第26怪 水泳部に河童? そっちで解決してくれ
お盆に泳ぐと水中に引きずり込まれるというのは、どこの田舎でも聞かれる話である。宵ヶ浜は電車で二駅行くと、すぐに繁華街に出られるが、海に面しているからか、水に関係した噂は絶えない。
会報のネタ集めをすでに終えたオカルト研究会には、校内のオカルト情報もそれほど欲していないのだが、残念ながら、オカルトの方から寄ってきた。
水泳部男子の黒狼から調査の依頼である。
黒狼の話では、水泳部の練習中、プールに河童が現れて足を引っ張るらしい。
そういうガチのやつはオカルト研究会に持ち込まないでほしいんだが。
「オカルト研究会はお祓いとか退魔とかやっていないし、僕たちの知ったことではないので、正直自力で解決してほしい」
僕はすぐに断るが、黒狼は引かない。
しかも秘策があった。
「そこをなんとか。ほら、姉貴から薔薇の本を譲ってもらったんだ。これでなんとか」
「これは、ピーマンネギ子先生の幻のナン×シー本でござるな、任せるでござる!」
なんとオカルト研究会部長の多恵に効果がばつぐんな薔薇本を持ってきたとあっては、部長権限で即断即決であった。
「えぇ……」
僕は困惑を隠せないが、部長権限ならやむを得ない。
「河童かぁ。世界は滅ぼせないね」
瑠璃子は乗り気ではなさそうだ。
「瑠璃子は世界を滅ぼせそうにないものには、本当に興味がないよな」
「ん、勇児には興味があるよぉ」
それは知ってる。
「ああ、うん。ありがとう。愛してるよ」
ほら、黒狼も、こいつらまたいちゃついてやがる、みたいな顔で見るなよ。
調査やめるぞ。
******
薔薇には目がない部長の多恵が勝手に承諾したため、オカルト研究会は、プールの調査を行うことになった。
とりあえず、現地調査である。
水泳部が練習を終えたあと、鍵を借りてオカルト研究会のメンバーでプールを調べることになった。
女性陣は危ないからということで、僕だけが水着に着替えて、プールに潜ることになった。
瑠璃子は、待ち受けにするからって、僕の水着写真を撮ろうとするのやめろ。
ひとまず、端から端まで、平泳ぎで見て回ったが、コース内には特に怪しい者はなさそうであった。
学校内なんだから、それはそうだろう。
そう簡単に河童とか出てきてはたまらない。
僕が潜っている間、女性陣はプールサイドを歩いて見て回っているが、屋内プール場にそうそう不審な存在がいるはずもなく、こちらも空振りであった。
僕の写真をパシャパシャとっている不審な女子生徒ならいるが。
僕の彼女なんだけど。
今日はちょっと自重しなさすぎじゃないか?
プール内もプールサイドも特に問題ない。
残る調査は飛び込み台の下、陰になっているため、ちゃんと見ていなかったプールの排水溝である。
不審なものがないかを調べる。
「どうせここにも何もな……あれ?」
僕は目を疑った。
ワカメが密集していた。
海藻のワカメである。
いったん排水溝から目を離し、呼吸を整えると、再び排水溝をのぞき込む。
ワカメが密集していた。
いったん排水溝から目を離し、呼吸を整え……もういいか。
何をしたらプールにワカメが繁殖するんだろうな。
とりあえず、瑠璃子と多恵を呼んで、事情を説明する。
「ワカメが何らかの原因で排水溝から逆流してきて、足に絡まったとかだろ。ちゃんと掃除しろよな」
なお、水泳部がワカメに気づかなかった理由は不明である。
部室に戻ってオカルト研究会顧問の韮沢先生に経緯を相談する。
後ほど、水泳部顧問と話し合いをするということになった。
これで一反解散となり、韮沢先生からの報告待ちとなった。
******
日を改めて、韮沢先生から呼び出しがかかった。
水泳部にも韮沢先生経由で顛末を伝えたらしいが、どうやら次のような話であった。
どうやら水泳部の副顧問が、プール掃除の代金の一部を着服し、排水溝掃除の業者を呼んではいたものの、実際に機械で掃除をすることはせず、代金をプールしていたらしい。
僕は思わずツッコミを入れてしまう。
「水泳部だけに、代金をプールしていました。って、やかましいわ」
「才谷、うるさいぞ」
韮沢先生は僕の髪をわしわしした。
ちなみに、ワカメはラーメンの求道者である、尾白先生が、プールの横に水槽を作って飼っていたものらしい。
こちらもたいがいである。
別にプールの水で飼っていたわけではない。
プール横の水槽に気づいた一部の水泳部男子が、こっそり拝借して、体に巻き付けて遊んだあと、そのまま流れずに排水溝のあたりで詰まっていたらしい。
プールは塩素がきついので、生きながらえて繁殖しているわけではないが、結構な量があり、想像通り、それらが逆流してたまに足を引っ張るなどしていたらしい。
「予算をケチったり横領したりする教師は、こういう意外なところからバレるのだと、いい教訓だろう。震えて眠ってほしい」
僕はドヤ顔でオチをつけた。
いい気分に浸っている僕に向かって、瑠璃子はこう言い放った。
「ところでこの前、勇児がお義母さんにもらった参考書代をちょろまかして買った、私に似た女の子のグラビア写真集のことだけど」
「ほら、詰めが甘いとこういうことになるだろ」
冷や汗を流しながら、僕は目をそらした。
「そうであるなあ」
多恵はスケベな男子高校生を見るような表情をしている。
スケベでごめんなさい。はんせいしています。
「ああいうのが好きなら、私も水着写真集を作って渡そうか?」
瑠璃子は恥じらうこともなく、謎の提案をしてくる。
瑠璃子の恐ろしさを改めて実感する僕であった。
彼女の水着写真集を製本させる男子高校生、都市伝説の仲間入りができそうだ。
「いや、本物を見せてくれる方がうれしいよ……」
「そっか。今度また泳ぎに行こうね」
こうして今年の夏もたまに泳ぎに行くことが決定したのだった。
続く
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今回の都市伝説
ラーメンへのあくなき探求心を持った尾白先生:わかめの飼育が趣味




