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君に、声を  作者: 桜 寧音
二章 高校生(五月〜)
30/73

3ー2 校外学習

テレビ局で。

 行きたくないと思っていたけど、そんな願いは届かず。特徴ある二つの銀の玉が天井近くにある建物で見間違いようがない富士テレビ。この建物だけで写真を撮る人もいる。他にない造形だから珍しがるのはわかるけど、僕は見慣れてるから写真を撮ったりしない。

 うーん。嫌な予感がする。TV局の前とか近くって撮影してる可能性が高いんだよなあ。いや、たとえ撮影をしていなくてもオーディションで部屋を使っていたり、姉さんみたいな脚本家が打ち合わせで集まってたりする。その場面に僕が行ったらバレそうだ。


 水越さんがもうテンション高い。なんだろう。アニメ好きな人がスタジオに来たとかアニメーターの制作現場に来たとかそういう感じだろうか。スタジオとかは一般人が入れないからまた違うのかもしれないけど。見学とかもできないから一般人は入れない場所だ。

 そう考えるとテレビ局で一般人が来られるって凄い話だと思う。僕たちで考えればスタジオのあるビルにやって来るようなもの。ファンの人に騒がれたらうるさいから収録に響きそうだな。昔の有名アニメだと出待ちとかあったらしいけど今はほぼない。


 テレビ局の前に来て──もうダメだぁ。めちゃくちゃ人がいるし機材もたくさん置いてあるぅ。これ絶対撮影してるよぉ。

 そのことでテンションが上がる他の三人。ドラマとかの撮影って一般人からすれば見たいものだよね。僕からすれば仕事場でしかないからテンションなんて上がらないけど。


「すごいすごい!なんのドラマかな!」


「現代物だろうね」


 水越さんの言葉にそんな当たり前のことしか言えない。いや、たまにタイムスリップものとかもあるから現代物とは言い切れはしないけど。

 帽子とかメガネとか、そんな変装グッズ持ってない。こんな富士テレビの真ん前で撮影していて知り合いが全くいないなんて都合のいいことあるだろうか。いや、ないね。


 水越さんが近づいて行ってしまう。もう腹を括るしかないんだろうな。

 班員全員がスマホを持って誰かしらを撮影しようとする。撮影の邪魔にならないようにスタッフが一般人の動きを止めているんだけど、向こうから来る分には不可抗力だ。

 例えば、飲み物休憩で外に離れていた俳優の一人とか。


「あ、光希じゃん。こんな時間に制服でどったの?」


「え……?キャー、本物の草津雄大さん⁉︎」


 水越さんに早速バレる。雄大のバカ。

 冬瀬さんもいるから関係性がバレそうだ。

 騒ぎになったからか、雄大が女性たちに囲まれる。僕と話をしようとしていたのに今じゃファンサービスを求められている。可哀想に。


 そんな騒ぎは一般人だけでなく、撮影スタッフにも把握されて収拾をつけようと何人かがやって来る。撮影スケジュールを引き延ばすわけにはいかないからだ。

 そのスタッフの一人が、僕を見て呟く。


「あれ……?もしかして間宮君かい?」


「お久しぶりです。村田さん」


「やっぱり間宮君かー!いやあ、大きく……はなってないかな?」


「これでも二年で二cm伸びました」


 完全に成長が止まったわけじゃないからまだ希望は持っておきたい。

 村田さんは何回かお世話になった三十代の富士テレビスタッフだ。役職とかは覚えていないけどディレクター補佐とかそんな役職だったと思う。

 村田さんから一気に僕の存在がスタッフさんに伝えられる。過去の僕がどう見られていたのかは仕事量からも理解していたけど、まさか僕が囲まれるとは思っていなかった。


 皆さん知っている人ばかりで、この撮影は富士テレビの連続TVドラマっぽいというのはわかった。でも会うスタッフさん全員から頭を撫で回されるのは勘弁してほしい。男女問わずに撫でてくるんだから。

 周りの人たちは雄大に夢中で僕のことを気にかけていないからありがたいけど。


「あ、外崎(とざき)監督。間宮君来てますよ」


「間宮?……お前、全然変わってないなあ」


「声変わりはしましたよ。お久しぶりです外崎監督」


 五十代くらいのおじさんがやってくる。外崎監督、この方も数々のドラマや映画で一緒に仕事をさせて頂いた方だ。小太りだけど作品を作る情熱は凄く高い人。小さい頃は怒られてばかりだった。


「確かに声は変わったな。けど学生服着て現場に来てどうした?まさか復活するって話じゃねえだろ?」


「学校の課外学習でこの近辺に来たんですよ。それで班員の一人がどうしてもここに来たいと言ってたんです否定するのも怪しまれると思ってこうやって来たわけです」


「ほーん。お前も学生やってるんだな。あとなんだっけ?今お前って声優やってるんだろ?そっちは順調なのか?」


「お陰様で。外崎監督に付きっ切りで演技指導していただきましたから」


「おうおう。俺の教えが生きてるってこったあ嬉しいじゃねえか」


 外崎監督に肩を回されてワシャワシャーと頭を撫でくりまわされる。いやほんと、幼少期の教えはもう僕の血肉となっている。その積み重ねが今の僕を形成しているから子役の頃の監督たちは皆恩人だ。

 しかも子役の頃にしっかり怒ってくれたから、ダメなこととかを覚えられた。優しい大人だけではないと厳しさも闇も教えてくれた。

 芸能人、俳優、子役、声優としての基礎を教えていただいたから感謝を忘れることはない。

 ちょっと暑苦しいとか、高校のクラスメイトが近くにいる場所ではやめてほしいと思うけど。


「えー、間宮君声優になったんだあ」


「まあ納得だけど。最近声優さんも顔出しの場が増えたから、もしかしたら一緒の仕事をするかも」


「それはしたいな。間宮なら問題なくやってくれるだろうし」


「結構先の話になると思いますよ?声優で地上波に出る人はすごく少ないですし、僕はまだまだ新人ですから」


 地上波に出る声優さんは十年以上続いているアニメシリーズの特番だったり、声優さんの仕事を知るようなバラエティだったり、数は少ない。たまにグルメ番組とかクイズ番組に出てる人もいるけど、そんな人は超希少種だ。

 あとは歌手活動をしていて、大晦日の紅白歌合戦に出たり。声優と兼業で俳優をして活躍したりと。最近は活躍の幅も増えてきたけど、全員声優としての実力がめちゃくちゃある人たちばかりだ。声優として活躍していて、その上でプラスアルファで仕事をしている人たち。

 そんな風になるには何年かかるんだか。


「雄大はどうですか?今注目の若手俳優ですけど」


「演技も良いし、愛想もいいしウケもいいよ。誰かさんの抜けた穴を完璧に埋めてくれてる。方向性は違うけど、天才子役の穴は埋めてくれたぞ」


「なら良かった。突然辞めちゃったので芸能界のことは心配で」


「そこまで気負わなくていいぞ。事情が事情だからな。今は学校生活と声優を楽しみなさい」


「はい。久しぶりの学校生活なので楽しんでいますよ」


 そんな懐かしい人たちと穏やかな再会もあって。二年ぐらいじゃ皆さん変わってなくて安心した。

 雄大は結局ファンの皆さんに囲まれて対応をしている間に休憩時間が終わってしまったようで撮影が再開された。メールでごめんねとだけ伝えておいて班員が再集合した。

 ドンマイ、雄大。

 僕も昔味わったことだから我慢してね。


「雄大君と握手しちゃった〜!今日は絶対手洗わない〜」


「良かったねえ、水越さん」


「あ、そう言えば間宮君って雄大君と知り合いなの?名前呼ばれてなかった?」


「幼馴染なんだよ。昔からよく一緒にいてね」


「へー!そうなんだ!羨ましい!」


 劇団も所属事務所も違ったけど、雄大とは共演も多かったし友達だった。子役って言えない状況だとこれが一番いい言い訳になる。

 冬瀬さんもそうなんだくらいに思ってくれてたら良いんだけど。スタッフさんたちに囲まれていたことは聞かれても雄大と一緒にいたから覚えられていたとかで誤魔化そう。冬瀬さんには声優として知り合ったスタッフって言えばいいか。


 それからは富士テレビの見学可能エリアを見て、お土産屋で何か買おうとしたんだけど。

 姉さんもよく来るからお土産にならないし。鈴華ちゃんのお土産なんて思い当たらないなあ。

 素直にクッキーでいっかと開き直って、クッキーを買っていく。他のお土産は買わなかった。

 マンションにそんなに多く物を置けないだろうし、僕の家にもそんなに物を置けない。欲しいと思える物もなかったから良いけどね。


 とりあえず今日は。

 危ない場所に近寄ったのに「間宮沙希」のことがバレなくて良かったってこと。

 課外学習も問題なく終わり、ちょっと疲れたイベントだった。


次も日曜日に投稿します。

感想などお待ちしております。あと評価とブックマーク、いいねも。

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