4ー1ー2 文化祭二日目
来訪者たち。
僕の知り合いということで事情を知っているクラスメイトは野原さんたちが声優だと気付いたらしい。遠目から芸能人を眺めている。
で、事情に詳しい冬瀬さんと水越さんはもうパニック。冬瀬さんが僕の事務所の先輩方に気付くのはアニメオタクだからわかるけど、水越さんが野原さんのことを知っていたのは意外だった。
社長はそれこそドラマとか映画にも出たことがあるからわかったんだろうけど、野原さんなんてドラマや映画での出演はかなり少ない。メインが舞台俳優だったから舞台を見に行かないと知ることなんてできないはずだ。
そのことに恋人の高芒さんが反応する。
「そっちの子、聡さんのこと知ってるの?」
「あ、はい!『盛者必衰の理、神風吹かず』を両親と見に行きまして。そこで野原さんの演技を拝見しました。二役見事に演じ分けられていて凄いなと思ったので覚えています」
「あなた、見どころあるね!」
それまで野原さんと腕を組んでいた高芒さんが水越さんの手を取っていた。いきなり知らない人に手を取られた水越さんはアワアワとしていた。
いや、水越さんも高芒さんが僕の関係者ということで声優だとわかっているだろうけど、どちらかというと野原さんと親しい方ということで慌てているんだろう。
高芒さんからすれば自分の好きな人を褒められて嬉しいんだろう。野原さんがきっかけで声優になった高芒さんからすれば野原さんを褒めてくれる人はそれだけで良いヒト扱いなんだろうな。
……『盛者必衰の理、神風吹かず』を観ていたってことは僕のこと直接見てるじゃん。それなら雄大と一緒にいるところを見られたら勘付かれるか。
「いやあ、間宮君!君のクラスメイト良いねえ」
「水越さんが詳しいだけですよ。普通小学校の時点で『盛者必衰の理、神風吹かず』なんて見ないですし」
「だよね。私も見たのは高校生の時だもん。ご両親の教育の賜物かな?」
戦争ものだから水越さんが自分から観に行ったとは思えない。
水越さんが慌てているように、冬瀬さんも慌てている。というか、こっそり色紙を持ってきているような……。それはダメだ。僕が言わないとダメか。
「冬瀬さん、サインはダメ。プライベートの声優はサインはしないんだよ」
「あ、そうなの?そっか、そうだよね……」
「プライベートでサインや握手に応じてたらプライベートがなくなっちゃうからね。それに最近は転売とかも多いから。ウチの事務所だけじゃなくてほとんどの事務所でプライベートのサインとかは禁止してるよ」
「……あれ?間宮君私にサインくれたよね?」
「それは特別。クラスメイトは『一般のファン』と別扱いにしたの。高校生だし転売はしないと思って。それに身バレした時はサインでもしないと収集もつけられなかったし」
僕の時は特別だけど、他の場合はダメだ。この後来るだろう津宮さんたちからもサインをもらうことはダメ。声優さんが学校に来るなんてかなり珍しいし、たとえ講演会などで学校に来たとしてもサインなんてもらえない。
学校には記念にサインをくれるだろうけど、生徒個人には絶対にくれないだろう。
今日なんて僕がいるせいで知り合いの声優さんが来てくれるだけで、お忍びで来てくれる人にサインを頼むのはダメだ。お忍びがバレちゃう。
もうとっくにお忍びではないんだけど、最低限のマナーは守らないと。
「とりあえず皆さん、席にご案内しますね」
「あら。私可愛い女の子に接待されたいわ」
「……ご案内いたしますわ。お姉さま」
ちょっと声を高くして、カテーシーを流山社長の前でする。その変わりように高芒さんが驚いた顔をしていた。野原さんと流山社長は僕のことを知っているから驚きはしない。
「間宮君、こんなところで本気出さなくても……」
「やるからには本気で挑みたいのですわ。お姉さま」
「こんな妹だったら欲しいかも。ね?野原さん」
「間宮が妹は嫌だなあ。男ってわかってる奴を妹扱いするなんて……」
「ですよねえ。これ、結構キツイんですよ」
「うわ、急に戻った」
このメイド服に巨乳で金髪ロングヘアだと普段の声で話すと変な感じするよね。
見た目と声がミスマッチというか。
とりあえず三人を席に案内して注文を受ける。飲み物だけメモを取って後はホットサンドを三つ。結局高芒さんと流山社長に可愛いと褒められたのは本当に複雑だった。
食事は美味しかったらしく、今度また一緒にご飯に行こうっていう話になった。
「まさかお仕事の前に学祭で女装するなんてね」
「……実は女装、初めてじゃないんですよ」
「あ、そうなの?へえ。それは知らなかった」
「琴音にはあまり教えてなかったものね。それに誰かさんにお熱で年下の後輩のことは後回しだったし?」
「社長、実はコイバナ大好きですよね?」
「大好きよ?」
僕も接客をしないで普通に同席してお茶を飲みながら話していた。これが僕の休憩に当たる。
この後ミスコンにも出るという話をして、その時にはメイクをすると言ったらそれを見たいと社長が言ってきた。僕は別に良いんだけど、メイクを施す水越さんに聞かないとマズイと思って水越さんを呼ぶ。
まさか呼ばれるとは思ってなかったのか、完璧に顔を強張らせながら席にやって来た。
「水越さん。この三人にメイクの様子見せて大丈夫?」
「……え?私のメイクを、ご覧になるんですか?」
「ええ。気になってしまって。『綴ザサレシ金華猫』の『百目鬼真央』を参考にしているって聞いたら見てみたくなってしまったの。部外者でもメイクだけなら見られるのかしら?」
「スケジュール的には、まだお客様を入れている時間に始めるので見るだけなら大丈夫だと思いますが……。あの、私初心者ですよ?」
「まあ、そうでしょうね。んー、なんて言うべきかしら。私にとって光希って息子みたいなものなのよ。その息子の晴れ舞台を見たい親心ね」
「親……。わかりました。私の全力、見てください」
親という単語に何か思ったのか、水越さんはブンブンと首を縦に振っていた。
それにしても流山社長が母親かあ。若すぎないだろうか。でも姉さんと鈴華ちゃんのことを考えたら年齢的には現実にも居ておかしくない。
この三人が良いのならと、姉さんと鈴華ちゃんも良いか確認を取ったら水越さんは許可をくれた。ミスコンの写真なんて見せられないけど、完成形だけなら見せられそうだ。
そういうわけで姉さんにメールを送っておく。ミスコンのことを黙っていたから後で説教だそうだ。姉さんもお祭り好きだよね。
しばらく四人でお茶をしばいていると、新たな三人組が来店して来た。
「ここにみーちゃんいるらしいぜ?」
「どこかなー、みーくん」
「あ、あそこ!琴音ちゃんもいる!」
「流山さんと野原さんもいらっしゃるわ。事務所の皆さんで来てたのね」
よく通る声。三者三様で人気の高い声が教室に響く。
僕との仲の良さからおそらく来るだろうと、予想していただろう冬瀬さんはそれでもキャパを超えたのか「ぴゃい⁉︎」という声を出して顔を真っ赤にしていたし、僕としてもメガネに帽子をしているだけの変装しかしていなかった三人に物申したかった。
とりあえず席に案内しないと。
「お帰りなさいませ、お嬢様、ご主人様。席にご案内します」
「みーちゃんカワイイ!」
「ウグッ⁉︎」
カテーシーでお辞儀をして頭を下げている内に根本さんに抱きしめられたらしい。ちょっと、スキャンダルになるからやめてほしい。
「おバカ!やめな、アキ!」
「はいはい、アッキーナ。場所を考えなよー」
「いや、琴音。場所がどこだろうとウチのタレントにこんなことされたら困るんだけど?」
女性陣が全員で根本さんを剥がしてくれる。そしてその様子を見て野原さんと津宮さんにそれぞれの肩をポンとされた。
「ドンマイ、間宮」
「みーちゃん、どうだったよ?根本ちゃんの感触は」
「セクハラで訴えますよ、津宮さん」
今の行動でクラス中でキャーキャーという女子の声が上がっている。鈴華ちゃんなら姪っ子ということで場を納められたけど、根本さんは完全な他人。ただいくつかの作品で共演しているだけの先輩声優だ。
むしろ女性声優、というか歳上のお姉さんに抱きしめられたことなんて後で男子からめちゃくちゃ恨み言を言われそうだ。メガネで変装しているからって根本さんが綺麗な女性だということに変わりはない。
「あんなメイドさんいたら一家に一人欲しくない⁉︎料理もお洗濯もしてくれてお嬢様かご主人様って言ってくれるんだよ?みーちゃんなら絶対甘やかしてくれるよ!それに今なら女の子の格好をしてるから合法!」
「合法じゃないわよ!この暴走特急!」
「これに比べたら私ってめちゃくちゃ我慢強いと思いませんか?社長」
「そうね。琴音ってまだ理性的だったのね……」
根本さんがまだ騒いでるけど、他の女性声優は全員呆れていた。暴走特急女性声優二号の称号は伊達じゃないらしい。
この混沌とした場をどうにかしなくちゃいけないのか。結構お店も忙しいんだけどな。
新しく来た津宮さん、東條さん、根本さんの相手も僕がするべきなんだろう。
そのことを一緒のホール担当の冬瀬さんに伝えようと思ったけど、あまりの衝撃的な光景に魂が抜けてしまったらしい。
他の女子生徒にお願いして冬瀬さんに休憩をとってもらうことにした。憧れの声優さんの暴走に脳の処理が追いつかなかったんだろう。
さて、根本さんにお説教するか。歳下だからって言うべきことは言わないと。
次も月曜日に投稿します。
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