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君に、声を  作者: 桜 寧音
一章 高校生(四月)
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1ー1 初めてのイベントで

イベント前の準備。

 世間的には春休みと呼ばれる期間。その期間にアニメ関係者にとっては大きな祭典がある。

 ジャパンアニメフェスタ。東京の大きな会場を使って新作アニメの最新情報を発表するために複数のステージでアニメスタッフやキャストが登壇し、ネット配信をしながら紹介していく場だ。

 そこに嬉しいことに、僕も登壇キャストとして呼ばれた。僕のステージは一つだけだけど、売れっ子声優さんだと複数のステージに出るらしい。


 僕が出るステージは最近収録が始まったばかりの少女漫画が原作のアニメ「パステルレインの空模様」の最新情報発表ステージ。アニメの放送は七月からだけど、大きな発表のタイミングはここか単独イベントをしなくてはならない。

 製作陣はここを選んだんだろう。大きなイベントだから注目度も高い。

 僕は早めに会場入りして、事務所のマネージャーである松村さんと控え室で待機していた。ちなみに一番乗り。僕がキャストの中だと一番下っ端だから、ゆっくり来るなんて論外。


 松村さんは子役時代にもお世話になった男性だ。新しく作った声優事務所に僕が誘われる形で加わり、そのまま担当マネージャーになってくださった三十代。零細事務所だから色々な業務を掛け持ちしているらしいんだけど、今回は事務所としても大きな仕事だからとついてきてくれた。

 僕が俳優を辞めてしまった理由を知っている人だからかなり信頼している。俳優関係の方だと知っている人も多いけど、声変わりや身長が伸びたことから声優の「間宮光希」と子役の「間宮沙希」が繋がらないこともあるとか。


 公表もしてないし。

 結構早めに会場入りしてくれたメイクさんにメイクを施してもらい、他のスタッフさんやキャストさんに挨拶回りをして、本番前に確認のリハーサルをしたのだが。


「え、これだけですか?」


「ジャパンアニメフェスタは基本的に演じるキャラクターの説明をして、PVを見せて、あとはコーナーを一つやるくらいだから。リハもこんなもんなんだよ」

 そう説明してくれるのは同じ登壇キャストでメインヒーロー「藤堂綾人(とうどうあやと)」役を演じている津宮健斗(つのみやけんと)さん。二十代半ばで女性人気の高い声優さんだ。ちょっと童顔で背がそこまで高くない。


 のくせに声はすっごいイケメンボイス。そのため声とヴィジュアルでの差異から「ギャップ声優」と呼ばれている。

 で、僕が「これだけ」なんて呟いてしまった理由は呼ばれたらバミテ(立ち位置を示す蓄光テープやガムテープを指す)の位置に来て、一言挨拶。司会である津宮さんが着席を促したら座って、コーナーを一つやってPVを見て感想を言って終わり。


 という、リハーサルにあるまじき簡潔なものでしかなかったからだ。

 これ、何の準備にもなってないと思う。


「コーナーの中身も教えてくれないんですか?」


「イベントあるあるだな。司会の俺は知ってるけど、他のキャストには伝えないとか。でも内容自体は事務所に確認を出して許可もらってるからそこまで酷いものじゃないよ」


 昔出たテレビのバラエティよりざっくりだった。そこまで酷いバラエティに出たことがないからかもしれないけど。

 登壇キャストには僕の他にも主人公である「藤堂キララ」役の根本明菜(ねもとあきな)さんとキララの親友「川崎優奈(かわさきゆうな)」役の東條春香(とうじょうはるか)さんの二人。キャストは総勢四名。


 とても大きな有名タイトルとかだと十人ぐらい呼んでステージもかなり広いらしいけど、「パステルレインの空模様」は原作者「黒咲(くろさき)カノン」先生の初連載、初アニメ作品なのでステージの規模はそこまで大きくない。

 キャストは僕を除いて有名な若手声優ばかりだけど、そのために大きなステージは抑えられない。ステージにも限りがある。


 そんなリハーサルもどきをやって控え室に戻って、メイクさんにメイクの確認をしてもらった時、控え室に飛び込んでくる人がいた。

 金髪に染めた若々しい女性。初めて見る方だけど、スタッフの方だろうか。寝坊したとか。そうじゃないとリハーサルも終わった時間に控え室に飛び込んでこないと思うけど。


「あああああ!津宮さんいらっしゃる!ファンです、サインください!」


「はい?」


 いきなり津宮さんに突っ込んでいき、色紙を持って頭を下げていた。あれ、関係者じゃないのかな。

 みんなで首を傾げていると、後から入ってきたスーツ姿の女性が金髪の女性を引き剥がしていた。


「カノン先生。いきなりで皆さん驚いていますから。自己紹介してください」


「あ、ごめんなさい。みなさんほとんどの方初めまして!パステルレインの原作描いてる黒咲カノンです!初アフレコに行けなくてごめんなさい!仕事忙しかったの」


 あ、原作の先生。関係者だった。もう二回やったアフレコにはいらしてないから声優や収録現場に興味ない方なのかと思ったら、本業が忙しかっただけか。

 結構原作の先生って人それぞれで、収録現場に来られる方と来られない方がいらっしゃる。理由も様々で原作の本業が忙しかったり、興味がなかったり。逆に声優のファンだったりすると毎週のように顔を出す方もいる。

 それから代わる代わる挨拶をしていく。大人たちが先で、僕は最後がいいだろう。津宮さんはせっつかれてサインを描いていた。宝物にするんだとかなんとか。


 そういえばサインなんて考えてなかったなあ。子役の頃も一切描かなかったし、今までの仕事は小さいものばっかりだったからサインを求められることなんてなかった。

 無名の声優だから、しょうがない。

 順番を守って、僕がカノン先生に挨拶をする。


「カノン先生、初めまして。奏太役を演じております、ペパームーン所属の間宮光希です。原作最新刊まで読んでます」


「間宮くんだ!うわぁ、普段はそういう声なんだ!うんうん、ありがとね!ソウちゃんぴったりだよ」


「ありがとうございます。初めての大きな役をいただけて、僕も嬉しいです」


「うーん、やっぱり間宮くんいいね!オーディションのボイス聞いた時から君だ!って思ったけど、その直感は外れてなかったみたい。声優オタクの私が言うんだから間違いないよ!」


 テンションの高い方だ。声優がよっぽど好きらしい。こういう漫画原作者は多くて、時にはアニメやドラマCDともなると声優さんを指定してくることもあるのだとか。

 僕の場合は無名だったから指定なんてできなかったんだろうけど。


「先生もオーディションに関わっていたのですか?」


「そ。主要キャストは私も一緒に選ぶって駄々こねて。津宮さんと明菜ちゃん、春香ちゃんは指名だよ!」


 原作者さんの力って凄い。アニメにもよるんだろうけど、ここまで力があるなんて。製作委員会の運営方法にもよるんだろうけど、これって結構珍しいパターンだと思う。


「奏太役はどなたか指名の方はいなかったんですか?」


「私も女性声優さんか男性声優さんかで迷っちゃってさー。それでオーディション私も見たいって頼んで一次を見たら監督さんたちもどうもパッとこなかったらしくて。それで追加でオーディションして間宮くんのを聞いたら満場一致だったよ」


 オーディションの裏話を聴けるなんて貴重だ。しかも満場一致だったなんてありがたい。向こうのイメージに合っているってことなんだから。

 そう、この役結構変な経緯だった。事務所のもう一人の男性声優が奏太役を受けて落ちて。作品ごとに事務所から送れる声優の数が決まっていて、ウチは零細事務所だから一人だけだった。そのオーディションの日に僕は海外映画の吹き替えの仕事があったからパスしたのだけど。

 なぜか再募集があってじゃあ受けてみますかって話になったら受かったという。再募集がかかることすら珍しいというのに。


「間宮くん、まだ高校生でしょ?なのにオーディションで全然緊張してなくて、しかも高校生の空気を出してて。製作陣もリアルな年代の空気を入れたいって話で向こうの条件とも合っててさ。PVは見たけど凄く良かった!」


「ありがとうございます。すごく褒めてもらえて浮かれちゃいそうです。……ただ、実はまだ高校生になっていなくて……。次の年度から高校生なんです」


「へ?オーディションの時、学生服着てたよね?」


「あれ、中学の制服です……」


「ウッソォ⁉︎」


 凄く驚かれてしまった。プロフィールには年齢しか書いてなかったっけ?今度確認しよう。

 そんなカノン先生に遭遇するという本番前のイベントもあったけど、準備のために先生とは一度別れた。舞台袖で聞いてるらしいけど。

 僕たちキャストはステージへ移動した。それと同じくらいの時間に開場する。お昼一発目のステージなので、色々なステージと時間が被ってるけどどれだけお客さんが来てくれるだろうか。


次も日曜日に投稿します。

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