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第9怪 怪病院に現れるナンシー中毒者(ホラー回? だよ)

 定期的に発生するという都市伝説、「怪病院に現れるナンシー中毒者」を知っているだろうか。


 海に面した宵ヶ浜(よいがはま)市に住む学生の間でささやかれる、都市伝説的存在である。宵ヶ浜の都市伝説は、大体がただの不審者情報なのだが、不審者情報を娯楽として楽しめる程度には平和な町である。

 なお、念のため言っておくが、シンナーではない。


 水川(みずかわ)瑠璃子(るりこ)は、怪病院なら世界を滅ぼせる怪獣を生み出せるのかな、とワクワクしながら語っていた。

 瑠璃子が世界を滅ぼす日は遠い。


 ******


 いつものごとく、オカルト研究会は都市伝説の調査に出ることになった。

 今回の都市伝説の調査は、オカルト研究会部長の円子(まるこ)多恵(たえ)がひどく渋っていた。

 だが、世界を滅ぼしたがる瑠璃子と、彼女には勝てない僕こと才谷(さいたに)勇児(ゆうじ)のカップルの圧力により折れた。


 怪病院と噂される、宵ヶ浜公共芸術センターは、そもそも病院ですらなく、市民が場所を借りてイベントを開催する施設である。

 噂によると、あるイベントの時にゾンビのようなナンシー中毒者や、奇声を発するナンシー中毒者が続出し、次からはここに病院を建てた方が良い、と言われるようになったそうだ。


 宵ヶ浜公共芸術センターでは、本日は宵ヶ浜コスプレイベントが開催されているらしい。


 宵ヶ浜はその景観の良さから、それなりにアニメやドラマなどの舞台に選ばれることが多く、いわゆる聖地と呼ばれる場所が多い。

 聖地付近で各々の好きなキャラクターの格好をするイベントのようだ。


 入り口近くにいた男装の麗人に話を聞いてみたが、ナンシー中毒者の情報は持っていないようだった。

 多恵は楽しそうに男装の麗人と写真撮影をしていた。


「か~、(てぇ)てぇなぁ。拙者、感激でござるよ~」


 渋っていた様子はどこへ行ったのか、一転してうれしそうな多恵は放っておく。

 瑠璃子と二人で場所を移動し、人魚のコスプレをした女性に話を聞いてみる。


「こんにちは。お話させてもらってもいいですか? 実は……」


 ナンシー中毒者の話をすると、なぜだか、ちらっと多恵の方を見たあと、僕の方を向きなおして返事をしてくれる。


「怪病院に現れるナンシー中毒者? あはは、ナンシー本のことか。サークルアンサー先生で検索してみるといいよ。アタシも好き」


 あっさりとナンシー中毒者の情報が得られた。

 勇児はついでに、人魚の格好をした人の写真を撮りたかったのだが、背後に立つ瑠璃子の圧力が恐ろしく、スマートフォンを取り出すことができなかった。


 その後、豚の着ぐるみを着た女性|(?)や、高校の制服っぽい衣装を着た女性、女性向けのテニスウェアを着た男性などのコスプレを眺め、会場を後にした。


 コスプレ衣装の女性を眺めすぎていたことに嫉妬したのか、帰り際に瑠璃子がポカポカ殴ってきた。

 ポカポカをやめるまでは、帰れそうにない。


 多恵には先に戻ってもらい、バス停のベンチでバスを3本乗り過ごすくらいの時間、勇児は瑠璃子を膝にのせて抱きしめていた。

 その間ポカポカは継続していた。

 僕は細マッチョだからいいけれど、もやし体型だったら骨が折れていたかもしれない。


 太鼓のゲームをプレイするために筋トレとランニングを続けていて良かった。

 筋肉はすべてを解決するなぁ。


「うぅ、やっぱり世界は滅ぼさないと」

「そうだな」


 やがて機嫌を直した瑠璃子とともに、バスで高校に戻った。

 高校に戻る間中、瑠璃子から恋人つなぎを要求されたことは想像に難くない。



 ****


 部室に戻り、サークルアンサー先生で検索をかけようとしたところ、なぜか多恵が顔を赤くしてうつむいていた。


 検索してトップに表示されたサークルアンサー先生のサイトには、ナンシー本がいくつもひっそりと載せられていた。表紙は画像がほとんど見えないように配慮されているが、どうやらナマモノと呼ばれるジャンルの薔薇マンガらしいことが分かった。

 ナマモノとは実在の人物をカップリングした同人活動のジャンルである。


 四人組男性アイドルユニット「コンパス」は、南条(なんじょう)文明(ぶんめい)志位(しい)芽福貴(めぶき)北海(ほっかい)信条(しんじょう)東海林(しょうじ)(しょう)からなる、今を時めくアイドルユニットである。


 怪病院に現れるナンシー中毒者は、つまり、サークルアンサー先生のナマモノ同人誌、南条と志位の薔薇本『ナン×シー シリーズ』の愛好者というわけであった。

 ナンシー中毒者に過剰なナン×シー成分を与えると、ゾンビのようになるし、むやみにシー×ナンを見せると発狂する。

 その辺は僕にはよくわからないが。


 おっと薔薇か、多恵が好きだよな。

 ん? 「サークルアンサー先生」を和訳すると……。

 なるほど。


 多恵が調査に猛反発したり、今うつむいていたりするわけだ。

 だが、ここは友人として気が付かなかったことにしておこう。

 そう決めた。


 一応、フォローのつもりで、今回の結果を瑠璃子と多恵に報告する。


「サークルアンサー先生って人が、ナンシーを題材にしたナマモノジャンルで人気があって、怪病院って呼ばれている場所は同人イベントの開催地ってことだな。最高の薔薇に狂うナンシー中毒者が、あまりに恐ろしいから都市伝説になったみたいだ。サークルアンサー先生がどんな人なのかは、想像もつかないけど」


 特に多恵に詮索をすることもなく、円子多恵=まるこたえ(サークルアンサー)先生は正体がばれていないということで、今回の調査は終了した。

 この世の闇を知ってしまった僕は、自分が薔薇マンガの対象にならないことを祈るばかりだった。

 金剛(こんごう)×勇児本など書かれて、瑠璃子に悪影響が出ると困る。


 ****


 友人にナマモノ同人誌がバレそうになるという苦行|(実際、僕にはバレたのだが)を終えた多恵は、疲れた顔をして早めに帰宅した。


 二人きりになった部室で、瑠璃子が話しかけてくる。

「ね、勇児は私に人魚みたいな衣装を着てほしいんだよね? 部屋のエッチな本にもあんな感じのがあったよね」


 なぜ部屋に招いたことのない瑠璃子が、僕の机の二重底に隠されたエッチな本の内容を把握しているかはわからなかったが、冷や汗をかきながら、精いっぱいの彼氏っぽい回答を返す。


「着てほしいか、着てほしくないかでいうと、着てほしいけど、瑠璃子はいつどんなときだってかわいいよ」

「そっか」


 よし。勝ったな。


 瑠璃子がかわいいのは本心である。

 付き合っているうちに、瑠璃子の嫉妬深さとストーカー能力に慣れてきたこともあって、瑠璃子の可愛さに魅了されてきている僕は深く考えるのをやめた。

 立ったまま向き合って、瑠璃子を抱きしめた。


「目をつむって」

「ん」

「瑠璃子が好きだよ」


 二人は唇をつけるだけのキスを一瞬交わした。サークルアンサー先生のナンシー本より、マイルドなキスであった。

 ちゃんと読んだことはないが。


「じゃあ、ホテル行こうか」


 おっと、相変わらずの既成事実攻撃だ。


「それはまだ早いかな」

 まだ、その度胸はないな。


 少し進展しても変わらない僕ら二人であった。


 続く


お読みいただきありがとうございます。

知人バレってホラーですよね(迫真)


今回の怪異

怪病院に現れるナンシー中毒者:サークルアンサー先生最高!


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