3ー2 進む準備
家族と彼女。
※投稿先間違えていたようでウチの三姉妹が掲載されていました。投稿し直します。
土曜日はゲームの収録があった。RPGでそこまで重要な役ではなく、主人公たちの道筋をちょっと手助けするような役だった。死ぬような役でもなく、立ち寄った村で少しちょっとした依頼をするというだけの役。とある依頼品を持って来てほしくて、その依頼品のついでに手に入れた情報が後々に大事になってくるという道中に絶対出会うキャラ。
その収録も終わって僕は姉さんの家に来ていた。やっぱり何度か顔を出さないと気が済まない。
いつものように手土産を持って行くと姉さんに呆れられた。
「アンタ、ちょくちょく顔を出してるけど彼女とかいないの?」
「いないよ。何でそんなことを気にするのさ?」
「学生の休日が姉の家に入り浸りって、相当おかしいわよ?」
「子役と声優やってる時点でおかしいでしょ。しかも彼女なんて作ったらまた週刊誌とかにすっぱ抜かれそうだし。あんな騒動あって火種作るほどバカじゃないよ」
恫喝事件があったせいで今声優界は悪い意味でかなり注目されている。そこでまた何か注目を浴びるような話題を出すわけにはいかない。
野原さんと高芒さんは、どうだろう。逆に騒動を利用した、裏を読んだ行動なのかもしれない。流山社長からアダルトなゲームに出ることが決まったから演じる前に好きな人に告白しておきたいという流れだったらしいけど、僕はそれを否定したりしない。
演じる前に何かが影響するとわかっているなら、それを排除するのが僕たちプロだ。結果的に高芒さんの状態が良くなったのなら方法はどうあれ万事解決と言える。
「みっちゃんモテそうなのになー。子役の頃はモテたんでしょ?」
「まあ、子役の頃はね。ただ純粋にモテたわけじゃないんだよ。特に芸能界の子はもっと役が欲しいから僕と仲良しアピールをして現場受けを狙ったり、貧困家庭だからお金目当てで付き合おうとしていたり、ただのステータスとして告白してきたり散々だったよ」
「ウワァ、ドン引きだね……」
周りがそんな女の子ばかりだったから普通の恋愛なんてわからない。付き合ったことのある人もいないし、恋愛は小説やドラマでしか知らない。
「学校はどうだったの?」
「純粋に僕のことを好きな女の子っていたのかな?どうしたって『間宮沙希』としての、子役っていうフィルターを通して見られるから。学校でも何回か告白されても断ってたよ。仕事も忙しかったし」
「あー。わたしがみっちゃんをみっちゃんとして見ちゃうのと同じかー」
それは叔父さんとしてだろうか。それとも僕という存在が鈴華ちゃんの中で固定されているのだろうか。彼女だけが僕をみっちゃんと呼ぶけど、それが特別に思えてこそばゆい。
僕からしたら鈴華ちゃんは姉さんの子供で固定されている。家族が適任だからそれは特別だ。
「今はモテないの?」
「モテないね。子役だった頃のことなんて知られていないし、新人声優と付き合おうとする人もいないよ」
「学校は嘘ついてサボりまくりだもんねー。アンタ、学校で居場所あるの?」
「ああ、姉さん……。そのことなんだけど、クラスには声優のことバレたんだよね」
「ええっ⁉︎」
姉さんの心配に正直に答えると鈴華ちゃんが驚いた声を出した。僕だってバレるとは思ってなかったんだよね。『パステルレイン』もまだ放送をしていないからアニメに出ていてもモブばかり。
『侵食のグラナダ』もまだ僕の出番は先。掲載誌で先行情報が出ただけで僕という声優の知名度はかなり低い。
けど、そんな僕でも『侵食のグラナダ』は有名になるほどのビッグタイトルだったということ。
「『パステルレイン』のことバレちゃったの?」
「いいや?『侵食のグラナダ』。日本で一番売れてる漫画雑誌を舐めてた」
「みっちゃん凄くない?少年漫画と少女漫画の話題作どっちにも出てるじゃん!」
「そうだね。でも『侵食のグラナダ』はキャラがたくさん出てくるから出ている声優はたくさんいるよ」
なにせバトル物だから名前ありの一話限りの役とかも多い。僕の役は珍しく長く出る役だから掲載誌でもカラーでわざわざ紹介された。
『パステルレイン』も『侵食のグラナダ』も七月から僕の出番になる。それまで僕はそんなに知られることはなかったはずなのに。ゲームで少し名前が出ているかなくらいのはずだったのになあ。
根本さんの動画配信とかのおかげで顔は知られるようになった。『パステルレイン』のラジオとかにも出ているし、高校生にしては仕事をしている方だと思う。まあ、本当に売れている学生声優だとライブとかやってたりする。有名なアイドルゲームに出たりしていると高校生ながら歌って踊って、ということをやっていたりする。
有名なアニメだと歌唱ライブをやったりするイベントもある。EDを声優が歌っているとそういうこともある。僕はまだそういう経験がない。
「『間宮沙希』のことを考えれば順当そのものでしょ。有名乙女ゲームにも出て、アニメも良い感じに出世街道を進んでる。子役のことは公表しないんでしょ?」
「しないよ。面倒だし」
「面倒よねえ。特に引退した理由を口にするのが面倒」
家族のせいで怪我をして動けなくなったので子役を辞めました、なんて言えるわけがない。
僕はこのまま間宮光希となる。
「……姉さんも鈴華ちゃんも、僕に彼女がいた方が良いの?」
「彼女がいた方が良いとは言わないけど、あたしらに構うよりは健康的じゃない?」
「みっちゃんお金持ってるのに使い先がわたしたちだから心配なんだよ。自分のためにあんまり使ってないでしょ?」
「そう言われると、そうかも」
自分のお金として使ってるのは作品の関連作品を買ったり、ちょっと食事を豪勢にするくらいだ。それ以外でお金を使うことなんてないからなぁ。
欲しいものなんて特にないし。僕が求めたゴールが姉さんとの暮らしだからこれ以上を生活で求めないんだよね。仕事は楽しいし、姉さんと鈴華ちゃんとこうして会って食事ができる。
あとのお金の使い道……。あ、文化祭関連があったな。
「まずい。メイク関連のお金払わないと」
「メイク関連?それって文化祭の?」
「そう。メイクとか衣装代とか結構かかってるみたいでさ。僕が仕事をしてるってバレてるんだから、お金を渡しても良いんだよね」
「良いでしょうけど、そんなに本格的なの?言っちゃなんだけど、文化祭にそこまで力を入れる?一年生でしょ?」
「一年生だからこそ、歯止めが効いていないんじゃない?」
「そんなもん?ま、力入れてるなら見に行くのが楽しみだけど。ね、鈴華」
「だね。どんな別嬪さんになってるか楽しみかも」
楽しまれてもなあ。それに力を入れているのは男女逆転喫茶じゃなくミスコンの方だ。そのミスコンも一般公開の日にするとはいえ閉会式には一般客は去っている。僕のゴスロリ姿は見られない。求められたら写真くらいは見せようか。
この後水越さんにいくらかかったのか聞いてみると予想以上にお金がかかっていた。普通に一万円を超えていて予算を普通に超えていて自腹で払っていることを知って僕はすぐに全額払うことにする。
『全額は多いよ⁉︎あたしだってバイトしてるし!』
「バイトだって最近始めたばかりでしょ。僕の稼ぎ知ってるよね?『間宮沙希』を舐めないでよ」
『いや、まあ。すっごく稼いでいたんだろうけど……。具体的な金額は知らないよ?』
「東京でも結構な豪邸を建てられるくらいには稼いでるよ。月曜日に渡すよ」
ということで月曜日になって水越さんにお金を渡して。
そして男子が学校に持ってきた物を見て僕は愕然とした。
「いやあ、今ってすごいんだな!コスプレ専門店に行ったら胸パッド売ってた!」
「しかもすっげえリアルに男に着けられるやつ!天啓だと思ったね!」
「さあ間宮!どれ着ける⁉︎」
それこそ小一つ、中二つ、大二つ、巨大一つというわけわかんない数を買ってきていた。これには絶対お金を払わない。
というか皆お金持ちじゃない?バイトとかしないで部活やってる人も多いだろうに、こんな高価そうな物を複数買うなんて。
値札を見ると小さいやつで三千円、高価い物だと七千円って書いてあった。全部で三万二千円もしてるんだけど……。
「いや、こんなの小一択でしょ。間宮君細身なんだから」
「はぁ⁉︎わかってねえな水越!細い奴の胸が大きいのが良いんだろうが!」
「バランス悪すぎだって言うの!この大きい三つは絶対ダメ!」
「水越に何の権限があるんだよ!俺たちの夢を叶えさせてくれ!」
「理想の女の子を作らせてくれよ!」
何で僕が男子の理想にならないといけないんだ。女子の目線がだんだん冷たく、蔑むような目になっているのを認識してくれないだろうか。
「使わない奴は俺たちで使うから!」
「何にしてもでっかいのはない。あの服にでっかいのは似合わないし、そもそも採寸だって大きい胸で想定してないの!だからでっかいの使ったら物理的に衣装が破ける!ロリータファッションって身体の線を見せる服装だから結構しっかり計算されてるの!」
「じゃあメイド服の時にこれを使ってやってくれ!」
「それなら良し!あっちはかなり拡張性あるからね」
「よっしゃあ!」
勝手にメイド服の時に巨乳にしないでほしいんだけど。だけど決定事項のように話が進む。
結果としてゴスロリの時に中サイズのパッドを着けることになった。どんどんクラスの女子が教室内の気温を下げてる……。
何でイベントごとってこうやって人々を暴走させるんだろう。僕はイベントのキャスト側だからお客さんの気持ちっていまいちわからない部分がある。
まあ、皆楽しそうだからいっか。
次も日曜日(12日)に投稿します。
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