04.その夜
ベアードとビアンカは昔語りを終えた。
「そんなこともあったわね、よく覚えているのねベアード様」
「昔のようにベアードでいい。あなたのほうが年上でもあるし」
「年齢のことは言わないで頂戴」
ビアンカはとがめるように言った。
「夜も更けてきたけれど、そろそろ、義務を果たします?」
ビアンカはこともなげにそう言った。
「……」
ベアードは気づまりだった。王命とはいえ気が進まない。妻公認で義妹と通じるなど、こんなのは何かがおかしい。
一方で、この状況に我知らず胸の高鳴りを感じていることもベアードは自覚していた。
その自分の浅ましさが、ベアードには呪わしかった。
そして、その夜ベアードはビアンカの寝室で夜を共に過ごした。
「これからしばらくの間、こちらの家で過ごしてくださいます? 不倫断罪官を討ち果たすまでの間です」
翌朝にビアンカは言った。
「夜はともに王都を歩いて、その怪人をおびき寄せましょう」
「あなたを危険な目に合わせることになるのではないか?」
「それはもとより覚悟の上です」
ビアンカは明るく笑った。
それから数日間、ベアードはビアンカを伴って夜の街を歩いて回った。
不倫断罪官と呼ばれる怪人がいつ出現してもいいように、常に腰には帯剣していた。
ベアードは王宮が開催した剣術大会に10年連続優勝という快挙を成し遂げて、その功績によって一代男爵を拝命した剣豪である。
ひとたび怪人に出くわせば、剣において負けるつもりはなかった。
しかし、なかなか不倫断罪官は現れなかった。
その間に、また別の不倫貴族が殺されてしまった。いつものように、一刀のもとに切り伏せられたと思われた。
不倫断罪官の正体が何者かは分からないが、かなりの剣の達人であるようだ。
同じく剣の達人であるベアードに疑いがかからなかったのは、ひとえに目撃証言とは体格が違うからであった。
ベアードは大柄で肩幅の広い男であったが、不倫断罪官というのは細身で、背はやや高いくらいであると言われている。
それからまた数日が経ったある日、ベアードはついに不倫断罪官と邂逅した。
歓楽街から少し離れた路地裏で、ベアードとビアンカは不倫貴族と思わしき男に襲い掛かる怪人を目撃することになった。
「ひぃいいいっ!」
怪人に背を向けてこちらに逃げてくる小太りの男は、レイモン伯爵であった。
親しい相手というわけではなかったが、ベアードにとっては顔見知りの相手であった。
「おのれ殺人鬼! お前の相手は私だっ!」
ベアードは剣を抜き放ち、レイモンを背にかばって怪人と対峙した。