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君に、声を  作者: 桜 寧音
三章 高校一年(六月〜)
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4ー3ー1 文化祭二日目

メイク。

 控え室に移動してミスコンの準備を始める。メイド服を脱いでゴスロリ服に着替えた。メイクをしてしまうとその状態から服を着れなくなるために、メイクの前に着替えてしまう。Yシャツとかのように袖を通すだけなら大丈夫だけど、頭を通す服はメイクがついて崩れてしまうので先に着替える。

 靴下は黒色のニーソックスを。腕には肘まで隠れる白い手袋を付ける。そして頭にはウィッグをつけるために自分の髪を押さえつけるネットを被る。


 こんながっつりとしたメイク、久しぶりだなあ。舞台以来じゃないだろうか。

 クラスの人はもちろん、僕の関係者も勢揃い。もうこの時点で姉さんと雄大は爆笑している。今日が初対面のはずなのに二人は仲良くなっているようだ。なんか複雑。雄大の変装なんて姉さんにとってはあってないようなもの。そんでもって僕の友達となったら雄大くらいしかいないだろうけど。

 僕は既に化粧水で洗顔をして下地までやって。あとは水越さんに任せるしかない。

 本格的なメイクは初めてだろうに、こんなに観客がいて大丈夫だろうか。水越さんは粛々と準備をしているけど、やっぱり少し緊張しているのか手が震えている。


「水越さん。これはただの文化祭なんだからさ。そこまで気負わなくていいんだよ」


「……ううん、ダメだよ。最高の素材、最高の役柄。見に来てくれたら人の中には恥ずかしい姿を見せたくない人もいる。ここは、私の頑張りどきなんだよ」


 人生の山場を今と捉えているのか。それは僕からも何も言えないかな。いや、でも言わなくちゃ僕も恥ずかしい顔で登壇することになるし、水越さん自身も悲しむだろう。

 雄大の前だからカッコつけたい。自分が持ってきたキャラクターで、メイクの図も自分で引いた。それで手が震えて失敗したなんてなったら一生物のトラウマになるかもしれない。

 まあ、カッコつけたいよね。好きな人の前ではさ。

 だから僕ができるのは、ただの真実を言うだけ。


「じゃあ僕が言えることは一つだけ。水越さんが目指している場所はどこかな?ただの趣味の範疇?それとも僕たちのようなプロの場?──その意識次第で周りなんてどうとでもなるんだよ。君は何になりたい?」


「……将来?」


「もうこんな場はないよ。雄大がいて、このメイクを僕にできるのも今回限り。これ以上こんな状況が揃うことはないよ。雄大は役者、僕は声優。この二人が揃う場は映画とかの吹き替えだけ。僕はご覧の身体で俳優として共演することはないだろうね。たとえ共演したとして、君がプロのメイクさんになっていたとしても。メイクをする機会なんて、まあない。君が選ばれるかどうかもわからないからね」


 メイクのプロさんがどれだけいるのか。そこからたった一人が選ばれる機会はどれだけあるのか。そういう諸々のことを考えると水越さんが雄大の前で僕にメイクをする機会なんて本当にないだろう。だから一生に一度の場だ。

 それを緊張で台無しにしてしまうか、軽い気持ちで流してしまうか。僕に言えるのはそれだけだ。


 その僕の言葉をどう感じたのか。水越さんは短い時間目を閉じていると、開いた時には覚悟が完了していた。とても強い目、今回限りではなく今度はちゃんとした場でやろうという決意。でもそれはそれとして、今回もしっかりやり遂げようという光がある。

 ようこそ、こちら側の世界へ。


「ホント、夢のある話」


「うん。芸能界は夢があるよ。けど、現実もちゃんと見た方がいい。良いことばかりじゃないからね。でも君のような人を求めてるよ。あとは才能と運だ」


「才能、あるかな?」


「それを今から証明してくれるんでしょ?」


「煽るねえ。……うん、時間がないね。始めようか」


 もうその手は震えていない。僕の顔にテープが伸びる。目の近くにテープを貼ることで目の大きさを調整できる。これによって僕の目を丸く、大きくする。女の子の目にするために。

 そしてテープ以外の化粧を始める。

 顔全体の化粧を施して顔は白めに。けど頬には少しの赤みと、眉も少し太めにタレ気味に。目元も目を大きく見せるために涙袋と呼ばれる目の膨らみを描いていく。


 その間僕は一切動かない。もう水越さんに全てを任せているから、動いたら邪魔になる。

 徐々に変わっていく僕の顔に周りの息を呑む声が聞こえる。元々中性的っぽい僕の顔が女の子の顔になっていけば驚くだろう。

 メイク自体はそこまで時間がかからない。二十分か三十分か。一人だけへのメイクだったらそんなものだ。ずっと目を閉じてされるがままに顔を動かさないのもきつくはないかという話だけど、美容室に行っているものだと思えば別に気にしない。

 顔全体が終わって、最後に唇へルージュを塗る。それで終わりだったのか頭にウィッグを被せた。


「はい、終わり。目を開けて良いよ」


「お疲れ様」


 そう言って目を開ける。立ち上がって歩くのも顔の感じも問題なく水越さんが大きな鏡を持って見せてくれる。

 その顔はまさしく、六年経った『百目鬼真央(どうめきまお)』そのものだった。もし生きていれば、というのは二次創作ならではだろう。

 栄養が足りずに細い頬。生きているのが不思議な死人のような目と隈。けど唇の状態だけは良く、身嗜みは依頼を受けるために整えているというアンバランスな少年。


 少年なのに女装をして。それは相手を油断させたり、自分という認識がなかったり、フリフリの服装で暗器を隠したりという理にも適った心身がチグハグな子供。

 そのキャラクター性を演じるのはこっちの仕事。でもここまでの完成度にしてくれたのは水越さんだからこそだ。


「さて、間宮くん。これは何点の出来かな?」


「衣装も合わせて僕の目線で言えば、九十五点。これは六年前と今のことを知ってるからこその点数だよ」


「その五点の内訳も知りたいな」


「純粋な技術だね。とにかく場数が足りてないよ。経験と、後は自分らしさがちょっと足りない。元々ある手本を真似るだけじゃ百点はあげられないな。確かに六年後の姿としてアレンジはしただろうけど、元のメイクからあんまり派生してないからね。でも、これだけやれるのは凄い話だよ。もうちょっと独創性を出せてメイクをもっとすれば大丈夫」


「めちゃくちゃ高評価でビックリした。高すぎない?」


「あの雄大の顔見てみなよ。僕に笑いつつ君の技術に驚いてるよ」


 雄大は『百目鬼真央(どうめきまお)』を知っている。だから服装を見ただけで笑っていたし、今はその完成形を見て水越さんの技量に驚いている。で、その僕の姿が異様に似合っているから爆笑していると。本当にいい性格をしている。

 九十五点は甘めの判定かなとも思うけど、それだけこの出来は良い。これで他人にするメイクは初めてだっていうんだから驚くしかない。そういう経験値も含めての高得点だ。俳優の経験がある野原さんも流山社長もこの出来を認めているんだから十分以上の出来だ。


 そんな流山社長は、何か袋から小道具を取り出す。そんな袋さっきは持ってなかったはずなのに。

 袋から出てきたのは大人が持つにしては短い剣と、小さい牽制用の小型ナイフが三つ。そこまで水越さんが揃えていたのかぁ。本気出しすぎじゃないかな。

 ならメイクもこれだけ気合いを入れるよね。


「社長もグルですか」


「話聞いちゃったら徹底させたくて。ほら、できるでしょ?」


「舞台でパフォーマンスでするだけじゃダメですか?」


「だってそれ、私たち見られないじゃない」


「うわぁ、完全な私欲ダァ」


 ミスコンは学生にしか見られない。閉会式の直前の一種のイベント。お遊びだからこそ外部者に見せないように配慮されている。

 女装男装が外部の人間に撮影されて拡散されたら嫌かもしれない。そういう配慮を学校側がしているんだろう。

 だから部外者の皆に見せるとしたら今しかない。


「野原さんとユウ、手伝って」


「こっち素手?」


「殺陣?即興で良いなら棒か何か欲しいな」


「水越さん、何かある?」


「いやあ、流石にもう何もないよ。それしか用意してない」


「ん?間宮、何かやるの?」


「戦闘シーンの即興劇」


「あ、ならこれあるぜ。射的で貰ってきた」


 水越さんは用意していなかったけど、蓮沼君がおもちゃの刀を二つ持っていた。いやいやちょうど良いんじゃないかな。『百目鬼真央(どうめきまお)』を演じるにしたら刀同士の殺陣ってやったことないんだけどその辺りは良いだろう。

 『百目鬼真央(どうめきまお)』を全員が知ってるわけじゃないし、良いだろう。


「僕が最初野原さんに斬り込んで、野原さんが何回か受けた後に大振りをして僕がバックステップ。そこにユウが斬り込もうとしたところを僕が受け止めて何回か打ち合って終わり、でどうですか?」


「かなり簡単だけど、そんなもんで良いだろう」


「っていうか光希。お前足的に大丈夫か?それと肩と」


「大丈夫だと思うよ。それの確認も込めてやろう」


 というわけでもうぶっつけ本番。距離を取って三人とも離れる。

 そして僕は、野原さんに突っ込んだ。今回はナイフを使わず、ただ剣を使う。刀と同じで原作の設定的に『百目鬼真央(どうめきまお)』は細剣を刀のように振るっていた。本来剣のように叩き潰すのが正解なんだけど、おそらく斬れ味を追求したものなのだろう。

 そういう意味では今回刀と打ち合うのは都合が良い。


 野原さんには本気で剣を振るう。袈裟斬り、下段からの斬り上げ。これを野原さんはちゃんと受け止めて返しの大振りの袈裟斬りが来る。

 これをバックステップで避けると、後ろからダン!という踏み込みの音が聞こえる。それは雄大の配慮の音。怪我しないようにわざと大きな音を出してくれた。すぐに振り返って上段からの剣を防ぐ。そこから雄大の連撃を受けて僕が受ける。


 三回受けた後に右手で持っていた剣を左手に空中で持ち変えて雄大を袈裟斬り。

 雄大はしっかりやられた演技をしてくれて膝から崩れる。打ち合わせ以上の動きをしようとしてくれた野原さんが近付いてくるけど顔目掛けて剣先を向けたために野原さんが止まる。

 うん。これで十分だろう。見ていた人たちが拍手をくれる。これでミスコンでのパフォーマンスは大丈夫だろう。


「すっごーい!野原さんカッコイイ!」


「貴女、本当に筋金入りねえ。普通ここで褒めるのはあんなヒールであれだけ動いた光希でしょう」


「いや、間宮君がすごいのなんて今更ですし。野原さんの殺陣なんて滅多に見られませんよ?」


「それはそうだけど……。実際こんな即興で合わせた三人ともすごいのよ?光希は身体のハンデがある中で肩の動きが変だと悟らせないで、足を使って動いたのはバックステップだけ。それも片足に負担がかからないように最小限の動きでやったの。褒めなさいよ」


「雄大さんカッコイイ……」


 まあ、僕が注目されるよりこの二人ならそうだよなって感想しか出てこない。最後に雄大のことをカッコイイと言ってるのは水越さんだし、野原さんを褒めているのは高芒さんだ。

 僕のことを褒めてくれるのは社長だけ。いや姉さんと鈴華ちゃんは褒めてくれるだろうけど。

 その二人が近付いてくる。鈴華ちゃんは僕の腕を触ってくる。


「みっちゃん、痛くないの?」


「右腕は添えてるだけだったから全く。ジャンプ一回くらいで痛くはならないよ」


「そうなの?」


「うん。これ以上は無理だけどね」


 これでパフォーマンスも大丈夫だろう。

 そう思っていたら鈴華ちゃんが嫌な言葉を零す。


「本当にお姉ちゃんみたい」


「やめてよ。そもそもこれ、役柄的にも男の役なんだけど」


「えー?でもこれは?」


 そう言いながら僕の偽乳を揉む鈴華ちゃん。うーん、これは。


「完全に水越さんと男子の趣味かな?」


「……男子にも狙われてるの?みっちゃん、ウチで監禁しようか?」


「やめて。仕事ができなくなっちゃう」


 鈴華ちゃんの言葉は冗談だってわかってるんだけど、目が本気っぽくて怖いんだよね。

 男子は遊んでるだけだから。


次も日曜日に投稿します。

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