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魔女の生き残り  作者:
7/9

守る



ある夜国境の砦の方で火の手が上がりドーンと何かが爆発するような音が響いた。その後も爆発するような音が何度も響く。森で暮らし始めて約4年、こんなことはなかった。ミラは何事かと驚いて砦の方へと森の中を飛んでいく。砦に近づき木の葉の影から様子をうかがう。砦の向こう側から丸いものが飛んできては爆発する。

『爆弾?隣国からの攻撃?』

砦の上でも向こう側から登ってくる人達と銃撃戦になっている。

その時、様子を見ていたミラの目に血だらけになりながら敵に向かっていく白銀色の狼が映った。

『ルーク⁉』

狼は敵に噛みつき倒していくが、敵もルークに銃弾をあびせる。ルークの体から血が滴り落ち徐々に動きが鈍くなっていく。

『なんでこんなとこにいるの⁉やめて‼死んじゃうわ‼』

気付けばミラは森から飛び出しルークの元へ飛んでいた。

「なんだあれは⁉」

「人が飛んでるぞ⁉」

「まさか魔女か⁉」

足下から兵士達の声がきこえるが、ミラはルークを助けるのに必死だった。突然の魔女の出現に驚いて敵の兵士達も砦の兵士達も手がとまる。

ルークのいる場所に降り立つと、立っているのがやっとになっているルークを背中から抱きしめ飛びあがる。

『ミラ⁉なぜここに⁉』

ルークは血で霞む目で自分を抱えるミラを見る。

砦の兵士が我にかえり叫ぶ。

「魔女だ!撃て!撃ち落とせ!」

「応戦組と追跡組に別れろ!」

「撃て!撃て!」

姿を隠そうと森の中へ向かうミラに銃弾がとんでくる。

「っ!」

ミラの足や肩に銃弾が突き刺さる。

『…ミラ、俺を離せ…逃げろ…』

ルークは出血が多いために意識が遠退き始める中でミラを逃がそうと身をよじる。

「私を心配してるんでしょ?絶対離さないわ…」

『…ミラ…』

ルークの意識が途切れ力が抜ける。

「ルーク!ルーク!洞窟まで頑張って!」

ミラは痛みに耐えながら必死でルークを落とさないように森の中を飛ぶ。意識のないルークと森の中で血まみれでいれば動物に襲われる。手や足から血がだらだらと垂れ、ルークの血と混じる。ミラは可能な限り早く飛ぼうとするが、力が入らず思うように飛べない。

『はやく、はやく洞窟へ…』


やっとのことでルークを洞窟の中に寝かせる。ルークの呼吸を確認するミラの顔は青白く服は血だらけだった。

「…良かった…ルーク…」

ミラはルークの傷を治そうと可能な限りの魔力を注ぎ込んだ。




「おいっここに血が落ちているぞ」

「この中か」

蔦を避け兵士が洞窟の中に入る。傷だらけの狼の傷が治りながら人間に変化していく。

「王子⁉」

ルークを昔見たことがあった兵士が驚き叫ぶ。その声でルークの意識が戻る。目の前に血だらけのミラが倒れている。

「っミラ‼」

床に倒れている血だらけのミラを抱き抱える。

『手が…人間に戻っている⁉』

「その者は魔女ですか?」

「…ここに追いかけてきたということはわかっているんだろ…ミラを捕まえるのなら俺を殺してからにしろ」

低い声でルークは兵士を睨みながらミラを抱き抱えたまま後退り、キッチンの上のナイフを握る。

「…本当に魔女様なのですね」

「…魔女様だと?」

「王子、私たちは山の麓の村の出身です。森が深すぎて普通の兵士だと迷ってしまうので、村出身の兵士が追手として遣わされました」

「…だからなんだ」

ルークはナイフを構え警戒する。兵士達は武器を床におき、ルークを真っ直ぐに見つめる。

「私たちの村では国に隠れて魔女様をお祀りしています。いつも助けてもらっていた魔女様を魔女狩りから救えなかった後悔からです。ここに救護道具があります。魔女様の手当てを」

「…こっちへよこせ」

テーブルの影にミラをおろし、受け取った救護道具でミラの傷の処置をしていく。

「さすが王子…。王子がいらっしゃらなかったらどうなっていたか…」

兵士達は入り口付近で見守る。

この国の王族たちは自分達が負傷しても自分で手当てができるよう幼い頃から医学を教育されていた。


ミラの手当てが終わるとルークは兵士達に探るようにきく。

「さっきの話は本当か?」

「はい。国にばれないよう何も形あるものは残さず言い伝えでお祀りしています」

「本当です。魔女様は私たちの先祖を御守りしてくださっていたのに私たちの先祖は守れなかった。だからもし目の前に魔女様が現れれば昔のような過ちは繰り返さず必ず御守りしたいと皆思っていたのです」

他の兵士も話し出す。

「…そうだったのか。とりあえずミラをちゃんとしたところに寝かせたい。草を集めて布を被せベッドを作ってくれないか?」

「はい、今すぐに」

「あの、王子…お洋服をどうぞ」

「っああ、すまない…あと、俺はもう王子ではない。ルークという名だ」

ルークは狼から戻ったため裸だった。


棺の隣にベッドを作り、ミラを寝かせる。

そして兵士達と今後どう対応するかを相談する。

「私たちは見つけられなかったと報告します。ここに辿り着くのは村の者以外は難しいはずです。とは言え山狩りが西の砦から兵士を総動員して行われれば見つかってしまうでしょう。ただ、それまでには時間がはかかるでしょうから、魔女様が動けるようになったら国外に逃げてください。私たちが手引きします」

「なぜそこまでしてくれるのだ?」

「先ほどお話しした通りです。出来ることをしたいのです。私たちの先祖を救った魔女様は、国外に逃がそうとする私たちの先祖が王に裁かれてしまわないよう、自ら魔女狩りの兵士に捕まりに行ってしまったのです。村の者はいつも助けてもらっていた魔女様を助けるどころか最後には命まで投げ出させてしまった。それを皆後悔して魔女様をお祀りし私達子孫まで言い伝えているのです。治療道具や食料は村の者に運ばせます。もちろん他の砦の兵士たちには見つからないようにします」

「助かるよ、ありがとう」


兵士達は打ち合わせを終えると洞窟を後にした。ルークは血だらけのミラの体を拭き着替えさせる。血の気のないミラの肌は青白く冷たかった。

『ミラ…目を覚ましてくれ…』

ルークはミラを抱きしめて眠った。



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