお互いの家の庭で遊んだものだ」


「お前は侯爵家、俺の所は伯爵家、家の格は違えど交流が盛んだったんだ、そのうちお前はこの国の第一王子との婚約が整いその為の教育が始まった。」と説明してくれる。


「もちろん俺とは会えなくなったし、俺は俺で騎士団へ入団したので忙しくなった」


ここまでは分かるか?と聞かれ、分かるわ。と答えた。


「お前は良く頑張っていたよ。自分の家族にも会えず敵ばかりの中で自分の立場を確立しようとしてた。俺もできれば助けてやりたかったが立場上、変に肩を持つことは出来ないし実際の所この国のお妃教育はとても厳しい事で有名だったしな」とこちらをチラリと見ていた。


「そんな時、王子が通っていた学校で出会った男爵家の女に手を付けたんだ。」とハリーはここで軽蔑とも取れる怒りの表情を見せた。


「王子もその辺うまくやりゃあ良かったのに、あろう事かこの王宮にその女を連れ込みやがったんだ。だからお前は再三王子に忠告したし、その男爵家の女にも注意をしてた。この辺りは証言者もたくさんいる。・・・・ただ」


「ただ?」


「ーーーー王が王子の肩を持ったんだ。お前に魅力が無いから男爵家の女に手を出すんだって。・・・・俺はその瞬間お前の気が狂った様に見えた。必死に自分の無罪を訴えているのに誰も聞く耳を持たなかったんだ。その時の事を思い出すと言動も表情も今話しているお前の方が正常に見える。」と今度はエメラルドを見て話した。


「お前は王と王子と男爵家に嵌められたんだ。男爵家の女の方から毒を盛られたと訴えられたんだ。どうだ分かるか?」

そう聞かされ頷いた。


「おそらく流石に死刑にはならないだろうが辺境へ追放されるだろう。今、お妃様がお前の為に動いてくれている。実家の方は温情で爵位取り上げにはならないと思う」そう話を聞いた時のエメラルドの心情はと言うと


ーーーーやったわ。望むところよ。こんな所一秒でも居たく無いわ。


「ありがとうハリーよく分かった。今まで仲良くしてくれて本当にありがとう。じゃあもうすぐ会えなくなるだろうけど元気でね。良い人見つけて早く幸せになってね」と笑ってさよならを言った。


「どうして、どうしてそんな事を言うんだ。・・・・俺は前からお前の事が」と私から目を逸らし俯いた。


「さぁ、ハリーもう行って。そうしないと貴方まで酷い目に会う」とクルリと後ろを向きハリーにそう告げた。


しばらくハリーはそこに居たが私がもう話す気がないと分かるとゆっくりと去って行った。私は彼が出て行ったのを確認すると、すぐさま持ってきてくれた本や資料を貪る様に読み始めた。


この国から追い出されるかも知れないその日の為に、少しでもこの世界の事を知っておきたかったのだ。

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