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君に、声を  作者: 桜 寧音
三章 高校一年(六月〜)
49/73

1ー3 文化祭準備と忙しさと

オーディション。

 日曜日。イベントもなければ『スターライト・フェローズ』の収録もなかったこの日。

 かなり大きなオーディションが組まれていた。

 最近はオーディションを受けていなかったので久しぶりだ。六月に入ってからは初めて。何もキャスティングはオーディションだけで決まることはなく、監督や音響監督、脚本家の方に気に入られたというコネだったり、事務所の推薦だったり、既に録音してある音源を元に判断されるということもあるので、オーディションを受けなければ仕事がないということはない。


 オーディションを受けて、その作品ではダメだったけどどこかで使ってみたいと思われたら何かしらの役が与えられることもある。僕はありがたいことに最近はオーディションを受けずとも仕事をもらえていたから久しぶりになる。

 学生だから仕方がない部分はあるんだけどね。専業の方と比べたら受ける回数はどうしても減ってしまう。既に貰っている仕事と被ったらオーディションも受けられないし、学校を休んでまで受けるほど仕事に飢えていた訳でもない。だから久々だったんだけど。


 今回のオーディションは正直規模が違う。僕は午後からだったけど午前中からオーディションは始まっているようで、午後になってもたくさんの声優が待機場にいた。『スターライト・フェローズ』で一緒に登壇した男性声優が全員いるんだからすごい話だ。


「お、間宮君じゃん。久しぶり」


「お久しぶりです。鹿島さん」


 鹿島さん、花井さん、相川さんに菱木さんという有名な声優が勢揃いだった。花井さんは『浸食のグラナダ』で会ってるから久しぶりではないけど、他の方々は全員登壇して以来だ。

 有名な声優も僕みたいな新人も含めて、かなりの数の声優が集められている。顔を知っているほど有名な方から、一度も現場で会ったことのないような人まで。一応男性主人公のオーディションなんだけど女性声優も少しいらっしゃる。

 台本やキャラ表はしっかりと読んできたのでここで読み返すんじゃなく、先輩方との雑談に当てる。他の方々もそんな感じで過ごしているし。


「しっかし、一緒に登壇した福圓ちゃんが結婚とはなあ。ビックリしたよ」


「ホントホント。しかも超有名メジャーリーガー」


「僕も驚きました。例の事件のことは知っていたんですけど、付き合ってるとは思わなくて」


「そうそれ!ただのファンかと思ったらガチだったなんて思いもしないだろー」


 このメンバーとなると話題に上がるのはやはり福圓さんのことだった。青天の霹靂というか、事務所以外誰も知らなかったんだから驚くのは当たり前。同じ事務所の声優でさえ知らなかったんだから。

 相川さんはそれこそ福圓さんと同じ事務所だったのに、一切知らなかったらしい。それは驚いただろう。僕で言うところの高芒さんが超有名人と実は付き合っていて、結婚報告をしたようなものだからね。それは本当に驚く。恋愛話とか事務所でしないし、僕はよく話すのは野原さんだから結構高芒さんとは接点がなかったりする。


 まあ、福圓さんにとっては隠さなければいけない相手だったということだ。芸能人だって付き合ってる時は隠すもの。結婚してようやく発表するということは別に珍しいことじゃない。一般人との結婚だって中々発表しない。有名な芸能人が相手だとなおさらだ。

 後は年齢も大きいと思う。まだ二人とも二十代半ばで、芸能人や有名人ではそんな早く結婚する人もいない。

 三十代になるくらいで結婚報告をする人は珍しくない。そういう芸能界事情を鑑みても早いなと思える。


「俺たちまだ結婚してないじゃん?なんか先越された感がなー」


「今男の声優で早めに結婚してる奴ってどれだけいるよ?」


「まあ、少ないかな……」


「隠してる人もいるだろうけど、そんなの把握もしてないし」


「あー、やっぱり隠してる人もいるんですか?」


「いるいる。結局人気商売だから人気が落ちないように隠してる人はいるよ。たまに現場で子供自慢してくる人もいるけど調べたら公表してなかったりとか、よくあるぞ?」


「へえー」


 現場でそういう話をしたことがなかったので勉強になる。というか恋愛話は現場でするものじゃない気がする。恋愛ものを扱っていてもキャラの恋愛感情を語ることはあっても、リアルのコイバナをするわけじゃない。

 家族関係の話をするとしても、兄弟の話とかで終わる。恋愛に発展することは正直ない。

 そういう話をしつつ、今日のオーディションの話になった。


「すごいですね……。この規模のオーディションは初めてです」


「俺も初めてだよ。っていうか、男声優全員いるぞ。これ……」


「二百人くらいでしたっけ?男性声優って」


「そう。それくらいはいると思うぞ」


 待機場もホールみたいに広いのが凄い。こんな待機場見たことがない。百人は入れそうな場所なのに結構椅子が埋まっている。

 同じ事務所の野原さんも午前中に来たらしい。僕もタイトルは知ってるけど、というかとあるOVAで子役の時に出てるから作品の概要は知っている。だからって男性声優全員集めての主人公オーディションって聞いたことがない。

 この作品が偉大すぎるから、だろう。


「『駆動戦士ズァークHE』、『駆動戦士ズァーク』の正式続編なんですよね」


「この作品、時系列というか世界線が違う作品もあるから結構理解するのが大変なんだけど、今回は初代と同じ世界線、続きの時間軸なんだよ。初代なんてロボットアニメとしても伝説だし、主人公なんて声優になったら誰だってやりたい夢の一つだろ」


「ですねえ。ロボットもカッコイイし、僕もいつかやりたいです」


 三十年以上前から続くロボットシリーズで、アニメ化やゲームが発売になったら話題になる。主に初代と同じ時間軸を続編として他の世界線だと外伝と呼ばれる。今回は久しぶりの続編ということでかなり話題になっているらしい。完全新作アニメシリーズではなく、小説が元々あってそれをアニメ化する。

 小説の方もすっごい人気で絶賛刊行中らしい。プラモデルとかもかなり売れているのだとか。

 僕が子役の時に出たのはいわゆる続編の時間軸なんだけど、初代のストーリーとはあまり関わらずに違う戦場であった小さな戦いに関係するストーリーだった。


 今回はがっつり初代とも話の軸が繋がっている。台本をもらって小説を買って読んだけど、初代を知らなくてもある程度の前提知識があれば読める作品になっていた。

 雑談をしつつも、徐々に呼ばれていく先輩方。結局『スターライト・フェローズ』で一緒だった方々は呼ばれて行ってしまった。僕も入り口に近い椅子に座って台本とキャラ表を見ることにする。

 キャラ表に写っているキャラは金髪碧眼のキャラだった。この作品金髪碧眼の男キャラというのは結構重要なキャラになることが多い。初代のライバルパイロットがこの色彩だったことを皮切りに、金髪碧眼のキャラはライバルだったり主人公の道を切り拓いたりとかなり活躍をする。


 今作は初めて主人公が金髪碧眼になった。これはどういう理由があるのか。小説の最新刊まで読んだけど、主人公の素性だけは全然明かされないんだよね。キャラ表の説明にも「優秀なパイロットだが一人狼。傭兵として世界を巡っていたところに陰謀に巻き込まれる」としか書いてない。年齢は十七歳らしいけどそれだけ。

 何故だか支援してくれる組織から坊ちゃんとは呼ばれているものの、それ以外の情報はない。登場人物の中で一番詳細が不明なキャラだ。


 台本、と言っても特徴的なセリフがいくつかあるだけでページは本当に少ない。ソラで暗記できるくらいの量だ。大体オーディションって少ないセリフしか言わないから特別ページが少ないというわけでもないんだけど。

 ト書きがあるとはいえ、ページはたったの四ページ。それだけしかない。

 他に知り合いの声優さんが来たわけでもなかったのでずっと座って順番を待っていた。そして係りの人に呼ばれて本会場に向かう。

 中にいたのは多分監督の方と、シリーズ構成の方。後は原作の先生だろうか。それか音響監督か、後援スポンサーのお偉い様。座っていたのは三人。誰がどういう役職だかはわからないけど、オーディションの決まりである挨拶から入る。


「ペパームーン所属の間宮光希です。よろしくお願いします」


「間宮……?」


 五十代の男性の方が僕の名字に引っ掛かったっぽい。どこかで会ったことがあっただろうか。申し訳ないが覚えがなかった。

 録音が開始されたとのことだったのでセリフを読む。


『くぅ!これは、踊らされたか⁉︎世界統一連合とガウルが正面切って戦うなんて何年振りの騒ぎだよ……!』


『……へえ?雇うって?ただのお嬢様が、こんな傭兵を信じるなんて酔狂だね。依頼内容と報酬は?死にたくなかったらそれを提示してくれ。世界統一連合に目を付けられたなら死ぬまで追いかけられるよ?』


『ああ、そうだ!監視者気取りは巣に帰れ!』


『当たるか!──行け、グングニール!』


『戦う理由?……気に入らないんだよ。地球に引き篭もってる癖に宇宙も支配したつもりになってる連合も、新技術を見付けたからって独立しようとして失敗したガウルも。……僕は産まれも育ちも宇宙だ。ガウルの反乱から十七年。宇宙の民は虐げられたままだ。負けたのはガウルだっていうのに。理不尽な暴力を、暴力で防ぐしか、今はない』


『このズァーク?…………拾い物だよ。昔のワンオフ機体、悪名高い機体だ。脅しにもなる』


『おい、パラガス。坊ちゃんはやめてくれ。……坊ちゃんも、ズァークも。僕には重荷だよ』


 シチュエーションごとにセリフを読み上げていく。もう少し怒りの感情を込めて、とかでリテイクを受けたセリフもあったけど、基本は問題なかった。とちったりもしなかった。

 傭兵でありながら僕という一人称。報酬はしっかりもらうものの結構なお人好し、でも戦場では容赦ない。敵パイロットに情けをかけることもしない上に、主役機のズァークに複雑な感情を持っていることが示唆されている少年。

 なかなかにアンバランスな少年を演じ切った。台本のセリフも読み終わったのでお礼の言葉を言って退室しようと思ったんだけど、その前に僕の苗字が気になっていた人に質問をされた。


「あー、間違ってたら悪いんだけど……。もしかして間宮沙希君だったりしないかい?」


 子役の頃のこと、知ってる人だったか。うーん、気付かなかったな。どこの現場で会った人だろうか。

 バレてしまったら隠すつもりもない僕は正直に答える。


「えっと、はい。芸名を変えまして。今では光希を名乗っています。どこでお気付きに……?」


「ああ、やっぱり。演技の感じがそっくりだったし、年齢が同じで苗字も同じならね。私は『駆動戦士ズァーク 策謀の大地』に音響で参加していて。今はこの作品の音響監督だ」


「そうでしたか……」


 僕が子役の頃参加した作品だ。現地民の少年役をやってたけど、そのことを覚えている方がいただなんて。

 僕のことを説明する前に、全員が『策謀の大地』のことを知っていたからか理解が早かった。ああ、あの役をやってた子役、と納得されたのはさすがプロフェッショナルだと思った。同じシリーズの作品は網羅しているんだろう。

 また会えて嬉しいよというお言葉を頂いて退室となった。これってどうなんだろう。一応社長に連絡を入れよう。


「あ、琴音?上手くいったの?」


「え?……社長、すみません。光希です」


「あらごめんなさい。画面も見ずに電話に出ちゃったわ。どうかしたの?確か今日オーディションでしょう?」


「はい。そのことで」


 製作陣に子役だったことがバレて肯定したことを伝えると、流山社長は気軽に言ってくれた。


「まあしょうがないでしょ。子役だった頃の代表作なんて声優じゃプロフィールに載せないし、声優としての実績は何一つ偽ってないんだから。というか、アニメ業界でアンタのこと気付けるのは稀よ、稀。吹き替えとかドラマとか特撮系だと話は変わるけど」


「ですね。あんまりない事態だったので一応報告しました」


「ありがと。まー、いくら知ってる子だからって今回のオーディションはコネで役をもらえるような作品じゃないし。結果を気楽に待ちなさい」


「はい。そうします。……あの、高芒さんは何かあったんですか?」


「んー?ただちょっとした一大決戦があるだけよ?」


「はい?」


 その意味はよくわからなかった。後日わかることだったんだけど、この時は本当に何もわからなかった。ちょっとした一大決戦ってなに、とツッコミはしなかった。

 ただ社長は楽しみだったようで、この時はオーディションか何かの結果待ちだったんだろうとか斜め上の予想をしていた。

 高芒さんのことを知るのはしばらく後のこと。


次も日曜日に投稿します。

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