13、要塞を堕とす。
約束の時間通りに山羊亭の入り口に現れたトールさんは、ギルドで会った時と少し雰囲気が違った。
髪を少し後ろへなでつけさっぱりとしたおしゃれなシャツにゆったりとしたチノパンに身を包んでいた。身長があるのでそんなラフな着こなしもすごく様になる。手首から覗く瀟洒なシルバーのアクセサリーは彼の引き立て役にぴったりだった。山羊亭にいた女性客はほぼ全員トールさんに釘付けになっていた。
・・・・久乃は、ーーーーもう少しおしゃれして来ればよかったかな?と一瞬後悔してしまったほどだ。これでも時間ギリギリまで悩んだけど・・・・
「すいません、お待たせしました?」と聞くが「いや?今来たとこ」とあっさり答えていた。
お昼の山羊亭はなかなかの盛況ぶりで席に案内されるまで10分ほど待たされた。しかし席に案内された時には結構人が減り始めていた。
「いらっしゃいませ。お待たせしました。あら!トールじゃないの!珍しいわね?一人じゃないなんて。」と水を配りに来たウエイトレスさんに言われていた。
トールさんは「そりゃたまには他の人とぐらい来るよ。」と仏頂面で答えていた。
目の前に水が置かれ注文を聞かれた。「今日はトールさんにお任せします。私、好き嫌いはないんです。」と話すと「分かった。じゃあ本日のランチにしよう。」と決めて注文してくれた。
人が少なくなったおかげか注文したランチは割とすぐに来た。
ほかほかして美味しそうだ。「じゃあ食べようか?」と言いつつ食べ始めた。やっぱりここの定食はいつ食べても美味しい。思わずニマニマしてしまった。
「久乃、旨そうに食べるね。スタイルを気にしてあまり食べない子ってたまにいるけど、そうやって食べてくれると奢り甲斐あるよ。」と笑っていた。
「あっ、明日出発の予定で馬車を手配したよ?良かったよね?」と言って来たので「大丈夫ですよ?何時ですか?」と聞くと「とりあえず馬車は9時にギルド前に来るよ。それで行こう。」と言う感じで話しがまとまった。
そんな調子で楽しく食べていたが「ちょっとトール、今度はそんな冴えない子な訳?」と久乃の後ろから剣を含んだ声が聞こえて来た。
思わず振り返ると美しく着飾った久乃よりは少し年上らしい女性が、腕を組み何やらお怒りの様子だ。
「久乃さんごめんね?」とトールさんが目の高さに片手を上げ拝むように謝って来た。
まだランチは残っていたが食べる気などすっかり失せて「ええ、平気です。私そろそろ失礼しますね。」と席を立ち後ろの女性に「私はそろそろ失礼します。こちらのお席が空きますので良かったらどうぞ。」と一言いうと、自分の分は会計を済ませて外に出た。ーーーーこちとら修羅場はごめんだわ。とボヤキながら自分のアパートに帰った。
次の日の朝の9時に約束通り久乃はギルド前にいた。もちろんトールも一緒である。
トールが気を使ってせっせと久乃の荷物を積み込んでくれている。久乃はギルドのカフェでコーヒーを2つテイクアウトして貰うと馬車に乗り込んだ。
「久乃、今日はこれから3時間ほど馬車に乗るけど乗り物酔いは大丈夫か?」とトールが聞いてきた。
「ええ。大丈夫ですよ。それより荷物積み込んで下さり有難うございます。これ良かったら飲んでください。」とコーヒーを渡した。「お、気が利くね。ありがとう。」とお礼を言われた。
「ーーー先日はごめん。奢りって言ってたのに。それにあれじゃ飯食った気がしないよな?」と詫びて来た。
「そうですね。まあ仕方がないんじゃ無いでしょうか?あの方とってもご立腹みたいでしたし。」と言葉を濁した。もうこれ以上この話題を続けたいとは思えなかったのだ。
「話題を変えよう。」とこの場の空気を読んだのか今日の内容について話が始まった。
「先日話した通り今回は要塞を攻める。今夜決行だが久乃は指示があるまでは本部にて待機していて欲しい。後から通信方法を伝えるよ。今回のメンバーは我々を入れて7人。女性は久乃だけだからひょっとしたら戦闘とは違う仕事が入ってくるかもしれないからそのつもりでいて。」とトールさんは言った。
「分かりました。実際の所は私も要塞を落とすって初めてです。ご迷惑をかけないよう頑張るのはもちろんですが色々と学びたいと思っています。よろしくお願いします。」と軽くトールにお辞儀した。
「ちょっとまだかかるから少しでも休んでおくといい。僕もそうするよ。」と久乃に言うとトールは眠り始めた。久乃は少し恥ずかしかったがトールに誘われるように眠りについた。
「おい、起きろ。」と肩をゆすられた。ハッと気が付くと深い森の中にいた。私、ヨダレなんて垂れてなかったでしょうね?
「着いたのですね?」と聞くと「ああ。これから始まるぞ。」とトールが幾分緊張した面持ちで久乃に答えた。
馬車から降りると「これから仲間を紹介するよ。こっちへ来て。」と手を引かれ森を進み途中で現れた洞窟の奥へと入って行った。洞窟の中はほんのりと明るくそこには屈強そうな男たちが各々の武器を手入れしている真っ最中だった。
「おお、トールじゃねえか?久しぶりだな。所でそちらのお嬢さんは?見たところあまり慣れてないように見受けられるがまさかトール、怖気付いて素人連れて来たんじゃないだろうな~。」と笑いながら一番年上そうな男がトールにそう言った。
「リクさんそんな馬鹿な。この子は久乃と言うんだがこう見えて剣はA級なんだ。その腕前はうちの親父さんの折り紙付きだぜ?」と話すと「そうかい、それじゃあ間違いねえ。お宅の親父さんはこの国の剣聖の称号を持つ男だもんな。」とここにきて驚くことを言ってのけた。「え、剣聖。ギルド長が?」と思わず口にしてしまった。
ーーーー通りで強いはずだ。久乃が取れた3本はビギナーズラックだったんだと今更ながら感じた。




