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君に、声を  作者: 桜 寧音
三章 高校一年(六月〜)
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4ー2ー4 文化祭二日目

親友、幼馴染。

 ハルさんとミクさんのことはいまいちわからなかったけど、姉さんも鈴華ちゃんも懐いているみたいだから二人のことはハルさんたちに任せた。津宮さんたちも適当に文化祭を巡るらしい。懐かしいらしくて色々巡りたいのだとか。

 根本さんだけやだーと叫んでいたけど、僕だってクラスの手伝いをしたい。根本さんとなんて外でも遊びに行けるんだから文化祭に拘る意味もないだろうに。いやでも、まだ男女の声優で遊びに行くのは世間の目線と風評的にまずいか。


 男女複数だったら大丈夫だろうか。なら今日はたくさん人がいるから大丈夫かもしれない。芸能人の端くれだから世間の目は気にするけど、二人っきりで遊びに行くわけじゃないなら大目に見てほしいけど。そうもいかないのがファンの心理なんだろう。

 ファンは僕たち芸能人にある種の神秘を求めている。彼氏彼女はいない方が良いし、過去の恋愛経験もない方が良い。芸能人を人間として見てないんだよね。


 芸能人と付き合える一般人ってほぼいないんだけど。特にファンと付き合うような人っていないんじゃないかな。ファンは確かに僕たちを愛してくれているけど、その愛が恋愛なのか偏愛なのか執心なのかもわからなくて正直怖い部分はある。

 愛は行き過ぎると、それは狂気になる。それを僕は子役の頃から十分に味わってきた。ファンレターの中身にそれはもう口に出したくないような物が入っていたり、バレンタインのチョコの中に人の血が入っていたり、ファンレターの内容がそれはもう理解したくないような言葉の羅列だったり。


 それだって子供の僕へ配慮した内容を事務所側が教えてくれただけで、もっとやばかったものもあるんだろう。そういうファンの存在を知っているからこそファンと付き合うという考えが浮かばない。芸能人は多かれ少なかれそうなんじゃないだろうか。

 文化祭で何でファンの偏愛について考えなくちゃいけないんだか。非日常が変な思考をさせるんだろう。とにかく教室に戻らないと。


「戻りましたー」


 教室に戻ると、『パステルレイン』組が来た時のような空気感が漂っていた。何でと思いつつ教室の中を見渡すと茶色いロン毛の男の人が一人で座っている席と、その近くで崩れ落ちている水越さんの姿が。冬瀬さんが水越さんを慰めている。

 何があったんだろうと思っていると、クラスのみんなが僕に注目している。まるでその席に行けと言うように。まさかまた僕の知り合いだろうか。あんな茶髪のロン毛の知り合い、いたかなあ。

 女装はしているけど女の子のフリはしなくて良いだろう。そう思って地声で話しかける。


「いらっしゃいませ、ご主人様。楽しんでいらっしゃいますか?」


「ブフッ」


 こいつ、僕の姿を見た瞬間吹き出しやがった。声と顔で誰だかわかったけどさあ。失礼すぎやしないだろうか。

 一応変装して来たことを褒めるべきか、それとも何も知らせていなかったのにここを突き止めたことを責めるべきか。水越さんが崩れ落ちている理由はわかった。

 推しが、しかもめちゃくちゃ有名で会えるはずもない人が教室にいるんだから。しかも変装というファンクラブに入っていても見られない姿だ。


 こうやって色々な女の子を恋に落としてるんだろうなあ。罪作りな男だ。一応歳上だけど、戦友というか幼馴染というかライバルというか、そんな感じだから敬えない。

 僕は堂々と向かいの席に座る。


「来てるとは思わなかったよ。仕事とかなかったんだね、ユウ」


「今日は日中はオフ。夜にラジオがあるだけ。だからお前の文化祭にも顔を出そうかなって」


「どうやって知ったわけ?」


「ん?普通にお前から学校名は聞いてたから、行事予定見ただけ。クラスは虱潰しで探そうと思ったんだけど聞いてみたら女装がめちゃくちゃ似合ってる奴がいるって。だからここに来たらお台場で会った女の子がいたからここだって確信してお前のこと待ってた」


「ちゃんと水越さんのことを覚えてたのは流石だね」


 あえてユウというあだ名で呼ぶ。

 千葉雄大。今をときめく高校生俳優だ。その人気っぷりは常軌を逸している。映画やドラマを見ている人間なら誰でも知っているようなイケメン俳優だ。

 そんな彼と仲が良い姿を見せるのはどうなんだと思って、本名バレもしないようにあだ名で呼んだ。この状況、水越さん以外の誰が雄大のことに気付いているんだろうか。


「変装して来たのは偉いね。ウチの先輩方はほぼそのままで来たよ」


「いや、俺もほぼそのままで来たぞ。そしたらその子が色々としてくれて。カツラとメイクをしてくれた」


「このおバカさん⁉︎水越さんが倒れてるのって君がバカだったからなの⁉︎」


 雄大は自分の有名さに無頓着すぎないか⁉︎子役の頃から人気で天才子役って言われてきたのに、まさかほぼそのままで人目の多い文化祭に来るなんて!

 声優の先輩方なら顔出しの機会が少ないからあまり顔バレについても気にしなかったけど、俳優なんて顔を売ってる側面もあるんだから知られている可能性は高い。

 特に雄大はニュースやバラエティにもたくさん出演しているんだから一般人の目に触れる機会も多いのに。

 頭にゲンコツを落としたくなってきた。


「水越さん、お疲れ様……」


「ああ、推しの顔に触れちゃった……。っていうか、メイクした?雄大さんの顔をあたしが汚しちゃった……?」


「間宮君。どうしよっか?」


「……とりあえず裏に連れて行ったら?」


 水越さんを慰めようと思ったんだけど、茫然自失。この後のメイクは大丈夫だろうか。

 冬瀬さんに連れられて控え室の裏に連れて行かれた。接客をするはずの人間がずっと床に膝を着けているのも変な光景だしね。


「学校、楽しそうじゃん?溶け込めてて良かったよ」


「今はほとんど学校に行っていない不登校児にそんなこと言われたくない」


「これでも心配してたんだぜ?お前、学校みたいな集団行動苦手だろ?正確には、同年代の集団。大人と話してる方が好きっていう変な奴だもんなー」


「……僕ってそんな印象ある?」


「劇団とか現場でも共演する子役とは最低限の会話をして、ほとんど大人のスタッフや共演者と話してただろ?お前の印象って割と最悪だったぞ。名前が売れ過ぎてるっていうのも大きな要因だったけどな」


 子役の頃の話か。

 共演者の子役とあまり話さなかったのは、意識の違いだ。楽屋とか控え室で暴れていたり泣き叫んでいたりして台本もあまり読んでいなかった子役と何を話せば良かったんだ。

 だから関係性を壊さないために最低限の会話だけして、後は僕の演技に必要なことをスタッフや共演者と確認する方がよっぽど必要なことだった。台本は家で読めば良い。現場に来たのなら現場の状況や使える物、大人たちは何を考えているのか。


 僕が売れるために必要なことをあの場所でやっていただけ。それで集団行動を心配される謂れはないはずだ。実際僕は現場受けが良かった。同年代に嫌われていても気にしなかった。

 同年代で必要なのは雄大みたいに現場に真摯に取り組んでくれる人だけ。大人の話も聞かないプロ未満の連中の言葉や態度、思いなんて全て投げ捨ててきた。

 それだけ僕に余裕がなかったってことだ。なんて可愛げのない子供だ。嫌われる理由もわかる。

 理由がわかったからって、その子役に謝ったり同情したり反省したりはしないわけだけど。


 僕は昔からずっと、エゴイストのままだ。


「子役でさ。本当に一作品だけで消えていく人たちには最低限にしか声をかけないよ。残っている子にはちゃんと話したし、同じ劇団や事務所だったら話してたじゃん」


「お前と全部の現場で一緒だったわけじゃねーし。……まあ、芸能界で残ってる子にはそこそこ話してたか」


「共演の回数が多いと、それなら自然と話すからね。あの頃って共演者も熱意ある人じゃないと嫌いだったしそれって子役とか大人でも関係なかったからなあ。大人とか高校生くらいの人でも、嫌いな人は嫌いだったよ」


「それで現場の人に嫌われなかったのはすげーよな。態度に出してなかったからだろうけど、現場受けは良かったもんな。監督とかもほとんどNG出さないし、お前が求めてる演技をしてくれるから使いやすかったんだろうな」


 その辺りはかなり監督やスタッフと話し合って、その場面で共演する演者と台本の段階で事細かに打ち合わせをした。僕の評判が良かったのは大人の人たちの印象が他の子役よりも良かったからだ。

 僕ほど作品に真摯だった子役なんて当時いなかったし。僕は姉さんを見付けるという大目標のために子役の立場を利用したけど、東京に来る回数を増やすために作品にはとても真剣に向き合ってきた。そして長く使ってもらうために大人たちには媚を売った。


 長い付き合いになりそうな人とはそれなりに交友を深めたけど、やる気のないたった一回きりの出会いを大事にするような余裕もなかった。だって、子役なんてありふれている。たった一回きりの晴れ舞台を得る子はそれなりにいる。

 その一回を活かせない子に、芸能界で未来はない。


「子役が生き残るなんてさ。本当に何でもできちゃう天才か、僕のように現場に合わせられる人間、それにコネをバカみたいに持ってる人間だけなんだよ。雄大は天才と努力型のハイブリッドに顔立ちまで整ってる化け物タイプ。……そっかぁ。大人とばかり仲良くしてたら集団行動が苦手だって思われちゃうのか」


「子供の友達なんて俺しかいなかったんじゃね?」


「そうかも。女子は友達っていうより、セット売りを狙って来るようながめつい子ばかりだったし。結局セット売りはユウとばっかりだったね」


「お前に合わせられるのは天才の俺くらいだったからな。実際、熱意も努力量も桁違いなお前に合わせられる実力がある子役なんて最初から物覚えが良くて劇団でも太鼓判を押された俺くらいだろ。他の子役と揃うとお前が上手すぎてもう片方が下手すぎて見てられないって声も多かったし」


 僕も何度かエゴサをしたし、姉さんからも聞いたけど僕は雄大以外の子役との共演はかなり少ない。僕が下手な演技で下に合わせるより、僕のそのままの演技を使いたいという監督が多かったからだ。

 子役って親からの圧力でなる子か、テレビに出たいという自己顕示欲の強い子、そして有名になって当たり前という傲慢な子が多い。少しでも良い演技をしてほしくてスタッフたちがある程度は甘やかすからだ。そこで増長して結局本番では使えなくなる。

 子供の扱いは難しいという話は、現場でよく聞いた。


 だからこそ僕のように最初から劇団で現場の大人たちにはどう接すれば良いのか聞いてそれを実行していって作品のことも大人のことも慮った子役なんて驚かれて当然だった。初めて会う大人たちは全員僕を見て驚く。そしてそんな僕の評判を聞いて他の同業者にオススメするという循環が産まれていた。

 雄大も僕の真似をしてスタッフの前では良い子ぶっていた。それで仕事ができて演技も問題なくて僕にも合わせられて()的にも演技的にも浮いていなかったんだからセット売りをされる。


 子役時代からの友達で、本当の意味で友達と呼べるのは雄大しかいないなぁ。他の人は友達と言うより顔見知りになる。芸能界で友達を作るつもりはなかったし、仕事をしっかりとやろうとする人じゃないと話が合わなかった。

 となると、雄大しか残らなかったんだよね。


 友達がこんなに少ないと、学校生活も心配されたって仕方がないか。中学時代も受験勉強と声優への路線変更で忙しくて仲良くなれた子っていなかったし。

 うん。これは雄大に心配されても仕方がない。


「ご心配おかけしました?」


「まあ、今の学校は楽しんでるっぽいし良いんじゃね?……プッ。だからって女装はなあ」


「この後もっとすごいことするけどね」


「んん?女装以上ってことか?」


「ミスコンに出るんだよ。正確には女装コンテスト」


「んなの、お前が優勝で確定じゃん。メイクとかはどうすんの?」


「さっきユウにメイクをした水越さんがしてくれるよ。ユウのファンなんだって。親がドラマとか好きみたいで僕のことも知ってた」


「ああ。やっぱり俺のファンだったか。あのくらいなら普通のファンって感じで怖くないな」


「反応とかも普通だからね」


 そんな感じで他の接客なんてほぼしないまま雄大と話しているだけで僕の教室でのお仕事は終わりになってしまった。

 これからはミスコンの準備だ。


次も月曜日に投稿します。

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