第22怪 宵ヶ浜北高校七不思議
七不思議、といえば、昔は大体どこの地域、どこの学校にもあったものである。今はだんだん数が減ってきて、絶滅危惧種であると言える。
携帯電話の普及に伴い、どこでも連絡がつけられるようになったおかげか、都市伝説、噂、そういったものが口コミだけで恐怖を与える時代は終わった。逆に、インターネットで広まった怪談は広がりを見せ、有名な怪異も生まれている。
八尺様、きさらぎ駅、巨頭オ、某財団に、ちくわ大明神など、口裂け女や人面犬といった怪異が流行した頃にも引けを取らない恐怖譚が楽しまれている。
宵ヶ浜の都市伝説を追い続けてきた勇児たちオカルト研究会であるが、もっと身近なところ、つまり、宵ヶ浜北高校にも、七不思議と呼ばれるものが存在することを、僕は前回のオカルト研究会で初めて知った。
僕が知らなかっただけで、それなりに噂になっているらしい。
七不思議だもんな。
宵ヶ浜北高校七不思議の一つ目は、「殺戮原三帰先生はマジ卍」である。
独創的な本名に加え、ムキムキマッチョで頬に刀傷らしきものがある殺戮原先生は、裏格闘技の元チャンピオンだと言われている。
ちなみに体育教師ではなく、国語教師である。
絶対、日本語より肉体言語の方が得意だろう、とは生徒の九割が思っている。
七不思議二つ目は、「体育教師の日隈喜八はマジ卍」である。
僕は優秀なので、早くも気づきつつあるのだが、どうやら七不思議を考えた人物には、マジ卍しか語彙がないように思える。
日隈先生は表世界の格闘家扱いなのか、猟師扱いなのかは不明だが、素手で巨大イノシシを倒したことがある、というものであった。
一つ目と若干被っているし、一つ目のインパクトの方が大きい。
七不思議三つ目は、「理科教師の尾白星一はマジ卍。ひそかに中毒性の高いブツを作って生徒に提供している」である。
やはりマジ卍以外の語彙がない。
七不思議というか、七マジ卍である。
尾白先生については、内容が七不思議というか、犯罪以外の何物でもない。
皆藤連が話した四つ目は、次のとおりである。
「四つ目、この先は自分たちの目で確かめてくれ卍、で終わりです」
「え、終わり? 七マジ卍、もとい、七不思議なのに七つ目までないじゃん!」
飽きて途中でやめてんじゃねえよ。
動く人体模型とかあるのに。
七不思議の定番なのに。
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とりあえず教師ネタばかりなので、職員室に向かい、話を聞くことになった。
殺戮原先生に話を聞く。
「殺戮原先生は、教師になる前は何をしていたんですか」
「ん? 牧師だけど?」
牧師?
ボクシングじゃなくて?
刀傷は懺悔室で話を聞いていた時に、錯乱した信徒からナイフで刺されたものらしい。
「日常的に刃傷沙汰になる教会でな。生きるためにはタフでマッチョになる必要があった。筋肉は力であり、正義とはパワーである」
謎の経歴すぎて僕らは言葉を失った。
正義とはパワーである、ってなんだよ。
一応、国語教師だろ。
瑠璃子は私もマッチョになれば、世界を滅ぼせるかな、とつぶやいた。
滅ぼせるかもしれないが、やめてほしい。
多恵は、牧師と敬虔な信者の間に芽生える薔薇、でゅふふふ、とそっちの世界に旅立った。
次は日隈先生に話を聞いた。
「日隈先生は素手で巨大イノシシを倒したことがあるって本当ですか?」
「素手ではないが、木刀で倒したぞ。あれはうまかった。儂の地元はド田舎でな、たまに野生動物に遭遇するんだ。熊とかはさすがに怖いから、山に入るときは、クマよけの鈴が必須だったな」
謎の経歴すぎる。
日隈先生は体育教師だし、そういうこともあるよな。
いや、ねぇわ。
この学校、脳筋教師ばっかりかよ。
三つ目の七不思議を確認するため、尾白先生にも話を聞きたかったが、職員室には不在だった。
科学部の活動に参加しているらしいので、僕らは第二理科準備室に向かった。
第二理科準備室に足を踏み入れた僕らは、噂どおりの現場に遭遇することとなった。
尾白先生は準備室で白い粉をふんだんに使い、黄色くて細い、中毒性の高いものを作っている。
できあがったら、それをゆでて、動物の骨で煮込んだスープに入れ、色鮮やかな葉や、硬くコリコリした板のようなもの、さらに縛り上げた動物の肉などをのせる。
食べたが最後、病みつきになってしまうだろう。
……お分かりいただけただろうか。
そう、ラーメンである。
いや、なんでだよ。
「失礼します。七不思議について聞きに……って、何故、学校でラーメンを作っているんですか?」
「五歳になった息子の悟郎がラーメン好きでな。将来はラーメン屋になると言うから、僕も興味が出てきてね。料理とは科学だからね。おいしいものを部活動で作るというのはいいアイディアだろう?」
いいアイディアだとしても、実行してはいけないんじゃないかな。
思考がマッドサイエンティストのそれである。
「家庭科部で作ればいいんじゃないですか」
「家庭科部も僕が顧問をしているけど、あっちは時間のかかるものは作りにくいんだよね。それに、女子生徒が多くてラーメンの受けもよくないし。その点、科学部は男子生徒が多くて、ガッツリ系のラーメンを作る実験をしても文句が出ない」
職権乱用がすぎる。
話を聞きに行くタイミングが良かったこともあり、ついでだからと、科学部で作ったラーメンを食べさせてもらうことになった。
「そういえば、七不思議といえば、こういう話を聞いたのだが、調査してみてはどうかね」
尾白先生から、五つ目の七不思議を聞いた。四つ目は「この先は自分の目で確かめろ」だから、実質四つ目なのだが。
それは、文化部棟の隅、使われていないはずの空き教室から夜な夜なむさくるしい男たちの興奮した声が聞こえる、というものであった。
尾白先生が作った絶品こってりラーメンをすすりながら、オカルト研究会の面々は新しい情報の聞き込みを行い、考察を深める。
瑠璃子は途中で食べきれなくなったらしく、残りが僕に回ってきた。
「勇児、残り食べてくれる?」
「ああ、良いよ」
「勇児、後で私も食べてくれる?」
「それはまだ早いかな」
イチャイチャする僕らをしり目に、多恵はごちそうさま、とぼそっと口に出した。
二杯目のラーメンをすすりながら僕は、五つ目の七不思議「使われていないはずの空き教室の怪」をどうしたものかと考えるのであった。
続く
五つ目は次回です。
拙作『流星湯切りオンライン』を読んだことがある人は、聞き覚えのある名前が出たかもしれません。
コメント書いて下さる奇特な方がいらした場合は、ついでに美味しいラーメン屋を教えてください。
今回の怪異
ちくわ大明神:誰だ今の。




