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魔女の生き残り  作者:
8/9

告白

次の日も目を覚まさないミラの口元に布から絞ってミルクや水を少しずつ飲ませていく。そして、それ以外の時は冷たいミラの体を抱きしめ温めた。


次の日もミラは目を覚まさない。ミラの頬に手をあてながらルーク声をかける。

「ミラ、目を覚ましてくれ。俺の名前を呼んでくれ…ミラ…」

「…ルーク?」

ミラの金色の瞳がうっすらと開く。

「ミラ!」

ルークがミラを抱きしめる。

「…ルークは狼で…あれ…」

ミラはルークに抱きしめられながらぼんやりした頭で考える。

「俺がルークなんだ。呪いで狼の姿になっていた。でもミラが俺の傷を治そうとしたときに呪いまで解けたんだ」

「そうなんだ…よかったね…」

ミラは抱きしめるルークの頭に手を伸ばし優しく撫でた。ルークの目から涙が溢れた。

「ミラ、俺はこの国の王子だった。でも、狼になって君と出会って君を知って君を幸せにしたいと思った。俺を君の隣にいさせてくれないか?」

「ふふっ、人間に戻ってもルークの暖かさはかわらないね…ルークと離れるなんて考えられないわ…」

ミラは泣きながら自分を抱きしめているルークを抱きしめかえす。

「…でも俺は君を不幸にした王族の一人だ」

「…でもあなたはあなたでしょ?私を殺す?」

ルークは目に涙を滲ませながらミラの頬を両手で包みミラの金色の瞳をサファイアブルーの瞳で真っ直ぐに見つめ口を開く。

「命を懸けて守る」

「ありがとう…私もあなたを絶対に守るわ」

ミラは微笑みながらルークの頬を撫でた。


ルークはミラに野菜や肉を潰しミルクで煮たスープを飲ませる。

「ごめんね、まだ魔力が空みたい…傷を治せないの…」

「君が生きてさえいてくれればいい。医学の心得はあるから、傷はゆっくり治していこう」

ミラの口にスプーンを運ぶ。スープを飲ませながら、麓の村の人や村出身の兵士達の魔女信仰の話や国外に逃げる計画の話をする。

「魔女のことちゃんと知ってくれてる人達もいたんだ…」

ミラの目から涙がこぼれる。ルークは頬を伝う涙を指ですくいとった。

「ルーク様…」

その時洞窟の前で声がした。村人がやって来たのだ。ルークは洞窟の外に出て追っ手がいないことを確認する。少し年を取った村人を洞窟の中に招き入れる。

「遅くなって申し訳ありません。兵士を撒くのに手間取りまして」

「いや、世話をかけてすまない」

「とんでもありません、魔女様の為ならば。こちらは薬と食料です」

「魔女様なんて…」

ミラが上半身を起こし少し困ったように言う。

「っお目覚めでしたか、ああ本当に…お会いできて光栄です…」

「そんな…」

「いいえ、私たちは先祖の思いをずっと背負って生きてきました。魔女様がいなければ存在すらしない者もいたのです。魔女様、今を生きている私たちに今出来ることをさせてください。さっきのお話、少し外できかせていただきました。ルーク様の仰られていた通りです。今、この国では魔女は悪とされています。見つかれば必ず処刑されるでしょう。私達村人があなた様を御守りしても国の兵士達には敵いません。ですが、あなた様達を国外へ逃がす手引きは出来ます。今は逃げていただけませんか?私達で何十年何百年かかろうとこの国の魔女は悪と伝えられた歴史をかえてみせます。」

ルークがミラの手を握る。

「ミラ、この国はすぐにはかわれない。俺も国の中心にいたからこそわかる。今は逃げて生きることを考えてくれ」

「…ルークも一緒に来てくれる?」

「もちろんだ。西の果ては魔女という存在事態知らないところだという。長い旅にはなるがそこまで行きたいと思っている」

「…お母さん達が悪くないって皆思ってくれるようになるかな」

「時間はかかってもきっとこの国は変われる。村の人達のような人がいてくれる限り…」

ミラの手を握るルークの手に力が入る。

「私達がどれだけ時間がかかろうと必ず魔女様方の汚名を払拭してみせます」

村人が力強い眼差しをミラに向ける。

「よろしくお願いします」

ミラは村の人達の気持ちを受け取り、深々と頭を下げた。

「頭をあげてください。魔女様、貴女方の幸せを願っております。数日後、また遣いの者が参ります。では、失礼いたします」

「本当にありがとう」

ルークは村人を洞窟の外まで見送る。洞窟から少し離れると静かな暗闇の中、村人が声を潜め話しかける。

「…弟君が砦に来られるそうです。今回の隣国からの攻撃への対応と魔女狩りの指揮をとるためとのこと」

「やはり魔女狩りを行うのか…しかも王族自ら陣頭指揮をとって…」

「魔女様を御守りください」

「もちろんだ。この命にかえても守ると誓う」

「ありがとうございます」

村人は深々とルークに頭を下げ森の中に姿を消した。



それから数日後、ミラは傷が少しずつ回復し多少であれば動けるようになってきていたが、魔法は使えずにいた。

「ミラ、包帯を替えよう」

ルークがミラの傷の手当てをする。

「村の人の薬が効いたな。大分傷が塞がってきている」

「…ルーク国外へ出るのはいつくらいかな?まだ長い時間歩けないかも…」

「あと2、3日で遣いの人が来てくれると思う。ミラが動けなかったら俺が運んでいくよ」

ルークは微笑みながらミラの頬を撫でる。

「私重たいよ?」

少し頬を赤くし見つめるミラの額にルークは自分の額をコツンとつけ金色の瞳を見つめかえす。

「狼の俺より?」

「ふふっそれはないかな…」

「なら任せて」

ルークとミラは見つめ合いながら少しはにかんだ。




2日後遣いの者が訪ねてきた。

「ルーク様、明日砦を抜けられることが出来ます。村出身の兵士達が夜間監視に着くそうです」

「わかった。ありがとう」

「私が砦までご案内します。今は森のあちこちに魔女狩りの兵士がいますので」

「有難い。迷惑をかけてすまない」

「いえ、私たちは自分達の心に従い動いているまでのこと」

「ありがとう」

「…ルーク、私あんなところまで歩けるかな…」

「俺が運ぶって言っただろ?任せて」

ミラを見てルークは微笑む。そして村人を見て尋ねる。

「今から出発すれば明日の夜に間に合うだろう。今からでも大丈夫か?」

「私もそのつもりで参りました」

「では、準備を始めよう」


ルークは村人が持ってきてくれた袋に食料、薬など旅に必要なものを詰めていく。そして、ミラの父が残した本も袋に入れた。ミラにとっては親からの贈り物、そして、魔女の本当の姿を示す唯一の本であったからだ。



「ルークごめんね…」

「ミラは体を休めてて」

今のミラの体では山道を歩くのは難しかった。魔力も空のようで魔法もまだ使えなかった。ルークが袋を前にかけ、ミラを背負いながらゆっくりと山道を歩いていく。村の人の案内通りに進むことで、兵士にも会わず砦の側まで進むことが出来た。


暗闇の中、砦の側の木の影から兵士が現れる。

「あれは村の出身です」

村人が小さな声で言う。兵士はお辞儀をし近づいてきた。

「ここからは私が案内します」

「よろしく頼む」

兵士は森の中を進み、村出身の兵士達が見張る地点まで移動する。

「魔女様ご無事でよかった…」

「敵兵は襲撃の際返り討ちにしたので、一度撤退しているようです。今のうちに出来るだけ遠くまでお進みください」

「お気をつけて、こちらは隣国の服です。必要になったら使ってください」

「銃も持っていてください」

「魔女様いつか絶対にこの国に帰ってきて頂けるようにします」

脱出に協力してくれている村出身の数人の兵士達が口々に話す。国境の壁を難なく通過出来そうだった。


「…兄上⁉」

後ろから声が響いた。


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