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君に、声を  作者: 桜 寧音
三章 高校一年(六月〜)
53/73

2ー3ー1 告白・発表・特典

映像特典撮影。

 『ソラソラ』の配信の後。『ソラソラ』もプレイしつつ『パステルレイン』の準備もしつつ、というのが今週のすることだった。『パステルレイン』はアニメの収録ではなく、DVD・BD予約生産限定版に付いてくるドラマCDの収録だった。ドラマCDはアニメと違って映像もない上に話を完結させる必要があるために結構ワード数が多い。

 それと映像に縛られないためにしっかりと静寂のための間とかも取れるので収録はしやすかったりする。あとハッチャケやすいというか。ゲーム収録でも言えることだけど、口の動きに合わせなくていいというのは演者としては好きにセリフの間を取れるのでやりやすい。


 『星々』の収録もなかったので『パステルレイン』の収録にだけ集中できた。

 ドラマCDの内容は中学時代のキララちゃんと奏太、優奈ちゃんの修学旅行。折角の修学旅行なのに奏太が何もアプローチできずに優奈ちゃんにからかわれたり、相変わらず綾人君のことばかりなキララちゃん、そして家事担当の奏太が家にいないために家事がズタボロになるという綾人君の様子が描かれるギャグ調のストーリーだ。

 食事は作り置きをしておいたので大丈夫だったが、練習着などのユニフォームの洗濯だけはどうにかしなければならず、綾人君にそのスキルがなかったために優奈ちゃんのご家族を頼っているという事実が発覚した。


 そりゃあそうだよね。綾人君は野球全振りなのでそういうことができるイメージがない。家族もいないのだから頼れる人は少ないために優奈ちゃんのご家族にお願いするしかないんだ。

 ちなみに奏太の料理の腕も最初は優奈ちゃんのお母さんに教わったという。色々な事実が発覚したドラマCDだった。

 そんなドラマCDの収録を挟みつつ、日曜日。『ソラソラ』の配信をした四人組がまた集まっていた。今度はちゃんとしたお仕事で。いや配信もギャラをいただいているのでお仕事なんだけど。


 場所は都内某所のバッティングセンター。撮影のために貸し切っているんだから凄い話だ。

 そう、撮影。

 『パステルレイン』のこれまたDVD・BD購入特典の一つである声優のバラエティ動画を撮影することになっている。最近のアニメだとこういう声優が何かをする映像が特典で付いてくることが当たり前になっているらしい。運動系だけど本格的な運動じゃないから僕も事務所も承諾した。


 これでベースランニングだとか大縄跳びとかだったら無理って言ってたけど。今日の撮影分なら問題ない範疇だった。

 撮影の前に準備運動が必要ということだったので津宮さんと一緒に柔軟だったりキャッチボールをしていた。グローブは番組側が用意してくれていた物を使っている。


「しっかしみーちゃん、そんなに身体悪かったなんて知らなかったな。本当は右利きだろ?」


「はい。ちょっと事故に遭いまして。でも、なんとなく形になっていませんか?」


 素人同士のキャッチボールだからポロポロと零す。それ以上に色々とマズイのは僕が左利き用(・・・・)のグローブを右手に嵌めていることだ。

 右投げができないなら最初から諦めて左投げをしようと思ってこうした。ここ最近は昼休みに蓮沼君と多田君、そして野球部のクラスメイトに協力してもらってキャッチボールをしていた。案外投げることは形になったと思う。捕るのは全然できないけど。野球部の皆も上達したって褒めてくれたし。


 軽く投げるくらいなら足も腕も問題なく動く。バッティングも少しやってみたけど痛みはなかった。全力で動こうとしたら動けないけど、形だけはできていると思う。

 キャッチボールとバッティング。こんな準備をしている通り、今日の撮影はバッティングセンターで勝負をするわけだ。

 準備が終わった時点で撮影が始まる。


「『パステルレイン』DVD・BD特典映像、天才『藤堂綾人(とうどうあやと)』に近付け!野球対決〜!」


「「「イエーイ!」」」


 津宮さんが進行をして、僕と根本さんと東條さんが合わせる。進行は津宮さんに任せて僕たちは茶茶を入れるゲストだ。

 津宮さんは一応色々なイベントやこういう企画で進行をしているために進行を任されることが多い。三月末のイベントのようなことは起こらないはずだ。多分。


「皆さんこんにちは!『藤堂綾人』役津宮健斗(つのみやけんと)です。今日はなんと、千代田区にあるバッティングセンター『プライム』様にお邪魔してある企画を行っていきたいと思います。そのメンバーを紹介するぜ!じゃあまず根本ちゃんから!」


「はーい。『藤堂キララ』役根本明菜です。今日は動ける声優だというところを見せつけて行きたいと思います!野球はやったことありませんけど!」


「動ける声優だったっけ……?まあいいや、お次、東條ちゃん!」


「『川崎優奈(かわさきゆうな)』役の東條春香(とうじょうはるか)です。あたしバッティングは得意なので一発ぶちかまします!」


 自己紹介が濃い。僕もこうしないといけないんだろうか。いや、純粋に場数の違いか。いつかはこうなれるのだろうか。


「そして最後、みーちゃん!」


「はい。『藤堂奏太』役間宮光希です。運動苦手なので足を引っ張らないように頑張りたいと思います。でも目指すはホームラン!」


「よーし!それでこそ男だ!というわけでこの四人でお送りします。企画の説明に移りますけど、バッティングセンターにいることからある程度は予測つくんじゃないかと思いますが、そう!ここに来たらやることは二つ!ストラックアウトとホームラン競争だよなぁ!」


「「「やったー!」」」


 スタッフさんも拍手をしつつ僕たちも盛り上げる。きっと映像になったら豪華な効果音とかBGMを使っているのだろう。けど今はないから僕たちがセルフで盛り上げるしかない。


「企画の詳細を説明していくぜ!俺たち四人は二人ずつのチームに別れて八回分の映像特典でポイントを競っていく!そのポイントの結果、勝ったチームには豪華商品が、負けたチームには罰ゲームがある!」


「先生質問です!」


「何かね根本君!」


「その罰ゲームは勝負ごとにあるのでしょうか?」


「そっちの方が面白そうだけど、罰ゲームは最後にあるだけっぽい」


「了解です!」


 テンション高めで会話が繰り広げられる。こういうのが視聴者を飽きさせないアクセントになってるんだろうなあ。勉強になる。

 八回分全部の企画内容は聞いていないけど、今日は二回分を収録するらしい。根本さんは今日だけで二回も罰ゲームを受けかねないから質問をしたのだろう。罰ゲームが何かは知らないけど、そんなものを受けてすぐ次の勝負なんて不利になるだけだ。


「じゃあ肝心のチーム分けだけど。公平にするために男女それぞれでクジを引いてもらって男女一人ずつのペアを組むぜ。まあ、どこが公平なんだって話だが……。スタッフさんが割り箸を用意してくれています。先っぽが普通なのと赤いのがあるのでその色でチームになるってわけ。じゃあ引くかー」


 男女同時に引く。僕は津宮さんに譲ってもらったので先に選ばせてもらった。津宮さんの「せーの」という掛け声でクジを引いた。

 僕の方は色なしだ。


「ん、俺赤ー」


「私も赤」


「ということで暫定赤チームは俺と根本ちゃん。んで白チームが東條ちゃんとみーちゃんだ」


「みーくん頑張ろうぜ?」


「はい。やってやりましょう」


 チーム分けも済んでチームごとに並ぶ。いや、最初の並び方と結局変わらなかったんだけどね。


「じゃあ第一勝負の発表だ!すなわち、『綾人と言えば絶対的エースだよね』、ストラックアウト!」


「普通にストラックアウトじゃダメだったんですかね?」


「ダメだったみたいだぜ、みーちゃん」


 全員でゾロゾロとストラックアウトができる場所に移動する。三×三の的がある場所まで移動して、ストラックアウトがどういうものか説明する。ちゃんと見るのは初めてだなあ。


「ぶっちゃけちゃうと的当てなわけだ。ここは場所をお借りしている『プライム』様のルールに則るぞ。一人十二球投げてこの的を全部倒せればパーフェクト。この的は結構簡単に倒せるっぽい。ほら」


 実演も混ぜて説明する津宮さん。僕も触ってみるけど、当てられたら倒せそうなほど的は薄い。力がなくても倒せそうだ。


「ちなみに二枚抜きはありません。この通り一つ一つに小さい枠があるから、この枠に当たっちゃうともしかしたら的が倒れないかもとのこと。豪速球投手なら複数抜きで倒せるっぽいです。ただ俺たちはシロートなのでまず無理!あと俺たち男は正規の距離から投げるけど、女性陣は五m前から投げるみたいだな」


「津宮センセー。これパーフェクトとか出したらボーナス点とかあるんですか?」


「その説明をしよう。まず一枚落とせたら十ポイント。もしパーフェクトを出せたら二百ポイントとのこと!」


「総得点二倍以上ってすご!……まあ、そのポイントがどれだけ価値があるのかわからないけど」


 東條さんの質問にも律儀に答える津宮さん。一応台本はあるけど全部台本通りには進んでいない。

 台本を手に持ってるわけでもないからある程度は思ったことを話しちゃうものだ。スタッフさんもカンペを出してくれているけど全部その通りに話していたらずっと津宮さんが話しちゃうだけになる。独壇場では空気が保てないから僕たちも適度に話を振らなくちゃいけない。

 この辺りの機敏が良い人がトーク上手として進行を任されたり、顔出し番組に呼ばれたりするのだろう。僕も頑張らないと。


 投げるラインを確認する。僕と津宮さんは規定通りの十八m以上。マウンドのプレートまで再現されていた。女性陣は五m前の白線から投げるみたいだ。

 ついでとばかりにパーフェクト記録保持者の名前一覧が載っている表が飾ってあった。かなりの人数がいたが、それでも一際目立つ人がいた。

 名前の隣に性別が載っているのだが、十八mと十三mでパーフェクトの表は異なった。女性は十人ぐらいしかいないのに、十八mの方で赤字で書かれている人がいたのだ。


「え……?この人女性で十八mの方でパーフェクト出してるの?凄くない?」


「ホントだ……。女の人、この人だけみたいだね」


「羽村由紀さんだって。凄い人もいるんだねえ」


「東條ちゃんも根本ちゃんも十八mでやってみる?」


 東條さんと根本さんが感心するように声を出していたら津宮さんが意地悪なことを言う。この羽村さんはきっと野球経験者だろうけど二人は野球をやったことがないらしい。一応東條さんが父親に少し遊んでもらったことがあるらしくて、キャッチボールをしてバッティングセンターに連れてきてもらったことがあるらしいけど、本格的にはやってないのだとか。

 そのくらいの経験値で正規の距離でやれというのは酷いだろう。本人たちもそう思ったからか勢いよく首を横に振っていた。


「いやいや、せっかくもらったアドバンテージはそのままにしますよ」


「そうそう。もらえるものはもらっておかないと」


「ちぇっ。まあとにかく、まずはこのストラックアウトをやるわけだ。そんじゃまあ、ジャンケンで先攻後攻決めようか。今回のストラックアウトは俺とみーちゃんでジャンケンしよう」


「はい」


 ジャンケンを誰がやるかで尺を取るわけにはいかなかったために台本の段階で決まっていた。掛け声と一緒にジャンケンをして僕が勝った。勝った方が先攻ということになっている。

 というわけで僕たち白チームから始めることになった。


「どっちからやります?」


「一番槍は任せた、みーくん!」


「はーい」


 僕かららしい。右手にグローブを着けてコインを入れる。すると十二球ボールを順番にトスしてくれるように機械が動き出す。このボールを捕らなくちゃいけないのでグローブを嵌めるわけだ。

 トスのようなボールなのでグローブがあれば問題ない。ボールを受け取って投げる準備をする。

 スタッフさんやお三方には伝えてあるけど、たぶんこの動画を見ている人は驚くだろう。だから投げながら僕は自分のことを説明する。


「皆さんに説明しますけど、僕左利きじゃありません。右利きです。──よいしょ!」


 コントロール重視で投げるけど大枠に近かったものの当たらなかった。一番よりちょっと上にボールが行ってしまった。結構良いところ行ったんじゃないかな。


「惜しいねみーちゃん」


「ですね。で、何で右利きなのに右で投げないのかって話なんですけど、昔事故に遭っちゃって右腕が上がらないんですよね」


「日常生活に支障ないの?」


「黒板の高いところは苦労しますね。あと重い物持てないのもキツイです。腕も困るんですけど実は左足もその事故で結構ダメで。走、れないん!ですよ!」


 話しながらも投げると、今度は五番に当たった。ど真ん中だけどすっごい嬉しい。利き腕じゃないのに一個でも当てられたからもう今日の僕の役目は終わったんじゃないだろうか。


「投げる時に足は痛くないかい?」


「はい。足は走ったり階段の昇り降りがなければある程度は大丈夫です。ダメな時は事務所の確認の時点でNG出しますから。いやあ当たって嬉しいな」


 津宮さんに確認されながらも二球目に当てられたので続けて三球目を準備する。心配そうに見てくる周りの皆さんを不安にさせないために笑顔を振りまく。これは子役の頃から慣れているからすぐに切り替えられる。


「逆の腕で投げられるって、みーちゃん凄いね!」


「クラスメイトが手伝ってくれたんですよ。野球部の人に投げ方教わって」


「へー」


 投げる時に気にするのは目線と姿勢だそうだ。投げるフォームを固定させて相手の場所から目線を外さないことが大事らしい。

 そのアドバイスを受けた結果、なんと四枠も当てられた。良かった良かった。


「じゃあ私行きまーす!」


 僕の次は根本さんが投げる。ちょっと前というハンデもあり的にはしっかりと届いていた。女性らしい投げ方でたまに大暴投もあったものの三枠当てていた。


「んじゃあ次あたしー!このピッチングをお父さんに捧ぐ!」


 東條さんは女性としてはかなり綺麗なピッチングフォームで投げ込む。コントロールもかなり良く、なんと六枠も当てていた。

 六枠も当てるなんて凄いなあ。だって十二球で六枠ってことは半分は当てていたことになる。男の人でも慣れていないと当てるのが難しいものなのに半分って。


「よっしゃあ!パーフェクトは無理だったけどこれで百ポイントだよみーくん!」


「ナイスピッチングです。上手いんですね、東條さん」


「いやー、久しぶりにボール握ったから不安だったけど、なんとかなったわ」


 さっきお父さんに捧ぐとも言っていたけど、東條さんの父親は甲子園常連校であり宮下智紀さんを輩出した帝王学園の監督をしていらっしゃる。それも関係あるんだろうか。

 球技なんて声優になったらやらないだろうから高校の体育以来とかなんじゃないだろうか。それでこれだけできるというのは本当に凄いことだ。


「真打登場!」


「ちなみに津宮さんって野球をやったことあるんですか?」


「まったくない!あ、いや。小学校の時にクラブの時間でゴムボール野球はやってた」


 ゴムボールと軟球はまた違うからどうだろう。ゴムボールは本当にコントロールが難しい。グニグニすぎて思いっきり投げられない。でもさっきのキャッチボールの感じだと結構僕に向かって投げられていたと思う。だから良い線行きそう。

 そう思っていたけど、スピードボールを投げることを意識しすぎたのか五枠しか当たっていなかった。四人の中で一番スピードは出ていたけど、ストラックアウトという観念では的外れというか。

 いや、エンタメ精神を優先したのかもしれないけど。

 全員が投げ切ったところで一回分の収録が終わる。


「ということでストラックアウト対決!赤チーム八十点、白チーム百点!今の所白チームが優勢という状況で折り返しになるぜ!次もこのままバッティングセンターからお届けするから次回もよろしくぅ!」


「「「「また見てね〜!」」」」


 最後にそう声を合わせて撮影は一旦休憩。

 休憩を挟んで次はホームラン競争だ。


次も日曜日に投稿します。

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