スタンピード③
黒いオークが斧をふりおろした時、ヨウコは思わず目を瞑った。自分を奮い立たせ、直ぐに目を開ければ、オークの斧に刃先はなく、タケルに届いていない。
左から叫ぶ様にオークに突撃する人影がある、タケルの友達のシロウだ。ギルドでは挨拶をしただけだが、タケルが車の中で言っていた。あいつは強くなるって、スキルも知らないけど、必ず自分達の助けになるから、仲良くして欲しいって。
オークがシロウの方向に体を向け、顔を守る様に両腕を上げている。よく見ればオークの両腕に傷が出来ている。シロウが走りながら魔法を使っているのだろうか。
「タケルを助けろー」
シロウがそう叫ぶと、急停止して両手を前に突き出した。突風が巻き起こる。
ヨウコはタケルのもとに駆け、槍を抜き、引きずる様に後退させる。タケルの腹部が光っている。エリナはずっと回復を施しているのだろう、エリナを見れば壁に寄りかかり、立っている事も出来ないようだが、回復を続けている。
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風魔法ブラストで黒オークを足止めする。髪の長い綺麗な子がタケルを引きずる様に遠ざけている。
借り物の剣を投げ捨て、背負ったバットケースから雷獅子の剣を取り出し、スキルを変更する。
『剣術B』『剣客』『切断』『身体強化B』だ。シロウは魔適正がないらしく、スキルで魔法を強化しても、威力は大したことはない。しかも、今は魔法を連発した為か頭が痛い、強敵相手だが、得意の速度で翻弄する長期戦は無理だ。一撃勝負だ。『剣客』のスキルで間合いの把握と技が使える様になる、コレに賭ける。
「オークが石でも投げてきたら死ぬな」
そう軽口を言い、剣を上段に構えた。黒オークはまだ間合いの外だ。何も考えていない顔をしてるくせに、シロウに何かある事はわかっている様で、直ぐに踏み込んでは来ない。
くそっ、このまま膠着すれば、他のオークが来てしまう。早く来い!
黒オークと目が合う。虚な瞳に何が見えているのか? お前は俺より強いんだ、何を恐れている、さあ来いよ。
黒オークの目が光る、来る! 神経を剣先に集中する。
「一閃」
上段に構えた剣を振り下ろし、黒オークと交錯する。
手応えはあるが浅い、オークの拳が左肩に当たり、剣の軌道が逸れた。肩が外れたのか左腕が動かない。
黒オークは右腕を失っているが引く気はない様で、左手で肩口を押さえながら立ち上がると、シロウに向き直った。
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シロウとオークは再び対峙している。オークは右肩から先がないにも関わらず、動きは先程とあまり変わらない。片やシロウは右腕のみで剣を上段に構えはしているものの、見るからにふらついている。
ヨウコは何も出来ていない。ニーナは体力が尽きるまで戦い、タケルは命をかけてニーナを守った。エリナは今も回復を続けている。
ヨウコの中のカウントダウンは8時間からほとんど減っていない。しかし今の自分にできる事はこれだけなのだ、両腕を前に出し集中していく。自分はどうなってもいいこのカウントダウンを減らせ!シロウに力を!
どんなに念じてもカウントダウンは同じペースでしか減らない。時間制限なんてどうでもいい、自分はどうなってもいい!
「勝って!」
ヨウコはそう叫びながら『熱烈支援』を発動した。
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自分が立っている事はわかる。気を緩めれば閉じてしまいそうな眼を必死に開け、近づく黒オークを見つめる。あと二歩で剣の間合いに入るが、果たして剣を振り下ろす力があるのだろうか?
あと一歩までオークが迫った時、 自分の中で何かが弾けた。全能感、今なら何でも出来そうな力。
「一閃」
再び黒オークと交錯した。手応えは充分にあったが、振り返る事も出来ずシロウはその場に倒れた。
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トクマが高所からモンスターを狙撃していると、周囲を震わせる様な雄叫びが聞こえた。何かとてつもない化物がいる。本能的に敵わないとわかってしまう何かがいる。
目の前に縄梯子が降りてきた。ヘリから降ろされているハシゴに捕まり、ヘリに上がる。
「今のは何だ?」
「わかりません、ただモンスターがダンジョンに戻っています」
頭に引っかかるものがある。スタンピードはそんなに多い事例ではないが、確か途中でモンスターが引いたものがあったはずだ、、。
「ローマの崩壊だ。赤の信号弾を打て、攻略者を退がらせるんだ、自衛隊にも連絡、出来る限り離れろ」
トクマの指示からおおよそ一時間後、百道の街は崩壊した。
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