麒麟
アーシアさんの工房は、前に来た時と変わらず荒らされたままだ。
「よく来てくれました。改めまして、私はアーシアです」
工房を訪ねたシロウ達を迎え入れると、ちらっかってるけど、その辺に座ってねと、明るい様子だ。
「大変でしたね。でも良かったです。こうして戻って来られて」
ヨウコも部屋がそのままである事から、さぞかし気落ちしているだろうと努めて明るい声で話している。
「迷惑をかけました。おかげでまたココにいれます。本当にありがとうございます」
アーシアさんはそう言うと、深々と頭を下げた。
「いえ、学長のおかげです。話を聞いていただけですから」
「もちろん学長のおかげもあります。でも、あなたが私に蓋をしていた何かを断ち切った。その背中に背負った剣で、それはわかっています」
「その件もあって今日はお伺いしました。でも、もし良かったらですが、先に部屋の片付けを手伝いましょうか?」
「片付け? あなた方もロイと一緒で、この機能的な配置がわからないのですか? 確かに荒らされた部分もありましたが、昨日直ぐに配置し直しました。もう以前のままです。欲しいものが手に届くところにあります」
「そうなんですね・・・」
「まあ、そういうのはロイと散々話したので、シロウ達の言いたい事はなんとなくわかりますが、時間が惜しい。たくさん聞きたいことがあります。シカさんの事、そして精霊の事です。先ずはシカさんの事を教えて貰いたいのですが」
シロウはシカとの出会いから話し始めた。誰にも言わないで欲しいという条件で、ダンジョンに巻き込まれた事やシカとの出会い等だ、スキルの事は話さずに取り繕うのが大変だったが、なんとか話せたと思う。
「という事は、シカさんはあと一年後にあなた方を迎えに来ますね。出来れば、いや絶対に紹介して欲しいです」
シカさんに紹介する人がどんどん増えている。エルザさんにガットさん、そしてアーシアさん。あと一年後にはもっと増えてるだろう。
「シカさんが迎えに来るとは限りませんが、ご紹介できるように努力します」
シロウの言葉にアーシアさんはとても嬉しそうだ。完全に口角が上がっている。
「ロイも会いたいって言うと思うのですが・・」
「わかりました、シカさんに言ってみます」
「あと一年!シカさんに話せる研究成果を出してみせます」
「それで、その研究についてですが」
「ロイから聞いています。精霊がシロウの剣に宿ったと、剣に変化はありましたか?」
「剣にはスキルがついていました」
アーシアはシロウの言葉にひどく驚いた。シロウは雷獅子の剣をケースから出しデスクに置くと、アーシアはしばらく剣をじっと見てから口を開いた。
「先に私の研究を説明します。私のスキルは『練生』です。見ていて下さいね」
そう言うと、アーシアさんはデスクの上にある粘土を人の形にして、両手を当てた。粘土は意志のある生き物の様に少し動くと、徐々に崩れていき、完全に崩れて普通の粘土に戻っている。
「今の様に無機物に意志を持たせて動かす事が出来ます。私はこのスキルを剣などの武器に持たせ、攻略者がスキルを得る様に、コアに触れさせる事で、武器にスキルを付与しようとしました。しかし問題点はいくつかあります」
アーシアさんは、一度話を区切ってシロウやヨウコを見た。
「今の粘土を見る限り、持続時間が短いとかですか」
ヨウコが答える。
「そうです。スキルを得たとしても、時間切れがあるならば、使いようがありません。時間は無機物の魔力伝導率によります。そこで、直接武器に宿すのではなく、魔力伝導率の高い何かにスキルをつけて、剣に付着する事を思いつきました」
今度はデスクの中かいくつかの金属を出した。
「これらは比較的伝導率の高い金属です。しかしこれらも、いつか切れてしまいます。次に私は火や水などを試したりする様になりました。そして行き着いたのが光でした。しかし他のものは『練精』が出来るのですが、光には『練精』が出来ません。思いつく限りの方法でやってみたのですが、ある日たまたま一つ出来たのです。以降はまだ出来ていません。その光が出来たのは2週間前ですが、あの男達が来る前まで、出来た時と変わりはなく、動かす事が出来たのです、私はそれを精霊と名付けました」
アーシアさんは刀身をじっと見ている。
「シロウ、精霊はどの様に剣と一体化したのですが?」
「精霊が剣をぐるぐる回っていたから、ケースから剣を出しました。この剣ともう一つ持っているので、2本を並べて置いた時、精霊はこちらの剣に留まり消えました」
「この剣は何か由来のある剣なのですか?」
「この剣は雷獅子からドロップした剣で、それ以外には特に何かはないと思います」
「二つの剣からこちらを選んだ事は意味があるはずです。それと、この剣にはスキルが付いていると言いましたね」
「はい、付いていました」
「付いていた?」
「正直に言います。この剣には『剣客』のスキルが付いていましたが、そのスキルはもうありません。スキルを詳しくは話せないけど、剣のスキルを取りました」
「スキルを取った・・・、まさかスキルを取る事が出来るスキルがあるなんて聞いた事はありません。しかしスキルを一時的に渡す事が出来る者はスキル付与者と言われ、存在すると言われています。与える者がいるなら、取る者もあるはずです。それと私の研究はスキルをつける前提となる剣を作る事でした。もしかしたら剣には、スキルが元々あって、精霊が付いた事で発現したのかもしれません」
アーシアさんの話でNo.917が行っていた事を思い出す。『空きスロットが無いから、凄いスキルを持っているのに使えない人もいるかもしれない』と言っていた。雷獅子の剣にはスキルがあり、ハイ・オーガの剣にはスキルが無かったから、精霊はこの剣を選んだのかも知れない。
「もうスキルはありませんが、この剣をお返しします。コアに入れる事でスキルを得る可能性は高いと思います」
「シロウ、この剣は持って置いて下さい。偶然に出来たもので、話を聞く限り、シロウという媒介がいた事でなし得た様に感じます。私は研究者で、普通に出来る様になる事を目指しているのです。今回の件で、方向性が間違っていない事がわかれば良いのです。それにその剣が身近に有れば、私は今回の件に囚われてしまう。もちろん今回の件も考えますが、同時に違う可能性を追求しなければ、なし得ないと考えます」
アーシアさんの目を真剣そのものだ。シロウは精霊を奪ってしまい、結果的にシロウだけが得をした様な、後ろめたさを感じた。
「それに、今度私がダンジョンに行くと言ったら、シロウ達が協力してくれるでしょう?」
「もちろん良いですが、良いんですか? ロイさんに言ったら、なんで俺と行かないのかとか言われそうですが」
「ロイとはいきません。ロイはロイでやるべき事があるのです。言ったら行ってくれます、それがわかっているから言いたくないのです」
「わかりました。必ず一緒に行きます」
「それと剣を貰わない理由はもう一つあります。これは学長にも言いましたが、私の研究内容や過程をギルドは知っています。みなさんが来る前に全部しゃべってしまったと思います。そこら辺の記憶が曖昧なのですが、話す事が正しいとその時に感じていたのです。クランク教授は魔力伝導率の研究をしていました。話した通り、私も魔力伝導率の高いものを探していたので、その中のどれかが盗用を疑われたのです。しかし、今話した様に私のは偶然。ただクランク教授で有れば、それをヒントに同じ事が出来るかもしれません」
「クランク教授がスキルを持った武器を大量に作る可能性があると言う事ですか?」
「もちろん可能性はあります。剣だけでなく、ゴーレムの類を作り出すかもしれません。ただ、クランク教授といえど、難しいと思います、そして行き詰まった時には、私が再度連行される等の危険性があります」
「その時に、この剣がギルドに渡るのはまずいか・・」
「本当は研究が進むのは良い事なのですが、EUのギルドにあまり良い印象を持っていないので、怖いのです」
「わかりました。剣は持っておきます。それと時が来たらスキルの事もお話しすると思います」
その時が早く来るのを楽しみにしているとアーシアさんは右手を出す。シロウとヨウコ、そしてファフと握手をすると、精霊が出来たら連絡するからとアーシアさんは笑顔でシロウ達を見送った。
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