第30怪 修学旅行、狂都百鬼夜行(裏)
友人の金剛目線で修学旅行編、残された側のお話
小生の名前は相模金剛。
普通の高校2年生だ。
強いて普通ではないところをあげると、実家が寺である。
関係あるのかないのかはわからないが、昔から、霊的な存在を見ることも、ある程度祓うことも可能だった。
友人の勇児、――ダジャレではないぞ――、とその部活仲間とともに、京都へ修学旅行に来た。
文芸部ということになっているが、実態はオカルト研究会らしく、都市伝説を追い求めてきた変わり者の集まりとして、周りには認識されている。
あと、勇児とその彼女、水川瑠璃子は学年でも有数のバカップルとして知られている。
クラス内のイチャイチャを見て死んだ男子生徒は数えきれない。
南無。
触発されたのか、耐えられなかったのか、クラス内のカップル率は他のクラスよりも高いらしいが、小生には無縁であった。
悲しいことだ。南無。
それにしても、彼らがオカルト研究会だからといえども、小生にも手に負えないような強力な魑魅魍魎の類に、よりにもよって修学旅行で遭遇するとは、だれが想像できただろうか。
修学旅行初日のことである。
小生たち、勇児や水川さん、彼らと同じ部活に所属している円子多恵さんは駅から徒歩で店を冷やかしつつ、目的地に進んでいた。
小生は、男二人でつるんでいると、ほほえましそうな目で見てくる、円子さんのことが気になっていた。
高校生ゆえ、煩悩に身を焼かれるのも仕方ないことだろう。
なぜ男二人でいるときだけ、好意的な目を向けてくるのかはよくわからないが。
金平糖や八つ橋、うどんに折り畳み傘、木刀を見て、お土産を買い、または後回しにして、進んでいく。
円子さんは、なぜか木刀に強い興味を持っていた。
なぜだろうか。
後でプレゼントでもしようか。喜んでくれるだろうか。
拳銃城に見学に来た小生たちは、門をくぐろうとしたのだが、その時に不可解なことが起こった。
勇児の持っている石が光りだし、勇児を別の空間に引きずり込んだのだ。
光はすぐに消え、勇児の姿だけがなくなっていた。
慌てる水川さんは、扉を壊そうとしたのか、手ごろな石を両手で持ち上げ、叩きつけようとしている。
「勇児! 今助けるよ!」
「待って! 文化財を傷つけようとするな! でござるぅ」
円子さんが水川さんを羽交い絞めにして、凶行を強硬に阻止している。
危ないところだったな。
本来は男子である小生が止めるべきだったのかもしれないが、水川さんに抱き着くのは、勇児に悪いからな。
これで良かったのかもしれん。
「あやうく器物破損の犯人になるところだったでござる」
「器物破損はどうでもいいけど! 勇児はどうすればいいの!」
水川さんも少し落ち着いたのか、いや落ち着いてはいないか、石をもとの場所に放り投げ、円子さんをなじっている。
ここは冷静な判断をしてもらわないと。
「とりあえず、電話をかけて、連絡を取ってみてはどうだろうか」
小生は提案をした。
「そっか」
水川さんもやっと冷静に対処してくれた。
カバンからスマートフォンを取り出し、勇児に電話をかける。
ぷるるるる、と発信音が続くも、機械的なアナウンスに切り替わった様子だ。
「電波が届かない場所にあるって言われたよ。やっぱり扉を壊した方が……」
水川さんの目からハイライトが消えていく。
まずいな。
「ほかに連絡手段はないのか? 勇児はこういう時のためにオカルトグッズを用意したと言っていたと思うが」
こういう時のためにオカルトグッズを用意していると聞くと、完全に思考をやられている人だと思うだろうが、勇児は妙に都市伝説に巻き込まれているから仕方ないことなのかもしれない。
水川さんは、目をつむってしばらく考え込んだ。
やがて、思いついたらしく、カバンから、何やら得体のしれない、モーターに細長いロール紙がつけられた、業務用のセロハンテープのような形の機械を取り出した。
初めて見たが、形状から想像するに、モールス信号の受信器だろう。
受信機は、電源を入れると、トンツー トンツートントン トンツー ツートンツートン、……と、どこからか信号を受信し、紙に記し始めた。
やがて動作を止めた受信機から、小生が解読する。
「和文モールス信号か」
『いかいに とじこめられた もとむ だつしゆつ ほうほう』
内容からして、勇児に間違いないだろう。
これが送信できているということは、ひとまず、異界とやらにも安全な場所があるのだろうな。
モールス信号の受信機から、残された陰陽力をもとに、破魔術を使えば位置が探知できる。
陰陽力って何かって? それは小生も知らん。
なんかこう、ぶわああ、ってなるやつだ。
「異界! 異界ってどうやったらいけるの!」
水川さんが詰め寄ってくる。
長い髪がペしぺしと当たるな。
「小生が異界のゲートを開こう。南無三! ふんっ」
九字の印を結び、オカルトモールス信号装置の陰陽力も利用して、空間を強引に捻じ曲げる。
この事態を想定していたかのように、やけにあっさりと異界の扉が開く。
やはり、オカルトグッズの製作者は、小生の知っている、業界の有名人に違いない。
一応、危険だからと説得を試みたが、水川さんは聞く耳を持たない。
それなら一緒に行動する方が良いだろう。
「まずは小生が様子を見る。五つ数えて、小生が戻らなかったら、安全だと判断していい。そのまま入ってきてくれ。円子さんは待っていても良いぞ」
「うん、わかった」
水川さんの目にハイライトが復活した。
円子さんは来なくても大丈夫だと思うが、それは自分で判断してもらおう。
小生は一歩先に異界に踏みこんだ。
すぐに安全確認をする。特に危害を加えてくる存在はいないようだ。
念のため周囲を警戒していると、後ろから声が聞こえる。
「拙者は行かなくてもいいと思う……、って押さないで!」
「えい!」
結局、円子さんも巻き込まれてしまった。南無。
******
勇児と合流した小生たちは、状況の分析に入った。
「この数の魑魅魍魎が揃うということは百鬼夜行か。だが今日は戌ではないぞ。ならば鬼の類ではないな。何者だ」
百鬼夜行は戌が割り当てられた日に起こるとされており、今週なら土曜日が該当する。本日は戌の日からずれており、本物の鬼ではないと、小生は説明した。
百鬼夜行の異空間に飛ばされた我々は、自分たちの置かれている状況を分析した。百鬼夜行の歩く道は入り組んでおり、ゲームのダンジョンのようであった。うかつに動いても脱出できる可能性は低い。
元凶を退治するのが一番であろう。
「まずは先頭の餓鬼を祓って様子を見よう。勇児、その折り畳み傘を貸してくれ。おそらく壊してしまうから、後で新しいものを弁償しよう」
小生は折り畳み傘を勇児から受け取ると、カバンから梵字と漢字が書かれたお札テープを取り出し、傘に巻き付けた。
「拙僧は修業中の身の上だが、退魔の心得は多少ある。黄昏流僧式退魔術、青札の金剛、いざ参る! キェェェェ!」
そのまま数体を倒したものの、小生は格闘技を習っているわけではないからな。傘も折れてしまい、残りを倒すのは骨が折れると思ったものだ。
さきほど木刀を買っておくべきだったな。
その心配は、バールのようなものを取り出した水川さんが、すぐに吹き飛ばしてくれたが。
えぇ……? 勇児の彼女、強すぎない……?
後から聞いたところによると、キューピッド集団、番愛連隊の隊長から直々に教わった退魔術を応用したものらしい。
キューピッドというよりは戦乙女か何かではなかろうか。
驚きすぎて、そのあたりのことはあまり記憶にない。
ともかく、気が付けば、もとの世界に戻っていた。
小生はあまり役に立たなかった気がする。南無。
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無事に戻って来たところで、水川さんが勇児に声をかけている。
「無事に帰還したし、体の隅から隅までチェックしないとね。勇児、ホテルに行こう」
「行かないよ。修学旅行中なんだから、どうせ後で帰るだろ」
相変わらずこのカップルは人目もはばからずイチャイチャするものだ。
小生は円子さんに声をかけることにした。
「円子さん、大丈夫だったか?」
「う、うん」
慣れない体験のせいか、若干の疲れが見える円子さんに声をかけて、小生も残りの修学旅行を楽しむことにした。
残りの日程はつつがなく進み、特に小生の恋の進展はなかったのは、都市伝説よりも怖い話ではなかっただろうか。
なお、その後、百鬼夜行の式神を準備していた安倍の傍系は、本家筋の陰陽師たちに潰されたと聞く。
どうなったかは聞かない方が良いだろう。
続く
お読みいただきありがとうございます。
多恵が木刀に興味を示しているのは、マンガでよく出てくるからです。
『ゆる〇り』とか。




