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君に、声を  作者: 桜 寧音
一章 高校生(四月)
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3ー3 声優としての二歩目

学校生活。

 月曜日。高校に入学してようやく学校生活にも慣れてきた頃。

 クラスでの係も決まって身体測定などといった新年度特有の行事も順調に消化していって。

 男子の友達もできた。声優(仕事)についてはまだ言っていないけど。


「間宮、お前も大変だよなー。病院に行くから学校休むってさ」


「まあね。日常生活に支障が出るから、学校も休ませてもらえてるよ」


「左足と、右腕だっけ?悪いの」


「そう。腕を上げるだけとか歩くだけなら大丈夫なんだけど、ちょっと刺激が強いとすぐに痛みが出てさ。長距離歩いたり肩回すと痛いんだよね。だから病院行かせてもらえる」


 蓮沼省吾(はすぬましょうご)君と多田健太(ただけんた)君。アニメとか全然詳しくないけど、なんとなく話してみたら気が合った。友達なんてそんな感じでできると思う。

 学校を早退する理由は昔やった怪我のせいで病院に通ってるからということに表向きなっている。リハビリの病院に通っていることも、怪我の部位も嘘じゃない。


 たまに歩けないほど痛くなってベンチで休むことがあるし、右腕もズクズクしてペンを握る握力もなかったりする時もある。昔の事故の後遺症だ。

 だからこれからの授業の体育も全部はできない。これも声優の事情と一緒に学校に伝えてある。出席数もマズイから体育の評定は凄く悪くなる予定だ。


 そんなことを話しながら体操服に着替えてグラウンドに向かう。今日は年度始めにやる体力測定をする。ハンドボール投げと短距離走だ。

 でも短距離走はできない。最初から記録なしにして貰う。走れないんだから無理だよね。


「階段の上り下りは大丈夫なわけ?」


「大丈夫だよ、蓮沼君。無意味に上り下りしなければあんまり痛みはないから。リハビリも結構頑張ってるからね」


 それでもたまに痛みが出たりするから階段はあんまり使おうとは思わないけど。スタジオとかに行く時もエレベーターやエスカレーターがあれば積極的に使ってる。

 そもそも。階段にあまり良い思い出がないからできたら使いたくない。目に触れる程度だったら良いけど、極力使いたくない。そんなこと言ったら日常生活ができないから我慢してるけどね。


 姉さんの家も、僕の家もエレベーターがついていて良かった。そうじゃないと家に行くだけで一苦労だ。

 学校にはエレベーターがないから階段を上り下りしなければならない。でも松葉杖を使わなくなったんだからかなりマシになったんだよ。怪我をして三ヶ月くらいはずっと松葉杖を離せなかったからね。

 その頃と比べれば体育に参加できるなんて偉業じゃないだろうか。いや、そうしたら偉業のバーゲンセールになっちゃうな。


 授業が始まるとまずは全体で準備運動をする。本当だったら男女別に体育はやるんだけど、体力測定はやることが一緒だから体力測定が終わるまでは一緒なのだとか。

 準備運動だから全員同じ動きをするはずなんだけど、僕はいくつかやらない。屈伸とか腕のストレッチとか。特に右腕なんて利き腕だから違和感が多い。使えないものは使えないから諦めてるけど。


 文字を書いたり箸を持ったりは問題ないから、左利きに矯正しようなんて思わなかった。文字が書けるなら基本的な生活に支障はないし。

 僕が真面目にやらないからか、怪訝な視線を送ってくる女子が何人か。男子はもう全員知ってるからそんな視線を向けてこない。特に隣のクラスの女子の目線が痛い。体育って二クラス合同だけど、最初の説明の授業は男女別でやったから僕のことがわかっていないんだろう。


 ウチのクラスの女子も何人かは僕に注目している。僕なんて見たって体力測定が終わったら体育で一緒になることはないんだから。

 体育の先生の説明の後、男子が先に短距離走、女子がその間にハンドボール投げを始める。僕は走らないために先生の計測の手伝いをする。本当なら体育係がやるんだけど、僕も暇だしこういうことで内申点を稼がないといけない。


 留年しないで卒業できたら良い評価なんて要らない。出席日数的にどうしたって評定は良くないだろうし。

 二回走って、すぐに男女でやる種目を交換する。五十分は意外と短い。

 ハンドボール投げは僕もやる。左投げで。記録なしよりは評価してもらえるのでできることは逆の腕でもやると決めていた。シャトルランとか走り幅跳びとかできないことばかりだから総合の評価はどうしたって悪い。


 でも怪我を理由でサボったら体育の評定をもらえないのでやれることはやらないと卒業できない。高校の卒業は父さんとも約束をしたのでしっかりとこなすつもりだ。

 順番待ちをして、僕の出番になる。二投連続でやって、良い結果の方を記録として提出する。


 みんなはステップして投げるけど、僕はステップをしたら膝が痛いのでノーステップで投げる。左手でボールを持つけど、違和感だらけだ。左手で持つ物は台本くらいで、主目的で何かを掴むことは少ない。

 ましてやこれを投げるなんてなあと思いながらボールをグニグニする。うん、多分まともに投げられない。

 でも時間も押しているのですぐに投げる。身体へ負担を掛けないように、今の全力で。


「フン!」


 バコン!と良い音がした。手を離すタイミングを間違えたようで思いっきり地面にボールを叩きつけたみたいだ。

 周りは唖然としている。いや、仕方がないかって目線かな。逆の腕だし。


「おおまけで三メートルだな。二投目」


 昔はどうやったんだっけ。それこそ『破面ライダー』の時を思い出せ。あの時はかなり動いてたじゃないか。身体が鈍ろうと、故障しようと。この身体は一応天才子役と呼ばれた「間宮沙希」の物だろう。

 あの頃、「間宮沙希」の全盛期の動きを、逆でやるだけだ。

 さっきの反省を活かして、またノーステップで投げる。槍投げと同じ要領だ。高く空へ放り投げる。


「よっと!」


 感触的に上手くいった。綺麗な放物線を描いて飛ぶ。さっきとは大違いだ。

 まあそれも、素人が投げたにしては良い線いってる程度のものだけど。

 僕も衰えたなぁ。身体は成長してるのに、身体能力は劣化していく一方だ。十歳の僕に勝てない時点で諦めもつくというもの。


「二投目、十三メートル。次」


 うん、これが今の僕の精一杯。これで俳優なんて続けられるわけがない。

 そもそも走れない俳優なんて使い道がないだろう。

 記録を自分で用紙に書いて体育は終わり。授業が終わるまで他の人が投げたボールを拾ったりして授業が終わる。


 教室に戻る時には逆の腕で凄いじゃんと蓮沼君と多田君に褒められた。褒められるのは悪い気がしない。

 体育は四限だったので、終わったらそのまま昼休み。食堂に走る男子生徒、グループを作りながら自動販売機でジュースを買う女子生徒、活気付く校内。

 日常だなぁと思いながらお弁当屋で買ったのり弁当を食べる。最近のお弁当って冷めても美味しいから凄いなって思う。電子レンジなんて置いてないから冷たいご飯を食べることは我慢しないといけないけど、温めなくても美味しいのは画期的だ。


 ご飯は色々な男子と日ごとに代わり番こで食べる。とりあえず色々な人と話すのは食事の時が一番盛り上がると思う。とっつきが見付けやすいのもあるだろう。飲み物やお弁当の中身で話せば良いんだから。

 食べ終わって談笑している頃、僕に話しかけてくる人がいた。同じクラスの冬瀬さんだ。


「あ、あの間宮君。ちょっと話いいかな?」


「うん、いいよー」


 この人、僕が声優だと気付いてる人だ。教室でそんな話をしたくなかったので教室から出てどこか人気がない場所を探す。

 同じ階にあった図書室の前は人がほとんどいなかった。この学校、ぶっちゃけると頭が良くない学校なので図書室を利用する人はとても少ないのだとか。図書委員すら存在しないのはびっくりした。


 昼休みに来たのに人気がない。秘密の会話にはもってこいだ。

 僕はなんとなくの会話の内容はわかっていても、彼女の方から話してくれないときっかけができない。コミュ障という訳ではないけど、相手が話そうとしている内容がわかったらエスパーと思われる。

 僕はただの声優で、超能力なんて使えないから勘違いさせても困る。目の前の冬瀬さんはしどろもどろになりながらも話を始める。


「あっと、えっと。私冬瀬美恵と言います」


「あ、うん。知ってるよ。同じクラスだし、僕のこと良く見てたし」


「うぇ!推しにバレてる……!」


 小声で言ってるけど、二人しかいないから丸聞こえだ。

 でもそうか。僕のこと推しだと思ってくれてるのか。『パステルレイン』の放送が始まったわけじゃないから、僕を知っているとしたら何かの作品をたまたま見てモブとしての僕を知っていたか。この前のイベントとか他の声優さんとの絡みで知ったか。


 凄い低い確率だけど僕が「間宮沙希」だと知っているか。

 あの頃とは声も変わったし背丈も変わったから繋がらないと思うけど。もしかしたら誰か気付くかもしれないよなあ。同じ間宮のままだし。

 ずっとアワアワされても話が進まないし、昼休みも有限だからこっちから切り出そう。


「僕の仕事のこと、知ってるんでしょう?」


「『スターライト・フェローズ』からのファンです!『パステルレイン』も原作が好きなので楽しみにしてます!」


「ありがとう。でも学校では仕事のこと秘密にしておいてね?学校や他のみんなに迷惑かけたくないからさ」


 人差し指を立ててしぃーと子供同士の隠し事のようにジェスチャーをすると、冬瀬さんは顔を両手で塞いでしゃがみ込んでしまった。


「ああああああ!推しが可愛すぎて辛い!本当に同い年⁉︎私より可愛いじゃん⁉︎」


 あら、感情隠せないタイプだったか。社長にファンサービスはちょっと大げさな方がいいって言われてたから鈴華ちゃんにやるようにしたらここまで悶えるなんて。

 オタクの方々の琴線に触れるポイントがイマイチ掴めない。声優さんの中にはそれこそオタクだから声優になったという人がいるけど、僕は子役上がりだし、目的が目的だったからやり過ぎがどこなのかわからない。


 でも『スターライト・フェローズ』からのファンかあ。夏前に驚かせることになりそうだなあ。

 それに女の子より可愛いと言われたら、男としてのプライドが死ぬ。身長だって157しかないし、誰彼構わず可愛らしい顔立ちとは言われるけど、できるなら男らしくありたい。

 ちょうど良い機会だし聞いてみようかな。


「そんなに僕って可愛い?声優の先輩にも言われるんだけど」


「あ、根本さんや東條さんのこと?大人の女の人から見ても可愛いと思うよ。顔立ちがその、女の子っぽいというか。仕草も見た目と相まって同い年よりは少し下に見えるし、女装とか似合いそうだなあって」


「最後のは聞かなかったことにするよ……」


 まあ、確かに?僕と姉さんって結構顔が似てる。姉さんの方が背が高いんだよね。せめて身長が逆だったらまだ可愛いと言われなかったんだろうか。父さんの身長を考えるともうちょっとは伸びそうだけど、中学二年からあまり背が伸びてないんだよね。

 女装。何故か男性声優はやらされる。というかコスプレをイベントなどでやらされるのでいつかやることになりそうだ。

 さて。ちょっと脱線したけど本題に戻ろう。声をかけるだけが主目的じゃないだろうから。


「えっと、それで。ファンって言いたいだけじゃないよね?友達になる?」


「なります!え、良いの⁉︎」


「クラスメイトだし、クラスで声優のこと拡散しなければ良いよ。個人情報さえ守ってくれれば連絡先を交換しても大丈夫だから。何人かのクラスメイトは連絡先知ってるし」


「連絡先交換して欲しいです!」


 お互いにスマホを出して連絡先を交換。僕の連絡先を手に入れた冬瀬さんはホクホク顔だ。声優とファンが同じ学校ってこと以上に、同じクラスにいるなんて確率どれだけ低いんだろうか。声優が若くデビューしてないと有り得ない現象だから凄く低そう。

 連絡先を交換した後、何を思ったのか冬瀬さんはスマホのカバー裏とポケットから油性ペンを取り出した。

 あ、これが主目的だと察した。


「それと!サインください‼︎」


「あ、うん。サインするの初めてだなぁ」


 声優間宮光希としては。子役の頃は何回かしたことがあったけど、声優としてはファンに会うようなイベントがなかったし、サイン色紙をするようなプレゼント企画なんてものもないくらい新人の声優だ。

 「間宮沙希」って書かないように気を付けないと。オレンジのスマホカバーに僕の名前を崩したサインを書く。子役の頃からのサインと雰囲気が変わらないから見比べられたらバレるかも。


「みーちゃんの初めて貰っちゃった!」


 発言が危ない。それに君もみーちゃんと呼ぶのか。

 冬瀬さんに譲歩したのは早まったかもしれないなあ。

 クラスに戻ってから冬瀬さんのこと揶揄われたけど、友達になって連絡先交換しただけと答えた。男子高校生はすぐに恋愛感情に結び付けてくるから怖い。まあ、僕が声優だって事情が分からなければ告白のように思われるのも仕方がないんだろうけど。


 彼女は僕のファンだよって言っても僕の頭を疑うだけだ。だからこれ以上何も言わない。

 冬瀬さんもクラスの女子に友達になれたーと報告していた。わかってるのは僕たちだけで良い。

次も日曜日に投稿します。

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