第38怪 一日一彼氏 お前が都市伝説になるんだよ!
全国的に有名になりつつある、「一日一彼氏」を知っているだろうか。
宵ヶ浜の都市伝説ではなく、恋愛トークに飢えた全国の学生の間でささやかれる、写真投稿系SNSのアカウント名である。
その名の通り、一日一回、今日の彼氏のすばらしさを語る文章、たまに写真を投稿するアカウントらしい。
特筆するような特徴もない、ただの素人のアカウントだが、現在五万人にフォローされている。
彼氏の顔が投稿されたことはないため、実は妄想の産物ではないかと言われているが、毎日投稿される彼氏のすばらしさにファンができているとか、いないとか。
オカルト研究会所属の2年生、皆藤連曰く、不審者から助けてもらったことをきっかけに猛アタックして射止めた彼氏であり、同じ部活動に所属し、他では体験できないような貴重な学生生活を送っていることが知られているらしい。
隣で水川瑠璃子は、うんうん、と頷いている。
うんうん、じゃあないんだよ。
僕だよね。
僕としか思えないんだけど。
本日のオカルト研究会は、皆藤からの都市伝説発見の報告から始まった。
全国的に有名になりつつある、謎のアカウントということで、女子高生の間で話題になっているらしく、皆藤も女友達から聞いたらしい。
僕こと才谷勇児は、瑠璃子や皆藤の反応から、うすうすわかっているが、一応確認する。
「――もしかしなくても、その彼氏というのは、僕なのでは?」
今日も女子力の高い連が、髪をかきあげて耳にかけながら、反応する。
「あ、やっぱりわかりました?」
「さすがにね……」
僕はスマートフォンのアプリを起動し、該当するアカウントを検索、確認する。
お、これか。
@一日一彼氏 今日の彼氏かわいいポイント:寝癖がかわいい
@一日一彼氏 今日の彼氏かわいいポイント:寝癖がかわいい(昨日とは逆)
うんうん。なるほど。
僕そんなに寝癖ついてる? マジ?
読み進める。
@一日一彼氏 今日の彼氏かわいいポイント:髭剃りに失敗した傷がかわいい
@一日一彼氏 今日の彼氏かわいいポイント:私に似た女の子のエッチな本を買っていた。かわいい
@一日一彼氏 今日の彼氏かわいいポイント:私と同じシャンプーを買っていた。同じ香りになるね。かわいい
たぶんこれ姉に頼まれた買い物だな。
僕が使っているわけじゃない。
@一日一彼氏 今日の彼氏かわいいポイント:中学時代の妄想ノートを発見して悶絶していた。かわいい
おい、拡散やめろ。
@一日一彼氏 今日の彼氏かわいいポイント:寝言で私の名前を呼んでいた。かわいい
@一日一彼氏 今日の彼氏かわいいポイント:地縛霊にお供え物をあげに行った。やさしい
うへ、思った以上に秘密が暴露されている。
ちなみに寝言を知られているのは、瑠璃子の高いストーカー能力によるものだ。
よく考えると寝言を知られているってヤバいな。
まあ、瑠璃子だしな。
寝言を知っているということで、フォロワーからは、一緒に寝ているように思われているらしい。
同棲して期間が長そうなのに、仲が良いですね、などのコメントがいくつかついている。
同棲はしていないのだが。
同棲はしているみたいな風潮やめろ。
瑠璃子はスマホをカバンから取り出し、なにやらごそごそと操作をしている。
僕は瑠璃子の行動をスルーして、投稿を流し読みしていく。
ちなみに、「一日一彼氏」で一番古い投稿はこれである。
@一日一彼氏 今日の彼氏かわいいポイント:不審者から守ってくれてかっこいい彼と付き合えることになったので、今日から彼の魅力を記録します
僕が一通りの投稿を確認し終わったころ、瑠璃子はドヤ顔でアカウントを表示したスマホの画面を見せてくる。
「一日一彼氏、投稿しているのは私です」
「あ、うん。それはさっきやった」
意外と人の話を聞いていない瑠璃子に、僕は心の中で、かわいいポイントを追加した。
「ほら、私の彼氏、かわいいでしょ」
「それ僕だし、ここのメンバーはみんな知ってるからね?」
瑠璃子は、えっ、知ってたの、という顔をしたが、すぐに気を取り直して、多恵に、最近フォロワー五万人になったの、と自慢を始めた。
仕方ない。
かわいいポイントを加算しておこう。
「瑠璃子というか、僕というか、オカルト研究会のメンツが都市伝説になるとは、あれじゃない? 深淵をのぞき込むと怪物になるってやつじゃない?」
多恵も別の都市伝説になってはいるんだけど。
本人が気にするのでだまっておくが。
「先輩、受験生なんですから、ニーチェの文章くらい正しく引用しましょうよ」
後輩の皆藤に、うろ覚え知識を指摘されて、こわいというか、悲しくなった。
倫理は受験科目じゃないので、あまり覚えていなかった。
多恵がフォローのつもりか、謎のテンションでハイタッチをしてきた。
「善悪の彼岸イエーイでこざる!」
「えぇ? あ、うん。善悪の彼岸イエーイ!」
ハイタッチを返す。
善悪の彼岸って本の文章なのかな。
なお、この挨拶は流行らなかった。
この日、僕自身が都市伝説になっていたことを知ったが、何が変わるというわけでもなく、いつも通りの海風が頬をなでていった。
続く
善悪の彼岸イエーイ!




