公爵令嬢アガテ 幼少時2
『君の涙を拭いたい』は攻略対象の好感度を上げていくゲームではある。
だが、ただ単に交流を深めていけばよいというわけではなかった。
様々な試練をこなし、お目当ての攻略対象と結ばれるのだ。
試練は攻略対象ごとに変わっていくが、第二王子ルートでは婚約者がその障害一つとなる。
高飛車で高慢。絵に描いた権力者の娘というのがアガテという女だ。
普通の世界なら処されよう女ではあるが、貴族らしい世界ではこのような役割も必要だ。
特に、古くから国の根幹部に食い込み、金を出せる一族というのは強い。
いくらリーンラスが大国とはいえ、存在しているだけで国に恩恵を齎す存在ともなれば無碍にはできないものだ。
第一王子はやれないが、第二王子を生贄に多額の支援を出させる。
それこそがアガテが第二王子の婚約者という立場をもぎ取った経緯である。
「すんごい迷惑」
元OLからすればその一言に尽きる。
ただ、気持ちは分からなくはない。よそに飛ばして友好関係を結ぶよりも国内で飼い殺し、資金を回収したほうが国のためになる。
これで直系の嫡男がいればまた事情は変わったのだろうが、残念なことに一人娘である。よそから養子を取るにしろ、直系でないともなれば力は衰えるものだ。
だからこそ、両親も第二王子の婚約者にやろうとしているのだろう。私にとってはまったく嬉しくないwinwinである。
「しかし、それなら……私は不幸になるのでは?」
ほかのルートは忘れてしまったが、第二王子のルートに進まれた場合アガテは大体不幸な目に合う。
いやまだこれが王子に拒絶されたゆえの妄想である可能性も秘めているのだが……。
「紅茶があんまり好きじゃないのはもう、そういうことなんだよね」
どういう訳か、アガテの記憶よりもOLであったときの嗜好強く出ている。
確かに十年生きたアガテと、数十年生きたOLでは後者のバランスが強くはなるのは仕方ないのかもしれない。
考え方や振舞い方もどちらかといえばOLであったときのほうが色濃くなっている。だからといって、アガテであったことは否定したいとも思えなかった。
たった十年とはいえ、自分は今までアガテとして生きていた。
多少両親の教育方針がアレだったとしても、アガテは愛されて生きてきたのだ。
高慢ちきで我儘に振舞ってきたものの、それは処世術の一つとして教えられてきたことなのだ。
心根が強くなければつぶされてしまう、弱者だと分かれば何をされるか分からない。相手は王宮だ。
元の世界だって愛憎やら思惑渦巻く歴史は確かに存在していたのだ。
「……………」
冷め切った紅茶を飲み干す。
あまり好きな味ではなかったが、アガテは紅茶を愛した。
それならば私はアガテとして生きるべきなのだろう。
「でも不幸にはなりたくないわ」
望んでアガテとして不幸になりたいわけではない。
愛されていたアガテだからこそ、それを幸せで返してあげたいと思う。
ならば私が目指すのは誰も不幸にならないハッピーエンドである。