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君に、声を  作者: 桜 寧音
三章 高校一年(六月〜)
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4ー2ー2 文化祭二日目

鈴華の独白。

 わたしにとってみっちゃんはお兄ちゃんみたいな存在だ。本当はお母さんの弟だからわたしから見たら伯父さんになる。けど三歳しか変わらないし、本当の兄のように一緒に住んでいないし、出会ったのも物心がついてからしばらく経っていた。

 けどまあ、ちっちゃい頃なんてそんなおじさんとかって概念もわからないし、お母さんそっくりな男の子だったから家族だっていうのはすぐ受け入れられた。そしてたまに会えることが嬉しくてすぐになついていたと思う。


 わたしにダダ甘だし、会うたびに何かしら買ってくれたし。お母さんが節約ばっかりしていたからこそ何でも買ってくれるみっちゃんが好きだった。

 あまりにもわたしに物を買い与えすぎてお母さんに怒られていたけど。いくらみっちゃんが稼ぎに稼いでいたからって本当に何でも買ってくれた。お菓子からおしゃれのためのシュシュとか、みっちゃんが買ってくれなかったものって何だろうってくらいに買ってくれた。


 ウチが貧乏だったからというのもあるけど、みっちゃんはとにかくわたしたちのために何かをしたがった。過保護だと言われてもみっちゃんはわたしとお母さんのために色々してくれた。

 多分みっちゃんは時間を取り戻したかったんだと思う。みっちゃんがお母さんと再会したのは五年経ってから。つまりわたしが四歳になった頃。みっちゃんからすれば大好きなお母さんと五年も離れ離れになったんだから寂しかったんだと思う。


 お母さんを見付けるためだけに子役になって。そして芸能界で成功を収めてお母さんとわたしを探し出して。仕事の合間に会いに来てくれるようになった兄のような人。

 わたしの初恋は、みっちゃんだった。これは間違いなく言える。

 同い年の男の子よりも落ち着いた性格。これは芸能界で生きていたことと、もうその歳で自分のお金を稼いでいたことから余裕もあった。そしてお母さんの娘だからと無条件に甘やかされること。


 好きになるなって方が無理だった。

 みっちゃんが来てから差し入れの関係でお家の食事のクオリティが上がったし、生活は確実に良くなった。

 そして、みっちゃんと結婚できないと知ってわたしは泣き崩れた。三親等に含まれているみっちゃんとわたしは結婚できない。結婚できないということは恋人になるのも無理。

 小学四年生で、わたしは失恋した。幼少期から続いた大恋愛は、みっちゃんの絶望と一緒に終止符が打たれた。


 みっちゃんが怪我をして、そこでみっちゃんを癒してあげたくて。恋人ができたらみっちゃんへの恩返しになるんじゃないかなって思ったわたしは、みっちゃんに告白することをお母さんに伝えたら、三親等のことを教わって、結局わたしは告白できなかった。

 告白できなかった結果、わたしは恋がわからなくなった。兄のような伯父さんを好きになってしまったせいで普通の恋愛がわからなくなってしまった。できなくなった、って言っても良いかも。


 わたしは今でもみっちゃんが好きだ。家族愛なのか、恋愛としての好きなのか。その線引きが曖昧になっちゃったけど、みっちゃん以上に好きな人なんていない。

 昔からみっちゃんが好きだった。初めて会った時のみっちゃんは大人に思えたけど、その時だって七歳とか八歳。同級生は年齢だけ見ればその時のみっちゃんよりも歳上なんだけど、子供っぽくて恋愛的な好きになれそうにない。


 お母さんの血が優秀なのか、ハーフが珍しいのかわたしはたまに告白される。歳上歳下同級生問わず告白されたけど、告白の言葉を聞いてまず思い浮かべるのがみっちゃんだった。

 そんなわたしが、目の前の人を好きになれるはずもなく。一応誠意を込めてお断りしてきた。

 友達には不思議がられる。告白してきた中には女子の間で有名な先輩もいたらしいけど、そんな人よりもみっちゃんの方が良いんだから仕方がないと思う。こんな気持ちで付き合ってもお互い嫌な思いをするだけだろうし。


 今でもわたしはみっちゃんが好き。だからデートに誘われたらホイホイ付いて行くし、機会があればすぐ出掛けようとする。今だってみっちゃんの腕を離すつもりはない。

 横にいるみっちゃんの顔と全身を見る。ホント、メイド服もしっかり着こなしちゃうんだからなあ。本人は嫌そうだけど、可愛いみっちゃんも好きだよ?

 女装が似合うほどの中性的な顔をしているからか、みっちゃんは昔からモテたらしい。ううん、モテない方がおかしいもん。


 だって容姿は間違いなく良くて。

 わたしたちへの扱いからわかるように物腰柔らかで優しくて。

 天才子役として誰もが知るような有名さと実力を兼ね備えた、将来を約束された役者。

 声変わりをした今ではかなりのイケメンボイスと言ってもいい。さっきから耳元で聞こえる声が心地良すぎる。普通の声でもカッコいいのに、ここから声を変えてバリエーションを増やせる。声優として無敵だと思う。


 これでモテないって言われたらみっちゃんが鈍すぎることになる。実際に告白もされたみたいだからその辺りは無自覚じゃなかったっぽい。

 わたしは告白できなかったのに、他の女の子はみっちゃんに気持ちを伝えられたと思うと、胸がムカムカする。たとえ断られても、自分の想いを口にできた。それだけで十分なはずなのに。

 わたしはそれを口に出す権利もなかった。

 そんなことを思っていると、みっちゃんが首を傾げながらわたしの顔を覗き込む。


「いきなりどうしたの?頬膨らませて」


「……何でもない。みっちゃんが可愛すぎるから、周りの視線がすごいなーって思っただけ」


「いや、僕だけじゃないでしょ。姉さんや鈴華ちゃんも目立ってるし、後ろの人たちも同じくらい目立ってるよ」


「自分が目立ってるって自覚、あるの?」


「それはまあ。こういう視線には敏感だからね」


 今の言葉。後ろにいる根本さんと東條さんという綺麗な声優さんと同じくらいお母さんもわたしも綺麗だとみっちゃんは言っている。そんなことをさらっと言っちゃうから、心臓が五月蝿くなるのに。

 みっちゃんからしたら、わたしやお母さんを褒めるのは当たり前のこと。何もかもの基準点がわたしとお母さんだからわたしたちと比べて綺麗かどうか、優先するかどうかという(はかり)になっている。

 告白を子役の頃断っていたのも、わたしたちへの支援がしたいから仕事を増やしたくて断っていたなんて言っていた。みっちゃんが子役になった理由を知っているから、もう驚かない。


 子役の『間宮沙希』は、お母さんがいたからこそできた存在なんだから。

 やっぱりみっちゃんは誰にも渡したくないなあと思った。というか、お母さんとできるだけ一緒にいてほしい。ついでにわたしにも構ってくれればそれで十分。それがみっちゃんの望みでもあるから。

 そう考えると、みっちゃんのことが好きそうな人が周りにいることが問題。みっちゃんももう高校生だから彼女くらい作ってもおかしくないけど、今の所その候補がなあ。


 一人はクラスメイトの女の子。なんかみっちゃんのファンっぽい。さっき教室から出てくる時も悔しそうにしていた。ただのファンにみっちゃんを預けるのは、なんか嫌だ。

 そしてもう一人。後ろにいる根本さん。声優としての同業者。みっちゃんよりも五歳も上の人だけど、絶対にみっちゃんに惚れてる。


 おかしいなあ。四月の動画とラジオを聞いた限りはそんなことなかったっぽいのに。この二ヶ月で何かあったみたい。現場で一緒になってみっちゃんに惚れちゃったのかな?わたしもみっちゃんのことが好きだから気持ちはすごくわかるけど。

 でもなんか。歳上の人に負けたってなるのはすごく嫌だ。男の人って大人のお姉さんのことを好きになりやすいみたいだけど、みっちゃんはどうなんだろう。現場で会う人なんて歳上ばっかりだろうし、みっちゃんが危ないかもしれない。


「ねえみっちゃん?みっちゃんって好きなタイプどんなだっけ?」


「何?もしかしてこんな格好してるから男じゃないのかもって思っちゃった?」


「うんうん。男の人が好きって言われちゃったら寝込みそう」


「それはないから大丈夫。……好きなタイプ?僕を偏見で見ない人かな」


「偏見で見る?」


「ほら、声優とかじゃなくてさ。僕個人として見てほしいんだよね。声優としての僕も僕の一部だけど、プライベートで過ごすのはあくまで声優じゃない時の僕でしょ?ずっと声優として求められたら嫌だなって」


「あー、そういうこと」


 それ、わたしやお母さんなら無条件でクリアしているのになあ。でもそれはわたしたちが家族だから。むしろプライベートのことばかり知っているからこそ、声優としてのみっちゃんは後から知った。他の人たちとは順序が全く逆。

 だけど、そんな人がどれだけいるのか。みっちゃんも恋をするのは遅そう。

 多分わたしとみっちゃんはかなり似ている。


 二人とも、愛が深すぎて恋がわからないんだ。

 恋愛はまず恋を知って愛になる。そのはずなのにわたしはみっちゃんへの愛が、みっちゃんはお母さんとわたしへの愛が大きすぎて恋をすっ飛ばしてしまった。

 だから恋がわからない。みっちゃんは役者だから演じようと思えば恋も演じられるけど、本質的な恋ってわからないんだと思う。

 恋がわかってたら、クラスメイトの人と根本さんの恋も察せると思うけど、みっちゃんは気付いてないっぽい。


「みっちゃんも大変だね」


「そう言う割には笑ってない?」


「完璧超人なんて怖いだけだもん。みっちゃんが等身大で嬉しいんだよ」


「僕のどこが完璧超人なのさ?頭も悪いし、運動も全くなのに」


「みっちゃんはダメだなあ。これはわたしが真人間に戻してあげないとね」


「それ、この格好を見て言ってる?」


 ううん?真人間になんて戻してあげない。わたしとお母さんでみっちゃんを囲ってあげる。それが一番いいんじゃないかな。恋愛とか結婚って芸能界ではスキャンダルっぽいし、みっちゃんの人気が落ちかねない。だったらみっちゃんは恋愛もしないで結婚もしないで、わたしたちとずっと過ごせばいいんだ。

 みっちゃんもそれを望んでいるんだし、これが一番良い気がする。

 みっちゃんがわたしたちのお父さん役に収まれば全部うまくいくんじゃないかなって。これ、名案かも。


 思い付いたらすぐに宣戦布告。みっちゃんの腕を胸に持ってきて、みっちゃんに触れさせる。もちろんわざと。そうして根本さんに見せ付けて、ニッコリと微笑む。

 片思いじゃこんなことできないもんね?わたしは家族だからこんなことも許されてるんだぞって、オバさん(・・・・)へ煽ってあげた。


 それを見て根本さんは面白いように憤慨して。東條さんはそんな様子を見て呆れていた。東條さんはやっぱりみっちゃんのことを狙ってないっぽい。

 ふふ。今はわたしの勝ち。ただみっちゃんにはわたしの胸に触ったんだから少しは顔を赤らめてほしいんだけど。それだけは負けた気分。


「みっちゃん、次は軽音部のライブ観に行こうよ」


「良いけど、十二時には教室に戻るからね?昼近くなら忙しいだろうし、僕って休憩がないはずだったんだから」


「わかったー。そうしたらその後は適当に文化祭を巡ってるよ」


 みっちゃんのメイド服以外の女装姿は見過ごせない。みっちゃんがいないと味気ない文化祭も、それだけを楽しみに過ごすことにしよっと。

 劇は面白そうだったけど、あんまり音楽には興味がないもん。みっちゃんとカラオケに行くなら楽しいけど、素人の演奏を聞いてもなあ。みっちゃんの上手な歌と比べちゃって多分盛り上がれない。


 劇だってみっちゃんと比べたら演技に雲泥の差がある。けど、劇だとみっちゃんの才能を改めて認識できるのが面白い。それに声優も面白そうだなって思ったのは本当。みっちゃんと同じ仕事っていうのは良いし、みっちゃんに近付く女の人を牽制できそうだし。

 学生劇で下手さを観て、こうしなければ良いのかって反面教師にすれば良いんだから。ううん、帰ったらみっちゃんの作品を観よう。一番の見本がそこにあるんだから、それを見るのが一番。

 ふふ。楽しくなってきた。


次も日曜日に投稿します。

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