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魔女の生き残り  作者:
9/9

幸せとは


ルークが振り向くとリチャードが立っていた。ミラを背後に隠し警戒しながらリチャードに鋭い視線を向ける。

「…なぜここにいる?」

ミラ達を守ろうと兵士達も銃を構える。リチャードの護衛二人も引き金に指をかける。

「やめろ」

リチャードが護衛を制止する。

「…眠れなかったので、外の空気を吸おうと…兄上…ご無事だったんですね…良かった…それも人間の姿に戻れてる…」

リチャードが涙を堪える。その様子を見たルークは昔のように優しくリチャードに声をかけた。

「…お前は相変わらず涙もろいな」

「あの時はお力になれなくてすみませんでした…」

「気にするなお前があの時出来ることなどなかった」

「それでも兄上を助けたかったです…」

目を涙で滲ませながらリチャードはルークを見る。

「ありがとう、そう思ってくれていただけで嬉しいよ」

ルークは微笑みながら穏やかに言う。

「あの兄上…そちらの方は?」

ルークの声が少し低くなり、ミラを後ろに隠したまま答える。

「…私の連れだ。私と今から国を出る」

「…まさか魔女ですか?」

ルークはリチャードのサファイアブルーの瞳を同じ色の瞳で真っ直ぐに見る。

「お前は魔女狩りをしているそうだな。見つかったか?」

「…いいえ。見つけるつもりもありません。…あれから兄上の呪いを解ける方法はないかと書物を調べていたんですが何も見つかりませんでした。ただ、200年前を境に不自然に魔女が悪と書かれている書物が出始めていた。王家の図書室に保管されているそれ以前の書物に書かれている内容とは明らかに違っていた。父上に魔女狩りはおかしいのではと掛け合ったがあの人は魔女が悪という思考から抜け出せない。他の王族貴族もです。魔女を国の民の不満の捌け口として政治に利用しているのもあるでしょう。ですが、私は魔女狩りは誤ったことだと思っています」

リチャードの瞳は揺らがなかった。

「…そうか、リチャード…俺がここを通ることを見逃してくれるか?」

「私は何も見ておりません」

リチャードはルークを愛しむように微笑む。

「ありがとう、行こうミラ…」

「うん…」

ルークがミラの肩に手をかけリチャードに背を向けようとした時、ミラの金色の目に灯りが反射した。その時だった。


パンッ


銃声が響いたと同時にルークが体の前にミラを引き寄せ庇う。ルークの頬を銃弾がかすめた。ミラを庇いながら後方を見る。

「やはり魔女だったか!」

リチャードの後ろにいた護衛が銃を放っていた。

「何をする⁉」

もう一人の護衛がリチャードを後ろ手に拘束する。

「王命です。あなたが魔女を殺さないときは私が殺せと」

護衛は銃口をルークの方へ向ける。砦の兵士たちが銃を護衛に向けるが護衛はリチャードを盾にしており、撃つことが出来ない。銃口をルークに、正確にはその奥のミラに向けながら護衛は続ける。

「あと、もしも魔女を第一王子が庇うようでしたら殺しても構わないとのことでした」

護衛は後ろ手に拘束されているリチャードを眺め口角をあげる。

「そうそう、呪いがあなたに出てもまだ代わりの王族はいるのだからと仰られていましたよ」

「…兄上も私も切り捨てるのか…」

リチャードの瞳が悲しみで揺れる。


「…父上は相変わらずだな」

ミラの頭上で呟くのと同時に、ルークは振り向き銃を構えたかと思うと引き金をひいていた。


パンッパンッ


乾いた音が響くと同時に護衛たちが倒れる。


「リチャード、護衛は自分でちゃんと選べ。本当に信頼出来るものを置け」

「…兄上っ」

リチャードがルークに駆け寄る。

「…ルーク…銃が使えるの?」

ミラがおずおずとルークの胸の中から見上げる。

「狼になる前は国一番だったよ」

銃を腰に差し、優しく微笑みながらミラの頭を撫でる。

「ルーク頬に傷が…」

ミラがルークの頬を撫でると傷が消えた。

「魔力が戻ったのか?自分の体は治せるか?」

ミラは自分に向け魔法をかけるが小さな傷は治っても、深いものは治らない。

「まだ完全じゃないみたい…」

「気長にいこう」

落ち込むミラの頬を優しく撫でる。

「…あの兄上…ルークとは?」

「俺の新しい名だ。いい名だろう」

ルークはリチャードに誇らしげに言う。

「はい、兄上にお似合いです」

リチャードはルークを見つめ自分の思いを重ねるように返事をする。そしてミラに向き直りリチャードが頭を下げる。

「ミラさん。この国が魔女たちにした仕打ち本当に申し訳ありません。そして今もこの国は間違っている。私はこの国をかえたいと思っています。…でも、さっきのように今は敵意だらけで危険です。今は兄上と国外に身を隠さざるを得ないことをお許しください」

「…ルークが一緒に来てくれるから大丈夫です。…あの一つお願いが…」

ミラはルークの服の裾を握りながらリチャードに願う。ルークがミラの肩を抱き寄せる。

「私に出来ることがあれば何でも」

リチャードは顔をあげルークと同じ色の瞳でミラを揺るぎなく見る。

「…お母さん達を…魔女達をいつかちゃんと葬ってもらえませんか?」

「約束します。必ず」

「ありがとうございます」

ミラは嬉しそうに微笑みリチャードに頭を下げる。

「リチャード、俺は護衛を殺し逃亡する。この事実をお前の有利になるように使え。いい国王になれよ」

「兄上…」

ルークの気持ちを受けとり、リチャードがまた目に涙を滲ませ溢れないように堪える。

「お前は顔に出過ぎだ」

ルークが笑いながらリチャードの肩をポンと叩いた。

「兄上にだけです…」

リチャードが涙をのみこみながら微笑む。

「元気でな…、ミラ行こう」

ルークは少し名残惜しそうにリチャードに微笑むと、荷物を抱えミラを砦の外へ促した。ミラはリチャードと兵士達にお辞儀をすると、ルークに肩を抱かれ砦の外へ向かう。

「お二人ともお元気で…」

リチャードが涙を堪える。ルークとミラが振り向きリチャード達を見て微笑む。ルークが手を軽く振り、また二人は歩きだす。

そして、砦の外の暗闇に消えていった。




「…あの王子。私達にも国をかえる手伝いをさせて頂けませんか?」

砦の兵士の一人が口を開く。

「ああ、よろしく頼むよ。皆が幸せに生きることができる国をつくろう」

リチャードは兵士の手をとり握った。















数年後、西の果ての国には金色の瞳を持つ女性が病の人々を救う傍らで、女性に寄り添い支える青い目の男性がいた。





そして数百年後、西の果ての国から旅をしてきた金色の瞳を持つ女性がこの国を訪れる。王宮には魔女を祀った祭壇があり、この国の人々に暖かく迎え入れられ幸せに暮らした。





終わり


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