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君に、声を  作者: 桜 寧音
三章 高校一年(六月〜)
46/73

1ー1ー2 文化祭準備と忙しさと

家族と女装の話。

 最近色々と忙しかったので、久しぶりに姉さんの家に向かった。恫喝事件のせいで心配されてしまったので木曜日の『スターライト・フェローズ』の収録終わりに立ち寄る。夕飯を一緒にする時間じゃなかったから本当に話すだけに寄ったようなものだった。

 今日の収録で個別ルートの収録は終わった。これからはメッシーナルートと最終ルートの収録だけなので台本の六割方を収録し終わった。メッシーナルートは本当にちょっとだけのセリフで、メインは最終ルートだ。メッシーナルートだと「エスポワ」は異形化して暴れて、死ぬ前にちょっとだけ理性を取り戻して終わりだから三ページもなかったりする。


 最終ルートはこれまでの登場人物全員と協力して本格化した宇宙からの侵攻に立ち向かうというもの。「エスポワ」も魔法を使ってエクレシアの道を切り開き、功労者の一人として活躍する。

 今のペースなら来週には収録が終わるだろう。まあ、そんな収録内容は姉さんにも鈴華ちゃんにも言えないんだけど。

 二人は夕飯を食べ終わってリビングでゆっくりしていた。今日もお菓子やアイスをお土産に持ってきた。それを嬉しそうに冷蔵庫にしまう鈴華ちゃん。


「光希。そっちは大丈夫?あたしも聞き取りとかされたんだけど」


「あ、やっぱり姉さんも?僕もたくさんされたよ。発端は声優業界だからね」


 主に当事者としてだけど。


「みっちゃんも聞き取りされたの?高校生がそんなことしたって『生意気だ』で終わりじゃない?」


「僕がしたんじゃなくて、されたんじゃないかって方でね。当時女子高生だった声優にデートの強要をした脚本家がいて、その人捕まったよ」


「うわー。ヤバイね、芸能界って」


 早速買ってきたエクレアにパクつきながら鈴華ちゃんはそう言う。

 職種の中でも特に混沌としているものは芸能関係だろう。昔の芸能界なんて本当に治外法権だったらしいし。大御所の一言はプロデューサーやディレクターよりも重かったとか。

 声優業界だって似たようなことはあったはずだ。それがやっと表沙汰になっただけ。


「裏取りばっかされてて収録が全然進んでないのよ。あたしからすれば脚本の書きだめができるからどうでもいいんだけど」


「……姉さんはそういうの、大丈夫だったの?」


「二・三人そういうバカはいたわよ?すぐに会社の上司に言って守ってもらったからなんともなかったけど。あたしも結局は雇われの契約だからね。そういうのから守ってもらうのも契約の内だし」


「いたんだ……。ホント気を付けてね?」


「あたしは良いのよ。結婚する気もないし、そういう関係を迫ってくるだけで生理的に受け付けないし。アンタはまだ高校生なんだからちゃんと会社やマネージャーに守ってもらいなさい」


 姉さんは鈴華ちゃんの父親関連のことで結婚とか恋愛とかする気は無いらしい。だからデートとか枕営業を強要されたらもうとにかくNoと言えるのは強みだろう。

 そういうことをしないと仕事がもらえないなら、脚本家に見切りを付けるとまで前に言ってた。

 僕も立場は弱いから守ってもらいたいとは思うけど。


「ウチってマネージャー、一人しかいないから。社長以外にも一人女性声優がいるから、マネージャーさんは基本そっちについちゃうよ」


「まだ松村さんしかいないの?人員増やさないとまずくない?」


「社長が募集始めたって。事務員さんもパートの人しかいないから、そろそろ人手不足で事務関係が回らないとかって言ってた。事務所が軌道に乗り始めたとも言ってたけど」


「高芒さんはデビューしてからトントン拍子で役を貰ってたし、最近野原さんも名前を聞くようになったものね。アンタも忙しそうだし、事務所としては良い傾向じゃない?」


 姉さんは僕を心配してか、ペパームーンについてかなり詳しくチェックしている。全員のSNSをフォローして、何かあったら仕事用のアカウントで普通につぶやいている。

 それと父さんと一緒に名義を貸してもらっているので松村さんとも仲が良い。子役の頃からの知り合いだというのも大きいと思う。


「実際良いと思うよ。僕も今レギュラーが二本あるし、ゲームとかの収録もあるから結構忙しい。社長は言わずもがなだし、高芒さんも安定して役を貰ってる。野原さんも結構サブをやるようになってきて忙しそうだよ」


「良い事務所に拾ってもらえたじゃない。学校にはちゃんと行ってるの?」


「……それが、収録の関係で火曜日と金曜日は半休かな。金曜日は全休する時もある」


「えー!みっちゃん不良だー!」


「仕事だから不良じゃないよ⁉︎」


 鈴華ちゃんに謂れのない暴言を吐かれた。僕は仕事人間なだけだ。

 幼少期からずっとそうなだけで、学生なのにほとんど学校に行ってないだけ。ちゃんと学校に行ってる鈴華ちゃんからすれば不良だろうけど、こっちにだって事情がある。


「それがレギュラー二本?進級の単位足りるの?」


「テストの点数でどうにかしろって学校からは言われてるよ。ノートのコピーはクラスメイトに貰ってるし、先生からも課題プリントを持たされるから」


「光希、頭良くないじゃない。そんなので点数しっかり取れるの?」


「……ガンバリマス」


 そう、僕は自慢じゃないけど頭が良くない。ほとんど学校に行ってなかったから勉学の基礎がないために、中学校は本当に苦労した。怪我をして退院してからオーディションを受けつつめちゃくちゃ頑張ったから今の高校に入学できたけど、正直高校の勉強は難しい。

 火曜と金曜の午後が一つずつ国語なために、得意科目だからなんとかなってる。でもこれ以上休みが増えると本気でまずいと思う。

 僕の地頭が良ければなんとかなったのかもしれないけど、地頭も良くない。一回授業を聞いて全部理解するなんて無理だ。だからテスト前はかなり復習しないとマズイだろう。


「高校だけはなんとか卒業しておきなさいよ。でも芸能学校とか行かなくて良かったの?ああいう場所なら融通効くでしょ?」


「高校に上がってすぐでこんなに忙しくなるなんて思ってなかったんだよ……。それに声優で芸能学校行ってる人は少ないからね。選択肢には入らなかったかな」


「ふうん?まあ、頑張りなさい若人よ。今のアンタは楽しそうだから何も心配してないし」


「楽しいよ。文化祭ももうすぐだし、声優って高校生役が多いだろうから実際に過ごせるのは糧になるだろうから何でも貪欲に吸収しようと思ってるよ」


「あ、みっちゃんの文化祭もうすぐなんだ。いつ?」


「一般公開は六月末の土曜日」


 普通の高校を選んだ理由の一つに、普通の学校生活を知りたかったということもある。男性声優なんて四十過ぎても高校生役をする。そんなに長い間こなすかもしれない立場を直接経験できるならこれからの演技に生きるだろうと思って選んだ。

 まさか高校生になる前に高校生役をやることになるとは思わなかったけど。


「何するの?高校生の文化祭って何でもやるよねー。バンドとか劇とか飲食店とか!」


「僕のクラスは男女逆転喫茶だって」


「ぶっ⁉︎光希、女装するの⁉︎あはははは!鈴華、絶対に見に行きましょう!」


「おもしろそー。やっぱり高校生ってすごいね」


「何故かクラスのみんながノリノリなんだよね……。面白いじゃなくておかしいよ」


 姉さんは大爆笑。鈴華ちゃんは普通に面白がってる。

 女装って普通は罰ゲームだよね。


「あー、光希が女装するのって『()ザサレシ金華猫(きんかねこ)』以来?」


「そうだね。あれ以外で女装したことないよ」


「え?みっちゃん子役の頃に女装なんてしてたの?」


「鈴華、後で見ましょうか」


「いやー、アレは鈴華ちゃんには刺激強くない……?対象年齢考えてもやめた方がいいって。眠れなくなるよ」


「え、ホラー系?」


「猟奇殺人の話」


「パスパスパス!写真だけで良い!」


「ちょっと待ってねー」


 グロ系だとわかった瞬間に鈴華ちゃんは首が千切れるんじゃないかと思うほど横に振る。鈴華ちゃんはホラー・グロ耐性がないからしょうがない。僕と姉さんは現場で慣れてしまったというか、なんというか。グロい画の現場なんてどれだけあるんだって話だし。

 姉さんはDVDじゃなく、スマホで僕の画像を探しているみたいだ。見付けたのか画面を鈴華ちゃんに見せる。

 エクステを付けてちょっと髪を伸ばした、ゴスロリドレスを着た僕。メイクをしているために少年っぽくはない。

 血糊が着いた写真でも、武器を持った写真でもなく、普通に街並みを歩いている場面切り抜きだった。黒い日傘を差して白い手袋をしてニーハイソックスを履いてパンプスまで履いている。どこをどう見たらこれが男に見えるんだって話だ。


「え、カワイイ!」


「当時何歳だっけ?」


「ギリギリ九歳だね。『破面ライダー』が十歳でその前の作品だから」


「これは映像で見たいかも……」


「オススメはしないかな。現場血糊ばっかりだったし」


「……もうちょっと時間が経ってから見ようかな」


 僕の言葉ではしゃいでいた鈴華ちゃんが一気に消沈した。

 原作からしてそうだったけど、よくアレ映像化できたよなあ。年齢制限かかってるのにキャストの僕がその年齢以下なんだから。終わり良ければすべて良し、なんだろうけど。


「文化祭はここまで本格的にはしないよ。お遊びだし」


「プロが本気でやった男の子に見えないように施した衣装とメイクなんだから、これに迫るレベルを学生がやったら即スカウトされるわよ。ウィッグとか付けるの?」


「さあ?まだ全然詰めてないよ。僕も忙しいから進捗情報全部把握してるわけでもないし」


「じゃあそれは当日のお楽しみにしておきましょうか」


 本当に外野は純粋に楽しめるイベントだよね、文化祭って。本人たちも楽しいのかもしれないけど、僕からすれば女装は罰ゲームってイメージでしかないから全然楽しみじゃない。

 役なら受け入れるし、今後仕事でエンタメのためなら全然受け入れるけど、お遊びでやるのはなんか違う気がする。正直乗り気にはなれない。

 電車の時間もあるし、今日この後は『パステルレイン』と『星々』の台本チェックをしたかったのでそろそろ帰ると告げると、姉さんが僕を呼び止めた。


「光希。アンタがやったことは芸能界を巻き込んだかもしれないけど、絶対に良いことだったわ。当事者の女の子も救われて、過去に受けた人も声を上げられて、将来そういう目に遭うかもしれない人を守ったの。だから誇りなさい。あなたはたくさんの人を守ったのよ。あたしや鈴華を助けたみたいにね」


「…………知ってたの?」


「結構横の繋がりはあるのよ。頑張ったわね、『殺戮の歌姫(プリンチペッサ)』」


「そこで殺人鬼役の異名を持ってくるのはどうなの?それに『百目鬼真央(どうめきまお)』は殺人鬼として凶弾に倒れたよ?」


「『真央』は殺人鬼だけど悪役じゃないじゃない。短絡的思考で殺人に走ったし、それこそ惨たらしい死体を量産したけど。救われた人はいるわよ?」


「まさかそう繋げてくるとは……。……うん、ありがとう。姉さん。DVDある?ちょっと見返したいんだけど」


「良いわよ」


 タイトルを言わずとも『()ザサレシ金華猫(きんかねこ)』のDVDをくれる姉さん。

 電車で家に帰って、お風呂に入って台本チェックをもう一度してからDVDを再生する。たった二話のゲスト出演。

 今では僕ができない、アクションをこなす九歳の僕。ゴスロリファッションで男の人を殺していく。時には腸を引き摺り出し、時には四肢も首もバラバラにして。トイレに死体を突っ込んだり、バスタブの中で熱湯によって死体を溶かしていたり、完全に密閉した部屋で暖房をかけることで二週間以上放置することで身体を融解させたり。


 それを口角が上がりきった、狂人の表情で淡々とこなしていく僕。普段はゴスロリなのに、殺人の時だけはワンピースに着替えて殺し終わったらまたゴスロリに着替えて現場を去る。

 そんな特徴的な格好だから監視カメラによって存在がバレてしまう。そこを主人公が所属するチームに捕捉され。

 最後の殺人の後、主人公たちと無駄な殺し合いが始まる。


『ハハハハハハ!おじさんたちは対象外ィ!剣の錆にもできないなぁ!全部終わった後に来るなんて、おじさんたちって無能なの〜?ザ〜コ、ザ〜コ♡』


『この、クソガキが!』


『キャハハハハハ!当たらない、当たらない当たらないねえ!おじさんたちってポリス?ポリスだったら八つ当たりしても良いよね?うん、良いって今決めた。わたしって無駄な殺しはしないんだけどぉ、ポリスは例外‼︎あなたたちって正義の皮を被った悪だもの!頭の足りない偽善者なら、殺しても良いよねぇ⁉︎良いでしょ、マリア、キャシー、リアス、サトミ、カヤ‼︎』


 十対一なのに拮抗する戦い。

 均衡を崩したのは『真央』の攻撃。剣が当たる距離まで近付いて左腕を斬り飛ばす。

 そんなこと彼にとってはいつものことなのに、相手が警察だと思っている相手の左腕を斬り飛ばしたことで彼は一気に後ろへ飛び下がって、頭を抱える。


『待って、ポリスを殺したらまた僕たちは悲しむの……?嘘だ、嘘だって言ってよ誰かぁ!わたしは、僕は⁉︎あと誰を殺せば良いの⁉︎誰が悪いんだよぉ⁉︎誰か、教え──』


 突然発狂し始めた彼の様子に誰もが手を止めたが、冷静だった斬られた人物が右手の拳銃を放つ。それは『真央』がどの服装でも着けていた首のチョーカーを切り破り、そのまま頸動脈を傷付けたのか左肩に近い場所から大量に血飛沫を放って、弾丸の衝撃のまま後ろへコテンと倒れる。

 それが致命傷だったのか、『真央』は剣も落として右手を天井へ向けた。虚ろな目で、そこに誰かがいてほしいかのように言葉を呟く。


『……ねえ、寒いよぉ……。ずっと、ずっと寒いんだ……。何で誰もいないのぉ……?置いて、いかないでよぉ……』


 それを最期の言葉に、『真央』は動かなくなる。

 結果的に一人の左腕以外は大きな傷もなく、事件は終わる。

 何故彼がこんな凄惨な事件を引き起こしたのか。依頼主が外国にいて、その依頼主を問い詰めると『真央』が事件を起こした理由が明らかになる。

 彼がいた孤児院は突如マフィアに襲われ、子供は児童趣味の変態に買い取られたり、それこそ中身ごとバラバラにされたこと。


 彼はたまたま持っていた暗殺の才能でその場を抜け出し、関係者を全員殺す復讐者になったこと。マフィアは壊滅させ、日本に残っていた取引先の人間を殺して回っていたこと。

 殺人は殺人だ。だが今まで主人公たちが関わってきた相手は殺しても仕方がない悪人だった。

 だが『真央』は巻き込まれて、その道に進むしかなかった少年だった、そして事件全てを洗い出しても本当に関係者しか殺しておらず、目撃者などは殺していなかった。


 警察に恨みを持ったのは、公的機関たる警察がちゃんとしていればそもそもマフィアによる事件が起きなかったと思ったから。

 この話をちょうど一クールの間である六・七話に持ってきたことで『()ザサレシ金華猫(きんかねこ)』は話題になったらしい。ただの勧善懲悪の物語じゃないんだぞと示した話で原作でも好きなエピソードとして挙がっているらしい。


「この時の僕がこれだけできたんだから、今はもっと頑張らないとなぁ」


 ドラマを見終わると既に午前二時を過ぎていた。でも負けていられないと思ってもう一回台本を開く。

 明日は学校を全休して朝から収録だ。学校に行く時間よりは少し遅くまで寝ていても大丈夫だ。一応アラームを十分置きにいくつもセットしておいて、三時半には寝た。

 次の日、眠いながらもちゃんと起きれた。さあまずは『星々を巡る不思議な湖』からだ。


次も日曜日に投稿します。

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