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君に、声を  作者: 桜 寧音
二章 高校生(五月〜)
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エピローグ前 金曜日の変化

収録前に。

 いつも通りお昼に早退して『パステルレイン』の収録に向かう。最近はとうとう僕の早退癖を訝しむ人が増えてきたけど、僕に直接文句を言ってくる人はいない。誰かに迷惑をかけているかと言われたらあまり迷惑をかけていないと思う。日直とかもやってるし、係の仕事だってやってるからね。

 ウチの学校は教室の清掃も業者が放課後にやってくれるので、掃除当番的なものがない。それも進学先に選んだ理由の一つだ。面倒なことは一つでも削っておかないと要らない不和のタネを産むことになる。


 学校にギリギリまでいたので制服のまま収録に向かう。これからの文化祭関連の準備で、なるべくなら休まないでほしい日を一覧表でもらっていた。そんな話し合いを昼休みにしていたのでいつもより学校を出る時間が遅れてしまった。

 文化祭は金曜日と土曜日の二日間でやるので、その前の木曜日もできたら早退しないでほしいとのこと。リハーサルなど色々やることがあるので一日居ることを推奨するとまで言われたら休めない。その辺りはどうにか前の週とかで収録をしておくしかない。


 これは社長と連携を取ろうと思ってすぐにメールを送った。

 スタジオに向かう途中で、後ろから声をかけられる。


「やあ、みーちゃん。今日は制服なんだね」


「津宮さん。今日は学校に残されたので。文化祭の予定があるから木・金であんまり休むなって言われたんですよ」


「あー。みーちゃんの学校は六月かあ。俺の学校は九月だったから早いなあ」


「九月ですか?確かにそんな学校もあるのは知っていますが……。準備大変じゃありません?」


「夏休みに集まってある程度進めておくんだよ。じゃないと九月の中旬くらいにやる文化祭には間に合わないからな」


 誰かと思ったら行き先が同じの津宮さんだった。マネージャーさんが一緒じゃなくて歩いているということは信頼されているんだろう。最近の騒動のせいで声優でもあまり一人歩きは推奨されていない。僕はマネージャーが松村さんしかいないから唯一女性の高芒さんと一緒にいることが増えた。

 社長も女性だけど、社長に手を出そうとする人は少ないから大丈夫だそうだ。


「僕のところも六月末なので今から準備をするみたいです。あんまり大変そうじゃないみたいですけど」


「みーちゃんのクラスは何やるんだ?」


「男女逆転喫茶みたいです。簡単な軽食と飲み物を出す休憩所みたいな」


「……あー、一般公開って土曜日だけ?」


「みたいですね。金曜日は校内発表だそうです」


「土曜日なあ。行けそうな声優多いなあ」


「え?まさか来るつもりですか?」


「日程次第では行きそうだなって思っただけだ」


 土曜日ってお昼に収録がなければあまり仕事を入れられにくい。イベントや生放送みたいなことが多い土日だけど、どちらかというと日曜日に集中しやすい。だから津宮さんの言うように土曜日って声優は休みを取りやすかったりする。

 でも知り合いに女装を見られるのは嫌だなあ。正直、姉さんや鈴華ちゃんに見られるのも嫌なのに。


「みーちゃんホールやるの?」


「それが、調理係やろうとしたら断られまして。今日みたいに早退するなら調理練習できないだろって言われちゃいました」


「あー、なるほど。じゃあ女装するんだ?」


「しますね」


「え⁉︎みーくんの女装⁉︎」


 良い声で大声で叫ばないでほしい。更に後ろを見ると東條さんが驚いた顔をしていた。僕たちに話しかけようとして近付いてきたら凄い単語が聞こえてきて驚いてしまった。そんなところだろう。


「おはようございます。東條さん」


「挨拶どころじゃないよ!みーくん女装するの⁉︎仕事で?」


「あ、いえ。文化祭の出し物で男女逆転喫茶をするんですよ。それで女装しなくちゃいけないらしくて」


「メイド服?セーラー?エプロンドレス?まさかチャイナ服?サリーだったりしない?いやシンプルにミニスカとかでも良いんだけど、チマチョゴリとかコルトとかポンチョとかアオザイとかティアンドルとか⁉︎」


「え、ええ?いや、まだ企画が通ったくらいなんで全然わからないです……」


 肩まで掴まれて揺らされながら答える。

 色々な単語を出されたけど、全然わからない。多分女性が着るような服の名称なんだろうけど、全然イメージが浮かんでこなかった。

 目の色が明らかに変わってるんだけど。


「遥香ちゃんってもしかして女装男子が好きな感じの残念な人……?」


「女装もいいですけど、男の娘も最高ですよ!あたし声優になったのって、自分でそういう子を演じたり、演じている瞬間に立ち会いたいからですからね!」


「へ、へえ……。東條さん、宝塚とかじゃダメなんですか?」


「アレは宝塚っていうジャンルだから。完全に別物だよ。みーくん、文化祭いつ⁉︎」


「六月の月末の土曜日です……。え、来るんですか?」


「今は奇跡的にスケジュール空いてる!行ける!」


 スマホを出して即座に調べ上げる東條さん。一ヶ月も先のことなんだから、イベントとかが入っていない限りスケジュールが空いていてもおかしくはない。

 だからって来るのか。


「写真で勘弁してくれたり……」


「いやあ、実物見たいねえ!」


「ですよね……。あまり期待しないでください。学生のお遊びなので」


 仕事でやるような本格的なものじゃないんだから、そんなに期待しないでほしいんだけど。

 結局三人でスタジオ入りすることになった。東條さんが一人で歩いていることに危険を感じなくもなかったけど、コンビニに軽食を買いに行くだけだったらしい。東條さんも例の一件のせいでほぼずっとマネージャーさんが付いて来るために、こういう買い物のためだけの息抜きが欲しかったんだとか。


 いくら見知っている人だとしてもずっと一緒は息が詰まるらしい。

 スタジオに入って挨拶をすると、もう何人かキャストは来ていた。スタッフさんも準備を始めていて、マネージャーさんたちもそこそこ集まっていた。目を光らせていると言ってもいい。

 根本さんも既に来ていて、僕たち三人に近付いて来たところを僕の顔を見て一瞬強張ったものの、挨拶をしてきた。


「三人ともおはようー。みーちゃん、学生服は珍しいね?」


「おはようございます。学校行事の関連で学校を出るのが遅れてしまって。いつもなら家に帰る余裕があるんですが」


「へえ、学校行事?この時期って何かあったっけ?」


「六月末の文化祭です。早退する分話しておかなければいけないこと多くて」


「明菜聞いてよー。みーくんってば文化祭で女装するんだってよ」


「え、ええ⁉︎もしかして劇とかするの⁉︎いくら払えば見られる⁉︎」


「文化祭なので無料です!劇とか、プロなんですからやりませんよ!ただの男女逆転喫茶です!」


 いきなりの大声に僕も大声で返してしまった。プロになった以上ボランティアとかだって声を使った何かをする際には事務所の許可がいる。そういうのは面倒なので部活とかは入らないし、劇とかだって外部ではやる気がない。

 真っ先に思い浮かぶのが学生劇というのはわかるんだけど、東條さんといい食い付きが良すぎじゃないだろうか。知り合いの女装なんて見たいかなぁ。


 それよりも気になるのはさっき僕の顔を見て表情を強張らせたこと。僕たちが顔を合わせるのも会話をするのもあの日以来だから、何か変化があったとしたらあの日以降にあったこと。それを僕は推察することができない。

 ただ。

 最初の挨拶の時に根本さんが仮面を被っていたことが気になる。明らかに素じゃなかった。女装の話をしたらその仮面も外れたけど。

 そんなコロコロ変わる表情に驚いて声が大きくなってしまった部分はある。


「男女逆転喫茶……?本当にやるところあったんだ。あんなのやるところあるんだねえ」


「男女どっちも許可しないと成立しないんだから、みーくんのクラスは酔狂だよね」


「……ですね、特に反対なく決まりましたよ。終始楽しそうでした」


「えー、俺女装は嫌だな」


「ですよね。僕がおかしいわけじゃなかった……。結構女の子は男装に拒否感なかったんですけど、そういうものですか?」


「ズボン履いてネクタイでもしちゃえば男物っぽくなるからねぇ。ぶっちゃけ長ズボンはあたしらだって日常的に履いてるし。女子は特に拒否しないでしょ」


 そういうものか。男子はスカートなんて履かないから、あんなヒラヒラの服を着るのは嫌だという気持ちがある。

 文化祭懐かしいなという話になり、結局全員が文化祭の日程を知ることになった。吐かされた。嬉々としてそこのスケジュールを最優先で埋めていたのは驚く。同じ高校生の夢城さんには慰められた。普通文化祭の内容を知られたくないし、女装すると言っているのに来る宣言をされたら辛くもある。


「そういえば夢城さんは文化祭っていつですか?もうすぐだったりします?」


「ウチは九月だからまだ大丈夫だよ。六月は大変だね。特に一年生だとクラスメイトの人となりがわからないでしょ?」


「そうですね……。特に僕なんて全然学校にいないので。難しいところです」


 文化祭の時期っていうのも難しい話だ。遅いと三年生の受験に響く、早いと一年生の団結が纏まらない。その匙加減を考えないといけないから学校運営は大変だ。

 僕の学校なんて正直あんまり頭が良くないから、九月でも良かったと思うんだけど。遅いと遅いで十月にある二学年の修学旅行に響くのだとか。

 そんな文化祭談義が終わった頃に根本さんがそういえばと話題を上げる。


「私、『パステルレイン』の主題歌歌うようになったんだよ。っていうかもう収録したんだけど」


「それ、言っちゃって良いんですか……?」


「大丈夫大丈夫。収録している間に公式サイトで新PVが公開されるから。問題ナシ!」


「なるほど。それなら大丈夫ですね」


「あたしも『星々を巡る不思議な湖』の主題歌歌うことになったよ」


「東條さんのそれはまだ言っちゃダメなんじゃ……」


 そんな聞いてはいけないことも一つ聞きつつ。

 『パステルレイン』でも重要な話を収録し始める。


次も日曜日に投稿します。

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