第31怪 メリコンドル兄貴の成仏
修学旅行の裏で起こる、後輩の皆藤連ちゃんと、メリコンドル兄貴サイドです。勇児目線に戻ってのお土産回でもあります。
これは、二年生が修学旅行で不在の宵ヶ浜で、ウチ、皆藤連が体験した物語だ。
オカルト研究会の先輩方は面白い。
初対面からカミングアウトしたウチを何のためらいもなく受け入れてくれたし、数々の事件に、毎日退屈しない。
先輩たちが修学旅行でいない間に、メリコンドル兄貴に会いに行くことにした。
オカルト調査は、基本的に一人ではいかないように言われているけれど、今回だけは、どうしても一人で行きたくて、タイミングを待っていたんだ。
放課後、一度家に帰り、荷物を置いたら、冷蔵庫にあるストロングなアルコールを拝借してカバンに詰め込む。
自転車でそのまま移動し、坂を上り下りしてゼェハァ、とする。
普段の運動不足がたたっている。
勇児先輩はこの坂も平気で移動できるらしい。運動部を兼部しているわけじゃないのに体力があるなぁ。
坂をいくつかこえて、トンネルの入口で息を整えたら、メリコンドル兄貴がいる場所まで自転車を押していく。
メリコンドル兄貴に会うのは二回目なので、顔を覚えているらしいけど、やはり生前の記憶はあいまいで、ウチのことや自分の家族のことは覚えていなし、思い出してもいないらしかった。
「茗荷宿に泊まったかのような気分であるな」
メリコンドル兄貴は、記憶があいまいという割には、こういう知識は覚えているようだ。
茗荷宿は落語の一つで、茗荷には忘れものをさせる効果があるからと、お客に茗荷を食べさせる宿屋の夫婦の話だ。
「そういえば、落語が好きだったね」
「某は、落語が好きだったのであるか」
「うん、落語が好きだったよ。そのおかげでウチも落語が好きになったんだ」
それからは、生前好きだった落語の話や、それに関連したエピソードなどを話して聞かせた。
話し終えたウチを申し訳なさそうにみて、メリコンドル兄貴は、こうつぶやいた。
「すまぬ。やはり思い出せない」
そうだよね。
そう簡単にはいかないよね。
ウチはメリコンドル兄貴との思い出をどんどん思い出してしまい、涙をこらえながら、語り続けることになった。
全裸で有名になって引きこもった後も、定期的に会って、一緒に笑ったこと、亡くなって悲しかったこと、なども感情に任せて話してしまう。
「そうか、全裸で有名になっても、お前は俺のことを、兄貴分だと思ってくれているんだな。ん? 今、俺って言ったか……? 何か、自分を縛っているものがなくなった感じだ」
「そうなんだ。幸鷹お兄ちゃん、自分を取り戻したんだね……」
アルコールなのか、死によるものなのか、大切なものを忘れていた、メリコンドル兄貴は、現世の心残りに縛られて、ラストサムライとしてトンネルに取り残されていた。
しかし、ウチのように愛している人がいたことを思い出して、その鎖もほどけたらしい。
「最後に、ストロングなアルコールを一本もらっても……、いや、よそう。また自分を見失ってはいけない」
「そこは夢っていうところじゃん。最後までしまらないなぁ」
めり込んだまま、色が薄くなっていく。
メリコンドル兄貴、いや、幸鷹お兄ちゃんは成仏した。
酒で失敗してひきこもったとしても、親戚のいいお兄ちゃんだった。
めぐり合わせてくれたオカルト研究会の先輩方には感謝してもしきれない。
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僕こと才谷勇児を含め、二年生は修学旅行を終えて、授業に戻る日々が始まった。
メリコンドル兄貴の成仏から一週間後、とは特に知らない僕らは、無事に修学旅行から帰ってきて、初めてのオカルト研究会の定例を開いていた。
久しぶりに全員そろったって感じがする。
瑠璃子が、皆藤に修学旅行のお土産を渡している。
ご当地うどんに、河原で拾ってきたような普通の石、刀に見える折り畳み傘、それに梵字が書かれたテープでぐるぐる巻きになっている傘の残骸である。
うどんはカレーうどんと、九条ネギをつかったかつおだしのうどん、それに油揚げ入りがセットになっている。
うどんをチョイスしたのは皆藤の好物がうどんだからであるが、それ以外のチョイスは、怪異に遭遇していない皆藤には謎であったようだ。
微妙そうな表情をしている。
僕もそう思う。
ちなみに、うどんは多恵、折り畳み傘は僕、石と傘の残骸は瑠璃子のチョイスである。
瑠璃子のチョイスがひどい。
せっかくなので、うどんを作って食べたいという皆藤のために、多恵と瑠璃子がお湯を入れに行く。
自分たち用のうどんも買ってあるので、人数分のカップうどんが、湯気を見せつつ運ばれてきた。
多恵と瑠璃子が席に戻ったのを見て、僕たちはお土産として渡したごみを見ながら、詳しい話を聞かせる。
誰かが作った百鬼夜行の式神と、それを収納した異空間、脱出の経緯など、面白おかしく、とは言えないが、臨場感たっぷりに語る。
「先輩たちは京都でもオカルトに遭遇したんですか? さすがに呪われてませんか?」
「そうかもしれないな」
僕は同意するしかない。
僕らの説明は続く。
石は異空間で拾ったもので、とても貴重なものであること、など。
うんうん、と皆藤も話を聞いてくれていたが、話が終わると、何かに気づいてしまったようで叫んだ。
「お土産話でごまかそうとしていますが、これ、結局ただのごみじゃないですか!」
ばれてしまったか。
「ごめんなさい……」
僕の彼女がまことにもうしわけない。
オカルト好きだから、喜ぶと思ってのチョイスらしい。
今も、なぜおこられたのか、と不思議そうな顔をしているし。
皆藤のツッコミに、うどんのだしが染み渡る。
部室には、九条ネギのにおいが、ほのかに漂っていた。
続く
皆藤と兄貴の会話がわからない方は落語「茗荷宿」「芝浜」を聞いてみてください。芝浜は少し長いですが。




