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君に、声を  作者: 桜 寧音
三章 高校一年(六月〜)
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番外編 野球ゲーム配信2

梨沙子のターン。

 光希が配信をした次の日、福圓梨沙子は『女子会甲子園』の企画の初配信を行なっていた。彼女は配信の三番手として平日のお昼に配信を行なっているものの、今回の企画が大規模なことと配信タイトルに『スペシャルゲストあり⁉︎』と煽られていたために三万人の人が集まっていた。

 配信が始まって簡単な挨拶と企画の説明をして、スペシャルゲストを呼び込む。


「では皆さんお待ちかねのスペシャルゲストを呼びますねー。通話繋げます」


「あー、もしもし?聞こえますか?」


『この声は……!』


『キチャー!』


『まさかの触媒ってこと……⁉︎』


「はい。皆さんお察しの通り、ゲストは宮下智紀くん。わたしの夫ですー。智紀くん、今日も試合お疲れ様でした」


「梨沙子さんもお仕事お疲れ様。今日は『ウルプロ』をやるということで、俺もやったことがあるからアドバイザーとして参加します」


 ゲストはメジャーリーガーの宮下智紀。夫であり、有名人でありながらも芸能人ではないのでギャラなどは発生しない最強のゲスト。時差が十三時間あるために向こうはもうすぐ日付が変わる時間だが、逆にこれ以上遅くなると深夜になってしまうので梨沙子はこの時間を選んでいた。

 カメラも繋いで小さい枠だが顔も見えるようになっている。アメリカにいながらもこうして映像と声を繋げられるために二人はよくビデオ通話をしているが、それは視聴者に言わなかった。

 高校名を帝王学園にしてユニフォーム設定などをしつつ、二人は雑談を始める。


「今日の試合、二安打二打点なんて調子良いですね」


「結婚した年に成績悪くなったら梨沙子さんに悪評が行きそうで怖いので。今年は何が何でも活躍しますよ。メジャーの初年度でもありますし」


「シーズン中に一度はそっちに行って生で試合を見たいですね。スケジュールを合わせているので待っていてください」


「はい。待ってますね」


 結婚したばかりだからこその甘ったるい会話が流れる。そして視聴者も気になることがコメントとして流れて、それを智紀が拾って答えていた。

 アメリカでの生活において英語は学生時代から力を入れていたのでチームメイトとのコミュニケーションは問題ないこと。学生時代は練習が休みの日にチームメイトと『ウルプロ』をやっていたこと。

 一つ上の姉には『ウルプロ』でボコボコにされたこと。


「千紗姉が選手を育てるのが上手くてですね。投手能力だけなら実装されている自分に近い選手をサクセスで作ってましたよ」


「えー。智紀くんの能力って凄く高いのに。千紗ちゃん、ゲームも上手なんですね」


「我が家にあるゲームが『ウルプロ』だけだったから他のゲームの腕は知らないんですけどね。俺もゲームばっかりやってたわけでもないので千紗姉に勝ったことはありません」


「千紗ちゃんを呼ぶのは、ダメですよねえ」


「あの姉は結構恥ずかしがり屋なので。喜沙姉関係の出演以外はしないと思いますよ。一応一般人ですし」


 名前もそれなりに知られているが、あくまで千紗は一般人だ。出演依頼をかけるなら本人への交渉もそうだが、智紀の母が運営する事務所にも一声かけなくてはならない。

 ちょっとした理由があって千紗と美沙が出演するなら事務所を通さなければいけないのだ。


「さて、設定も終了したので早速見ていきましょう」


「『栄光ナイン』は過去作をちょっと触って、五年分くらいしかプレイしてないので新鮮な気持ちで見られそうです。最新版はプレイできていませんし」


「最近発売されたばかりですからね。じゃあ、いきます」


 梨沙子がOKを押す。そして現れる六人の選手。

 宮下の名前で投手のピンク色と外野の緑色を合わせた選手。しかも星が四百五十一と見える上に、デフォルメされた顔は小さく映っている智紀そっくりだった。


「やったー‼︎智紀くん引いちゃったー!」


『はい、終わり』


『一発って、本人いるからってそんなことある?』


『現実に起こってんだろ』


『本人とかいう触媒強すんぎ』


『みーちゃんも羽村引いてたけどさあ』


『二刀流がいるのは打力が違いすぎるって』


「俺だぁー。いやでも梨沙子さん?その捕手の高宮って怪しくない?」


「あ、ホントですね。じゃあ高宮さんは最後にしましょうか」


 智紀の詳しい情報も見ずに、他の選手を見ていく。高宮という捕手の青色だけの選手は後回しにして他の四人を見たところ、マイナス特殊能力である赤い能力もちょっとはあったものの能力は平均くらいだった。

 そして問題の高宮を見ていく。


「あ、やっぱり。高校時代に俺とバッテリーを組んでいた高宮ですね」


「『キャッチャー○』持ってる!これで智紀くんがもっと強くなりますよ!」


「一年生だとこんなものか。パワーFもしょうがないのかな。肩もDだし」


「『栄光ナイン』はかなり弱体化されてしまいますからね。智紀くんはそこまで弱体化されていませんけど」


『本当に終わりだ……。転生二人はダメだって』


『智紀君と『キャッチャー』の合わせ技はエグいよ……』


『これ、負ける要素なくない?』


『高宮もミートはDあるからパワーと肩上げればそれでもう十分だし……。これ、リサっちの一人勝ちじゃ?』


『まだ、まだみーちゃんがいるから……!みーちゃんの投手次第で行ける!』


『みーちゃんの場合は一年の差があるからな。三年育てた智紀君と二年しか育てられない転生投手じゃ厳しいかも。モブがそこまで育つかも微妙だし。今二年の名塚は本番じゃ使えない』


 高宮の能力はミートDパワーF走力F肩D守備Dで特能は『キャッチャー○』だけ。

 そして智紀は球速147km/hコントロールDスタミナC、高速スライダーにチェンジアップにシンカー、そして第二ストレートにオリジナルストレートがある。投手の特殊能力で『ジャイロボール』『ノビ◎』『重い球』『奪三振』『ポーカーフェイス』『回復◎』。

 野手能力がミートEパワーC走力C肩B守備C、『スラッガー』『レーザービーム』『送球○』というモリモリな能力となっていた。

 これで弱体化されている上に、智紀はある理由で『ウルプロ』では伝説が残っていた。


『オリジナルストレート、『一番ストレート』で一応ストレート三種類は再現してるけど……』


『やっぱり変化球はオミットされてんのな』


『全部そのまま実装したら第二変化球がヤバくなる』


『高速スライダーがオリジナルじゃないという弱体化』


『良かったな。野手の特能だってかなり減らされてるぞ』


『日本にいた時も投手やりつつ三割三十本百打点とかやってたからな……』


『去年が一番バグってる。何で羽村とホームラン王争いしてるんだよ。何でそれで十七勝とかしてんの?』


 智紀のステータスや去年までの日本での成績について話していくコメント欄。

 智紀としてはこういう配信に出ることが初めてだったのでコメントを新鮮な形で見ていたし、梨沙子は夫が褒められて鼻が高くなっていた。


「智紀くん、去年はホームラン王を狙っていったって言ってましたよね?」


「はい、そうですよ。もう五月くらいにメジャーからオファーがあったので、涼介と三間と争いたくて。監督にも許可を貰って全打席ホームランしか考えていませんでした。三間には勝てたので嬉しかったんですけど、涼介には勝てませんでしたからね……」


『羽村五十七本。宮下五十二本。三間四十九本』


『三間も例年なら余裕でホームラン王なんだよなぁ。これで三位ってどうなってんの?』


『実際セ・リーグならホームラン王だった』


『パ・リーグに行ったことを恨むしかないだろ』


『なお本人は宮下と羽村と同じリーグで喜んでいた模様』


『競える相手がいるのは幸せって言ってたな』


 去年智紀の打撃成績は打率が二割八分程度だったものの本塁打は驚異の五十本超え。打点も百を超えたものの本塁打王も打点王も獲れなかった。

 去年の三冠王も羽村だった。首位打者も本塁打王も打点王も全部持っていかれた。涼介曰く「二足の草鞋に負けていたらメジャーでやっていけない」とのこと。


 そんな恐ろしい成績を残して二人は今年から海外で暴れている。今の所智紀は本塁打王には遠いものの、十七本のホームランを打っている。投手としても十勝を果たしていた。流石にメジャーのレベルが高いことと、試合数が日本より多いために一日二試合が組まれることもあって智紀は疲労を鑑みて出場数が少なかった。

 二人が出場した試合は朝のニュースで速報が出るほどで、どんな結果だろうと放送される。智紀は休養日であっても休んだことを報じられるほどだ。

 ちなみに今の成績であれば智紀は最多勝投手と奪三振王は射程圏内だったりする。このペースだと規定打数も問題なくクリアできそうなので野手としても大リーグに名前を残すことになる。


「今日智紀くんは何時まで大丈夫ですか?」


「あと二時間かな。それまでは付き合いますよ」


「じゃあ夏の都大会はやっていきますね。そこで終わろうと思います」


 梨沙子はサクサクと進めてしっかりと智紀と高宮を育成し。特訓という特殊能力が付くイベントではランダムで選手が選出されるのだが幸運なことに智紀が選ばれたために智紀に「緩急◯」という特殊能力が付く。


「この『緩急◯』が最初から付いていなかったの、割と疑問だったんですよね。智紀くんのストレートとチェンジアップの球速差が凄いじゃないですか。高速スライダーが変化球では注目されていますけど、チェンジアップだって代名詞なのに……」


「アメリカでは特に驚かれますよ。あんな遅い球を投げないでくれって対戦相手によく言われますね」


『智紀君にこれ以上特能付いてたらマジで一人で勝てちゃうから……』


『投手としても野手としても高水準なのに、これ以上強くしないでくれ。ゲームが壊れる』


『なお現実ではこんな天才が東東京屈指の名門に入って春夏連覇できていない模様』


『そんな偉業を成し遂げるのなんて習志野学園くらいだろ……。っていうか今回の夏で春夏五連覇(パーフェクトレコード)達成するかもって話が出る時点でおかしい』


 智紀は話しながらも高校時代に一番のライバル校だった習志野学園の話題がたくさん出ていたのでつい反応してしまう。

 自分たちでも、そして羽村涼介でもできなかった無敗記録。それをやり遂げるかどうかという話が出ているのだ。この公式戦無敗記録は秋の全国大会である神宮大会も含まれているので実のところ既に六連覇を成していて、七連覇に王手をかけているのだ。

 智紀も今年の習志野学園はある理由で注目しているので話すことはたくさんあった。


「今の習志野学園は凄いですよね。例年通り強いチームを作っていますが、特にエースの市原君が凄く良い。彼のフォークは高校生じゃ打てないかもしれませんね。母校の帝王には是非とも頑張ってもらいたいんですが……」


「市原くんのウィニングショットですからね。でもストレートの速度も高校時代の智紀くんとあまり変わらないですよね。あの速度であんな綺麗なバックスピンのボールを投げられたら打てないのもわかります」


「それにバッティングも良いです。兄と涼介によく教わったんでしょう。いつか投げ合ってみたいですね」


 そんな将来有望な高校球児のことも話しつつゲームは進んでいく。順調に選手の能力を上げていき、試合での指示では経験者として無難な指示を出して。一年生バッテリーを先発で使って夏の予選を蹂躙していく。

 在校生の能力も悪くなかったために名付け元の帝王学園のように打線が爆発。コールドもあって智紀がしっかりと抑えて勝ち進んでいった。

 そして決勝戦でもオートで打線が点を奪い、智紀が失点を許さず。格上が相手だったものの智紀と高宮のバッテリーで見事に甲子園出場を決めた。


「やったー!一年目から甲子園だぁ!」


「おおー。現実再現だ。高宮はこの時、まだベンチにも入ってなかったけど。それにしても初年度で甲子園出場は凄いですね。俺がやった時は二回戦くらいで負けたのに」


「智紀くんが抑えてくれたからですね。今日はこの後の合宿までやって終わります。一年生に特殊能力を多めに付けたいですね〜」


 梨沙子は宣言通りに一年生に多めの特殊能力を付けることに成功する。智紀が覚えた能力は『対エース◯』という野手能力だったが、相手投手が強ければ野手能力に補正がかかるものなので野手としての能力が高い智紀にはありがたいものだった。

 この順調な結果にSNSでは『本人を引く』『現実再現』『豪運暴走特急』『彼女のための甲子園』『夫婦配信』『市原(れい)くん』がトレンドに入って話題になった。光希もその内容を学校で確認して、智紀のステータスを見て口をあんぐりと開けてしまった。一年目なのに星が五百を超えていて、防御率も一点台、ホームランも既に二本放つなど大車輪の活躍。


 あとは雑談で名前が挙がっていた高校球児の名前もトレンドに上がっていて、宮下夫妻の影響力の高さを思い知っていた。

 次の日に配信する予定の東條はこの上振れにかなり胃を痛めたとか。


番外編はこれにてひとまず終わりです。

気分が乗ったら続きを書きます。

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― 新着の感想 ―
この作品から入って、タヌキ・3姉妹を読ませていただきました。 個人的にはこの作品が一番好きなのでぜひ気が向いていただきたいです。 これから陰陽師も読ませて頂こうと思います。
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