表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/44

第41怪 卒業

 高校に入学した日、僕は自分が卒業する日にどうなっているかなど想像もしていなかった。

 それこそ、宵ヶ浜でささやかれる都市伝説の数々などより、もっと想像がしにくかったものだ。


 高校の卒業式だからと泣くようなことはなかったが、僕は青春の日々とオカルトの日々を思い返していた。


 瑠璃子と出会うことになった、「世界滅ぼすぞおじさん」や、ロックンローラーの「ジャーマンスープレックスババア」、リアル怪異の「メリコンドル兄貴」に、修学旅行で遭遇した百鬼夜行、など、普通の高校生活を送っていれば出会わないような存在にたくさん出会ってきた。


 教室から体育館に移動し、卒業生の席に着く。

 卒業式が始まって、クラス代表が一人ずつ壇上に上がり、卒業証書を受け取る。

 今どきの高校にしては珍しく、仰いで尊さをたたえる曲を歌い、校歌を歌う。


 たくさんの数が長々と来ているものの、祝電・祝辞は都合により省略された。

 最近の卒業式は無駄を省いて省力化を図る方針らしい。


 それゆえに、長いと決まっている校長先生の挨拶は簡単なものとなった。

 簡単だからと言っても、思い出に残る、いや爪痕を残していった挨拶だったが。


「えぇ、おほん。

 人生には、『上り坂』、『下り坂』、そして『まさか』の三つの坂があると言いますが、渋谷にも、私の好きな三つの坂があります。

道玄坂(どうげんざか)』、『宮益坂(みやますざか)』、そして『間坂(まさか)』。

 今、天丼(テンドン)だと思いましたね? その通りです。

 まさか校長がネタを披露するだけなんて、思いませんでしたね?

 これが人生なのです。

 皆さんは、今日はまた一つ賢くなりましたが、渋谷の坂の話は、特に覚えて帰らなくても結構です。

 ただ、渋谷でつらいことがあったら、今日のことを思い出してみてください。きっとあなたの助けになるでしょう。

 以上を、お祝いの言葉とさせていただきます」


 卒業生一同、頭にはてなマークを浮かべたような、狐につままれたような表情をしている。

 え、渋谷の坂を三つあげただけじゃん?

 人生の何の役にも立たないな。


 簡単なものとはいえ、全卒業生、そして来賓(らいひん)をぽかんとさせた、校長先生のありがたいお話だった。

 ありがたくはないな。


 宵ヶ浜高校の七不思議に加わりそうな校長の祝辞だった。

 いや、マジで何だったんだ……


 そういったものを終えて、一同教室に戻る。


 教室では担任から、一人ずつ卒業証書が渡されて、最後の挨拶をして、終了である。

 受験結果が発表されていない人もいるので、進路については深く触れなかった。


 クラスメートと、卒業を喜び合う彼らの、将来を祝う。


「勇児~、この三年間、イチャイチャしやがって、俺も大学行ったら絶対お前らよりイチャイチャするからな」

 水泳部で、最後はインターハイにまで出場した、黒狼(こくろう)自由(そら)が声をかけてくる。

 エッチな本鑑賞会に情熱を注いでいた黒狼、そのカッコよさに男子はみんな惚れていたよ。

 大学ではぜひ頑張ってほしい。


 縁が深かった者と、各々の交流を終えたら、その場は解散となった。

 クラスメートで遊びに行く者もいるし、部活に顔を出す者もいる。


 オカルト研究会も、一旦集まって、後輩の皆藤に声をかけることになっていた。


「じゃあ、文芸部は一人になってしまうが、皆藤、後は頼んだぞ。一人に飽きたらオカルト研究会なり文芸部なりは、潰してもいいし」

「まあ、適当にやりますよ」


 こうして、四人体制のオカルト研究会としての活動は終了した。


 自転車を押して歩き、瑠璃子と最後の通学路を堪能した。

 この後は水川家、才谷家合同でレストランを予約してある。完全に外堀が埋められつつある僕であった。


 瑠璃子も母親とこの三年で互いに大人になったのか、和解した。

 笑顔で会話できるまでになったとまではいかなかったが、母娘として、互いの意見を尊重しあえるようにはなったようだ。


 家庭環境が良くなり、僕は瑠璃子のストーカー癖や愛の重さが解消するかと期待したが、三つ子の魂百までとでもいうべきか、特に改善することもなかった。

 これに関しては僕が慣れるしかない。

 もう空気のように感じているので、なくなると寂しいかもしれないし。


 ……それはないか。


 ******


 生徒たちが帰って、後片付けが終わった学校では、校長先生と韮沢先生が会話している。

「韮沢先生、どうでしたか、今年の卒業生は?」

「そうですね。入学当初は不安要素ばかりだったオカルト研究会の子らが、無事に卒業できて良かったです。おかげで退屈はしませんでしたよ。あ、これは母から聞いた話(・・・・・・・)ですが昭和(・・)60年頃にいた陰陽師の家系の子らは、今より破天荒でオカルトな学生生活を送っていたそうですね。それに比べればかわいいものです」


 韮沢先生の影だけに生える二本の猫の尻尾がモフモフとうれしそうに揺れていた。

 化け猫は百年生きた猫が妖怪変化となったものだとされる。

 このことから校長は韮沢先生の年齢をアラサー(アラウンドワンハンドレッドサーティ、つまり130歳前後)であるであると思っているが、その正体とともに定かではない。


 続く


ミステリージャンルに投稿するなら敬愛する小説シリーズにあやかって、最終話のタイトルを卒業にするのですけど、もうちょっとだけ続きます。


今回の怪異

韮沢先生の正体:アラサーの化け猫?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ