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君に、声を  作者: 桜 寧音
二章 高校生(五月〜)
41/73

4ー3ー6 アニメ制作の裏側で

『スターライト・フェローズ』、「ゲイルの弟」ルート。

 インタビューがあったり、とうとう『スターライト・フェローズ』FDの収録が木曜日にあって収録が始まった。学校が終わってからということで台本を持ってスタジオに行くと、簡単な説明をプロデューサーの浜島さんから受ける。

 いわゆる恋愛ゲームなのに共通ルートとかなく、いきなり僕が演じる「ゲイルの弟」のルートに入るという。そのきっかけがやっぱり主人公のエクレシアちゃんがゲイルの喧嘩を見て、そこからゲイルと交流が始まった結果僕と出会うようになる。


 「ゲイルの弟」の容態が良くないと知ったエクレシアは治癒魔法を使えることから彼を治そうとする。そんなことから交流が始まって話をすることでだんだん惹かれていって、というのが大筋。

 今日は収録時間が四時間しかないので演じるのは冒頭だけだったけど、それでもかなりの文量喋ったと思う。


『僕のことは呼びづらいとは思いますけど……。名前がないのは習わしですからね。こんな脆弱な人間は跡取りはもちろん、他の良家と婚姻関係を結んで家を繁栄させる……ということもできないですから』


(それは、生まれつきなの?)


『ええ。まあ、捨てられないだけマシですよ。病弱な子なんて一般の家だったら捨てられて終わりですから。……お医者さんからしても原因不明だそうです。治癒魔法は嬉しいですけど、あまり効果は出ていないそうで』


(やっぱり体調は良くない?)


『はい。……まだ、ベッドから出られないですね』


 主人公のエクレシアは珍しく魔法が使える存在だ。だから「メッシーナ・フルフェンス」が古代魔法を扱っているので興味を持っているという設定。

 だいたいどのルートでもエクレシアの魔法の素質が芽生えるのはルートに入って最後の方で魔法のことを自覚する。けどこのルートだと早めに魔法について自覚しているようだ。

 ゲイルルートではエクレシアはルートに入っても当分魔法を習得せず、「ゲイルの弟」を助けることができなかった。


 そもそもエクレシアはルートごとに使える魔法が異なる。この治癒魔法を覚えるというのはゲイルルートだけ。治癒魔法に目覚めたのも「ゲイルの弟」の死を見て、ゲイルが傷付くのを見て。

 それで目覚めた力だった。

 そこから収録したのはこのルートに対する最初の説明だけ。どうして僕と関わるようになったのかという部分が丁寧に掘り下げられていった。


 ゲイルルートとの差異はやっぱり魔法の発現タイミングの差みたいだ。それ以外はほとんどゲイルルートと変わらない導入。これがFDだからこそ、ある程度の説明を省略して「ゲイルの弟」ルートまっしぐらになる。

 最初は動けない僕のせいでエクレシアとずっとこんな生活をしている身の内話を収録して今日は終わった。これくらいの収録時間だと冒頭くらいしか収録できない。ゲームの収録だと僕の場合は何回かに分けないとできないのが学生声優の辛いところだ。


 特に問題なかったようで収録からすぐに帰る。日付が変わる前に家に帰ってこられた。今週はこの後土日に続きを収録することになっている。明日の金曜日は『パステルレイン』の収録があるので収録ができず、今日はこの後明日の『パステルレイン』の台本を読んで寝ようと思う。

 ご飯はコンビニで買って、食べながら台本をチェックする。とうとう一クール目のラストである十二話目の収録だ。色々と関係性に変化が起きる節目の話。


 そっちも読み込んでいたのでもう一度確認がてらペラペラとめくるだけで、お風呂に入って歯磨きをして早めに寝ることにした。

 その夜に、僕は夢を見た。僕が見る夢は大体過去の出来事か台本で読んだ内容をイメージとして思い浮かべることもある。今日はそんな夢だった。


 エクレシアと仲が良くなり、折角だからと二人だけで通じる名前を決めようという話になる。その名前が「エスポワ」となり、二人っきりの時にはその名前で呼び合うようになる。

 ゲイルと一緒にアルタイル家で交流をしていき、エクレシアの身の内話もしていくことになる。病弱な母の最後の願いとして学園に来たこと。学園を卒業して一人で生きていこうと考えていること。そのために特異な魔法の才能が発現したために将来の見通しも立ったこと。


 他のルートだとほとんどの場合恋人になってから魔法が現れたために良家に嫁ぐことがほぼ確定になっていたために魔法のことは人生設計の一つにしかなっていなかった。だけどこのルートだと魔法の力を使って生計を立てようという一本筋ができていた。

 だから立場のない「エスポワ」を好きになろうとアルタイル家としては好きにしろという感じだった。


 そんな中で毎日のように治癒魔法を受けていたからか、「エスポワ」の体調も回復の兆しを見せる。まず歩けるようになり、そこから身体の痛みや脆弱性などが薄れていく。その奇跡にエクレシアもゲイルも喜び、三人で過ごす時間が増えていった。

 だけどそんな穏やかな時間を許す人間がいるはずがなかった。


 その奇跡を、魔法の効果だろうと昔から研究していたメッシーナはエクレシアにさらなる興味を抱き、その上で治った「エスポワ」の身体も調べる。

 恋人になることもなくメッシーナに監禁された「エスポワ」は、彼の施術によって魔法の力に目覚める。

 ──正確には、元々病弱だった理由こそが魔法を使えることだった。


 この世界の魔法とは外宇宙からもたらされた異常な技術、一種のナノマシンのような物が身体に適合して使える超常の力のことだった。だが半端に適合してしまうと身体能力に異常が出て、魔法も使える自覚がないのだという。

 貴族や王族は元々魔法の技術を独占しようとしていた一族であり、だからこそ貴族で病弱な者がそれなりに出て、魔法という文化が廃れたために名前を与えないという風習が産まれていた。


 昔は魔法が使える人間がそれなりにいたが、魔女狩りに遭って数を減らす。それでも技術体系や知識だけは後世に残っていて、子孫もそこそこいるという話。

 エクレシアも「エスポワ」もメッシーナもそんな人間の一人で、この世界の現代ではかなり珍しい人種だという。『スターライト・フェローズ』の段階では使える登場人物がエクレシアだけで、知識があるのもメッシーナだけだったのでそこまで重要視されていなかった。


 精々がエクレシアだけが使える特権くらいにプレイヤーは思っていただろう。僕だって思ってた。

 そんなどんでん返しの展開にお客さんは驚くかも、という心配はあまりいらなかったりする。最終ルートで宇宙関連の話はあったし、宇宙からの魔法をエクレシアが相殺してハッピーエンド、という結果だったので宇宙とかの話は受け入れられると思う。


 まあ、最後に宇宙云々が出てきて驚いたという話は結構レビューで見たけど。

 そんなこんなでメッシーナのある目的に巻き込まれた「エスポワ」は無理な施術のせいで自我をなくして魔法を暴走。身体のナノマシンも変化を起こして原作最後に出てきた魔法を使う侵略者が小さくなったような姿になってしまう。


 そこからは見境もなく暴れ、メッシーナも殺してしまう。

 国の軍事力によって殺されるかと思いきや、魔法の力で軍を圧倒。もう少しで国を滅ぼすといったところで戦場にやってきたエクレシアを見て若干の自我を取り戻して反転。そこからは暴れずに逃げようとするが、身体が更に異形に近付き、しかも宇宙から自分のせいで侵略者が来ることを察してしまう。


 「エスポワ」は贖罪として侵略者と刺し違えようとするが、それをエクレシアが止めようとする。言葉で止まらない「エスポワ」にエクレシアが実力行使で説得。

 想いを伝え合って、侵略者──実は「エスポワ」の力を奪いに来ただけのどちらかというとただのお節介──を説得して元の姿に戻る。


 最後は荒れ果てた世界を直すために二人で旅に出るという終わりを迎える。二人ならきっと、いつまでも手を握っていられるだろう。そんな結末でEND。バットエンドとかなく、このまま一直線のノベルゲームだ。

 どう演じようかなとか、福圓さんならどう演じてくださるかな、なんて考えていたらスマホの目覚ましが鳴る。すっかりと朝になっていて、学校に行く支度を始めないといけなかった。


「あーあ。今日は『パステルレイン』の収録なのに。収録前にもう一回見直そう……」


 昨日の収録に引っ張られすぎだ。ゲームの収録は連続であったりしたし、ちょっと前まではレギュラーがなかったから収録が交互に来るなんてこともなかった。そのせいで脳が切り替えをできていないみたいだ。

 トーストを焼いて着替えた後に台本を用意する。食べながら気持ちを「奏太」に切り替える。学校にも遅れないように家を出る。流石に歩きながら台本を読むわけにもいかなかったのでスマホで何かあったかなと調べる。


 最近の声優業界は話題が多すぎるから、移動時間に調べようかなと思っただけだ。

 根本さんが昨日配信をしていた以外に特に話題はなかった。恫喝とかそういうものって多分色々と噴出するには時間がかかるんだろうから、連日スクープが出ることはないみたいだ。

 この一件については姉さんと鈴華ちゃんに心配された。守秘義務があるから当事者だってことは姉さんたちにも伝えられなかったけど、とりあえず大丈夫だとは伝えておいた。


 いやぁ、でも昨日の夢には困った。いくら「エスポワ」ルートの分は全部台本を戴いているからって、全部読んじゃったのは失敗だった。こうやって夢に出てきちゃうんだから。これでメッシーナルートと最終ルートの分も台本があるんだから、今度からは少しセーブしよう。

 いや、でも仕方がないじゃないか。急変に次ぐ急展開でどうなるんだろうって思ったら台本を捲る手が止まらなくなっちゃったんだから。


 そんなことを思いながら、本分は学生なんだからと午前中の授業はしっかり受けようと思った。それと午後の授業の先生から課題のプリントももらわないと。そのプリントをやらなかったら単位がもらえないんだから、声優として生きていくならそれくらいやらないと。

 学校では四限目にLHRがあって、文化祭の出し物は男女逆転喫茶になるそうだ。飲み物は市販のペットボトルの物に氷を入れて、食べる物は簡単に調理をするらしい。

 僕は裏方として調理をやればいいかなと思って調理に立候補したのだが、冬瀬さんに断固拒否された。


「今後調理練習することになるけど、そういう時間が取れるのって放課後だよ?間宮君、時間取れる?」


「……取れないかなぁ」


 放課後は収録に行ったり台本を読んだり事務所に顔を出したり、それこそインタビューとかの雑多なこともあるだろうからなるべくすぐに帰りたい。そうなるとメニューを全部覚えて、しかもお客さんに出せるほどの水準になるまで練習するとなったらかなり厳しい。

 一応料理にはそれなりに自信がついてきたんだけどなあ。

 というわけで結局ホールになった。そう決まると冬瀬さんはとても喜んでくれた。

 ……まさか僕の女装が見たかったってわけじゃないよね。多分。


次は日曜日に投稿予定です。

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