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君に、声を  作者: 桜 寧音
三章 高校一年(六月〜)
47/73

1ー1ー3 文化祭準備と忙しさと

『星々』二話。

 『星々を巡る不思議な湖』の二話目。前回はW主人公の精神が入れ替わったところで終わった。女主人公の八代雪(やしろゆき)の身体に僕が演じるエスパシオの魂が。エスパシオの身体に八代雪が入り込んだところの続きになる。

 『星々を巡る不思議な湖』の収録に『パステルレイン』の全員が来るわけじゃない。話数によっては全然出番のないキャラもあり、その人達は来る理由もない。僕と東條さんは基本出ずっぱりだけど、どちらの世界かでキャラの出番は変わる。


 八代雪側の現代パートでいる人と、エスパシオの戦争パートでいる人が違うから今日はあまりキャストがいなかった。『パステルレイン』でモブを演じてくださっている声優さんはどちらのパートでもモブを演じるので僕と東條さんのように毎回来るけど、今日いる夢城さんは戦争パートでは来ないし、津宮さんや根本さんは日常パートじゃ来ない。

 確認から入って、収録の準備を始める。

 本当なら僕はエスパシオを演じればいいんだけど、この作品は特殊な録り方をする。原作に合わせた、というべきだろうか。


 『星々を巡る不思議な湖』はモノローグ、心の声が多い。しかも外見と中身が違うために中々にハードルの高い演技を求められる。

 東條さんは八代雪のフリをするエスパシオを演じ、心の声は東條さんではなくエスパシオである僕が演じるという振り分けになっている。物理的な話をしてしまうと八代雪の声帯は東條さんのものなんだけど、中身がエスパシオだからエスパシオの声を出した方がいいだろうと監督が考えたそうだ。


 視聴者からも中身はこんな感じなんだなとわかりやすいだろうし、僕と東條さんがそのキャラを演じる指標になりやすいから作品のクオリティを高めるためにも是非やりたいとのこと。

 そして、身体の演技と魂の演技で差を付けて演じている人は同じだけど本当に別のキャラなんだと示したいらしい。僕と東條さんへの要求がかなり高いけど、僕たちはプロだ。

 製作陣からの本当にやりたくないオーダー以外は聞き入れるし、それで作品が良くなるなら挑戦したい。そして年齢なんて考慮されないプロフェッショナルの世界だ。だから弱音なんて吐いたりしない。


 そもそも僕は三歳からこの世界で戦ってきたじゃないか。大きな要求なんて今更だし、むしろ信頼されているようで燃える。

 二話はエスパシオが八代の家に帰って目覚めるところから始まる。大きく伸びをして、制服に着替える時に嫌そうな顔をするところからだ。


『……本当に平和な世界だな。こんなにゆっくり眠れたのは初めてだよ』


『(選べなかったとはいえ、本当に女の身体じゃん。女になるのは初めてだな……。着替えとか、恥ずかしい)』


 そんなことを思いながら着替える。前日は疲れすぎて夕飯を母親と食べながら少し話し、お風呂に入ってすぐ寝てしまった。お風呂の際に一度その身体を見ている割りには純情なエスパシオだった。


『(慣れろ、慣れろ。もうこの身体は僕の……。ううん、『私』のものだから。少しずつ意識を変えていかないと、どこかでボロが出る。やっと手に入れた自由な身体を捨てるなんて勿体無いことはしたくない)』


 エスパシオは両頬を叩いて気合を入れる。自分の容姿と今の関係などをもう一度思い返し、これからも八代雪として擬態していこうと心の中から直していくことにする。


『(さあ、思い出せ。母親との関係は会話も少ない、仲もこじれているわけでもない。距離感を保てばバレないだろう。その間に位置を定める。学校とやらに行って、勉強をして。そこで友達とも適当に話してこの世界のことを調べて。少しずつこの世界に馴染んでやる)』


『……ッ!やっぱり一気に記憶をダウンロードしたらキツイな。今は長期記憶を優先して、人物記憶はその都度思い出せばいい。この世界は随分と元の世界と常識が違うみたいだからな……』


 制服に着替え終えて食卓に行く。母親とはおはようと言うだけの接触で終わる。

 学校へ行く道中で、エスパシオはボソッと呟く。


『人を殺したら犯罪なあ。秘匿技術を盗んだわけでもないのに大袈裟な。そんなに人間の命が大事?僕みたいな異能持ちでもないんだし』


 そんな世界観の違いを漏らす。

 そこでシーンが終わりで、音響監督のカットが入る。


「うん。大丈夫です。東條さんもこの時はまだエスパシオらしい語りで良いですよ。間宮君もエスパシオの感じOKです。降谷さんも母親大丈夫ですね」


「ありがとうございます」


 降谷さんは今日、たったこの「おはよう」だけのために来ている。『パステルレイン』では教師役で参加している四十代の女性声優で『パステルレイン』の現場が若い人ばかりなので珍しい年齢層の人だったりする。『パステルレイン』で他に年齢を重ねたベテラン声優さんは「亀谷」さんに仕える執事役の方と、野球部の監督役の方だけ。

 あとは年齢を重ねているキャラでも誰かの兼ね役でどうにかしている。


「というか、降谷さんさっきのテストで音声大丈夫なので今日は上がっていただいて大丈夫ですよ。『パステルレイン』の方でも出番がないので、これ以上引き留めるのが悪いと言うか……」


「あ、そうですか?なら後ろも詰まっているのでお先に失礼します。皆さん頑張ってくださいね〜」


「お疲れ様でした」


 そんな緩いテンションで帰っていく降谷さん。今でも女子中学生役をしたりする方なのでスケジュールがキツキツなのだろう。話には聞いていたけどテストで一発OKだったら上がらせてもらえるって本当にあるんだ。そのことに感動した。

 重要な役だけど本当にセリフが少ない役をベテランの方がやるとテストだけで帰るということがあるらしい。凄いレアケースだから噂の真偽がわからなかったけど本当だったみたいだ。


 降谷さんが帰るというイベントがあったものの、テストは続く。

 学校に行って亀梨さんが演じる親友と少し話して。授業中は授業の内容を聞きながらこの世界の知識と常識を再確認していき。体育の時間になった。

 体育ではテニスをやることになり、しかもこの日は試合をする日だった。


『(あー、まずい。本人が知り得ないことは『私』にもわからない。このラケットってやつであのボールを弾いて、あの線の中に入れればいいってこと?二回ボールがバウンドしたらこっちの得点、白線にボールが入らなかったら相手の得点。遊びなのに複雑だな。娯楽があるなんて羨ましい……。ああ、いや。もうこの全部が僕のものだ。羨ましがる理由はないか)』


 二人一組でチームを組んで二対二で試合を行うダブルス。そのダブルスでエスパシオと夢城さんが演じる親友Aちゃんが組んで試合に臨むことになる。夢城さんが演じる女の子に名前はない。だから親友Aちゃんと誰もが呼ぶ。

 試合をする際に、エスパシオの常識が出てしまう。


『(こんなの、ボールに追い付く時に体内魔力を操作して身体能力を強化すればいいだけじゃん)』


 その考えの通りエスパシオは一人でどんどん得点を決めていく。超人の身体能力ではなく、一般人に紛れ込むためにちょっと動ける程度に調整して動いた。

 それは孤島にある小さな学校だからこそのチート。同級生なんて男女合わせて十人くらいしかおらず、男女合同で体育もやる。

 エスパシオの動く速度が異常だったとか、サーブがめちゃくちゃ速かったとかではなく。ただボールを追いかけるのが得意で、ボールを返したらそれが取りづらい場所なことが多くて、そんな偶然が続いてエスパシオは無双を続けていく。


『そこ!』


 返したボールが綺麗に相手二人の真ん中を通過していく。それが決着のショットだった。試合終了のホイッスルを体育教師が吹く。


『ゲームセット!四人ともお疲れさん。見学して待ってろー』


『雪凄くない⁉︎あんなに動けるなんて知らなかったよ!』


 親友Aちゃんがエスパシオに抱き着いてキャーキャー言う。ボディタッチに慣れていなかったエスパシオは色々と感じてしまって顔を真っ赤にしながら今の言葉を考える。


『(距離感が、近い!女同士ってこうなのか⁉︎それにさっきの試合なんて僕の未熟な魔力操作じゃあれが精一杯だっただけっていうか……。ん?そもそも誰も魔力なんて使って、ない?)』


 そこでようやく魔力という存在がこの世界で確認されていないと気付いて、自分の常識が崩れたところだった。周りにはバレていない様子だったが、冷や汗ダラダラだった。


『(バレてないならいい、かな?それにさっきのテニスってやつは楽しかった。……ああ、そっか。これが楽しいってことか。……バレない程度には、魔力を使ってもいいよね?)』


 そんな悪いことを考えて、二話は終わり。日常パートはこんな感じで進む代わりに、戦争パートはかなりシリアスだ。

 特に修正も入らず、感情がもうちょっと欲しいとかそんな小さい追加の要請があったくらいで本番も順調に収録が進んだ。『パステルレイン』で一緒に仕事をしているキャストとスタッフなのでもう色々と慣れてきたために収録は本当にスムーズだった。一クール分収録で一緒だったから、気分的には二クール目をやっている感覚だ。


 僕は声優としてそんなに長いレギュラーがなかったから初めてのことだけど、子役の頃のドラマの撮影と同じ空気だった。長く仕事を一緒にすれば連帯感も芽生える。相手のこともわかってくるので求めてくることやタイミングなども理解し始めて本当に仕事がしやすかった。

 『星々を巡る不思議な湖』と『パステルレイン』の間のお昼休憩でキャスト全員でファミレスにご飯を食べにいくことになった。『パステルレイン』が終わった後だとラジオとかの他の仕事が入っていたり、モブの人はそれこそ野原さんのようにアルバイトが入っていたりするのでじっくりと話す機会もなかったので色々と話が聞けて良かった。

 そんな食事に行った話を、スタジオに来ていた根本さんに東條さんが自慢していた。


「いいじゃろ〜。みーくんと一緒にお昼しちゃったんだよぉ?」


「ハルちゃんばっかりずるい〜!みーちゃん、次の『星々』の収録があったら一緒にご飯行こうね!」


「それは良いですけど、全員でですよね?」


「それはもちろん!」


 なら結局東條さんもいるんじゃないだろうかと思ったけど、口にはしなかった。何を張り合っているのかわからなかったし。

 でも根本さんが元気になったようで良かった。前回みたいなリテイクもなかったし。

 この日の『パステルレイン』の内容は恋する乙女という無敵モードになったキララちゃんがもう脇目も振らずに綾人君にアピールをし始める。事情を知らない周りはブラコン発揮したなくらいしか思わなかったが、事情を知っている者からすれば本気を出したなという感じ。


 野球描写がメインで、綾人の大活躍がたくさん描かれた。キララの暴走している様子を奏太が溜息混じりに見たり。僕の出番はそれだけ。まあ、奏太もキララに告白しようかなと決心する最後もあったけどそれくらいだ。

 収録が終わった後、津宮さんと根本さんと東條さんと、来週の水曜日のことについて話し合う。


「みーちゃん、『ソラソラ』のリリース記念配信ってみーちゃんの家でいい?」


「やっぱり僕の家ですか……。良いですよ。ちなみにご飯は……?」


「できたら食べたいな!」


 三人とも頷いていたのでそういうことだなと理解した。

 なんか毎日仕事があって忙しいなと思いつつ、仕事があるなら嬉しいことだとも思った。


次も日曜日に投稿します。

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