プロローグ①
駅から家までの帰り道に大きな公園がある。シロウは公園の入口にある規制線の前に立つと、左右に目を配ってから規制線を乗り越えた。
公園の中央にある噴水。その噴水を囲むようにベンチが配置されている。右側に並んだベンチの3番目がシロウの場所。子供の頃に間違ってこの公園に入ってから、何となくここに座る癖がついた。
50年前、世界にダンジョンが出来た。日本では東京に大きな穴が出来て、穴の中にはゲームに出てくる魔物が徘徊しているという。今はダンジョンが日本各地たくさんあるが、ダンジョンとか魔物達にいまいち現実感がないのは、テレビや動画でしか見たことがないからかもしれない。
ダンジョンは、建物が少ない所に出現する傾向にあるらしく、大きな公園やスタジアムなどは全て封鎖されている。
「あいつがねぇ」
ベンチに座ると独り言が漏れた。一週間前までは休み時間などは一緒にいた。クラスで目立つ事はなかった佐々木が今やクラスのヒーローだ。
学校のアイドル賀古さんとも普通に話していた。佐々木が目覚めたスキルは『斧B』。Bってのがいまいちピンとこない。小説の主人公なんかはみんなSSだ。
しかし、有名な動画配信者もBのスキル持ちなので、この世界のBはかなり強いのだろう。
佐々木からスキルの事を最初に聞いたのはシロウだった。寝ていたら何かが身体に入った感覚があったらしい。
スキルの芽生えは人それぞれなので、佐々木はそれがスキルの芽生えとは思わなかったが、話を聞いた佐々木の両親が計測に連れて行った事で判明した。
それから佐々木がクラスで成り上がって行くのは早かった。先生から佐々木がダン校へ転校する事が告げられると、クラスメイトから歓声があがった。
佐々木は来週にもダン校に転校する。ダン校とは国立の特殊学園で、スキルに目覚めた者はここでダンジョン攻略や魔物との戦い方を学んでいるらしい、らしいと言うのは、佐々木がシロウにだけ教えると恩着せがましく話したからだが、勿論みんなに言っていた。
一般知識として知っている事もある。例えばギルド、ギルドはダンジョン攻略の為の組織であり、各国のギルドを束ねる世界ギルドを頂点として、日本にも日本ギルドがあり、ダンジョン攻略者をはじめとして、武器やスキルを研究する人達がいる。
シロウの知識は教科書や動画によるものなので、大雑把にしかわからないが、要は佐々木はこの組織の育成部門であるダン校に転入する事になった。脅威となるダンジョンへ立ち向かう教育を受け、人類の希望の星となる。そりゃあ、クラスのみんなもチヤホヤするだろう。
佐々木が羨ましいのだろうか? そりゃクラスであんな風にチヤホヤされたいと思う。休み時間になったら話を聞くために他のクラスからも人が集まり、自分の話にみんなが一喜一憂したら、とてもいい気分なのだろう。でも、動画に映るダンジョン攻略者の様に自分が戦えるとは思えない、命を落とすかもしれない。だから羨ましくなんかない、、。
『やっぱり羨ましいよな』そう結論づけ、ベンチから立つと視界が大きく揺らいだ。
地面が揺れている、体が宙に投げ出されそうな、今まで感じた事がない激しい揺れに立っている事が出来ない。
地面のうねりに高く持ち上げられたと思ったら、全身に激しい衝撃を受け、シロウは意識を絶った。
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眉間にあたる何かが煩わしいと思った。それを払おうと左手を動かそうとしたが固められた様に動かない。いい加減にしろと叫ぼうとしたが声が出ない。
目を開ける事をとても面倒に感じたが、眉間にあたるものが何かを知りたくて目を開けた。
風景が動いている。
「目が開いた、ストレッチャーを止めて」
上から覗き込む様に見ている女性が声を上げた。
風景が止まった。
「意識はある?君の名前は?どうしてダンジョンにいたの?」
その質問に答えようとは思えず、シロウは空が綺麗だと思った。
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