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君に、声を  作者: 桜 寧音
三章 高校一年(六月〜)
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4ー3ー2 文化祭二日目

ミスコン。

「というわけで三年C組、江崎君でした。拍手!」


「かわいいぞー、江崎ー」


「もうそれ煽りだろ⁉︎」


 体育館で行われている、ミスター・ミスコンテスト。ミスターの優勝者は女子だしミスは男子の称号だ。一般公開の時間も終わり、全クラスの人間が集まってわいのわいの言っている。

 このコンテストの前に、ネタバラシはダメだということで出演者と付き添いの一名だけは残して全校生徒が移動した後に出演者たちが移動していた。クラスから男女どちらかを出せばいいのでほとんどのクラスが女子を選出している中、その移動集団の中には何故か白い布がいた。


 女子生徒に腕を引っ張られる白い布。白い布の中に何がいるのか誰もわからなかったが、引率する女子生徒はニコニコとしているだけ。その女子の名前は冬瀬という。何やら手提げ鞄を持っているようで、小道具か何かを入れているようだと推測はできるものの、判断材料はそれくらい。

 順番は事前にくじ引きで決めているために一年生から順番にというわけではない。


 女子は男子の制服を着ていたり、男性用のスーツを着ていたり、それこそアニメ系のコスプレをしている人間もいた。男子はもっぱらネタ枠のようでメイド服を着ていたりチャイナ服を着ていたりと最初からコスプレまみれだった。

 正直、見るに耐えないものも多かったが、あくまで文化祭のお遊びだ。それがわかっているからこそ誰もが出来なんて口に出さず笑うだけ。


 女子のコスプレ勢の出来が良くてキャーという甲高い声が上がったりお姉様ーなんて合いの手も上がったりしたが、やはりお遊びの域を超えないだろう。

 なにせここで優勝しても文化祭で得られるポイントは何もない。個別の賞やグランプリはあるものの、このミスコンはミスコンで賞状がもらえるだけで総合優勝には一切関係のない催しだ。


 だから力の入れようはクラス次第。本当に服を着せただけの人もいれば、メイクをしっかりしている人まで。

 全員がパフォーマンスをした後に全校生徒の拍手によってミスターとミスが一人ずつ選ばれる。その選ばれた二人が最後に並んで写真を撮っておしまいという催しだ。

 その催しも女子が既に終わり、後は男子だけ。その男子の大トリを務める人間が文化祭実行委員会の司会によって呼び出される。


「それでは長かったミスコンもいよいよ大詰め!最後を飾るのは一年E組の間宮光希君!」


 呼ばれてカツカツというヒールの音が体育館に響く。ヒールを履くなんて本格的だなと思った人間が前を向いた瞬間、安穏としていた空気は吹っ飛んだ。

 真っ黒なゴスロリを着て、足には黒いタイツを履いて腕には白い手袋をしているために肌が一切見えないその人間。ヒールで歩く音も歩幅も常に一定。


 歩幅が小さく、両手もお臍の前で組みながら歩いてくる。横顔はとても白く、だからこそ唇のルージュが嫌に目立った。瞳も女の子のように丸々として大きく、睫毛も長くて髪もウィッグだろうが首元が隠れるくらいの長さがあった。

 舞台の真ん中に立って司会の男子の隣に来て正面に立った瞬間に、どよめきが起きた。小顔で童顔らしく見目を惹く可愛らしさ。


 女子は可愛さで負けたと落ち込み、男子はあれが同性だと思えなかった。司会の男子ですら息を呑んでしまうほど。むしろ一番近くで見たからこそその可愛らしさにやられてしまったというべきだろう。

 なんとか持ち直して質問をしようとした時。

 舞台の、彼が出て来た反対側の袖からダンッ!という大きな音が響いた。そこにいたのはクラスTシャツを着て刀を持った男だった。


 司会の男はこれが1-Eが突然追加してきた即興劇だとわかったが、知らされていない生徒たちはわからない。

 同じクラスの多田はゴスロリの彼に刀を上段で持って突っ込む。「うおおおおおお!」という声も出していた。ゴスロリの彼は一歩だけ前に出て司会の男子を庇うようにして即座に左腰に付けていた細い剣を抜いて上段からの振り下ろしを剣を横にして受け止める。


 演技初心者に刀を止めるなんて真似は無理だ。だからこそ実際にぶつけて止める。その上で左足を軸にしたままハイキックで多田の眼前にヒールが向かう。それが当たったていで多田はその場に倒れ込んだ。ハイキックをした際に美しい脚線美とゴスロリスカートの中が見えるか見えないかのギリギリのラインであり、その大胆さにドキッとした生徒も多かった。

 そして反対側からも同じクラスの蓮沼も同じように刀を持って現れた。蓮沼も同じように突っ込み舞台中央まで走ってくる。


 ゴスロリ少女はスカートのポケットから三本の小型ナイフを取り出し、それを左手の指の間に挟んで乱暴に左腕を振り抜いて牽制とした。踏鞴(たたら)を踏んだ蓮沼に少女はヒールで小走りで近寄り袈裟斬りというよりは引き斬りとでもいうような人体には絶対に当たらないような範囲の狭い斬りを行った。

 殺陣だからこそこれでいい。蓮沼も膝から崩れ落ちた。

 少し前の準備室で行われたものの簡易版だ。これくらいならできるだろうと多田と蓮沼が立候補してパフォーマンスとして申請していた。


 二人の刺客を倒した少女は左手に挟んでいたナイフを客席に投擲した。全部を一気に投げたために最前列と前の方、そして中間辺りに投げるのが精一杯だった。

 投げ終わった後、少女は優雅にゆったりと頭を下げた。

 そして頭を上げた後、本来の職業を活かしたしっかりと活かした少女らしい声を出した。


「余興にお付き合いいただきありがとうございます。投げたナイフはチョコレートですので、ご随意に」


 その声は少し低い女の子の声にしか聞こえなかった。だというのに広い体育館の一番後ろまでしっかりと届くような力強さもあり、全員にその声が届いていた。

 チョコをもらった生徒はそれが冷凍庫に入れられていたためにヒンヤリした感触を味わっていた。銀の包みを開けたら本当にチョコだったのでそのまま口に運ぶ。一人は「ウマっ」と口に出してしまった。

 光希は話すことが終わると剣をクルクルと回しながら納刀。その後カーテーシーをしてパフォーマンスの締めとした。

 終わった瞬間、身内であるE組の全員が一斉に大きな拍手を浴びせる。


「カッコよかったぞ、間宮ー!」


「かわいい!間宮くんが一番っ!」


「「「間宮ーーーーーっ‼︎」」」


 その声に釣られたのか、周りも拍手をした。それはミスコン始まって最大の拍手だった。

 容姿からパフォーマンスまで、これ以上はないと誰もが思ってしまったからこその拍手。

 司会の男子が呆気にとられながらも、自分の役割を思い出してマイクを使って質問をする。


「す、素晴らしいパフォーマンスをありがとうございました。間宮、くん?」


「そこで疑問形をつけられると困ってしまいますね」


「あ、声が低くなった」


「ちょっと声を作りました。こっちが地声です」


 パフォーマンスが終わったので元の声に戻す。さっきまでの声で続けてもいいのだが、やりすぎるのは声優としての自分の安売りかと思ってやめる。


「さっきの剣は練習したんですか?」


「いいえ、本当にさっき決めた即興のものです。パフォーマンスは自由ということで多田君と蓮沼君に手伝ってもらいました。二人とも、ありがとう」


 そう言うことで二人は立ち上がって客席側に手を振ってはけていった。ミスコンの主役はあくまで光希。ずっと舞台に残っているわけにはいかない。

 二人がいなくなったことを確認して、司会の男子は気になっていることを聞く。


「男の子ですよね?」


「れっきとした男です。女装コンテストに出ているんですから」


「メイクもばっちし決めていて……。ご自身でやったんですか?」


「いいえ。クラスの女の子にしてもらいました。この衣装も用意してくれたんですよ」


 光希はその場でくるっとスカートの端を掴みながら回る。その動作も可愛らしい女の子のようで、動きと顔も相まって本当に男子には見えない。声だけ聞けば男の子だが、そこしか判断材料がない。

 光希が水越の名前を出さなかったのは本人から言われていたからだ。名前は出さないでほしいと。そこに恥ずかしさがあるのかと光希は変な気分になったが、約束は守った。好きな人に見られるよりも全校生徒に名前を知られる方が恥ずかしいのだとか。


 だがそんな水越は客席側で満足そうに頷いていた。役者自身には何も心配をしていない。昔にもやった役を再演しているのだからちょっと条件が変わっても問題なく演じてくれる。問題は自分のメイクと衣装が見劣りしないかということ。

 衣装は動きについていっている。後は周りの評価だけだ。芸能人たちの評価は軒並み良かったが、お客さんは基本的に一般人だ。その一般人がどう思うかが評価としては肝要だ。


「これって何かのコスプレですか?それともただのゴスロリ?」


「これは『()ザサレシ金華猫(きんかねこ)』という漫画作品に出てくる『百目鬼真央(どうめきまお)』というキャラです。ちゃんと男の子が女装しているキャラクターで、幼いキャラクターなので僕に合わせた姿になりますが」


「僕が不勉強なために知らなくてすみません……。みなさんは知っていますか?」


 レスポンスを求めて客席に問いを投げると、頷いている人が割と多数。漫画で知っている人、アニメやドラマで知っている人など全校生徒の三分の一くらいは頷いていた。そんなに知っているのかと光希は舞台の上で仮面の下は冷や汗をかいていた。

 昔の自分に行き着く人間がいそうだなと、ちょっと怖くなっていた。公表もしていないし同業者にもあまり漏らしていない真実を学校の人間に知られるというのはご免こうむった。


「へえ、有名な作品みたいだ。後で調べますね」


「はい。ぜひ」


「さっきの剣さばきも凄かったですけど、演劇とかの経験があるんですか?」


「演劇は少しやったことがあります」


 少し(十年以上)。大ベテランからすれば年数的に少しでも間違いないのだから酷い言い回しだった。


「ゴスロリって抵抗ないですか?」


「ありますよ。女装だってやりたくなかったんですけど、クラスの出し物が男女逆転喫茶だったので、もう諦めました。来年は出ません」


「ええー!勿体無い!自分は卒業しちゃうから来年は見られませんけど、間宮君は一年生なんですから、後二年も出られるんですよ?」


「じゃあ今から宣言しておきます。来年僕と同じクラスになった人は僕以外を選出してください」


「「「嫌だーーーー‼︎」」」


 光希の今年限り発言に主にE組から反対の声が挙がったが、それは何も同じクラスの人間だけの声ではなかった。同じ一年生や、クラスの出し物でメイド服を見ていた上級生などが反対意見を大声で叫ぶ。

 その返しには光希も驚きを隠せなかった。司会の男子は笑っている。


「無理そうですね?」


「……来年、この衣装を用意してくれた人が同じクラスじゃなかったらこんな女装はしませんからね」


 そんな予防線だけ貼ってミスコンは終わる。

 誰も薄暗い体育館の天井近くに少し大きめの白い蝶(・・・)のようなものがいたとは、気付かなかった。

 ミスはもちろん圧倒的な拍手をもらって光希が獲得する。ミスターに選ばれた二年生の女子とツーショットの写真をいくつか撮られて、そのまま閉会式に移った。


 閉会式が終わって教室に戻る時にはかなり周りから注目されて、光希はいたたまれなかった。恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。過去の自分と同じ姿をしているというのは、演じているのならともかくプライベートでするつもりはなかった。

 仕事だったらどんな奇抜な格好でも受け入れられたが、ただ晒されるのは好きではない。その辺りの羞恥心は人並みにある。


 教室に戻ってからは光希を中心とした記念撮影があった。飲食部門やグランプリなどは取れなかった中で唯一入賞したのは光希のミスコンだけだ。

 クラスの功労者ということで讃えられながら文化祭は終了した。

 この後はカラオケに打ち上げで行くことになる。

 そこで光希は冬瀬から歌のリクエストを受けて、いくつか歌うことになった。


「間宮って歌もうまいんだよな。声優ってそういうのも必要なスキルなのか?」


「凄い人なら単独ライブとかもするけど、僕はそこまでしないと思う。必要なスキルかって言われたら、上手い方がいいものだけど必須でもないよ。キャラソンやアニメの主題歌の仕事がこないだけで、本当に声の演技一本で有名な人もいるからね」


「間宮君、次これ歌って!」


「僕ばっかり歌うのもアレだし、あと一曲歌いたいものだけ歌って終わるよ」


 冬瀬のリクエストを全て受け付けるのではなく、光希が最後に選んだのは雄大と共演した『劇場版源龍伝』の主題歌。これはサウンドトラックが出た際に光希と雄大もカバーをしてリリースされている。

 そのことを知っていた冬瀬はいきなりのサプライズにテンションが限界突破して合いの手を入れまくる。

 打ち上げも盛大に盛り上がり、クラスの結束が高まったイベントになった。


次も日曜日に投稿します。

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