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君に、声を  作者: 桜 寧音
三章 高校一年(六月〜)
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3ー1ー2 進む準備

『パステルレイン』の大事な収録。

 今週はいくつかオーディションを受けて、そしてオーディションの結果がいくつか出たことを知らされて事務所に来ていた。流山社長からどれが受かってどれがダメだったかを聞いてスケジュールを決めていく。学生にしては結構オーディションを受けていたこともあって受かっている数が多い。

 とはいえ来年以降の作品も多くてすぐに決めるスケジュールのものは少なかった。オーディションが決まってすぐ仕事をもらえるかと言われたらそれは違う。アニメの収録が始まるのは結構先のことだし、主役級の役でもなければアニメが始まる前に他の仕事がもらえることもない。

 その例外が少しあったけど。


「『ズァーク』、受かったんですね」


「そうね。アニメ自体はまだまだ先だけど、関連ゲームとかの収録は始まるみたい。資料とかはいただいているからそれを読み込むように」


「わかりました。うわぁ、ゲーム多いんですね」


「ロボットアニメだし、長寿作品だから様々な媒体で出てるのよ。ソシャゲもゲームセンターの筐体ゲームも、家庭用ゲームもあるから。そっちに先行実装されるみたいね」


 渡された『ズァーク』関連のゲーム作品は今の所四作品。アニメ本編の収録の前に関連作品の収録をすることは多々あるらしい。実際に演じる役をあまり知らないままキャラを演じなくてはならないこともあるそうだ。資料とかはもらえるそうだけど、それが全部を説明しているわけではないらしい。

 だから演じるのが大変なのだとか。


 ゲームの単発作品ならその場限りの演じ方で大丈夫だけど、下手に知識があってアニメ収録をすると実は想像と違ったセリフの流れだったりして後から困惑したり収録をし直したくなるらしい。

 他にも主役が二つ、レギュラーが二つ受かっていた。これは来年大変そうだ。アニメだけでこれなのにゲームでは結構受かっている。サンプルボイスで受かっているものが多いから数が多い。僕だけでなく、野原さんも高芒さんも結構色々とオーディションに受かったようだ。


「あとマネージャーを中途採用することにしたわ。というか他の事務所からの移籍みたいなものね。女性よ。基本は高芒を担当してもらうわ」


「わかりました。スタッフも増やしていくんですか?」


「今までが少なすぎたのよ。事務所も軌道に乗ってきたし、それだけの売り上げをあなたたちが挙げてくれてるの。ここでケチってあなたたちに負担が行くのは事務所としてダメだもの」


 事務所の変化もありつつ、マネージャーさんとかの確認はまた後日となった。本格的に働くことになってから顔合わせをすればいいということになった。

 スケジュール帳に色々と書き込んでいくと、流山社長に質問をされる。


「そういえば光希ってキャラソンとかNG出してないわよね?」


「激しい運動以外はNGを出していませんよ。ただアイドル役とかは将来的にライブで踊ることになりそうなので勘弁してほしいです」


「ああ、そういうことじゃないのよ。『パステルレイン』と一緒に録ってる『星々』でEDテーマを歌ってほしいって仕事が来ているのよ」


「あれ?それって東條さんが歌うことになっていたような……」


「二番の歌詞をあなたが歌って、Cメロからは二人のデュエットで一曲にしたいんですって。大丈夫そうだったらお願いしたいんだけど」


「はい。良いですよ」


 歌うのは嫌いじゃないし。というか劇団の頃散々やった上にミュージカル経験もある。キャラクターとして歌うのは初めてだけどこういうのは経験だ。何事にだって初めてはある。

 追加の仕事を請け負って金曜日。僕は『パステルレイン』の収録に向かった。『星々』の収録は今週はなく、あるのは来週。


 そして今日の収録では奏太としてかなり重要な回だった。次の日が綾人君の野球の決勝戦だという日に、奏太は一大決心をするのだ。

 奏太はキララと部屋で宿題をやっていた。甲子園が決まろうが決まらなかろうが夏休みも綾人を追っかける予定のキララは忙しいのだから早めに宿題を終わらせておけと発破をかけたのだ。


『うぅ〜。難しくない⁉︎っていうか多くない⁉︎』


『そこまで多くないだろ。もう終わるし』


『ソウちゃん早くない⁉︎』


『お前が遅いんだ』


 奏太は勉学も問題ないが、キララは勉強が苦手なために宿題が全然進んでいない。学校の偏差値は野球強豪校にしてはそこそこあるのだが、進学校ほどではない。

 入試の時もヒーヒー言っていたキララなのでしょうがないのだろう。

 目を回しながら必死に勉強をするキララを見て、奏太は溜息をつきつつ笑顔でサラリと言う。短い言葉だけど、八年以上の想いを込めて。僕からすれば、姉さんをようやく見付けられた時の想いと同じくらいとても重い言葉だろう。


 僕の時は泣いてしまった。けど、奏太はそうじゃない。あくまで笑顔で、言葉にしつつも自分の気持ちを塞ぎながら言葉で全ての感情を伝えなくちゃいけない。

 だから僕は、キララへの愛を年季の籠った最大の感情で吐き出す。


『キララ。好きだよ』


 キララのペンを動かす手が止まる。手どころか時が止まる。

 キララが顔を上げて奏太を見て、奏太の笑顔を見て。しばらく自分で考えて、顔を一気に赤くした。


『そ、ソウちゃん⁉︎いきなり何⁉︎』


『別に?言いたかったから言っただけだけど?』


『普通告白をそんなにあっさりとする⁉︎』


『オレたちのどこが普通なんだよ。義理の姉弟で親のいない家でずっと一緒だったんだぞ?お前も血の繋がりがないって知ったんだし我慢の限界だ』


 家族になって恋心を自覚して、それまでずっと気持ちに蓋をしてきた。奏太は言葉の通り我慢の限界だった。

 脈なしだとわかっていても、口にしなくてはいけない感情だった。


『ああ、返事はいらないぞ?フラれるのも嫌だし』


『じゃあなんで告白なんてしたの⁉︎』


『区切りとして必要だろ。キララが綾人への恋心を隠さなくなってこっちとしてもやってられなくなったんだ。お前の御花畑に充てられたって言っても良い』


『わたしそんなに色ボケしてる⁉︎』


『ずっとだろ、ボケ』


 今までだって年がら年中綾人を追っかけていたのに、本当の妹ではないと知ってからはその恋愛脳は加速した。

 キララがそのつもりなら奏太も玉砕してやろうと思ったからこその行動。

 あとは、初めて告白したのは自分なのだと綾人に誇りたかった、勝ちたかったという子供心によるものだ。


『まあこれでただの姉弟だ。あーあ、すっきりした』


『……なんか、当て逃げにあった気分』


『唇奪わないだけ温情だと思え』


『ソウちゃん物騒なんだけど⁉︎そんなことしたら女の子に嫌われるからね⁉︎』


『嫌われたくないからやらないんだろ。家族として同じ家にいるのにギクシャクするのも嫌だしな』


 奏太は立ち上がる。そして二人分のコップを手にしてドアへ向かった。


『飲み物淹れてくる』


 返事も聞かずに出て行く奏太。キッチンへ行き、飲み物を淹れつつ大きく息を吐いた。


『……泣くな。目を赤くしてたらキララを心配させる。さっさとくっ付けってんだ。……良い成績を残してからじゃないと自分の気持ちを伝えられないってヘタレかよ。あのバカ兄貴……』


 ここでシーンはカット。フラれたのに健気な奏太の後ろ姿でAパートが終わる。


「いやー、間宮君良かったよ。すっごい気持ちが籠ってた!」


「ありがとうございます」


「ホントホント!みーちゃん凄かった!」


 監督と根本さんに褒められる。恋心と家族愛をごっちゃにして演じたけど、長年想っていたということに変わりはなかったので好評みたいだ。

 今日の話はかなり奏太が中心なのでまだ気が抜けない。テストの時から好評だったけど、本番も上手くいって良かった。

 休憩が終わってからBパートに。Bパートも珍しく奏太中心だ。

 決勝戦の朝だというのに誰かのチャイムを押す音が鳴る。キララはまだお布団の中なので奏太が出ることになった。


『おはようですわ!綾人さん!』


『……人違いです』


『あら?あなたは未来の弟君。綾人さんは?』


『兄貴ならもう学校に行ってるよ。最終調整をしてから荷物を運んで球場に行くって』


『あらまあ、入れ違いでしたか』


 リムジンで一般宅へ駆け付けたのは夢城さんが演じる亀倉さんだ。綾人の送り迎えに来た亀倉さんに奏太が応対する形になり、何でこんなに献身的なんだと奏太は呆れることとなった。


『(綾人はやっぱりモテるなぁ。まあ、野球の実力とあの顔を考えたらそれもそうか)』


『部活の関係者じゃないから綾人に個別で会うのは無理だぞ?試合前だし、家族だって下手に会えないぞ』


『そうなのですか?ふむ、ではわたくしと綾人さんが婚約者になれば問題ありませんわね?』


『高校一年生じゃ婚約者でも家族扱いにはならないと思う。というか、高校生で婚約者になんてなれるのか?』


『なれますわよ?そもそも女性の結婚できる年齢は十六歳からです。ですから婚約すれば家族では?』


『婚約云々は置いておいて、家族でも会えないんだって。マネージャーになれば手助けもできるだろうけど』


『綾人さんの専属マネージャーになればよろしいのですか?』


『そんなものはない』


 亀倉に一般常識がなさすぎて奏太が漫才をしていることに呆れる。

 ただここで悪魔の囁きを受けて、亀倉の手助けをしようと想ってしまった。


『ちょっと待ってて。渡したいものがある』


『?はあ、綾人さんがいないなら少しくらい時間はありますが』


 家に入ってすぐに出てくる。そして弁当箱を持ってきて亀倉に渡した。弁当箱と言いつつかなり大きめの箱と小さい小箱を重ねて両手に乗せる。


『これ綾人に渡して。お昼のお弁当と栄養補給できるレモンの蜂蜜漬け。弟のオレが作ったものなら渡せるだろ』


『どういうことですの?』


『朝渡し忘れたんだ。綾人に会いに行くのなら渡してくれ。そうすれば合法的に会える』


『なるほど。そういう手段が』


『あくまで弟のオレが作ったからだからな?アンタのお抱えのシェフが作っても関係性的に無理だぞ?』


『やはり婚約者になるしかありませんわね』


『話が最初に戻った……。とにかくそれ、任せたから』


『わかりましたわ。亀倉の名前にかけてこれを届けましょう』


 ちょっとした意地悪をして亀倉を送り出すと、今度は東條さんの演じる優奈ちゃんもやってくる。今日という日はどうなってるのかと奏太が難しい顔をしたが、優奈ちゃんは優しい顔でやってきた。


『あらあら、フラれた可哀想な奴がいるわ』


『何で知ってるんだよ?』


『いきなり告られたってキララからメールが来てうっさいのよ。まあ、アンタは頑張ったわよ』


『だろ?弟として振る舞って、アイツのこと応援してたんだ。理想的な弟だろ?』


『のくせに、亀倉さんを応援するんだ?』


『見てたのかよ……』


 さっきの光景を見られていてげんなりする。フラれた腹いせにキララの恋敵である亀倉さんをアシストするようなことをしたみみっちいことを幼馴染に見られて恥ずかしがる奏太。


『いいじゃない、別に。等身大のアンタっぽくて。今までがおかしいのよ。好きな野球をやめて綾人さんとキララのために家事全部やって。キララのことをずっと気にかけて弟のフリして。学校でも優等生のフリして。もう十分でしょ。お疲れ様』


『弟はもう終わりだと思ったら、もうその期間は終わったぞ。……これからはずっと、キララの弟だ』


『傷心のアンタを慰めてあげるわよ。それができるのは幼馴染だけっしょ?』


『……まあ、その時は頼むよ。今は大丈夫』


『強がってない?』


『強がってるよ。でもずっとそうしてきたんだ。今更変えられないよ』


『新しい恋を見付けたら教えなさいよ。ちゃんとした姉として相談にのってあげる』


『そうだなあ。キララよりは優奈の方が姉っぽい』


 キララちゃんのことを姉としては一切思っていなかったために、優奈ちゃんの方が姉っぽく思える奏太。その優奈ちゃんが奏太の頭を撫でる。


『よくやったぞ、弟よ。お前の恋人にはなれないが、その努力はこの私が認めよう』


『……プッ。優奈ちゃん、何?そのキャラ付け』


『お、久しぶりにちゃん付けで呼ぶじゃん。なつかしー』


『無理に強がる理由ないからね。……まあでも、心配しないでよ。家事は僕だって好きだし、嫌々やってるわけじゃないから。野球だって下手くそだったから辞めただけだよ』


『嘘おっしゃい。二人で野球やったら家事できなくて家が終わっちゃうからでしょ。キララは家事できないし、ご両親はまた海外に行くことになっちゃったんだから無理無理。家政婦さんを雇うのを嫌った時点で全部おかしくなってるのよ』


『その頃のキララってまだ他人を信用し切れてなかった。色々と間が悪かったんだよ』


 素を出せる相手ということで、声色も変えて話す。キララちゃんを守るために強がっていた奏太が唯一自分を出せる相手。綾人君にだって見せない姿だ。だって、綾人君は恋のライバルだから。


『アンタが報われる日がくるのかねえ?』


『いつか来るんじゃない?今じゃないってだけ。……っていうか優奈ちゃんは?キララのお守りばっかじゃん』


『えー?教えてなかったっけ?彼氏いるけど?』


『……はぁ⁉︎』


『あ、言ってなかったかー。キララにも言ってなかったっけ?中学の時から付き合ってる人いるよ』


『……そっか。さすがオレの自慢の姉だ』


 そんな二人の珍しい会話がなされる。キララを介しない二人の関係性を見せる珍しい場面で、この後は起きたキララにご飯を与えて一緒に試合の応援に行く。その際に亀倉さんがお弁当を綾人君に渡したことが発覚してひと騒動が起きる。これでこの話は終わりだ。

 収録が終わってすぐ、監督に褒められた。


「いやあ、この回は奏太の重要な回だったけどとても良かったよ。特に告白のセリフと優奈ちゃんに自分をさらけ出すところは良かった。君をキャスティングして良かったよ」


「それは褒めすぎですよ。監督」


「いやいや、間宮君の評判はこの業界でとても良いよ。これからが楽しみだね」


 評判が良いなら良いか。同じようなことをキャストにも言われて純粋に嬉しい。

 もうすぐ始まるアニメの放送が楽しみだ。


次も日曜日に投稿します。

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