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君に、声を  作者: 桜 寧音
三章 高校一年(六月〜)
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2−1 告白・発表・特典

事務所の先輩たちの告白。

 火曜日。また半休を取ってスタジオに来ていた。今日は『浸食のグラナダ』の収録がある。

 昨日でようやく『スターライト・フェローズ』の収録が終わった。今後はゲームの予約特典などでボイス収録があるかもしれないらしいけど、まだ本決定していないからとりあえず収録は終わりとのこと。

 ゲームの特典ってイラストだったりグッズだったりするからあまり声優としての仕事はない。たまに目覚ましボイスとかのダウンロードコードなんかを発行したりするからそれ関係であるかないか、ってところだ。


 有名作品だとドラマCDとか没ボイス集を入れたりもするらしけど、そういうのも結局決まってからの収録になる。発売まで後五ヶ月以上あるから特典の収録は後回しにしても大丈夫なんだろう。

 スタジオに入る前にビルの中で待っていると前から野原さんと高芒さんが歩いてきた。野原さんはわかるけど、高芒さんも一緒なんて思わなかった。前の音楽ゲームが原作の現場に今日から参加したのか、根本さんのようにモブとして出演したんだろうか。


「お疲れ様です。野原さん、高芒さん」


「お疲れ、間宮」


「あ、間宮君。そっか、次の収録があるって社長も言ってたもんね」


「高芒さんは今日からレギュラーですか?」


「ううん。一回限りのモブ。だから残念だけど来週は来ないんだよ」


「なるほど」


 社長から聞いたけど、音楽ゲームは男性アイドルがメインの女性向けアプリゲームらしくて、女性は主人公以外モブくらいしか出番がないらしい。現場も男性ばかりだとは聞いた。だからゲストキャラを演じても何回も収録はないのだろう。

 それにしても、なんだろう。

 なんだか野原さんと高芒さんの距離が近いような。


「あ、そうそう。間宮君には言っておかないとね。同じ事務所だし」


「……?何か連絡事項でもありましたか?社長や松村さんからは聞いていませんけど」


「ううん、プライベートな話」


 食事に行こうとかそういうことだろうか。高芒さんが耳元に顔を寄せてくる。


「あのね。私先日から野原さんと付き合うことになったの」


 そんな爆弾発言があった。

 周りの人は……。全員遠い。小声だったし聞かれてはいないだろう。

 高芒さんは嬉しそうにそんなことを言うし、野原さんは照れているのかそっぽを向いている。耳は赤いけど。

 びっくりしたぁ。だから距離が近く感じたのか。同じ事務所ってだけじゃ通用しない距離感だったからね。最近こういう話多いなあ。

 いや?むしろあのオカマの一件があったから僕に知らせておこうと思ったのかな?


「えっと、おめでとうございます。誰が知ってるんですか?社長と松村さんくらい?」


「今のところはそう。大っぴらにする気はないけど、もし事務所で見ちゃったら困らせるかなと思って先に伝えておくね」


「事務所で何をする気ですか……」


「何もする気はないから!ただちっちゃい事務所だし、伝えておいた方が良いと思って!……ぶっちゃけ間宮だけ除け者にするのも変な話だし」


 そこで否定するのが野原さんなのはどういうことだろう。このカップルの力関係を見ちゃった気がする。高芒さんは明らかに不服そうだし。

 本当に事務所でイチャつくつもりだったんだろうか。夜の事務所とかだったら人もいないだろうから怪しまれずに会えるだろうし、記者とか知人に会っても事務所でたまたま会いましたって誤魔化せる。うーん、事務所に近寄るのは最低限にした方が良いかもしれない。お邪魔虫になりそうだ。

 ウチの事務所って風通しが良過ぎやしないだろうか。僕が子役だったことを高芒さんも知っている。いや、元々知っていたんだっけかな?すんなりと受け入れられた覚えがある。


「というわけで間宮君も何かあったらすぐに教えてね?オープンな事務所にしていこうよ」


「そういう事情は特にありませんが……。じゃあもし彼女ができたら報告します」


「『もし』なの?」


「今のところいませんし、お付き合いしたこともありませんから」


「あ、そうなんだ。……でもお姉さん知ってるよ?アッキーナ助けたんでしょ?ここで」


 アッキーナは根本さんのあだ名というか通称みたいなものだ。ファンとか仲のいい人はそう呼ぶらしい。

 社長が教えたのかな?


「それも共通認識になってるんですか?」


「俺はほら、代役の関係でその辺りを聞いてたけど。決して俺から高芒には伝えてないからな?」


「私はアッキーナから聞いたよ?アッキーナもペパームーンだから知ってるだろうと思って口が滑ったみたい」


「根本さん……」


 一応箝口令が敷かれていたはず。あ、でも福圓さんも知っていたな。福圓さんはあの日に根本さんと食事に行ってたからその場で聞いたんだろうけど。福圓さんにも根本さんを守ったことでお礼を言われた。


「まあ、アッキーナは置いておくとしても。間宮君気を付けなよ?この業界、ファンだからって声優とか音響関係とかスタジオ関係者になるような人間いるんだから。特に間宮君みたいに若くデビューしてるとファンも年齢が近くて進路変えやすいからって現場でいきなりファンです!って言ってくる女の子出てくるよ?」


「そういうものですか?」


「いや、それを高芒が言うのはダメじゃないか……?お前なんて俺の移籍を見て養成所通ってペパームーン受けたんだから……」


「え?そうなんですか?」


「そうなの。だから私みたいな粘着質なファンが出てくるかもっていう老婆心からのアドバイスだよ。──そういう女の子と付き合うと束縛してくるから気を付けてね?」


「え?それって俺が束縛されるって遠回しに言ってる……?」


「野原さん。遠回しじゃなく直接言ってます……」


 野原さんが高芒さんの発言に一歩引いて、僕がツッコミを入れた。

 粘着質なファンかあ。どうなんだろう。でも最近僕のSNSは凄く通知が多い。DM(ダイレクトメール)だったりの通知がひっきりなしにくるけど、それは昨日『グラナダの浸食』が掲載されている週刊誌が発売されて僕の役であるディスタブロのキャラクターデザインとCVの発表があったからだ。そこに僕のインタビュー記事も載っている。顔写真とかはない。


 SNSの公式アカウントもそのことを呟いていたので僕もその情報を呟いておいた。その内容に関する問い合わせのようなものがたくさん来たんだけど、どれも返事をしていない。声優さんからの言葉だけ返事をした。

 冬瀬さんがそれを知って週刊誌を買いに行ったらしい。僕のインタビュー記事が欲しかったのだとか。ファンって凄いよねって思う。

 日本で一番売れている漫画週刊誌だ。そういうところから粘着質なファンって産まれるんだろうか。

 一応警戒しておこう。


「違いますー。私は野原さんのことを最優先するできた彼女ですー。束縛とかああしてほしいこうしてほしいなんてワガママ言いません。付き合ってるって事実だけでかなり満たされてますし」


「自分でできた彼女って言うのはどうなんだ……?」


「野原さんがアルバイトとかで忙しいこともわかってますから。私に会った時に笑顔でいてくれればそれ以上なんて望みませんよ?」


「それはそれで彼女としてどうなんです……?あまりにも無欲すぎるというか。せめて月一くらいでデートの約束くらいしてもバチは当たりませんよ……?」


「え?間宮君、本当?」


「俺もそれくらいはどうにか時間を捻出するから。そんな寂しいこと言うなよ」


「……いいんですか?」


「出掛けなかったらそれこそただの先輩後輩でしかないだろ。食事でも映画でも何でもいいから出掛けよう。……俺だってデートしたいし」


 野原さんが恥ずかしがりながらそう言うと、高芒さんは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。そんなに驚くことだろうか。むしろ健全な付き合ってる男女なら出掛けに行くものだと思うけど。

 初々しいカップルだなと思う。高芒さんはなんというか事実だけあれば良いと言ってるけど、絶対出掛けた方が楽しいと思うけどな。

 ……というか、僕は一体何を見させられているんだ?


「僕だって姪っ子と出掛けに行くんですから、むしろカップルこそ出掛けないとダメなんじゃ?」


「え?え?高望みし過ぎじゃない?正直、私的には付き合えた時点でゴールなんだけど?」


「手を繋いだりとか、抱き合ったりとか、キスしたりとか……。それこそ結婚っていう先のこともあるのに何を言ってるんですか?高校生の僕でもいくつか候補が上がるのに、何で大人の高芒さんがそんなに尻込んでいるんです?」


「いやあ、だって。私の根幹としてはやっぱりファンだっていう心情があるから……。サインもらったり握手してもらえるだけで最高潮なのに、むしろ事務所で会えただけで超ハッピーだったんだよ⁉︎」


 か、かなりの重症じゃないだろうか。今時小学生でもここまで奥手な彼女もいないんじゃないかと思ってしまう。

 鈴華ちゃんに聞いた感じ、最近の子供は結構進んでいるのだとか。子供で付き合ってるのにキスもしたことがあるとか。

 僕はキスシーンしか演じたことないなあ。ファーストキスがキスシーンってどうなんだろう。

 あのドラマ結構話題になったっけ。小学生同士のキスシーンがあったから。

 そんな関係ないことを思い出しつつ、高芒さんはダメだとわかったので野原さんを頼ることにする。


「野原さん、どうにか頑張って高芒さんをちゃんとした人に戻してあげてください」


「ああ、頑張るよ……。高芒、俺も初めての彼女だから至らないことばかりだけど、二人で真人間になろう」


「え、初めてが私でいいんですか⁉︎」


「いいよ。というか、好きじゃなかったら良いなんて言うわけないだろ……」


「もしかして間宮君って恋のキューピッドだったり⁉︎初めの頃はあんまり好きじゃなかったけど、ごめんね!今は好き!」


「え、あ、はい。僕って高芒さんに何かしてしまいましたっけ……?」


 何か色々と変なことを聞いてしまったような?

 僕って嫌われるほど高芒さんと関わってたっけ。正直現場でも事務所でもあんまり会ったこともないし、同じ事務所だから連絡先を交換してるけど連絡を取ったこともない。話したとしても当たり障りない雑談だけだった気がする。むしろそんな壁のあるような対応がダメだったとか?


「間宮君って野原さんと一緒に『盛者必衰(じょうしゃひっすい)(ことわり)、神風吹かず』って舞台に出てたでしょ?その時野原さんの評価は散々だったのに間宮君の評価は凄く良くて。野原さんファンとしてすっごい嫉妬してたんだよね。その時は演技の良し悪しもわからなかったし、私の運命の舞台を間宮君が染めちゃったみたいで気分が良くなかったんだよ。今はそんなこと思ってないからね?」


「はぁ。僕はあの作品と『プラネット・トイズ』で野原さんと共演していましたからね。それが羨ましかったってことですか?」


「そんなところ。感想とか見ても大体君のことばっかり褒めてて、野原さんのこと貶してたんだもん。それがもう悔しくて悔しくて。それで君を逆恨みしてたの。君が普通だったら野原さんはもっと評価されたのかなあとか、そんな酷いことも考えてた。野原さんを扱き下ろす人が悪くて、君は仕事に一生懸命だっただけなのにね。ごめんなさい」


「いえいえ。事務所で初めて会った時から高芒さんはとても良い先輩でしたよ。今言われてびっくりしたくらいです」


 高芒さんが思うように、自分の推しより優遇されているから他のキャストを嫌いになるということはこの業界だとおかしくはないだろう。そういう人がアンチになったり、それこそファンレターを装ってイチャモンをつけてくるとかってこともあるんだから。

 僕も子役の頃はそういうお便り(・・・)が結構来ていたらしい。僕は内容を見させてもらえなかったけど、松村さん曰く子供に送りつける内容じゃなかったとか。罵詈雑言塗れだったらしい。

 熱意が高いからこそどんなことにでも凄い行動を起こしてしまうんだと思う。だから高芒さんの思いは結構在り来たりなものだと思う。実際に行動に起こして誰かに迷惑をかけたわけでもないから問題ないんじゃないかな。僕も実害は受けてないし。


「これからも同じ事務所の人間として普通に接してください。それでその話は終わりにしましょう」


「うん。ありがとうね。いやあ、間宮君は人ができてるなあ」


 そう言われながら頭を撫でられる。微妙に僕の方が背が低いからそんなこともされてしまう。

 くぅ、本当にあとちょっとで良いから身長が欲しい。このままじゃ鈴華ちゃんにもその内身長が追い抜かれそうだ。女の子の成長は早いし、姉さんが食生活に気を付けてるから僕と違ってちゃんと成長しそうだ。僕もしょっちゅう美味しいもので餌付けしちゃってるし。


「いやあ、野原さんが間宮君のこと弟みたいって言ってたけど、その気持ちよくわかるなあ。弟なら欲しいもん」


「それ、根本さんたちと同じ発言ですよ……?」


「え、アッキーナと?……うん、まあ。頑張れ?」


 何で励まされたんだろう。そういう弄られポジションで確定されたってことだろうか。

 それは嫌だなあ。


「あ、悪い。そろそろ行かないとバイトの時間が……。間宮、長々と話しちゃって悪かったな。高芒はこの後予定は?」


「ちょっと時間が空いてラジオの収録ですね。秋葉原のスタジオです」


「秋葉原か。じゃあ方向が近いな。一緒に行くか?」


「はい!ぜひ!間宮君、またね〜」


「はい。お疲れ様でした」


 二人が去っていく。まあ、たとえ見られたとしても同じ現場に向かってましたとかで伝わると思う。本当にあのオカマのせいで色々と周りの目を気にしないといけなくなったんだから困る。

 同じ事務所の声優同士でもすっぱ抜かれたりするんだろうか。異性のマネージャーさんと歩いていただけで熱愛報道が出た時は事務所が出版社を訴えたって話も聞いた。そこまで気にしないといけない世の中というのが面倒くさいと思う。雑誌記者からすればそういうゴシップで食べていく人たちだろうから、雑誌が売れれば何でも良いんだろうけど。


 そんな暗い気持ちは現場に持ち込まない。今日の収録に集中しないと。

 野原さんが代役に収まったからか、収録が伸びることがなくなった。先週からそう変わってウチの現場からは嬉しいと喜んでいた。後ろを気にする必要がなくなったからだ。

 今日の僕のディスタブロの役目はたまたま主人公のハランが戦っている現場を見てしまい、能力を使うところをヤードの人間に見られてしまったハランはどうにか誤魔化そうとするが能力のことを隠し通すことはできなかった。


 いわゆる表側の人間が事情を知ってしまい、事件の協力を要請されるという筋書きに持っていかれた。ハランも仕方なく認可して表の人間が裏に入り込めばどうなるかということを示す人間代表にディスタブロが収まった。それがハランと視聴者目線の内容だ。

 実際はこの行動が偶然ではなく、ディスタブロが仕組んだことだ。この事実を持って表側を巻き込み、混乱を巻き散らそうとする一手。


 それを演じて問題はなかったようで収録は本当にスムーズに終わった。僕的にも帰りが遅くならなくてありがたいことだ。

 ただ、次の日に僕自身の問題が起こるなんて思いもしなかった。いくらなんでもバレるのが早すぎる。


次も日曜日に投稿予定です。

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