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魔女の生き残り  作者:
4/9

距離


次の日、狼はミラの元を訪れた。ミラを探るように木の影に隠れてミラを観察する。

「あら、昨日の狼さん。いらっしゃい」

ヤギの乳を搾っているミラが微笑みながら、木の影からミラを見つめる狼に挨拶をする。

「ヤギのお乳飲む?ふふっ、ヤギさんは食べないでね」

ミラがヤギの乳の入った鍋からパンを入れていたお皿に乳を入れ差し出す。

狼になって5年、生肉ばかり食事に出され、ヤギの乳など人間だった時以来だった。狼はヤギの乳をペチャペチャと舌を使って飲みだす。

『うまい…』

「ふふっ、美味しい?」

金色の瞳でミラが夢中で乳を飲む狼の顔を覗き込む。

『う…』

狼は気まずそうに横目でミラを見ると、皿から顔を離しミラとは逆の方を向いて座った。

「もっと飲んでいいのよ?」

『もういらん…』

ヤギの乳への未練を残しながら、ヤギの乳に夢中になったところを見られて自分を情けなく思った狼はミラへ背を向けたまま耳も垂れる。

「…シチュー食べる?」

『シチュー⁉』

狼の耳がピンと立ってミラの方へ向く。

「ふふっ、今からシチューを作ろうと思ってたの。朝から兎も捕れたのよ」

『食べたい…』

狼はいつの間にかミラの方へ顔を向けている。

「1時間くらいで作れるから待っててくれる?」

『シチューなんて何年ぶりだろう…』

狼はいつの間にか尻尾を振っていた。

「美味しいの作るね」

ミラはそんな狼を微笑ましく思いながら、洞窟の中に鍋を持って入っていく。

『あんなところに入り口が…どんな生活をしているんだ?』

狼はミラの後について洞窟の中へ入る。ランプの光が照らす薄暗い洞窟内は綺麗に整頓されており、入り口から左に棚、奥にキッチン、右に棺、真ん中にテーブルがあるというシンプルなものだった。

『…棺?』

「あら、狼さんついてきちゃったの?その辺で待っててね」

ミラが奥にあるキッチンから狼に話しかける。狼は入り口付近から洞窟の中をキョロキョロと見ている。

「ここが私のお家。もう2年くらい住んでるかな?お父さんが私に残してくれた大事な場所よ」

ミラが少し寂しそうに微笑む。

『父親はもういないのか。母親は魔女のはずだ、どこにいるんだ…』

狼は棚に近寄り立ててある本の背表紙を見ていく。

『魔法の本…すべて王家が処分したはず。ここの魔女たちは魔女がりからどうやって逃れたのだ?』

「ふふっ、何か興味があるもの見つけたの?」

ミラがシチューを混ぜながら、棚を見つめる狼の視線の先をみる。

「あら、魔法に興味があるの?今度空を一緒に飛んでみる?人に見つからないように夜になっちゃうけど」

『本当に魔女なんだな…』

狼がミラの金色の瞳をじっと見つめる。

「なぁに?あっ、はやくシチューを食べたいのかな?ごめんごめん、手が止まってた」

ミラは鍋の方を向き調味料に手を伸ばす。その背中を狼は見つめていた。

『…こんな少女まで王家は魔女狩りで殺したのか?本当に魔女は悪魔のような者達だったのか?』


ミラがシチューを皿に入れテーブルの上に置く。

「はいどーぞ、熱いから気を付けてね」

『あぁ久しぶりだ』

狼がテーブルに手をかけ皿を覗き込む。

「床に置いた方が良かったかな?」

『いや、テーブルがいい』

狼はミラを見つめながら皿を前足で抱え込む。

「ふふっ、なんだか狼さん言葉がわかるみたい」

『わかるみたいじゃなくてわかるんだよ』

狼は呆れたように目を細目ながら、シチューを食べ始める。

『旨い‼』

ペチャペチャと前足をテーブルにかけながら凄い勢いでシチューを食べる狼を見て、久しぶりに一人ではない食事を嬉しく思うミラだった。


シチューを食べ終わり帰ろうとするとミラが口を開く。

「あのっ、明日も来てくれる?明日はパンを焼いておくわ」

狼が振り返りサファイアブルーの瞳をジッとミラに向ける。ミラも金色の瞳を期待でいっぱいにし狼を見つめる。

『魔女のことをもっと知りたいしな…パンも楽しみだ…』

「ワフッ」

狼は一鳴きし洞窟を後にした。狼を見送りミラは嬉しそうに明日のためにパンの下ごしらえを始めた。




次の日ミラが小川に水を汲みに行っていると狼がやって来た。ミラが水を汲んだバケツを持とうとすると、狼がミラを頭で軽く押しバケツの取手をくわえて歩き出した。

「狼さん大丈夫、私が持つよ」

狼はミラを無視して洞窟に向かって歩く。

「あ、ありがとう」

ミラは少し照れたように狼にお礼をいい、先に進む狼の後ろを追いかけた。


洞窟に着くと狼はバケツをキッチンの側に置き、鼻をクンクンと動かした。

「お水ありがとう。パン美味しく焼けたよ」

ミラは棚の上で冷ましていたパンを取り、テーブルの上に置いた。そして水を皿に注ぐ。

「昨日の残りだけどスープもどうぞ」

温め直していたスープもつける。

『いただきます』

狼はパンを前足で押さえながら食いちぎる。モクモクと口の中でパンを噛みながらスープを舌でペチャペチャ舐める。

「パンちぎってスープに入れようか?」

『そうしてくれ』

狼は前足で押さえていたパンを離す。

「ふふっ、ほんとに言葉がわかるのかしら?」

ミラは嬉しそうに笑いながらパンをちぎってスープへ入れる。

『だからわかるんだよ』

狼は目を細めミラを見る。

「はい、全部ちぎったよ。どうぞ」

ミラがちぎったパンの入った皿を狼の方へ少し押す。

『まぁいい。今はパンとスープだ』

狼は夢中で皿の中をたいらげる。

「ふふっ、一人の食事はちょっと寂しいから狼さんと一緒にご飯が食べれて嬉しい」

ミラは満面の笑みを浮かべ狼が美味しそうに食べるところを見つめる。

『母親はいないのか…なぜだ?』

狼は顔をあげミラを見る。

「ん?おかわりかな?はい、どうぞ」

『そんなつもりはなかったが、ありがたくいただこう』

狼はまた夢中で皿の中を食べ始めた。


狼は自分が食べ終わってもミラが食べ終わるまでテーブルに前足をのせお座りのかたちで座っていた。

「優しいのね。ありがとう」

金色の瞳が細くなり嬉しそうにミラが狼を見つめる。

『はやく食べてしまえ』

狼は尻尾をパタッパタッと振りながらお皿を見つめた。


ミラが食べ終わると狼は洞窟から出ようと入り口へ向かい出す。

「狼さん、気が向いたらでいいの。また来てね」

狼が振り向くとミラのすがるような目と視線が合う。

『…また来るか』

「ワフッ」

狼は昨日のように一鳴きし森の中へ消えていった。





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