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君に、声を  作者: 桜 寧音
二章 高校生(五月〜)
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エピローグ後 金曜日の変化

『パステルレイン』十二話。

 『パステルレイン』の十二話。つまり一期の最後になる話だからか物語としても佳境というか重要な話であることが多い。一クールのアニメであれば最終話に当たり、キリが良くなるように話を畳めるようにする。複数クールでも同じように一つケジメをつけることが多い。

 複数クールでもクールが切り替わるとOPが変わったり、新展開になったりする関係で話は纏められがちだ。『パステルレイン』もそこは変わらず、一番の爆弾というか起爆剤が置いてある話だ。


 夏休みが近付くこの日。綾人の試合があるのだがそれは午後から。そのため休日だったこともあり奏太はキララに家の掃除をさせていた。毎日のように奏太も掃除をしているが、それだって限界はある。学生なのだから一軒家を完璧に掃除するのは不可能だ。

 奏太は学業に三人分の食事、風呂、洗濯、掃除と全部やっている。部活なんてやっている暇なんてあるわけがない。そして、全部を完璧にこなすなんて物理的に不可能だ。


 だから、キララへ応援に行くのなら掃除くらい手伝えと言ったのだ。奏太としても夏休みを全部家事に費やす気は無かったからだ。学校の宿題だってあるし、それこそ甲子園に綾人が行くのなら応援に行きたいし、遊ぶことだってしたい。

 奏太もまだただの高校一年生なのだ。遊びもしたい年頃で、家事に忙殺されるなんて御免被る。そんな心情をキララに零せばキララだって手伝う気になった。


 この家で誰もやらないから消去法的に奏太がやっているだけで、奏太だってやりたいことだらけだ。両親は海外出張、あと二人は家事が壊滅的。奏太がやらなければこの家は機能していなかった。

 そんなこんなで球場に向かう前にキララは掃除をする。奏太はキッチン周りを掃除していて、キララは押入れの整理をしていた。キッチン周りの掃除なんてできないだろうから、断捨離をするように言われていた。


『全く……。ソウちゃんはわたしのことなんだと思ってるのかな?何にもできない姉だと思ってる?』


『事実できないだろうが。捨てる前にオレに確認させろよ?』


『要らない物もわからないと思われてる⁉︎』


『家事一切やってない奴が、必要不必要の区別付くと思ってるのか?……それ、ゴミじゃなくて害虫駆除用の小物だからな?』


『へ?あ、うん!もちろんシッテタヨ⁉︎』


『マジで逐一確認しないとダメそうだな……』


 溜息をつきながらキッチンのこびり付いた汚れを落としている奏太。その姿はゴム手袋に三角巾にマスクという徹底した姿だった。

 キララもぶつくさ言いながら奏太に確認を取って捨てる物と残していく物を分けていく。そんな整理をしていくとキララは奥底に隠された段ボールを見付けた。キララは普段押入れの中なんて見ないのでこんなところに何があるのか知らなかった。


 中を見ないと何があるのかわからないので、キララは段ボールを開ける。ガムテープで止められているわけでもなかったので開くのは簡単だった。

 中にあったのは二冊ほどの小冊子。ピンク色と空色のそれを手に取る。何かのノートだろうかとキララが開くと、そこには写真が入っていた。

 写真に写っていたのは一人の赤子。それが誰かは、近くに貼ってあった付箋のおかげで簡単に分かった。


『綾人、3342g……。うわぁ、お兄ちゃんの赤ちゃんの時の写真かあ。そう言えば見たことなかったかも』


 初めて見た写真を興味深そうにキララは見ていく。両親が家に帰ってくるのは一年に一回くらいで、その時には家族の思い出と言ってかなり写真を撮る。それももっぱらデジタルデータで、写真を見返す時はデスクトップパソコンで見ることが通例だったのでちゃんとした家族写真を見るのは初めてのことだったキララ。

 綾人の写真ばかりを見ていき、綾人の首が据わった時の写真や、ハイハイしたり、壁に手をついて歩いたり、初めてママと発音した日などが事細かく写真と付箋によって彩られていた。母親のお腹も大きくなり始めたことを見て、キララは確信する。


『そろそろわたしが産まれるのかな?……え?』


 キララが開いた次のページ。そこに写っていたのは一人の赤ちゃん。そして付箋の文字を何度も見返すがそこに間違いなんて存在しない。キララの目が悪くなったとか、いきなり文字が読めなくなったとか、英語で書いてあるとかそんなことはない。

 震える声でその文字を読む。


『奏太、2875g……?え、わたしは……?』


 そこからキララがアルバムを捲るスピードは早くなる。どこをどう見ても仲の良い二人兄弟の様子しかなかった。二人で公園で遊んでいる姿。喧嘩した姿。幼稚園に通っている姿。キャッチボールをしている姿。四人家族が遊園地で遊んでいる写真。

 そこにはどこからどう見ても、キララという人物はいなかった。

 二冊のアルバムをめくって、どこにもキララはいなかった。綾人の小学校入学までの写真で終わっている。そんな六年分の思い出にキララが一切いなかったことに呆然として一切動けなかった。

 全然話しかけてこないキララのことが気になったのか、奏太が近付いていった。


『キララ、まさかサボってんじゃ……あ』


『……ソウちゃん、これ、何……?』


『何でそんなところに入れとくかな……。自分たちの寝室にでも置いておけよ。待った、キララ。今綾人に連絡する』


 奏太はゴム手袋を外して綾人に電話をする。綾人は練習中のはずだが、すぐに電話に出てくれた。


『奏太?お前から連絡してくるなんて珍しいな?』


『緊急の案件。キララが例のアルバム見付けちまった』


『え?あー……。まあ、バレたなら仕方がなくないか?』


『オレが説明しちゃって良い?』


『任せて良いか?正直あんまり電話を受けてる時間がない』


『分かった。今日は頑張ってくれ。この電話のせいで負けたなんてなったら許さない』


『それはキララに悪いからなあ。ああ、頑張るよ。じゃあな』


 それだけ話して電話は終わる。

 奏太はテーブルにキララを案内して、麦茶をコップに入れて二人の前に置いた。

 そして、説明をしていく。


『父さんが海外医療団なのは知ってるよな?』


『それは、うん。お母さんも看護師として付いて行ってるんだよね……』


『結論から言うと、キララは父さんが見付けた孤児だ。アメリカに住んでいた日本人夫婦の子供でオレたちとは血縁関係がない。とある銃撃事件で両親が亡くなっていて、孤児にするよりは良いだろうって引き取ったらしいぞ』


『……知らなかった』


『伝えてないからな。日本に来たお前は記憶が混濁してて、オレたちのことをすんなり家族として受け入れてたよ』


 この家の最大の秘密を伝えていく奏太。奏太は床下にある糠漬け用の穴に隠してあった金庫を開けて、そこからある書類を取り出す。

 それはアメリカの頃のキララの戸籍。


『ほら。……アルバムもこっちに隠しておけよとは思うけど、今更過ぎたことを言っても無駄か』


『……おかしいね。わたしの両親のはずなのに、全然知らない名前だ……』


『多分幼少期の記憶がごっそり抜けてるんだろ。……まあ、別に?血縁関係がなくてもオレたちは家族だし、むしろ血縁なんてお前にとっては邪魔だろ』


『え?』


『だってお前、綾人が好きなんだろ?兄妹じゃないんだから、好きになっても問題ないだろうが』


 今まで禁忌の恋愛だと思っていたことが、一気に普通のことに変わってキララはその現実についていけなくなっていながらも顔を赤くしていた。

 これからは綾人に好きと伝えても問題はないのだ。


『いや、っていうかな?同級生はともかく綾人の学年やお前ならこの事実に気付かないとおかしいんだぞ?』


『え……?何で?』


『本当にバカキララだな……。保健体育学び直せ。お前、誕生日いつだよ?』


『ここにも書いてあるけど四月十三日だよ?』


『で?綾人の誕生日は?』


『八月二十六日……。ちょうどわたしを倍にした日だから覚えやすいよね』


『そこで問題です。人間は妊娠してからどれだけの日数で産まれるでしょうか?』


十月十日(とつきとおか)だっけ……』


『お前と綾人、八ヶ月しか離れてないじゃん』


『……ああっ⁉︎』


 人間の仕組みからして兄妹であるはずがないのだ。この一家について詳しければこの矛盾に気付かなければおかしい。

 ちなみに。キララの親友の優奈はこの事実に気付いている。


『はい、バーカ』


『え、いや、ええ……?何で教えてくれなかったの……?』


『お前が完全に血縁だって信じ込んでるのに、オレたちが言えると思ってるのか?一応成人したら父さんが伝えるつもりだったらしいけど。……というより、保健体育を学んだら自然と察するだろうって思ってたらしくて、去年帰って来た時にまだ気付かないのかって呆れてたぞ』


『両親にもバカって思われてる……!』


 綾人ならまだオブラートに伝えるだろうが、奏太ならこの通り。

 事実気付く要素はたくさんあるので、事情を知っている者は綾人以外バカだと思っている。


『凄惨な事件の被害者だし、事実を伝えることで事件のトラウマがフラッシュバックすることを恐れたらしい。そんなことはなさそうだけどな』


『今の所は大丈夫みたい。……全然思い出せないなあ』


『辛い記憶なんて無理に思い出さなくて良いだろ。……もう掃除は良いから、球場に向かって良いぞ。綾人の活躍でも見てきて心を落ち着かせてこい』


『……うん。じゃあ行ってこようかな。なんだかんだ、ソウちゃんって優しいよね。他人のわたしに気遣いしてくれて』


『家族だって言ってんだろ。それに全員で気にかけてたんだよ。初めて会った頃のお前って本当に危なっかしかったんだから』


『そっか。……ソウちゃん大好きー!』


『なぁ⁉︎』


 叫んだキララは恥ずかしさを隠すようにダッシュで家から出ていく。残された奏太はズルズルと椅子からずり落ちていく。


『こっちの気も知らないで……』


「カット!」


 ここでAパートが終わる。そのため音響監督さんから声がかかって僕たちはマイクから離れた。

 今までは禁断の恋愛物語だったが、ここからは普通の恋愛だ。その転換点となる今回の話。

 特にトチることなく終わらせられたと思う。今回は本番だったけど、監督と音響監督が長めに話していた。どこか問題があっただろうか。


「明菜ちゃん。最後の『ソウちゃん大好きー』なんだけど、もう少し気持ちを抑えるというか、恥ずかしげに言った捨て台詞感が欲しいんだけど……」


「え?ダメでした?」


「まるで血縁じゃないってわかったから奏太に心移りしたかのような感じがあるから。悪戯心というか、今までの感謝というか。そういうのが欲しいんだけど、今のだと本気の告白のように聞こえて……」


「えぇー……。さっきよりはだいぶ抑えたつもりだったんですけど……」


「まだ恋愛感が強いかな。そこ以外は完璧だったから、そこだけ別撮りにして、休憩挟んでBパートに行きましょう」


 そこはリハの時も注意されていた箇所だ。根本さんが何回もリテイクを受ける場面なんて初めて見た。今までの収録では一回訂正を入れられたら次はちゃんとOKを貰っていたのに。

 珍しい姿になんて声をかけるべきかと考えてしまう。掛け合いの相手の僕も残った方が良いんだろうか。


「ほら、明菜ちゃん。もっと俺を愛してごらんよ」


「津宮さんじゃなくて綾人君ですー。……津宮さん大好きー。うーん、これも絶対違う……」


「え?俺ってそんなにどうでも良いって思われてるの?っていうか極端すぎない?」


「今私、ちょっと自分の感情が測れていないので。うぅ……。本当に嫌な目に遭った……」


 ああ、もしかして月曜日の事件のせいで恋愛観がおかしくなってしまったんだろうか。さっきの『ソウちゃん大好きー』はとても気持ちが篭っていて、津宮さん大好きーは無感情に近かった。

 中間でもダメだろうけど、この大好きってセリフは家族としてのありがとうって意味での大好きだ。

 とりあえず休憩に入って根本さんと話し合う。


「根本さんって兄弟いたりしないんですか?」


「一人っ子だから兄弟に対する親愛ってわかんないんだよね……。うーん、どうしよう?」


「奏太に近しい子って、明菜にとって誰よ?それこそみーくんとか?」


「みーちゃん?」


 東條さんの提案に僕の方を見る根本さん。でもすぐに首を横に振る。


「みーちゃんだと違うかなぁ」


「まだ知り合って数ヶ月ですからね。ずっと一緒だった奏太とは違うのは当たり前かと」


「ペットも飼ってないからなあ。ううん……」


「本気で悩んでるわね。こんなこと初めてじゃない?」


「今まで梨沙子先輩と一緒に暴走特急だけどリテイクの少ない若手声優で売ってきたのに……!こんなこと初めてだよぉ」


 悩む先輩の珍しい姿も、この前の事件のせいだと考えると僕は何も言えなくなる。声優業界としては矢吹がやらかしたということは広まっていても、その当日の被害者が根本さんだったというのはあまり広がっていないらしい。

 加害者を罰するのは当然として、被害者にはこれ以上の実害を増やさないようにするために箝口令が敷かれているのだとか。知っているのはあの現場にいた人たちだけ。


 色々と酷い二次災害が起きているなあと思いつつ。

 今も顔を真っ赤にして悩んでいる根本さんのフォローはできる限りしていこうと誓った僕の五月は終わっていく。

 高校に入ってから色々と起きているけど、芸能人の端くれとはいえ色々と起こりすぎじゃないだろうかと思う僕だった。


次も日曜日に投稿します。

感想などお待ちしております。あと評価とブックマーク、良いねも。

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