第42怪 有栖イン未来ランド(姉回)
姉から見た弟と彼女の話。あと強引な伏線。
才谷有栖は予知能力者である。
と言っても、生まれつきの能力者ではない。
路上販売の怪しいお姉さん、江波野桜から、未来が見えると言われて買った水晶玉。
面白いと思って買ったそれが本物だったのだ。
水晶玉を買ったのは弟が高校一年生の春休み、彼女とデートしているのを尾行して酒の肴にしていた日のことだった。
面白半分で占った結果、水晶玉には、文字が浮かび上がった。
その年に弟が出会った女性が運命の相手であるとあって、期待したものだった。
弟の運命の相手とされる、水谷瑠璃子と出会ったのは、弟が四月も終わりに近づき、友人関係も固定化してきただろう頃に、一人寂しくゲーセンに通っているのをからかった日のことだった。
一応、友人はいるらしいが、太鼓の鬼退治に青春をささげようと決めたらしく、体力増強にも努めており、本気さを感じたので、友人と遊ぶ方が良いのではないかと忠告することもなく、軽くからかう程度にしておいた。
三限を終えて、帰宅部の高校生と鉢合わせる時間帯に電車に乗り、家まで帰ってくると、我が家のまわりをうろうろしている、病弱そうな肌の白さと、腰まである長い髪が特徴の女子高校生を見つけた。
有栖は、すぐに声をかけた。
「うちに何か用? 宵ヶ浜高校の制服ってことは、もしかして勇児の知り合い?」
「え、あ、もしかして才谷君のお姉さんですか? クラスメートの水川瑠璃子です」
勇児からは特に話は聞いていないが、女友達の話はしたがらない年ごろだろうと納得した有栖は、とりあえず家に入りなよ、と瑠璃子を家に招いた。
それから、二人で話し込んだところ、オカルト好きなところに意気投合し、緑のSNSのIDなどを交換し、時々話すようになった。
それからしばらくして、勇児と付き合うようになったと瑠璃子から連絡が来てからは、勇児が持っているグラビア本などの情報を勝手に流し、二人が上手くいくように協力していた。
病弱そうな少女、水川瑠璃子は、見た目に反してアクティブであり、猪突猛進であり、弟にグイグイと猛アタックをかけているようだった。
なんでも、都市伝説の男からかばってくれたらしく、我が弟ながら、男前じゃないかと思ったものだった。
日頃の教育の成果のたまものであると、姉としても鼻が高かった。
高校生活を経て、水川瑠璃子と仲を深めたらしい弟は、しかし彼女に手を出すこともなく、堅物であることを、彼女から相談を受けて知っている。
普通は逆だと思うのだが、こればかりは、押せ押せとアドバイスするのも無責任であるので、成り行きに任せて弟の決断を待つのみであった。
二人はオカルト研究会に入っているらしく、休日は研究会の用事で出かけることも多かった。
大学の勉強とアルバイトに忙しい私とは大違いの青春の輝きである。
私もモテないわけではないが、どうにも弟以上にいじりがいのある男に巡り合わず、彼氏は作っていなかった。
この頃は弟にあたりが強くなっていたかもしれない。申し訳ない限りである。
弟が二年になり、女子力の高い男子の後輩を連れてきた時は、おさがりの服をあげて、着飾って楽しんだ。
弟が修学旅行に行き、毎朝の楽しみが不足していた日には、宵ヶ浜にいるよりも興味深い方向を聞いた。
瑠璃子ちゃんとは修学旅行中でも連絡を取っていたので、オカルト研究会らしい、怪しげな現象に巻き込まれたと知って、うろたえたものだ。
帰ってきた弟には、なぜかお土産にうどんをもらったが、なぜ京都に行ってうどんなのかはよくわからなかった。
八つ橋とかにしろよ。
この頃から、私は大学のゼミが忙しくなってきて、人の恋路に構っている余裕もなくなってきた。
水晶玉購入から二年半ほど経って、大学の夏休みに入ったころのことである。
もはや日課となっている、水晶玉閲覧タイムで、今日もきまぐれに未来予知をしたところ、恐ろしい未来が予言された。
「ん? 地球が滅ぶ? これどうしようかな。誰が信じるか、ってな。ま、まだ時間はあるし適当にやるか」
ゼミの合間に、大学教授に声をかけては、地球滅亡につながりそうな情報を集めていった。
我ながらよくやったと思う。
ほめてほしい。
そして、現在は弟とその彼女の高校の卒業式である。
水川家は母娘の関係が悪かったようだが、娘の瑠璃子からの歩み寄りと、時間による解決で、高校卒業時には、水川家と才谷家の合同食事会が開かれるまでになった。
母娘も普通に会話ができるようになったらしく、相談を受けていた有栖としては、感慨深いものだった。
食事会終了後、有栖は懸案だった、極秘事項について、大学関係者に連絡を取っていた。
「そろそろ予言の時期だけど、うまくいくかねぇ」
************************☆彡 ☆彡 ☆彡************************
相模金剛は実家で瞑想していたが、ふと強い邪気を感じて、ブルっと震えた。
「この感じ……まさか目覚めたのか……香間空呑式神」
香間空呑式神、それは呪術師である香間法師が生み出し、千年近く退治できずに困り果てた人類が、アポロ17号に載せてひそかに月に運び、封印した最悪の式神である。
金剛は、安倍の傍系が京都で起こしかけた百鬼夜行は、この封印を解くための前準備に過ぎなかったことを悟った。
金剛の実家や、安倍の直系が代々守ってきた封印が、解かれてしまった今、地球滅亡まで、あと百時間を切った。
空に浮かぶ満月は、そんなことも感じさせないほど、ウサギをきれいに見せていた。
夜風が、金剛の頬を撫でる。
続く
次回、本編最終話です。




