第39怪 今年は受験生だからオカルトとかお呼びでないんだよ(文化祭回)
「文化祭も三回目となると、万全の体制で迎えられる。そう思っていただろう、過去の僕よ。残念、今年が一番バタバタしている」
例年通りに会報を作成するだけなので、三回目となり、文章作成には余裕があったのだが、オカルト研究会は便利屋であるという認識が広まったため、厄介ごとが持ち込まれていた。
三年生にもなると勉強に時間を割いているため、あまりオカルト調査はできていないが、僕が連と協力して、オカルト調査の原稿を仕上げたころの話である。
創作意欲あふれる部長の円子多恵は、日ごろから、薔薇の文章やマンガをストックしているらしく、文化祭用に少し手直しするだけで、すぐに原稿が完成した。
漫画家志望は一味違う。
破滅願望あふれる水川瑠璃子は、日頃から犯行予告をストックしているらしく、三回目ともなると文化祭用に少し手直しするだけで、すぐに原稿が完成した。
僕の彼女は一味違う。
日頃から犯行予告をストックしないでほしい。
こわい。
印刷所にデータを渡して一息ついていた時、韮沢先生を通じて、生徒会から依頼が来た。
宵ヶ浜高校にも、ついに七不思議が出そろったらしく、最後の七不思議として、本物のドラキュラが出たという噂が流れている。
七不思議の調査とプール費用プール事件で名前が知りわたり、オカルト関係の面倒毎は、とりあえず韮沢先生とオカルト研究会に投げておけばいいだろうと思われているのか、面倒そうであっても、断りにくいこともあり、結局は調査に駆り出された。
ドラキュラが出たとされるのは、外で出店をやるクラスや部活動の出店場所らしい。口から血を流している生徒や、エプロンを血まみれにして運ばれた生徒、首筋に噛み跡が付いた生徒や、ニンニクに恐怖して逃げ出す生徒が現れた、という噂が流れている。
「ただの流血事件と不純異性交遊だと思うが……。オカルト研究会ではなく、番愛連隊にでも連絡したほうが良くないか。よし、呼ぼう」
一応、瑠璃子もバールのようなものさえあれば物理攻撃力は高いのだが、素手では普通の女の子である。
番愛連隊なら武器がなくとも、大抵のオカルトに物理で勝てる。がはは、勝ったな、と僕は番愛連隊の隊長エクレアに連絡をした。
「『急な連絡で申し訳ありません。ウチの高校で明後日、文化祭があり、僕が運営に関わったものの、割引クーポンを渡す相手がいなくて余っております。よければ彼氏とデートにどうですか?』と。よし。あとはエクレアさんの予定が空いていれば完璧だな」
あとは事件に遭遇しない程度に、軽く調査をしておけば生徒会も満足するだろ。
首筋に噛み跡がついた生徒がどうのこうの、というのは、水泳部のモテたい男子連合によるひがみセンサーを利用することにした。
普段からモテたい、モテたいと言っているだけあって、恋愛の空気には敏感らしい。
最近の恋愛の話を聞いて、それっぽい生徒の目星をつけた。
皆藤の学年にいる、校内指折りのイケメン、浦和小路ロビンであった。
さっそく連に声をかけて、近くに案内してもらう。
確かに首に虫刺されのような跡が二つ、犬歯で噛まれたようについていて、恋人なのか遊びなのかは知らないが、濃厚な愛の証を感じさせた。
うん、キスマークだろ。スルーしよう。
浦和小路の首についた噛み跡を見た瑠璃子は、僕に、質問をしてきた。
「勇児は、あれがキスマークだっていうけど、あんなにくっきり跡が付くかな」
「やったことないから知らないけど、多分つくんだよ」
「じゃあ、やってみよう!」
やってみよう、じゃあないんだよ、オカルト調査しようぜ。
だめ? だめかぁ。
泣く子と地頭と瑠璃子には勝てないので、僕はそのまま部室に連れ込まれた。
部室に彼氏を連れ込み、うきうきと首筋を一生懸命吸い付いてキスマークをつけようとする瑠璃子であったが、なかなかうまくいかなかったのか歯を立てて噛みついてきた。
「瑠璃子、痛いから噛みつかないでくれないかな」
「ん、わかった」
瑠璃子はチューチュー吸っているが、肺活量の問題なのか、僕の肌が強いのか、少し赤くなっただけで、浦和小路ほどの跡はつかなかった。
ちょっとだけ跡はついたんだけど。
あれ? もしかして、このあとの文化祭準備、僕はキスマークをつけたまま向かうの?
やらかした。
なお、その後、教室に戻った僕が、クラスの手伝いを始めるときに、クラスの男女からからかわれたことは言うまでもない。
「これみよがしに、キスマークなんぞつけやがって、皆の衆、討ち入りの時間じゃあ!」
これは水泳部の黒狼である。
こいつは何かにつけて肩パンをしてくる。
体育会系のノリである。
「さすがバカップルじゃん。生徒会の仕事じゃなかったの? サボっていちゃついてたの?」
これは女子生徒の三好である。
「生徒会の仕事でいちゃついてたんだけど……、あれ?」
自分で言っておいて意味わからないな。
僕は事情を説明しようとするも、要領を得ない回答となり、ますますクラスメートから問い詰められることとなった。
結局、血まみれになった生徒の噂については、文化祭前日に、生徒会の確認のための査察のときまで、解決することはできなかった。
査察では一応、食べ物を作る場所と手順などを確認する。
実際に作らなくても良いのだが、食べ物屋の練習もかねて、売るほどの量ではないが、生徒会や自分たちで味見する分くらいは作るところが多い。
確かに口元を赤く染めた生徒が多い。
返り血のような赤いシミをシャツにつけた生徒もいる。
生徒会も流石に噂の正体に気づいたようだ。
僕たちは、噂話とはつくづくあてにならないものだと、実感した。
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文化祭当日になった。
番愛連隊の隊長、エクレアさんと、その彼氏の一色月光さんを入口で出迎えると、入口付近の飲食店スペースに行く。
おどろおどろしい赤い看板や、ハートが飛び交う毒々しいピンクの看板が目につく。
どちらもメニューにはトマトポタージュが書かれている。
近頃はテレビで紹介されたのか、女子高生の最先端の流行なのか、トマトポタージュブームが始まりつつあり、トマトポタージュを売る店が隣り合っていた。
タピオカ屋ブームの次は、トマトポタージュ屋がたくさん出店されて、SNSに投稿されるのかもしれない。
トマトポタージュ屋の片方は濃厚さを売りに、片方はヘルシーさを売りにしており、どちらも盛況であった。
「愛の飲み物か。月光、カップル用のを買うか!」
「ああ、任せろ」
エクレアさんと、彼氏の一色さんは、トマトを堪能した。
通行人が多く、トマトポタージュをこぼしている人も少なからずおり、地面には血痕のような跡がぽたぽたとある。
「ポタージュだけに、血痕がぽたぽたあるってか。やかましいわ」
よく考えると、もう解決しているから、エクレアさんたちを呼ぶ必要なかったな。
楽しんでくれているからいいか。
空前のトマトブームに翻弄されたオカルト研究会であった。
続く




