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君に、声を  作者: 桜 寧音
三章 高校一年(六月〜)
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4ー2ー1 文化祭二日目

観劇。

「というわけでどこに行こうか?何か気になるものあった?」


「演劇とか?結構な数のクラスが体育館でやってるみたいだから気になるかも。それとプロの目線でどう感じるのか知りたい!」


「学生の文化祭を酷評するのはなあ……」


 鈴華ちゃんが相変わらず腕に引っ付きながらそんな提案をする。プロ目線として学生の演劇なんて見られないというのが本音だ。たった一ヶ月で詰め込んだ急造の劇で、演技をしていた人たちのものではなく素人の演技を見て口を出すなんて無理。

 演劇部の演劇ならまだ感想を言ってもいいだろうけど、都合良くやってるものだろうか。


 社長たちとは別れたけど『パステルレイン』組とは一緒に行動している。パッと見津宮さんしか男がいない美女美少女集団は注目を浴びている。五人集団というのも結構な人数だから廊下を歩いているだけで通行の妨げになったりもする。

 鈴華ちゃんがもらったパンフレットで校内図を見ながら行きたい場所を探す。鈴華ちゃんだけと話すのもどうかと思ったので根本さんに聞いてみる。


「根本さん、どこか行きたいところありますか?」


「え、私?」


「いや、一番近くにいたので。東條さんでも津宮さんでも行きたいところがあれば案内しますが」


「あたしは今更学生劇を見に行くのもあれだし、展示とか見に行った方が楽しいかも」


「俺もなー。学生劇から声優目指した人間だけど、むしろあの頃の黒歴史思い出すから嫌だなー」


「え、お兄さんの黒歴史ですか?もしかして劇で失敗しちゃったとか?」


「みーちゃんの姪っ子でもこれは言えないな」


 何故か行きたい場所の話をしていたら津宮さんの黒歴史の話になっていた。僕としては気になっていたけど掘り起こすものでもないと思う。僕にだって黒歴史はあるんだし。

 この中で一番歳下の鈴華ちゃんの意見を優先したいところだけど、多数決という民主主義も大事にしないといけない。

 どうしたものか。

 あれこれ意見が出る中で姉さんの挨拶が終わったようで姉さんが合流していた。本当に簡単な挨拶をしていただけなんだろう。


「あら、まだこんなところにいたの?」


「姉さん。どこに行こうか迷ってるんだよ」


「別になんだっていいじゃない。もう大目標は終わったんだし、後はメイクを見るだけでしょ?」


「そう。ただ演劇を見たい鈴華ちゃんと皆さんの趣向が合わなくて」


「なるほどね。じゃあ演劇を見に行きましょう。決定」


「ええ〜!お姉さん、私たちの意見は?」


 姉さんの独断に根本さんが反対意見を言う。けどこういう時の姉さんに何を言っても無駄なのは知っているんだ。だから僕は何も言わない。


「ふふ、お姉さんだなんて。根本さん、私も一応光希の姉としてあなたの配信とかも確認しているわ。ラジオとかも聞いてるけど、人の弟を勝手に弟扱いはちょっとねえ?」


「うう⁉︎そ、それはちょっとしたネタと言いますか……。みーちゃんがとても優秀すぎると言いますか」


「弄る事はいいのだけど、姉としては複雑な気分なのよねえ。それと、一応あなたたちは大人のお姉さんでしょう?光希と鈴華に付いてきてる立場なんだから鈴華の用事を優先させてくれないかしら」


「まあ、ですよねえ。根本ちゃん、俺たちが諦めるしかないだろ。大人しく演劇観に行こうぜ」


 そう、元々は鈴華ちゃんが僕を連れ出したためにこうして文化祭を回ることができる。そこに『パステルレイン』組が付いてきた形だから優先されるのは鈴華ちゃんの方というのも姉さんの言う通り。

 大人なんだから子供の言うことを優先させてもらうのもそうだろうという話。

 だから大人たちが折れて体育館に向かう。その向かう途中で津宮さんが首を傾げながら姉さんに質問をする。


「失礼ですが、みーちゃんのお姉さんってかなりお若いですよね?」


「女性に年齢を聞く?まあ、鈴華がいる割には若いって思うのは仕方がないでしょうけど。今年で二十七になるわ」


「えっ⁉︎俺と同い年……!」


「若っ⁉︎」


 姉さんの年齢を知って、鈴華ちゃんのことを確認して。姉さんが鈴華ちゃんを産んだ年齢を逆算して全員が驚愕の表情を浮かべていた。まあ、自分の人生と比較して自分が中学生の時に子供がいると考えると中々にビックリする。

 僕もこの歳で娘がいたらと考えると、それはそれで驚く。僕じゃどうしようもできなかっただろうなあ。でも相手のことを見捨てたりはしないと思う。


 僕からすれば姉さんは本当に幼いながら鈴華ちゃんを育てたことは凄いなと思うし、姉さんを見捨てた男は本当にクズだと思う。

 そんなことを確認しながら体育館へ向かう途中で更に姉さんに質問が飛ぶ。


「お姉さん、ご職業は?」


「いつまでもお姉さんは嫌よ。私の名前は沙希。間宮沙希よ」


「サキさんですか。みーちゃんとは十歳以上離れてますよね?」


「そうね。歳の離れた弟だから可愛くて仕方がないわ。今はこんな格好してるし」


「ねー。みっちゃん可愛いよ。お姉ちゃんって呼んであげようか?」


「鈴華ちゃんまでそんなこと言わないでよ……。男としての尊厳をこれ以上失わせないで……」


 姉さんと鈴華ちゃんも、いつまでも僕のことを弄ってくる。本当に男として自信がなくなってくる。姉さんと顔が似ているからそりゃあ女顔なんだろうけどさ。


「あれ?間宮サキ……?どこかで聞いたことあるような?」


「間宮はありふれた名前だし、同級生とかにいたとかではなくて?」


「いやあ、最近聞いたような……?」


 津宮さんがそんなことを言う。怖い怖い。その聞き覚えがあるっていうのはおそらく子役時代の僕である『間宮沙希』のことだ。芸能界にいたのなら少しは耳にしたことがある名前だろう。

 いや、最悪バレたとしてもバラさないようにお願いするだけなんだけど。

 ……その名前を聞いた時から東條さんがずっとこっちをじっと見ている。これバレたんじゃないだろうか。東條さんもキャリアは長いから芸能界のことにだって詳しいだろう。隠し通せるとも思っていないけど、今は隠しているので自分の口からは言いたくない。


 確信の言葉もないまま体育館に着いて演劇を観る。途中からだったけど『ロミオとジュリエット』らしい。演じた事はないけど内容は知っている。シェイクスピアの四大悲劇ではないけど、かなり悲惨的な終わりを迎える劇だ。

 鈴華ちゃんは知らなかったようなので概要を説明しつつ劇は進む。

 演技も場面転換も照明も小道具も大道具も音楽のタイミングも、言ってしまえば全部チープだ。だけど楽しそうではある。これが学祭なんだろうな。文化祭なんてたくさんの作品で出てくるからこれも一つの経験だろう。

 僕は鈴華ちゃんに説明しながら見終えると、声優組の皆さんが顔を伏せていた。耳もどこか赤い。


「どうかしたんですか?」


「いやあ、凄い恥ずかしさが込み上げてきたと言うか……。あの棒読みを意気揚々と笑顔でやってるのはプロとして観てるのがキツイと言うか……」


「あの主役たちの子がこの後付き合うんだろうなあとか予想できちゃったこととか」


「この中から俳優や声優の卵が産まれるのかなと思うと、すっごい勘違いする子が大量生産されるんだろうなって……。イタタタタ……」


 全員が何かしらの黒歴史を見てしまったかのように顔色が悪い。

 まあ、こういう場所で演劇に興味を持って声優や俳優への道を踏み出す人も少なくはないだろう。この人たちも昔はそうだっただろうに、何で恥ずかしがってるんだろうか?

 きっかけなんてどんなものでもいいだろうに。


「ふーん、演劇も面白そうだね。みっちゃんも今楽しいでしょ?」


「……演劇と声優って結構違うよ?声優も俳優やったり舞台に出たりするけど、意識的にはかなり違うものだと思う」


「うーん、ドラマとか見ようかなあ?お母さんの奴を見るべき?」


「たとえ鈴華が女優になったとしてもコネとかで採用しないからね?あたしは昔それをやろうとして手酷いしっぺ返しを喰らったんだから」


 姉さんも交えて鈴華ちゃんの将来の話なんてし始める。こういう劇でも、たとえプロのような素晴らしいとはとても言えない拙いものでも、鈴華ちゃんの心を動かしたんだよなあ。

 やってる側だったらおかしくはないんだけど、見ている側で興味を持つのは珍しいかもしれない。プロの舞台を観てプロを目指そうと思った高芒さんのような人はいるだろうけど、この劇を観て……。いや、それは元々僕や姉さんがこっち側の人間だからだろう。


 正直、『ロミジュリ』なんてありきたりだし、学祭でやるためにシナリオなんてすっごい省略されてるわけで。大雑把な動きとあまり通らないマイクのない地声。大根役者しかいない舞台で小道具とか衣装も安っぽいために僕たちプロの目からしたら、いや観客の中でもそこまで評価は高くないんじゃないだろうか。

 それが文化祭クオリティと言われてしまったらそれまでだ。おそらく三千円くらい払って近くの舞台を観に行った方が感動できると思う。そういうことじゃないと思ったけど、言っても栓ことないことだろうな。

 演劇とかを観たりやったりすると興味持つ人が多いとは聞くけど、まさか鈴華ちゃんがこの劇で興味を持つなんて。それに姉さんの話をしたために東條さんが反応する。


「えっと。もしかして沙希さんって制作関係の方だったり?」


「そうね。ドラマや映画の脚本をやっているわ。だからキャスティングにも少しは口を出せるの。でも前に一度それをやろうとして起用しようとした俳優が俳優業を辞めちゃったのよ。だから私はもうキャスティングに口を出さない。プロデューサーとかディレクターに任せるわ」


「それは何というか、残念ですね……。本名でお仕事を?」


「してないわ。だから津宮さんが聞いた名前は私じゃないわね」


 東條さんは姉さんの言葉で僕のことを確信したようでじーっと見てきた。質問した津宮さんはわからなかったらしい。根本さんは僕を見る東條さんの様子に首を傾げていた。

 まあ、東條さんは結構口が固いと思うから大丈夫だろう。多分。

 姉さんのコネの話が、『間宮沙希』のことだとわかってしまったんだろう。分かり易すぎるから姉さんと僕がセットで話をするとバレてしまう。というか、今回のバレた原因は鈴華ちゃんが姉さんの職業を間接的にバラしてしまったことだ。

 東條さんがにじり寄って耳打ちをしてくる。


「……みーくんってもしかしてかなりのシスコン?」


「まあ、否定はできませんね」


「はぁ……。まあ、色々納得できたかも。その突拍子もない演技力とキャリアの変なズレとか」


「秘密にしてくださいよ?」


「りょ」


 バレたらバレたでまあ、流山社長に伝えるだけだ。

 演劇も終わったので移動を始める。今度はベンドの演奏を見たいということで軽音部が発表をしている視聴覚室に向かう。


「みっちゃん、今度声優について教えてね。みっちゃんと共演したりしたら面白いだろうなあ」


「もしこっちの世界に進むとしても、僕も一切コネとか使わないからね?いや、使えるコネがほとんどないんだけど」


「あはは。みっちゃんはまだまだ駆け出しなんだから、それでコネを持ってたらビックリだよー」


 あるにはあるんだけど。ペパームーンの枠が。声優としてはそれだけど、俳優関係だったらめちゃくちゃある。多分端役とかだったらすぐに仕事を振れるくらいには僕にコネがある。

 ドラマや映画だけの話に限れば僕は姉さん以上にコネを持っている。天才子役の名前は伊達じゃないし、雄大とかにお願いするという手もある。


 どういう道に進むのかは、鈴華ちゃんと話してからだけど。

 まさか声優というか芸能界に興味を持つなんてなあ。僕も姉さんも芸能関係者ではあるけど、だからって娘の鈴華ちゃんまで芸能関係者にならなくちゃいけない理由はない。

 義務感じゃなくてやりたいっていう意欲があることは良いことだけど。事務所の皆さんにも協力してもらおうかな。


次も日曜日に投稿します。

感動などお待ちしております。あと評価とブックマーク、いいねも。

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