スキルチェンジ
巨大なミノタウルスが狂った様に斧を振り回している。狙っても当たらないのだから、試行回数を増やすのも一計ではあるが、
「当たらない」
そう呟き、突進する。三つのスキルを全て素早さを上げるものにしたのだ。本来は結構な速さで振るわれている斧でも、余裕をもってかわせる。すれ違い様に膝を狙う。相変わらず斬った感触はないが、少しずつではあっても、刃が身に入る様になってきた。
「幾らでもやってやる」
素早さ特化の分、攻撃力は極端に低くなってしまった。それでも同じ所を攻撃する事で、膝から出血をさせる事が出来ているし、繰り返せば切断まではいかなくても、足を止める事は出来るだろう。
大正解とはいえなくても、これも間違いではないはずだ。そう思った時、ふと思いついてしまった。
『身体強化B』はそのままで、『影舞』と『瞬歩』のスキルを攻撃スキルに変更してもいけるのではないか?
初めは筋骨隆々のミノタウルスを見て力押しは諦めたが、今は膝を痛めている。素早さは身体強化頼みとなるが、ミノタウルスの攻撃は散々見た。フェイント等はなく直線的な攻撃ばかりだ。
『影舞』のスキルを『切断』に変更、『瞬歩』を、、そう考えた時、凄い勢いで斧が飛んできた。
目こそ離していなかったが、意識は向いていなかった。絶妙なタイミングで投げられた斧ではあるが、ミノタウルスには不幸な事にスキルを変えきっていない。
飛んできた斧をかわし、そのまま近づく。『影舞』がない分、身のこなしは微妙になっているが、素早さはあまり変わらない。
ミノタウルスから繰り出されたパンチをギリギリでかわす、『影舞』を外したから本当にギリギリだ。膝に向かって剣を振り抜くと、先程までの硬さが嘘の様に刃が通り抜けた。
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ミノタウルスが立ち塞がる様に守っていた通路を抜けると、大きな菱形のコアクリスタルが宙に浮いている。
コアクリスタルは緑色に輝いている。スキルがある程度揃ってきた今は緑が嬉しい。
クリスタルに手を入れると、四つ目のスキルとして『影舞』がセットされた。
さっきは三つまでしかスキルはセット出来なかったし、四つ目には自動的に直近に使用したスキルがついた。
四つ目のスロットについた『影舞』もスキル変更は可能だ。
これで四つのスキルを併用する事が出来る。シロウ自身のユニークスキル『スキルチェンジ』で様々なスキルを入れ替えすれば、経験の少ないシロウでも、こうやってダンジョン制覇が出来る。
「大きなダンジョンにもチャレンジしたいけど、単独って言うのがね」
自分のユニークスキルが特殊である為、パーティに参加した事はない。多くのスキルを持っていると言えば、スキルチェンジしながらの戦いは説明がつけられるかもしれないが、何となくそれは怖いのだ。
スキルを『身体強化B』『切断』『剣術B』『剣客』に変更し、コアを斬ると、地面が大きく揺らいだ。
地下5階にいたはずのシロウだが、今は大きな公園の真ん中にいる。
「16個目の制覇っと」
攻略者の多くが動画配信をしている。大切な収入源であり、閲覧数を稼ぐために、サムネに3個目制覇!などの文字がよく書いてある。シロウが見た限り二桁以上のダンジョン制覇なんて見た事はない。もっともトップランカーは配信はしないので、実際は2桁制覇なんてのもゴロゴロいるはずだ。
中には、繰り返し同じダンジョンを制覇している連中もいるし、クランを組んで互いに制覇したダンジョンを交換しているなんて噂も出てきている。ダンジョン制覇が出来たら、壊すのが当たり前なのだ。ダンジョンは壊すのが目的であるが、いつの間にか金稼ぎの目的になりつつある。
シロウはそんな輩に腹を立てる様な正義漢では無いし、世界平和を声高に叫ぶつもりもないが、同じダンジョンからスキルを得る事は出来ないので、制覇後は必ず壊している。
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「やっぱりね、謎の制覇者みーーっけ」
公園から急いで出る人影は、気配を消すスキルを使用しているのだろうが、完全に身を隠せはしない。
3年前の印象と重ねると背が伸びたな、シカは一人言うとシロウを追いかけた。
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