悪はどっちだろうね
遥か昔。
善神クリテリオンと魔神パルフェタムルがこの世界の神だった。
農業や生産に関わる仕事の者の多くは善神を崇め、狩猟や漁業を生業にする者の多くは魔神を崇めていた。
永い間大きな争いもなく人々は栄え村から街へ街から都市へそして国になっていった。
街には神殿を造る事となりここでどちらの神の神殿を造るかで人々は言い争い世界を巻き込む戦争へと発展する。
人々が醜く己の信仰を主張し血を流し倒れていく。
善神信仰の方が数は多いが戦いに慣れていない。
魔神信仰の方は数が少なくても魔物や海獣等との戦いに慣れている者がほとんどだった。
善神クリテリオンは悲しみ涙した。
魔神パルフェタムルは冷静に眺めていた。
何年も何十年も続いた戦い。
魔神信仰者が勝利を確実にした中、善神クリテリオンが魔神パルフェタムルの元を訪ねて来た。
「見て。
あなたの信者により畑は荒れ果て人々が大量に死んでしまったわ。」
魔神パルフェタムルは呆れる。
「お前の信者のせいでもあるけどな。」
善神クリテリオンは首を横に振った。
「いいえ。
私の信者は心優しい人々だった。
なのにあなたのせいで私の信者達は血を流し倒れ地上は血に染まってしまった。
あなたがいなければ私だけを信仰し争う事もなかったのに。」
泣き叫ぶ善神クリテリオンに嫌な予感がする。
「落ち着け。
冷静になれ。」
魔神パルフェタムルの言葉は善神クリテリオンを虚しく通り過ぎた。
ヨロヨロと魔神パルフェタムルに近付いて来た善神クリテリオンは抱きしめて宥めようとする魔神パルフェタムルの胸を光の剣で貫いた。
「何をする。」
ドンっと魔神パルフェタムルに突き飛ばされた善神クリテリオンは尻餅をついた。
フラフラと立ち上がると上に手を伸ばし狂ったように高笑いをする。
「やったわ。
私は悪を滅ぼした。
これで人々は幸せになれる。
早くこうすれば良かった。
やっと。
やっと人々は・・・。」
善神クリテリオンの言葉に正反対の力を使われ内側から身体が消えていく魔神パルフェタムルは怒りと憎しみで震えた。
「愚かな善神クリテリオン。
悪はどちらか。
いずれ分かる。」
最後の言葉は善神クリテリオンに届いていない。
魔神パルフェタムルは最後の力を振り絞り一つの珠を創りだし消滅した。
「ふふふ。
ずっと気に入らなかったわ。
この世界に二つも神は必要ない。
これで神は私だけ。」
心優しき善神クリテリオンは悲しみが永く続き心を病んでしまっていた。
善神の眷属達はすでにクリテリオンの手にかかっている。
眷属のくせに人々を私を救えていないと。
何がそれ程までにおかしいのか、善神クリテリオンは笑い疲れるまで笑い、そして少し冷静になった。
そこで魔神パルフェタムルが倒れた場所に大きな珠が置かれているのに気がつく。
慌てて駆け寄り力一杯、天より降る閃光を珠に叩きつけた。
傷一つつかない。
「おのれぇ。
パルフェタムル。」
善神クリテリオンは何度も何度も何度も天より降る閃光を叩きつけた。
「ここまでやって無傷?
この私の力で?」
ここで善神クリテリオンは自分が何をしたかを血の気が引く思いでかえりみる事となる。
「壊せないなら封印をしないと。
今度は私が消滅させられる。」
手助けしてくれる眷属はもういないが、新たに創る時間は今はない。
「私はなんて酷い行いをしてしまったの?」
黒く光る大きな珠から怨みと憎しみが漏れ出していた。
「こんなに強い負の感情はパルフェタムルから受けた事は無かった。
それ程までに私を怨んでいるのね。
彼の力に怨みと憎しみが加わりどれ程の力を持った魔神が誕生するか分からないわ。
パルフェタムルと私の力はほぼ同じ。
油断させなければ消せなかった。」
善神クリテリオンは青ざめる。
「これが産まれたら私では抑えきれない。
今度こそこの世界が終わる。」
クリテリオンは珠から離れていては新たな魔神の誕生を止められないと理解し、自分諸共地底深く封印すると決めた。
封印しながら時間をかけ自分の力を練り込んだ宝玉を創る。
魔神パルフェタムルの眷属は四体いる。
主君が善神クリテリオンに消滅させられた件も次世代の魔神の珠を残してくれている件も察知していたが、珠が熟すまでは封印という名の護りに任せ、各々新たな主君が誕生するまでにすべき事柄を行うべく各地へ散った。
いつしか封印の地に善神クリテリオンの大神殿が建ち大教皇達が封印を守るようになる。
魔神パルフェタムルを信仰する者は激減し、今では魔神を悪神として捉えられていた。
善神クリテリオンからの神託があったのか真実は捻じ曲げられ、幸せに暮らす人々に戦争を起こさせ地上を荒らし恐怖に落とし込んだ悪神パルフェタムルを善神クリテリオンが神の御業で成敗し世界は平和を取り戻したと語り継がれている。
真実を知る魔神パルフェタムルの眷属は不愉快であったが反論等はしていない。
ただその時を準備万全に待ち望んでいた。