眷属同士は食わない
オルトメアに城が造られた。
眷属を創った後、不意に住処が必要な思いに駆らたから。
真っ先に帰ってきたのはコルニエとアマリアだった。
生気は抜かれていたが生きてはいる。
「クリテリオン様どうぞ。」
ぼんやりと立っている十人の年齢まちまちな男女。
クリテリオンは貪り喰う。
二体はそんなクリテリオンをうっとり見つめている。
あっという間に完食した。
床の血や肉片などはスッと無くなる。
まるでダンジョンのように。
お腹が満ちると邪気も増加するが行き場は少なくウゴウゴしていた。
眷属は順に生きた人間を持って戻って来る。
「チッ。
先越されたか。」
忌々しそうにコルニエとアマリアを睨み、面倒くさそうに地下牢へ人間達を入れに行く。
最後にサラーマと拘束されたハーキムがサラーマに担がれ戻った。
「何?
あんた達。
失敗したの?」
唯一の女性型のアマリアは小馬鹿にしたようにサラーマに詰め寄る。
「しかも何?
捕まったの?」
麻痺がようやく解けてきたハーキムに顔を近づけて煽る。
サラーマはアマリアを無視し、クリテリオンの前で跪いた。
ハーキムを拘束からとかず床に置く。
「なかなか強いジジィとかなり強い小僧がいました。
ハーキムは小僧に捕まり、こいつのせいで二体一になったので、戦闘を回避し報告を優先致しました。」
クリテリオンはどうでも良さそうだった。
クリテリオンの様子を伺い、用は済んだと判断したサラーマは立ち上がる。
すかさずアマリアが嫌味を言う。
「なによぉ。
二体一だからって逃げ帰って来るなんて。
恥を知りなさいっ。」
サラーマはさすがにうるさくなりギロッと睨みつけた。
「なによっ。
怖くなんてないんだから。」
慌ててコルニエの後ろに隠れ目だけ出して強がる。
力的にはアマリアがダントツで弱い。
ハーキムの拘束を取るとサラーマは胸ぐらを掴み思いっきりハーキムの右頬を殴った。
広間の半分ぐらい飛ばされる。
「悪かったよ。」
ハーキムは話せるようになったが立ち上がりはまだ出来ない。
「俺にではなくクリテリオン様に謝れ。」
サラーマに首根っこを捕まれ引きずられクリテリオンの前に投げられた。
「クリテリオン様こんな体制で申し訳ありません。
麻痺毒が完全には抜けていないので。」
うつ伏せで頭だけ上げる。
クリテリオンはジッとハーキムを見ていた。
「俺は大人の人間をクリテリオン様に献上する前に食べました。
お許し下さい。」
赦しを乞うハーキムに俄然元気の出たアマリアが駆け寄り罵る。
「ないわぁ。
眷属やめたら?
人間に負けるわクリテリオン様より先に食事するわ最悪ね。」
自分達が生気を食ったのは置いといて、ギャンギャン言っている内にハーキムの麻痺が解けていた。
「お前、何様なんだ?」
動けるハーキムに首を掴まれる。
途端に青ざめるアマリア。
「そいつなら食っていいぞ。」
サラーマもアマリアが煩わしい。
「待って。
同じ眷属でしょ?
クリテリオン様がお許しにならないわ。」
当のクリテリオンは興味がなさそうでアマリアの助けを求める視線に気がつきそうもなかった。
「コルニエ。
助けて。」
名前を呼ばれて迷惑そうなコルニエ。
「自業自得だろ。
お前いい気になりすぎ。」
コルニエはアマリアの次に弱い。
淫魔の彼らは力が弱くても人間を狩れるから。
アーンと口を開けたハーキムに食われると絶望したアマリアは気絶した。
「馬鹿でぃ。
弱い奴程煩いってな。
食わんわ。
殺すのはあっても。」
首を持った状態でコルニエに投げる。
腕力が弱いコルニエはアマリアごと倒れた。
「それにしてもなんなんだ。
あの小僧。」
「狡い手を使われた。
麻痺毒なんて。」
「お前、状態異常の耐性あるだろ。」
「あっ。
あるな。
あるよな?
あるわ。」
「それ本当に麻痺毒だったのか?」
「えっ?
麻痺してたから麻痺毒だろ?」
「ちょっと血をもらうよ。」
「おう。」
「調べてくる。」
カパンラはフワフワと奥へハーキムの血を持って行った。
「その前に切られるなっ。」
「いつ切られたか分からなかったんだ。」
「はぁ。
クリテリオン様の眷属なのにか。」
「第二形態になったら俺の方が強い。」
「それで負けたら死ぬしかないな。」
「うるさいわ。」
そこへフワフワとカパンラが戻ってきた。
「何も出ない。
麻痺毒ではなかったのかも。」
「それならなんで俺は動けなくなったんだ?」
「見ていないし分からないよ。」
クリテリオンの眷属は人間も侮れないと油断しないよう肝に銘じた。