第24怪 セッ(以下略)するまで出られない部屋
はっちゃけた第23怪からの流れで。
全国の男子中学生、男子高校生が想像してやまない、エッチな都市伝説をご存じだろうか。
そう、セッ(以下略)するまで出られない部屋である。
その響きは、バーチャルおっぱいどころではない。
しかも、なんと、宵ヶ浜にはそれが実在すると、まことしやかにささやかれている。
性欲の獣たる水泳部の面々が教えてくれたところによると、裏通りのレンタルルームの一室に閉じ込められ、セッ(以下略)するまで解放されないのだとか。
瑠璃子は……、そんな期待のまなざしで見るのをやめろ!
いつもみたいに世界を滅ぼせるかなって言ってくれよ。
******
瑠璃子の強い希望により、セッ(以下略)するまで出られない部屋を調査することになった。
駅前通りからしばらく歩いた先に、噂のレンタルルームがある。
瑠璃子が暴走しないように配慮してくれたのか、オカルト研究会のメンバー全員で行ってみることになったのは、救いだろうか。
瑠璃子が若干楽しそうにしているのを横目に、僕は何か起こることを期待しつつ、後のことを考えると何も起こってほしくない、という複雑な気分であった。
梅雨が明けて、夏めいてきたこともあり、移動中にじわりと汗をかく程度の気温であった。
緊張してきた。
レンタルルームの近くは、ひんやりとした風が吹いており、他の建物とはまとう空気が異なっていた。
セッ(以下略)させることを目的とするなら、むしろ暖かいのかと思っていたが。これはどちらかというと、オカルトっぽい雰囲気だな。
レンタルルームに入り、さっそく受付で噂のことを聞いてみた。受付のお姉さんからは何も聞けなかったが、目線をそらされたので、何かを隠していることは間違いなかった。
該当の部屋を二時間借りて、じっくりと調査することになった。
一時間千円で、まとまった日数で借りると割引額が大きくなる仕組みである。
レンタルルームの奥、一番大きいその部屋に、まずは僕が一人で足を踏み入れる。
僕が一人で閉じ込められた場合は何をすればいいのかはわからないが、スマホで連絡が付くのであれば特に問題がないように思う。
あやしげな路上販売で入手したオカルトグッズの、いつでもどこでも連絡が付くモールス信号発信機があるため、怪異に遭遇して電波が通じなくなっても問題ない予定である。
遭遇しないのがベストなのだけれど。
僕が入ってからしばらく何もなければ、次は瑠璃子が入って二人きりになり、様子を見ることになっている。
瑠璃子と二人閉じ込められてセッ(以下略)を強要された場合は、結婚する覚悟を決めれば、ごにょごにょして解放されるので、何とかなるだろう。
覚悟……? 覚悟かぁ。
その後は、多恵、皆藤と一人ずつ増やしていって、何か起こるか待つことになる。
多恵も含めて閉じ込められた場合は、羞恥プレイになるが、瑠璃子とイチャイチャするしかないだろう。
皆藤も一緒になった場合はどうすればいいのか見当もつかないが、さらなる羞恥プレイで妥協してもらいたい。
などと考えていると、そろそろ一人の時間は終了らしい。
皆藤が時計を見ながらつぶやいた。
「そろそろラーメンができますね」
僕が入って三分経過したが、何事も起きなかった。
次は瑠璃子も部屋に入る。
オカルト調査での緊張と、彼女とのセッ(以下略)を強要されるかもしれないという緊張で、僕の手は震える。
さらに三分経過。
何事も起こらない。
ほっとしたような、残念なような。
次は、多恵が足を踏み入れる。
そこで扉が音を立てて閉まった。
おっと、油断していた。
ガタンと大きな音がすれども、人の姿は目に見えず。
世には自動ドアといふものありけり。
やうやう白くなりゆくレンタルルーム内は、紫立ちたる暗雲が……
はあ、平安人ごっこでの現実逃避はやめよう。
念のため、扉に近づいてみる。
扉を押してみるが、力ずくでは開かなかった。
当たり前だが。
簡単に空いたら、この状況は何だって話だしな。
外の皆藤とは会話ができるので、異空間に隔離されているわけではないらしい。
「マジか。割と最悪な想定のやつじゃん」
「ね、ビックリしたね」
そう言う瑠璃子の顔はウッキウキである。
「これはアレでござるか……? 友人のお色気現場を目撃するべきでござるか……?」
その手の薔薇本を書いているはずの円子多恵先生も、マンガならぐるぐる目とでもいうべき表情を浮かべている。
気まずいなぁ。
僕がエッチなこともやむなしと覚悟を決めようとしたとき、レンタルルームの奥から、ピアノの音が聞こえてくる。
「え、そういう感じ? ガチのオカルト案件が混じるの?」
「セッ……」
低い女性の声が聞こえるのと同時に、ピアノがガタガタと音を立てる。
「ひっ」
多恵がビビる。
そういえば、ホラー苦手だったな。
「セッ……」
「うふふ」
瑠璃子が喜ぶ。
「瑠璃子は何故喜んでいるんだ……」
僕は困惑する。
「セッ……、セッションがしたあああああいいいいいい!」
ガタガタと音を立ててピアノが揺れる。
「は?」
は?
ピアノの奥から、ザ・幽霊とでもいうべき半透明の少女が現れた。
髪型はアシメショートで、髪色は金、一部に紫が入っており、健康そうなクール系ロッカーとでもいうべき風貌である。
幽霊らしくはない。
どちらかといえば瑠璃子の方がまだ病弱少女で幽霊っぽい。
僕の彼女は何なんだ。
見た目で幽霊に勝つって相当だぞ。
幽霊の少女は、千里香菜と名乗った。
生前使っていたピアノにとりついている霊であり、ジャズ喫茶でのアルバイトに行く途中、トラックにはねられ異世界転生、いや、浮遊霊となった。
アルバイトで尊敬する先輩とのセッションを楽しみにしていたせいか、セッションしたい欲求が強く残っており、時たまレンタルルームに人を閉じ込めてはセッションを強要しているのだとか。
セッションに満足できれば、成仏できるかもしれないとのことである。
わりかし悪霊の類いだなぁ。
友人の除霊担当を連れてくるんだった。
それに、セッションって言っても閉じ込められているし、何もできないわけだが。
「千里さん、僕ら楽器は持ってないんだけど」
「ギター、ドラム、リコーダー、カスタネットならお店の人が用意してくれているから、好きなの選んで」
「ああ、受付の態度はこういうことか……」
どうりでこの部屋、大きさの割に料金が他より安かったわけだ。
相談の結果、僕がギター、瑠璃子がカスタネット、多恵がボイスパーカッションでの参戦である。
ボイスパーカッションって何だよ。
多恵ははまっていた薔薇ゲームにボイスパーカッションが出てきたことから、練習したらしく、今では隠れた特技になったらしい。
普通に経験を創作に生かせたようだし、薔薇に関しては本当にアクティブだな。
セッションが始まった。
ジャンジャカジャカジャカ、とある意味ロックとしか言いようのない旋律を奏でるオカルト研究会メンバーだった。
やがていびつなセッションは終了し、満足した浮遊霊に解放された面々は、皆藤と合流し、帰宅することになった。
「セッションするまで出られない部屋とか、ジャーマンスープレックスババアの案件だっただろ」
瑠璃子に手を出すと後が怖いので、高校生のうちは性欲に負けるつもりはないが、セッ(以下略)するまで出られない部屋なら言い訳になるかと思っていた僕としては敗北の一言である。
なお、後日ジャーマンスープレックスババア(※宵ヶ浜の都市伝説にもなった、職業ロックンローラーのお婆さん)にセッションしてもらったところ、千里は満足して成仏し、以降、セッ(以下略)するまで出られない部屋の噂はなくなったそうだ。
やはり、ロックってすごい、僕はそう思った。
こうして、オカルト研究会は、今年も都市伝説を順調に集めていった。
続く
今回の怪異
ジャーマンスープレックスババア:ロックな魂で部屋のロックを解除した。除霊担当の相模金剛(お寺の子)から出番を奪うという、世にも恐ろしい所業を行った。キェェェェ




