プロローグ②
「で、気がついたらここだった」
「そうです。3日間朝昼晩と同じ話をしましたが、明日は何時からでしょうか?」
「飽きた? 毎回同じ話ってのはつらいわね」
病室にいるシロウの前には、ペンで書類を叩きながら話している女性が座っている。初日こそ絵に描いたような美人女医に見えたが、2日目、初日には綺麗にまとめられていた長い髪が無造作に広がり何となく違和感があった。3日目の今日は眼鏡を外し口調も崩れてきている。
「飽きたのは私もなのよね。3日間お疲れ様、決まりだからやらせてもらったけど、質問会は今日でお終い」
「帰れるのでしょうか」
「もちろん、帰っていい。最後に話をしましょう。君の話は散々聞いたから私達側の話ね。君に何度か聞かれたけど答えられなかった話でもあるわ」
「あなた側の話ですか?」
「そう、その前に私はシカ、甘利シカ。3日も一緒にいたのに、名乗れなくてごめん」
「それも決まりってやつですか」
「まあそうね。名乗る決まりもないんだけどね。言いたくなったのよ」
「甘利さんは医者ではないですよね」
「シカで良いよ。この格好はね、したかったの。2日目から面倒になっちゃったけどって、そんな話はいいわよね。さてとどこから話すかなと、そうね、シロウはダンジョンについて詳しい?」
「授業やニュースで聞く程度です。あっ、友達がスキルに目覚めてダンジョン学園に行きます、そこで攻略者になるんだって」
「斧Bの佐々木君だね」
「知ってるんですね」
「まぁ、スキル測定の噂はすぐ回るからね。じゃあスキルや攻略者については知ってるとしたら、そうね、ダンジョン制覇者については知ってる?」
「トップランカーはダンジョン制覇したから、スキルが強いというのはよく聞きます、動画とかで」
「正確にはダンジョンを制覇するとスキルが貰えるの。だから制覇者、例えば世界ランカーなんかは複数のスキルを持っているから強いってわけ。たまにスキル持ちのモンスターを倒すとスキルが増えるなんて事もあるわね。佐々木君の斧鬼っていうのも強いとは思うけど、制覇後に貰えるスキルはそれよりも強いって感じかな」
「そうなんですね、知らなかったです。あんまり多くの動画は見てないと思うんですけど、シカさんは詳しいんですね」
「まぁね。それで私達側の話を始めると、私達はここから一番近い鳥栖にあるダンジョンに向かっていたの、そしたら新しいダンジョンが出来たっていうからね、君がいた春日の公園に出来たダンジョンに目的を変更した」
「その節はすみません、軽はずみな行動で迷惑をおかけしたと反省しています」
「君の様にダンジョン出現に巻き込まれる人はいるし、興味本位でダンジョンが出来そうな所に寝泊まりする人も実は多いの。でも、だいたいが死んじゃうの。だから面積が広い所では警備してたりもするんだけど、あの公園みたいに面積がそれ程でもない所はね。入りこむ人を取り締まる法律も不法侵入くらいだし」
「本当にすみません」
「君の命に関わった、それは自覚して欲しい。でもこれはもういいわ。話を進めるとね。私達はダンジョンに到着して直ぐに踏み込んだ。ダンジョンは時間経過で拡がるから、少しでも小さい時に叩く。これ鉄則ね」
シカさんは、そこで話を区切るとペットボトルの水を飲んで、ここからが大切なのよと前置きをして話を続ける。
「ダンジョンが小さい時でも強いモンスターがいる事もあるわ、むしろ小さいからこそ、そのダンジョンの力が凝縮された様なモンスターがいる事もある。ところがこのダンジョンは変だったのよ。モンスターが全くいなかったの。最初は罠かと思ったけど全然いない。とうとう私達は1匹のモンスターにも会わずにダンジョンの最奥にあるコアに着いてしまったわけ。さて、ここまで話したけど君が登場しないね。君はどこで現れると思う?」
「僕は起きたら、ストレッチャーで運ばれてたので、ダンジョンの何処かに転がっていたのだと思いますが、無事だったのはモンスターがいなかったからなんですね」
「ブッブー、違います。さて私達はコアにたどり着いてから、せーので手を突っ込んだわ、コアの中にね。それでさっき言ったスキルが貰える事があるんだけど、みんなが貰えるわけじゃないから、私達のチームは恨みっこなしで一緒に手を入れるルールがあってね」
その時の事を思い出しながら話してくれているのだろう、シカさんは右手を開いたり閉じたりすると、スッと手を前に出した。
「私が手を入れた時、コアの中で何かに触れたの、それは初めて触れる何かじゃなくて、人間の手に思えた。私は思わず手を掴んでコアから引っ張り出した、シロウ、君を引っ張り出したの」
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