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君に、声を  作者: 桜 寧音
二章 高校生(五月〜)
34/73

4ー2ー2 アニメ制作の裏側で

料亭で。


※「ウチの三姉妹」のキャラが出ていますが、あちらの本編と必ずしも繋がるわけではありません。それだけはご了承ください。

 食事に行ったら日本人で知らない人がいないメジャーリーガーが座っていた。こんな法螺話誰が信じるのかと、僕だって他人から聞いたら一笑してナイスジョークと言っていただろう。それくらいありえないことだ。頭がおかしくなったとか、幻覚を見始めたのかと心配するだろう。

 そもそも今は五月。秋や冬のようなオフシーズンじゃない。思いっきりシーズン中というか、そもそも昨日登板して七回一失点の勝利投手だったような……。


「久しぶりのトモちゃんだ〜!」


「ぶっ!喜沙姉!外でいつものようなノリで抱き着いてくるな!初対面の子供に見られるのは流石に恥ずかしい!」


「えー?散々TVで仲の良さアピールしたじゃない」


「それとこれとは話が別だ!」


 日本でトップクラスに有名な男女が抱き合っている。いや、姉弟だから普通かもと思うかもしれないけどよくよく考えてみれば実の姉弟ではないと(・・・・・・・・・)公表している(・・・・・・)人たちだった。だから人前で抱き合うのは問題かもしれない。

 いや、僕と姉さんも会ったからって抱き合ったりしないな。そこからして普通じゃなかった。


 僕や福圓さんの前だからか、喜沙さんを引き離す智紀さん。福圓さんも苦笑しながら智紀さんの前の席に座る。喜沙さんはそのまま智紀さんの隣に座り、僕は福圓さんの隣に座ることになった。

 結構大きな木製の食卓というか机に集まる四人。僕だけ場違い感が酷い。

 福圓さんは喜沙さんと友達なんだろうし、智紀さんとも面識があるのだろう。でも僕は福圓さんと喜沙さんの仕事仲間なだけで智紀さんとは面識がない。それで食事を一緒にするなんて。


 てっきりここにいるのは喜沙さんの知り合いの女優の方だと思ったのに。根本さんが配信でやったような女子会に混ざるようなものだと構えていたら大暴投を喰らった気分だ。

 女子会に参加だっておかしな話だけど、今の状況よりは到底マシに見えるから変に思える。


「あれ?智紀くん、さっき間宮くんのことをサキくんって呼びましたか?彼、光希くんですよ?」


「ああ、それが本名なのかな?だとしたら光希君って呼んだ方がいいかい?」


「ええと、喜沙さんからどこまで聞いていますか?」


「間宮沙希君も連れていくことになったとしか聞いていないよ。どうせ何を言っても無駄だと思って許可しただけで本名のこととかは何も知らないかな」


 福圓さんの訂正で僕の本名と芸名からどう呼べばいいのかわからなかった智紀さんが質問をしてきたので質問で返してしまうと、ほぼ何も伝わっていないことがわかった。

 そしてこの姉弟の力関係も見えてきた。どうやら智紀さんは凄いメジャーリーガーになっても喜沙さんには勝てないらしい。他にも姉妹がいるって話だったけど、その辺りの話は脱線が過ぎるから聞くことはしない。

 まずは今の僕の状況について話すとしよう。


「今は本名で声優をしています。なので呼ぶなら光希の方でお願いします」


「わかった。ああ、だから梨沙子さんと面識があるのか。梨沙子さんはあまりドラマとは関係ないって言ってたし、映画の吹き替えも少ないって言ってたから接点が不思議だったんだ」


「……今は?あれ?間宮沙希ってどこかで聞いたことがあるような……?」


 梨沙子さんが色々と疑問に思っているし、ここまで来たら話さない方がおかしいだろう。

 最近の僕は過去の素性を話すことが増えたなあ。


「えっと、福圓さん。黙っていてすみません。実は僕、昔子役をやっていまして……。沙希はその頃の芸名です。その子役の頃に喜沙さんとは何度か共演させていただいたので顔見知りだったんです」


「間宮沙希……。ああっ、消えた天才子役⁉︎『破面ライダー X』の敵幹部の子供!」


「そうです。それ、僕です」


 特撮にも明るくて助かった。いや、あの作品が有名すぎるからだろうか。当時はかなり話題になっていたから特撮が好きじゃなくても見ていた人は結構いたとかって聞いた。

 五年前の作品だから当時はもう福圓さんも声優になっていたのに、知っていてくれて助かる。知らなかったら色々な作品名を挙げなくちゃいけないところだった。


「……はぁ〜。納得しました。言われてみれば面影がありますね」


「やっぱり実際に会っていないと気付かないのかしら?私なんて見た瞬間気付いたけど」


「子役から声優になる人も多いですけど……。声変わりをしていますし、俳優として芽が出なかった人が転向してくる場所ですから。一世を風靡した子役が声優になっているなんて思いませんよ。本当に声優になりたいと思わなければそのまま俳優になるでしょうし」


 福圓さんと喜沙さんが話しているけど、子役上がりの声優は結構珍しい。劇団に所属している子役も数が多いので全員が俳優になるわけじゃない。辞める人もいるし、売れなくても俳優になる人もいる。そして子役の頃のツテを使って声優になる人もいる。

 それでもやっぱりその数は少数だ。そもそも声優って市場が狭い上に、声優を目指そうって考える人は中高生になってから動く人が多い。もしくは高校卒業後。


 声優は決して俳優の逃げ場ではないけど、俳優の方が受け皿が広いのでわざわざ狭い門を潜ろうとする人は本当にアニメやゲームが好きな人や声優になりたい人だけだ。僕みたいに公表しない人もいるので実際に知られている子役上がりの声優さんは少ない。

 声優はそこまで簡単な仕事じゃない。正直俳優よりもギャラが低いから生き残るのはかなり大変だ。


 そんなことを話していると料理が運ばれてきた。ご飯に汁物、お刺身に酢の物と飲み物のようだ。頼んでいないのに料理が来たということはきっとコース料理だ。いわゆる懐石料理というやつだろう。

 料理の説明をされても正直チンプンカンプンだった。シャトーブリアンの時もそうだったけど、稼いでいた子役の時もこんな料亭のような場所には来なかった。回らないお寿司屋さんなら何回か行ったけど。

 配膳してくれた女将さんのような着物を着た女性が襖を閉めて話が再開される。


「食べながら話そうか。光希君は急に巻き込んで済まない。会計は気にしないで食べてくれ」


「では遠慮なく。ありがとうございます」


 智紀さんにそう言われてご飯を進めながら子役の頃の話などをする。喜沙さんと初めて会った作品のことや子役の頃何が大変だったのかなど。

 喜沙さんとの最初の役柄は姉と弟だったという話をしたら本当の弟である智紀さんは思い出したかのように頷いていた。


「あったあった。あの軽自動車のCM。喜沙姉と結構歳の離れた男の子だったからよく覚えてる」


「当時の僕、五歳くらいですからね。喜沙さんは高校生でしたし、一緒に遊ぶ演技は緊張しましたよ。喜沙さん凄く綺麗な方なので」


「だってよ。良かったな喜沙姉」


「絶っっ対私の方が緊張してたよ!演技するのなんて初めてだったし、お母さんから共演する男の子の映像見ておきなさいって渡されたら間宮君がそこに自然にいるんだもの!場面に溶け込んでいるっていうか、演じているように見えないというか。本当に五歳?って思っちゃったわ。並ぶ私が棒読みだったら恥ずかしいし、仕事が減っちゃうって思って必死に演技の勉強したんだから!」


「ああ。あの頃喜沙姉って家のどこでも台本読んでブツブツ言ってたよな。けどそのおかげで今の演技も上手いアイドルって地位にいるんだから結果良しだろ」


 ああ、喜沙さんも僕と似たような人だったのか。この人に天は二物も三物も与えたんだなって思ってたけど実際は様々な努力をしていただけ。

 多分今有名になっている人でそういった努力をしていない人はいないだろう。影の努力を見せないように隠しているだけで。


 僕の知っている喜沙さんは既に演技も完璧な人だったから、そんなに努力をしていたなんて知らなかった。演技の世界においては本当に努力をしなくても役に合った演技ができてしまう本当の天才がいるから尚更疑問に思わなかった。

 それから何で僕が子役を辞めたのか、俳優に進まなかったのかという話題になった。これも隠したって意味がないので怪我のことはちゃんと言う。

 母さんのことは一切口に出さないけど。知っている人は知っている、二重底の上の部分を話すだけ。


「実は過労で家の階段から転がり落ちまして。その時足と腕を怪我して、利き腕は激しく動かせませんし、走ることもできないんです。だから動きが激しい俳優は無理だと判断しました。舞台俳優も似たようなものなので同じように却下した結果、走らなくても演技ができる声優になろうと思ったんです」


「……そうか、怪我か。スポーツの世界でも取り返しのつかない怪我はある。それで将来を有望されていた選手が野球を諦めるなんてことはよくある話だ。君の場合は野球じゃなくて俳優だったわけだ」


「そうですね。でも今の仕事も楽しいので嫌なことばかりじゃないですよ」


 これは本当に。声優になれて良かったと思ってるし、今の生活は楽しい。だから俳優になれなくてもそこまで悲観していない。

 雰囲気を暗くしてしまったが、そこまで気にされるようなことじゃない、過去のことなんだから。それに僕は好きな演技まで奪われたわけじゃないし。


 料理も順序よく運ばれてきて、とてもお上品な味だということはわかる和食の群れに僕は圧倒されていた。薄味ながらも食材の味というか新鮮さが損なわれていない上に舌に乗る食感が絶妙というか。刺身の大トロなんて嚙む前に蕩けて味だけ残して消えていった。

 こんな食事に慣れているのは喜沙さんだけのようだ。智紀さんも福圓さんも驚きながらも舌鼓を打っている。

 メイン料理だと思われる大皿に乗ってこちらで取り分けるような焼き魚を食べていて、僕の話も一段落着いたところで最大の疑問を智紀さんにぶつける。


「あの、智紀さん。どうして今日本にいるんですか?シーズン中で、投手は中日がそれなりに設定されていることは知っていますけど、智紀さんはその間でもたまにDHで試合に出ますし……」


「まあ不思議だよな。実際明日用事を済ませたらそのままアメリカにトンボ帰りだ。今日は飛行機で帰ってきたついでにご飯を食べてるだけ」


「はあ。日本でしかできない用事ですか」


 日本人だから、だろうか。でも今の時代必要なものって通販でアメリカでも日本の物は買えるだろうから飛行機代を考えると凄い無駄な出費じゃないだろうか。買い物じゃなくて自分で何かしなくちゃいけない用事でもあるのかな。

 その用事が全くピンと来ないので、何しに帰ってきたのかわからない。アメリカに行く前じゃダメだったんだろうか。


「俺、明日籍を入れるんだ。本籍はこっちに残ったままだから、婚姻届けはこっちで提出しないといけなくて」


 籍を入れる。こんいん、届け。婚姻?

 誰が?智紀さんが?

 ……すっごいビッグニュースを聞いてしまったような?


「あ、おめでとうございます。僕から祝われるというのは変な気持ちでしょうが……」


「いや、嬉しいよ。ありがとう」


「公表、するんですよね?」


「そうだね。言っておかないと面倒なことになるのは目に見えているから、籍を入れたらすぐに主要なTV局には共同の結婚報告を送るよ」


「共同……?え、もしかしてお相手って有名人や芸能人だったりするんですか?」


 そうじゃないと共同という言葉は使わないはずだ。純粋な疑問だったので口に出してしまったが、これって聞いていいことじゃなかった気がしてきた。

 そうか、喜沙さんとも結婚できる間柄だから喜沙さんと?だからさっきも抱き合って──。


「ああ。君の隣にいる梨沙子さんと」


 ………………………………………………………………。

 僕は長い間何も言えずに、瞬きもできずにいた。そしてそのまま、顔を右側に向ける。

 そこには照れながら顔を真っ赤にしている先輩声優が。

 顔を正面に向けると、不服ですと言いたげに頬を膨らませている結婚したいランキング一位の絶世のアイドルが。

 今年一番、驚いたかもしれない。


次も日曜日に投稿します。

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