異世界での目覚め
沢山の悲鳴を聞いたような気がする……美代は、ズキズキと痛む頭を摩りながら目を覚ました。寝かされていたのは、天蓋のついた豪華なデザインのベッドだ。
美代は、映画のセットだろうかと考える。しかし、自分は映画ではなく、舞台をしていたはずだと思い出す。舞台はこの部屋のように広くはないし、お姫様の寝るようなベッドが出てくる内容ではなかった。
そこまで思い出し、美代は大きな声で叫んだ。
「そうよ、舞台よ!舞台はどうなったの?」
少しずつ思い出してきた。彼女は主演舞台の真っ最中に大道具が崩れてしまい、その下敷きになったのだ。美代が聞いた沢山の悲鳴は、彼女が大道具の下敷きになってしまった事で起こったものだった。
あの瞬間の事を思い出すと、体が震える。
美代の叫び声を聞きつけてか、天蓋が開かれる。天蓋を開けて近づいてきたのは、金髪碧眼で、まるで王子様のような格好をした青年だった。
「異世界のお嬢さん、お目覚めになられたのですね。」
青年は跪き、恭しく美代の手を取ると、そのまま手の甲にキスをしてきた。
まあ、なんてキザなの。この人、初めて見るけど新人の俳優かしら?王子様役だとおもうのだけど、かっこつけずにもっと自然に演じないと……
まさか、本物の王子様だと思わず、美代は心の中で王子様に王子様役のダメ出しをしてしまった。しかし、美代は顔には出さず、新人俳優を傷つけないように優しく微笑んで見せた。
「まあ、素敵な王子様。いったい私はどれほど眠っていたのでしょうか?」
美代は、おしとやかなお嬢様の役を演じて取り敢えず彼に合わせた。すると青年は、キラキラとした瞳で彼女を見つめ、力強く両手を握りしめてきた。
「ああ、姿だけではなく声も美しい。異世界のお嬢さん、どうか私のハーレムに入りませんか?」
質問に答えてもくれないし、もう無理、合わせきれない!
いくら美代が人気の演技派女優でも、何の情報もなしに異世界の王子様に演技で対応するのは難しく、ただ引き攣った笑みを浮かべる事しかできなかった。