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君に、声を  作者: 桜 寧音
三章 高校一年(六月〜)
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1−1−1 文化祭準備と忙しさと

放課後の採寸。

 六月になって段々と僕は忙しくなってきた。『スターライト・フェローズ』の収録に火曜日の『グラナダの浸食』。金曜日の『パステルレイン』と『星々を巡る不思議な湖』。レギュラーが二本に増えて定期的に収録しなくちゃいけないゲーム収録もある。これは嬉しい悲鳴だった。

 ここに学業と文化祭が加わってくるんだからそれはもう忙しい。スタジオの空き状況の関係で水曜日くらいしか放課後は空いていなかった。そしてそんな空いている日はもちろん文化祭の準備に充てる。これくらいしないと帰宅部としては申し訳なかった。


 他の人は部活動をしながらも文化祭の準備をしてくれているんだから。僕も仕事で放課後どころか日中から姿を消しているんだけど、その事情を知っているのは先生方とクラスでは二人だけ。いくら足のリハビリということになっていても、ここまで休みが多いと怪しまれる。

 火曜日と金曜日は確定で半休。放課後は基本直帰。これで文化祭の手伝いもしなかったら本当に悪い奴にしか見えない。だから水曜日と土曜日は必ず文化祭の手伝いをすることにした。


 今の所土日の内どちらかはオーディションとか仕事が入ることはあるんだけど、イベントとかは当分ないしそこで収録しようという話にもならないから拘束時間は短い。文化祭の準備も日曜日にまで集まろうという話にはなっていないので土曜日に学校に来ればいい。

 土曜日とかは買い物に行くようで、平日は教室の内装を飾るための装飾品作りとか、メニュー表を作るらしい。ホールの人がこの辺りは用意するらしいので僕も手伝う。


「テーブルクロスとかはどうするの?百均?」


「その辺りは土曜日に買い出しに行ってみて考える。今は折り紙で装飾作りかな」


「誰か、メニュー表の良いデザイン案ない?なんか手書きの方がぽくないか?」


「女子の丸文字がいいんじゃね?」


 そんな感じで教室内は結構騒がしい。僕は与えられた仕事の折り紙というか、セロファンカラーフィルムを使ってステンドグラス風の窓につける中を見られないようにするための暗幕を作っている。暗幕で呼び名は良いんだろうかって思うけど、文化祭だから気にしない。

 ただ真っ暗にしたら雰囲気がないからと、おしゃれな感じにしようって話になってこんなことをすることになったらしい。僕はドラマとかに出てくる教会のイメージで良いのかなと思ってスマホで参考資料を画像で用意して、それと同じようなものをフィルムを重ねて作っていく。


「へえ。間宮くんこういうことやったことあるの?すっごい器用だね」


「やったことないよ。知り合いの人がこういうものを作るのが上手で、それを横で見ていたことはあるけど」


 ドラマや映画の小道具スタッフさんって監督とかキャストからこういうものが欲しいって言われたらその場ですぐ作ったりしちゃうんだよね。子役時代の休憩中とかにそういうのを見ていたからなんとなくこうしたら良いのかなってわかるだけ。

 そんな感じでクラスメイトの女子と一緒に作っていく。男子はこういう細かい作業は嫌だと思ったらしくて折り紙を折っている。折り紙だって細かい作業だと思うんだけど、こっちの作業よりはマシだと思ったのかもしれない。


「あ、間宮くん。ちょうど良かった。今日いるなら採寸しようか」


「水越さん。衣装班だっけ」


「そうそう。間宮くんはいついるかわからないから、いる日に採寸しておかなくちゃ衣装の用意もできないから」


 作業中に水越さんに話しかけられた。そういう理由ならと作業を一旦任せて空き教室へ向かう。文化祭の準備のために準備室とかを借りられるらしいんだけど、いつ借りられるかはクラスで文化祭実行委員会に申請して通ったら使えるのだとか。

 そんな空き教室に行って、足の長さとかをメジャーで測られる。身体測定でもそこまで調べないもんなあ。


 ウエストなどを測られるのは結構恥ずかしいけど、仕方がないことだ。同い年の女子にお腹を見られるのはなあ。子役の頃はそれこそ衣装さんに散々調べられたから抵抗自体はないんだけど、それは相手が大人の女性で仕事だったから。

 文化祭のためにここまでされるとは思ってなかったから恥ずかしいなんて感想が出てくる。


「足のサイズは?」


「24.5だね」


「スカート、ロングとミニどっちが良い?」


「できたらロングの方が良いな」


「タイツのために臑毛って剃ってもらえる?」


「あ、僕そんなに臑毛生えないんだけど……。産毛も剃った方が良いんだよね?」


「え、嘘⁉︎ちょっと見せて⁉︎」


 質問をバインダーに挟んだ紙に書いている時に、臑毛の話題になって確認をされた。ズボンをめくってその証拠を見せる。僕ってヒゲも脇毛もそうだけど、あんまり生えてこない体質なんだよね。髭剃り買ったのにあんまり使っていない。

 実際に見せると水越さんは絶句していた。


「え?仕事で処理したとかじゃないよね?」


「うん、全く。ずっとこんな感じだよ」


「へぇ〜。あ、でも産毛も剃ってほしいから覚えておいて。タイツ履く時は連絡するから。やり方は大丈夫?」


「その辺りは芸能界だからね。ケアの方法はわかってるよ」


 身体を張る企画とかもあるから身体のケアについてはかなり周知されている。声優も動画とかに出るようになったからメイクとかは情報共有されている。

 で、なぜか男性声優は女装の機会が多いためにムダ毛の処理の方法も伝授されているわけだ。


「じゃあ質問の続きね。ウィッグつけるとしたらどんな髪型の物がいい?」


「髪型はあんまり拘りないから。多分全員分のウィッグは用意しないだろうから何でも良いよ」


「……セミロングくらいが似合いそう」


「髪は伸ばしたことないからわからないなあ」


「でも探偵もののドラマで猟奇殺人犯の女装少年やってたよね?」


「あー……。やったやった。『()ザサレシ金華猫(きんかねこ)』の『百目鬼真央(どうめきまお)』役だね。あの時は耳を隠すくらいのエクステだったけど」


 よく覚えてるな、水越さん。『破面ライダー』の少し前くらいに撮った作品だ。あれ探偵ものというより狂気殺人を繰り返す事件に巻き込まれた可哀想な主人公が事件を目にしてしまうだけで推理要素は一切ない作品だ。

 犯人はほとんど捕まらないし、死ぬか逃げられるかのどちらかだった。僕の役は死んだけど。ガンアクションとかたくさんあった作品で、原作が青年誌の伝記物だったはず。


 僕はその役をやったおかげでアクションが大丈夫だと思われて『破面ライダー』に抜擢された作品だからよく覚えている。細い剣を持ってナイフを二本も指と指の間に挟んで振り回す役は面白かった。

 悪い笑顔もいっぱいできたし、役の幅が増えたと思う。子役で悪役をやる機会なんてほとんどないからね。

 むしろ僕はその作品と『破面ライダー』のせいで悪役がめちゃくちゃ増えた。雄大と一緒にバディを組む時は正義側とか普通の子供役で逆に新鮮だった覚えがあるな。


「『()ザサレシ金華猫(きんかねこ)』って確か映像媒体だとR17付いてなかったっけ?」


「買ったのはお母さんだからセーフ。お母さんがあの作品好きで原作漫画も持ってるんだよ。あたしも最近見た」


「……探偵要素ないでしょ」


「あれ?主人公って探偵じゃなかったっけ?」


「あー、そっか。日本政府から表の身分は探偵にするってことにしてたんだっけ?でも結局名目だけで拳銃で戦ってたし」


「そうかも。探偵らしさはないかな」


 水越さんは僕の出ていた作品を多く見ているからか、二人だと凄く話が合う。冬瀬さんは僕のファンという目線がまず来て、その上で声優としての僕しかいないから僕について語れる作品は少ない。

 水越さんは僕のファンじゃなくてドラマとか作品のファンという目線があるから僕に対する評価や目線はフラットだ。それに水越さんは雄大さんのファンだし。

 僕が接するとしたら水越さんの方が気楽だ。ファンの熱量をそのままぶつけられるというのは結構疲れる。それは子役の頃から変わらない。


「あの作品、お母さんが褒めてたよ。間宮くんは真央ちゃんをやるために産まれてきたのかもしれないって」


「大袈裟だなあ。でもファンレターでそういう声もあったかも。あそこから悪役増えたからよく覚えてるよ」


「悪役ができる子役ってほとんどいないからね。今も全然居ないんだよ」


「それ、姉さんも言ってたよ。声だけ声優さんに任せて子役に口パクさせて誤魔化してる作品もあるんだけど、映像作品としてはクオリティが低くなるから嫌だって。なら無理に子役に変な役をやらせなければいいって言ってた」


「すっごくわかる〜。だから漫画とかの実写化って反対意見多かったり、難しいって言われるんだよね。間宮くんが子役の頃に映像化された作品は時期が良かったんだよ」


 まあ、僕以外にも雄大とか他にも上手い子役は何人かいたから、子役が使いやすい時期だったのは事実だと思う。僕たちはホント現場からも作者からもファンからも好評だったから実際あの時期に子役を使うような作品は好評だったんだろう。

 今も頑張ってる子役はいると思うけど、あまりそちら側に意識を向けていないから誰が僕たちの立場にいるのかすらわからない。まあ、日本は広い国だし僕みたいな凡才だけど頭のおかしかった子供も実例としていた。


 僕のようなおかしい奴よりもただただ才能の溢れた神童がいる可能性の方が高いだろう。子役だってかなりの数がいるんだし、きっと幾らかは天才子役と呼ばれるような子も出てくるだろう。

 悪役は、正直かなり難しいと思う。声もそうだけど、表情から立ち振る舞いから何もかも「ただの子供」と異なる。人生経験が短い子役にそんなことをしろっていうのが本来無理筋だ。

 それでも面白い原作があれば、脚本があれば。やらせるのが芸能界だ。


 そこでもし上手く演じてくれれば推した事務所の評判はうなぎ上り。その子を主力として売り出せる。もし演技が微妙でも、子役だからこんなものだろうとお客さんが我慢すればそれまで。

 正直芸能界の評価って色々と歪だ。

 演技を重要視して見るお客さんもいれば、大根役者でもその人が演じるなら見たいと考える人もいる。アイドルだろうが役者だろうが、下手でもルックスが良ければ我慢して見てしまいその人目当てで来場者や視聴者が稼げればいつまでも下手でも起用し続ける。


 だから、子供が下手なことは当たり前だと受け止められて終わりになってしまう。

 そんな状況が嫌で本当に下手な人は使わないという製作陣もいる。まあ、難しい話だ。利益を取るかクオリティを取るか。

 こんな話をしている内に採寸は全部終わったらしい。


「そういえば水越さんって僕の声優としての演技って聞いたことあるの?」


「ないよ?アニメは全然チェックしてないし、ゲームはやらないから。分野が違っても間宮くんなら上手いだろうし、美恵があんなにお熱なんだからその辺は心配してないよ」


「すっごい信頼されてるなあ」


「だって素性隠して今結構仕事あるんでしょ?凄いじゃん。美恵も喜んでたよ」


「まあ、その。あんまり文化祭の手伝い出られなくてごめんね?」


「仕事なんだから仕方がないじゃん。その分当日に可愛い格好をしてくれれば良いんだから」


「……頑張ります」


 そんな変な期待を受けて、教室に戻ってステンドグラスもどきの作成に戻った。教室にいられるのは六時までだったのでそれまでずっと作っていた。作り方は紙に書き出しておいたから僕がいない日でも作れるだろう。

 そしてこの日、冬瀬さんと初めて二人で一緒に帰った。こういう日でもないと冬瀬さんと一緒の時間に帰ることはない。いつもは収録かそのまま直帰なんだけど、六月とはいえ六時過ぎは暗くなっている。そんな状況で女子一人で歩かせるのはって話だ。


 いや、他のクラスの人はどこに行ったんだって話なんだけど。他の人たちはほとんどが後一時間くらい部活動に参加するらしい。運動部だろうが文化部だろうとそっちでの文化祭の準備があるとか。教室に居られるのが六時までで部活は七時まで許可されているのだとか。

 水越さんはバイトが逆方向らしく、他の用事がない人もなんだかんだ理由があって方向が違うのだとか。だから僕と冬瀬さんの二人になった。とはいえ最寄り駅まで行っただけでもちろん僕の家までは案内しなかったけど。

 もうすぐリリースされる『空を()くは天空騎士団』に僕が出ているということでその話題になった。


「『ソラソラ』事前登録したよ!『アセム』が星三みたいだから当たるまでリセマラするね!」


「リセットマラソンのことだっけ?頑張って。そっか、もう来週だ。最高レアリティじゃないから当たるとは思うよ。どんなガチャなのかよくわかってないけど」


「そうだね。事前放送の番組でもその情報はなかったね」


 根本さんが出た番組だ。

 あ、根本さんと『空を()くは天空騎士団』のことで思い出した。


「僕、リリース日に津宮さんと根本さんと東條さんでガチャ配信するんだよね。SNSで告知するから良かったら見て欲しいかも」


「へー。仲良いんだね」


「というか、弄られてるんだよね……。あの人たち、高校生が珍しいからって何をやっても良いと思ってる悪い人たちだよ」


 中旬って言ってたのに、十一日リリースだ。確かに中旬だけど。

 その日また、僕の家に来るらしいんだよなあ。またご飯をたかられそうだ。


次も日曜日に投稿します。

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